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ミステリの祭典

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平均点:6.01点 書評数:1812件

プロフィール| 書評

No.1272 6点 小さな異邦人
連城三紀彦
(2016/09/18 19:56登録)
2000年以降に雑誌「オール讀物」誌に掲載された作品をまとめた短篇集。
惜しまれつつ亡くなってしまった作者の遺作のひとつとなった本作。
文庫落ちを機に読了。

①「指飾り」=不本意にも別れを告げられた元妻と思いを寄せられる同僚の間で揺れる中年男性。「指飾り」とはもちろん結婚指輪のことだが、ある街角のバーを舞台に三人、いや四人の関係が微妙に動いていく・・・
②「無人駅」=新潟・六日町の街、そして駅を舞台に起きるあるひと晩の物語。まさに一編の映画のような話なのだが、ラストも何とも言えない余韻を残す。
③「蘭が枯れるまで」=これは非常にミステリー色が濃い作品。「交換殺人」というと多くの作家が手を変え品を変え取り組んできたテーマだが、連城にかかるとこういう風になる・・・。実にトリッキーだ!
④「冬薔薇」=何とも言えない“重さ”を感じる一編。女性心理というか深層というか、こういうヤツを書かせるととにかく天才的な技量を発揮する。
⑤「風の誤算」=これも実に連城っぽい作品だ。何が連城っぽいのかと問われると困るのだが、「何なんだこれは?」と思わせながら、ついつい引き込まれて、最後は手練手管で丸め込まれる感覚とでもいうべきか・・・。水島課長のキャラクターも秀逸。
⑥「白雨」=どうも世評の非常に高い作品のようだが、個人的には合わなかった。こんな回りくどい復讐というか、意趣返しをやる人間ってどういう心してるんだ?
⑦「さい涯てまで」=浮気旅行を重ねるひと組の男女。これってやっぱり中年男性の永遠の憧れだと思う・・・(実感)。それほど技巧のある作品ではない。
⑧「小さな異邦人」=ひとりの少女目線で書かれているのが珍しい表題作。「誘拐」というと、「人間動物園」や「造花の蜜」などの傑作がすぐに思い浮かぶけど、それに比べれば「あまり・・・」というレベル。まぁ短編だし仕方ないか。

以上8編。
さすがに晩年の作品だけあって、ちょっとパワーダウンしたような作品が多いように思えた。
逆に言えば、それまでの作品が凄すぎただけで、本作も十分に水準以上なのは間違いないけれど・・・

しかしまぁ・・・男女の機微っていうか、こういうテーマで書かせると達者だよなー
人間の感情、心情こそがミステリーの原点ということを考えさせられる作品だった。
こういう作品を読めなくなるということが残念でならない。
偉大な作家だと再認識した次第。
(ベストは③かな。⑥や⑧は世評ほどはいいと思えなかった)


No.1271 4点 霧の旗
松本清張
(2016/09/18 19:55登録)
1961年発表。
過去に数回映像化されている作品らしいが・・・一度も見てはいない

~殺人容疑で捕らえられ、死刑の判決を受けた兄の無罪を信じて、柳田桐子は九州から上京した。彼女は有名な弁護士・大塚欽三に調査を依頼するが、すげなく断られる。兄は汚名を着たまま獄死し、桐子の大塚弁護士に対する執拗な復讐が始まる・・・。それぞれに影の部分を持ち、孤絶化した時代に生きる現代人にとって法と裁判制度とはなにかと問うた野心作~

うーん。
こりゃどう考えても「逆恨み」だな。
何のあてもなく上京して、弁護を断られたからといって、弁護士に復讐心を燃やす・・・
ひとりの女性の狂気がテーマというのなら分かるのだが、紹介文によると「法と裁判制度の矛盾」が主題だという。
そういう社会派的作品だと勘違いしても仕方ないだろう。

ということでどうもテーマがはっきりしないまま終わったという感が強い。
途中の大塚弁護士の推理のくだりは冤罪事件を扱ったようになっているし、終盤は先に触れたとおり桐子の復讐譚が語られることになるし・・・
何とも救いのないラストも居心地が悪い。

そして復讐の標的となった大塚弁護士。
特に悪徳弁護士というわけでもないのにねぇ・・・多少小心というか保身に走ったというだけだろう。
それでここまで落ちぶれるとは
いやいや女の怖さっていうやつですな・・・
時代背景もあるとはいえ、毎週のようにゲス不倫やら政治家の不祥事が暴かれている現代では考えられないことです。

評価は高くはならないなぁー。あまり面白くなかったから。


No.1270 5点 サイモン・アークの事件簿〈Ⅲ〉
エドワード・D・ホック
(2016/09/09 23:04登録)
年齢二千歳(?!)、謎のオカルト探偵サイモン・アークが主人公のシリーズ第三弾。
作者の作品らしく、不可能犯罪てんこ盛りは今回も同様。

①「焼け死んだ魔女」=魔女の呪いで女子大生が次々に倒れるという怪現象が発生した名門女子大。真相は当然魔女の呪いではないのだけど、こんな化学的(そこまでいうほどでもないけど)な解決とは・・・。でもそれなら普通気付くよなぁー
②「罪人に突き刺さった剣」=村に伝えられた狂信的宗教。裸に頭巾という異様な男たちの集団のなかに死体がひとつ紛れ込んでいた! ただこのフーダニットはかなり強引。○でなくても見分けることはできそうだけど・・・
③「過去から飛んできたナイフ」=フレンチ・インディアン戦争の舞台で起こる異様な事件。凶器はなんと数百年前に使われたナイフ・・・っていうのが今回の謎。まぁ合理的といえば合理的なのだが、こじつけといえばこじつけにしか思えない。
④「海の美人妖術師」=海の中から現れ、男性を海中へ誘い込む美女。そう、まるでライン川にいるというローレライのように・・・。でも、この正体、分かってみれば何じゃそりゃ、的なやつ。化学的といえば化学的だが。
⑤「フェルファル城から消えた囚人」=ナチスドイツの残党を収監した古城で発生した、人間消失+殺人事件。四カ国の精鋭たちが見守るなかで発生した事件なのだが、トリックは昔から使い古されたやつだ。これも気付きそうなもんだが・・・
⑥「黄泉の国への早道」=六十四階建ての超高層ビル。屋上までノンストップのエレベーターに乗り込んだロックスターが忽然と消え失せ、何と地下のゴミ集積所で焼死体で見つかるというとびきりの不可能犯罪。正直、トリック自体はたいしたことのないものだが、見せ方というかプロットは実に作者らしくてよい。ただ、アレは遠目に見ても気付くと思うが・・・
⑦「ヴァレンタインの娘たち」=アメリカ中部の街・ヴァレンタイン。その名前にあやかって、聖ヴァレンタイン・デーの日に開催されたイヴェントで起こった殺人事件。これはまぁ最初から見えてたな。
⑧「魂の取り立て人」=スウェーデンはストックホルムが舞台となる一編。ただそれだけのような作品。

以上8編。
作者の不可能趣味溢れる作品集というと、本シリーズの他「サム・ホーソーン医師」シリーズがあるが、個人的には後者のほうが断然面白いと思う。
オカルトとミステリーの融合というテーマはいいのだけど、どうにも無理筋やこじつけが目に付きすぎてダメなのだ。

そうはいっても、稀代の短編の名手だから、一定の水準にある作品は並んでいる。
ということで、つぎは「怪盗ニック」シリーズだな。
(個人的ベストはやはり⑥かな。真相が意表をつく①の印象的ではある)


No.1269 8点 アトポス
島田荘司
(2016/09/09 23:03登録)
1993年発表の御手洗潔シリーズ。
「暗闇坂の人喰いの木」「水晶のピラミッド」に続き、長大なスケールと圧倒的な重さで読者の度肝を抜いた超大作。
今回、満を辞して久々に再読したが・・・

~虚栄の都・ハリウッドに血で爛れた顔の「怪物」が出没する。ホラー作家が首を切断され、嬰児がつぎつぎと誘拐される事件の真相はなにか? 女優レオナ松崎が主演の映画「サロメ」の撮影が行われる水の砂漠・死海でも惨劇は繰り返され、蘇る吸血鬼の恐怖に御手洗潔が立ち向かう!~

いやぁー、分かっていたこととはいえ、『長かった!!』
初読のときも思ったけど、最初のエリザベートのくだり、こんな尺でいるか??
確かに読み物としては面白い。しかも抜群に!
エリザベートが老いの恐怖におののき、徐々に狂っていく様子は、何とも言えない寒気を覚えさせられた・・・
そしてラストのサプライズ! もう完全にB級ホラームービーだ。

やっと本筋の「死海の殺人」の章に入るのだが、
このトリックというか、仕掛けも・・・これではファンタジーとしか表現しようがない!
「伏線は張ってあるだろう!」なんて言ってはいけない。
ここまで荒唐無稽な話、誰が思い付くんだ!!
死海という特殊舞台、ウラン精錬所、回廊を持つ砂漠の中の建物、etc
よくもまぁ、こんなこと思い付くよなぁー
どんな構造してんだ、作者の頭の中は??
○○○ーの人々が砂漠の中をゾロゾロ歩くなんて、シュールすぎて思わず笑ってしまったほどだ。

・・・というような批判はいくらでもできる。
でも何なんだ、このパワーは!
読者をこれでもかと引込み、グイグイ読ませ、「こんなことあるわけないだろ!」って思わせながらも、最低限のロジックを構築する!
これこそが作者が当時主張していた「奇想」なのだろう。
とにかく、作品の持つ得体の知れないパワーと魔力に絡み取られた数日間。
やはり並みの作家ではない。チンケな批判なんてクソ喰らえだ!

興奮してすみません。(実はこの書評、酩酊状態でかなりハイテンションで書いてます)


No.1268 4点 21面相の暗号
伽古屋圭市
(2016/09/09 23:02登録)
2011年発表。
第八回の「このミステリーがすごい」大賞を受賞した作者が贈るノンシリーズ長編。
作家デビュー前はパチプロとして生計を立てていたという経歴が活かされている?

~裏ロム販売で稼いだ三千万円を仲間と山分けした卓郎と相棒の美女シエナ。ところが、すべて偽札だったことが発覚する。さらにありえない記番号の一万円札が紛れていることに気付いたふたりは、かい人21面相からの暗号だと確信し、謎解きを始める。とき同じくして、製菓会社「すぎしょう」に、自社製品への毒物混入停止と引き換えに五千万円を要求する脅迫電話がが掛かってきて・・・~

『グリコ・森永事件』・・・いゃいや懐かしい。
ありましたねぇー
確かに当時は大騒ぎだった記憶があります。
本作を読んでみると、改めてスゴイ事件だったことが分かります。
劇場型犯罪の最たるもの。
そんなイメージを改めて強くした次第。
まだ小さかったので記憶は曖昧ですが、大阪府警を手玉にとった追跡劇なんかは頭の隅にこびりついていた・・・

“キツネ目の男”は結局実在したんですかねぇ?
事件の発端となった江崎グリコ社長の誘拐事件も、考えてみると、妙な感じがするしなぁ
(世の中には事件に関していろいろな文献が出ているんだろうから、その気になればいろいろと知ることはできるのだろうけど)
などなど、いろんなことを想像してしまった。

えっ!? 書評は・・・って??
すっかり忘れてた。
まっ、あまり褒められたものではありません。
プロットが十分練られないまま発表されてしまったということでしょう。
偽札の話も、暗号も、身代金受け渡しも、どれも中途半端なまま強制終了させてしまったようです。
短編は旨い作家なのにね・・・


No.1267 6点 貴婦人として死す
カーター・ディクスン
(2016/08/29 23:56登録)
1943年発表。
HM卿シリーズでいうと十四作目に当たる。カー中期の名作という評価も多いがさてどうか・・・

~戦時下イギリスの片隅で一大醜聞が村人の耳目を集めた。俳優の卵と人妻が姿を消し、二日後に遺体となって打ち上げられたのだ。医師ルークは心中説を否定、二人は殺害されたと信じて犯人を捜すべく奮闘し、得られた情報を手記に綴っていく。やがて、警察に協力を要請されたヘンリ・メルベール卿とも行動をともにするが・・・。張り巡らした伏線を見事回収、本格趣味に満ちた巧緻な逸品~

パッと見は地味ながら、実は味わい深い作品・・・
他の方も概ねこういう評価が多いが、やっぱり同様の感想を持った。
カーというとどうしても密室殺人を嚆矢としたトリックやオカルト趣味というところに目が行きがちになるが、中期の作品ともなると、そういう派手な衣装よりは、玄人受けしそうなミステリーらしいミステリーに矛先が向いてくる。
その中でも本作は出来のいい方なのだろう。
(巻末解説で山口雅也氏もえらく褒めています)

謎の中心は一見すると、断崖絶壁で急に消えた男女ふたりの足跡、というふうに見える。
他殺か自殺かという判断は思いのほか早く提示されるが、コイツが実はクセものなのだ。
終盤大詰めを迎えたところで、作品全体に仕掛けられた大いなる罠が発動される。
確かにまぁ伏線は張られているんだけど、そこは気付かないよなぁーっていうレベル。
こういう仕掛けをシレーっとやれる辺りがさすがに大作家といわれる所以だろうな。

HM卿は今回もお笑い全開!
電動車椅子を操るだけでも抱腹絶倒なのに(?)、街中を巻き込み、更なる混乱の渦を生み出していくことに・・・
本作では本当に脇役というべき存在で、最後の最後でようやく卿の推理が開陳されるのだ。

ということで、評価としては水準以上という感じかな。
ただ、他の佳作との比較ではちょっと落ちるのは否めないだろう。


No.1266 6点 予知夢
東野圭吾
(2016/08/29 23:55登録)
「探偵ガリレオ」に続く湯川学=ガリレオシリーズ第二弾。
今回も超常現象を科学的にロジカルに解明(?)できるのか?
単行本は2000年の発表。

①「夢想る」=“ゆめみる”と読むらしい。幼い頃から自分の運命の人と思い続けてきた女性、森崎礼美。その女性が実在すると知った男性は夜部屋に押し入るのだが・・・。まぁ現実的な解決を付けるとしたらこうなるだろうなという真相。確かに猟銃については旨いなと思った。
②「霊視る」=“みえる”と読むらしい。別の場所で殺されたはずの女性を、ほぼ同じ時刻に別の場所で見てしまう現象・・・。これも幾多の怪異現象をロジカルに解き明かせばこうなるよなという真相。逆説とも言える解法はやはりさすがだ。
③「騒霊ぐ」=“さわぐ”と読むらしい。失踪した夫を探して欲しいという依頼を受けた草薙刑事。ある問題の一軒家を見張ることとなったふたりは思わぬ現象=ポルターガイストを体験することに! この解法が一番苦しいかな。科学的に正しいのかよく分かりませんが・・・(そういうこともあるということなんだろうな)。
④「絞殺る」=“しめる”と読むらしい。これは実にガリレオシリーズらしいトリック。工場が出てきた時点でそういう系のトリックなんだろうなという予想はついたけど、門外漢の私には湯川の説明がよく分かりませんでした・・・。
⑤「予知る」=“しる”と読むらしい(クドい?)。不倫相手が向かいの家で首吊り自殺を図った場面を目撃することになった男。実はその女性は三日前にも首吊り自殺をするところを別の人物から見られていた!?という強烈な謎。これもロジカルに解き明かせばこうなるよなという真相なのだが、とにかく旨いね。

以上5編。
今回は「オカルトとミステリーを融合すればこうなりました」というテーマで貫かれている。
一見すると超常現象なのだが、これとあれとなにかが組み合わさったため、こうなってしまったのです・・・
と、こういう展開なのだ。

こんなふうに書くと、単なる偶然の連続かと思われそうだが、そうではない。
割とあからさまに伏線やヒントが示されていて、読者が推理していくことは十分に可能な作りとなっている。
(何かしらの専門知識は出てくるけど・・・)

前作と比べてスケールという点では見劣るけど、ミステリー的な出来では一歩前進という感じかな。
とにかく読みやすくて、サクサク頁が進むこと請け合い!
(個人的ベストは①or②かな。⑤も捨て難い)


No.1265 7点 凍える牙
乃南アサ
(2016/08/29 23:54登録)
1996年に発表され、その年の直木賞を受賞した作者の代表作。
女性刑事・音道貴子を主人公とするシリーズ第一作にも当たる。

~深夜のファミリーレストランで突如男の身体が炎上した! 遺体には獣の咬傷が残されており、警視庁機動捜査隊の音道貴子は相棒の中年刑事・滝沢と捜査にあたる。やがて、同じ獣による咬殺事件が続発。この異常な事件を引き起こしている怨念は一体何なのか? 野獣との対決の時が次第に近づいていた・・・。女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的な共感を集めた直木賞受賞作~

さすがに権威ある賞を受賞しただけのことはある作品だ。
圧倒的な筆力と何とも言えない熱量を感じさせる。
他の方も書かれているが、特に終盤、雪が釣り続く首都高速での追跡シーンは実に映像的でもあり、何ともいえない高貴で静謐な雰囲気を持つ名シーンだと思う。
そして貴子の女性刑事としての葛藤、闘い、そして昇華。
確かにこれはいわゆる女流ハードボイルドに連なる作品のひとつ。
(刑事の活躍や警察内部を描く警察小説的な見方もあるだろうが)

事件は衆人環視の中での大火災から幕を開ける。
かなりのインパクトを与えながら読者を惹きつける序盤。そして徐々に人智を超えた野獣の存在が明らかになってくる中盤。
ストーリーテリングもなかなかのものだ。
そして後半はとにかく野獣=ウルフドックの圧倒的な存在感に尽きる。
(思わずネットでウルフドックについて調べてみたけど、全然知らなかった。こんな動物がいるなんて・・・)

ミステリー的には最後まで捻りはないし、事件の構図も中途であっさりバラしてしまうなど、特段見るべきところはない。
でもまぁ本作ではそんなことは関係ないのかもしれない。
日々迷い続ける生き物である「人間」と、何の迷いもなくただ只管己の道を行く「ウルフドック」・・・
そのコントラストも作者の描きたかったことなのだろうか?
長さを感じず久々に一気読みしてしまうほど没頭してしまった。


No.1264 5点 盤上の夜
宮内悠介
(2016/08/21 18:44登録)
単行本は2012年の発表。
表題作は第一回の創元SF短編賞 山田正紀賞を受賞した作者デビュー作でもある。
すべて「盤上」=ボードゲームをモチーフとした六篇で構成される作品集。

①「盤上の夜」=“囲碁”を題材とした表題作。四肢を失った美貌の女流棋士と、彼女の手足となってサポートする男性棋士。囲碁の世界でも人間VSコンピュータというのはよく話題になりますが、さて本編では?
②「人間の王」=“チェッカー”を題材としているのだが、寡聞にしてチェッカーという存在を知らなかった私。てっきりチェスのことだと思ってたけど、違うゲームなのね。双方が最善を尽くした場合、必ず引き分けとなることが証明された・・・ってそんなのありか?
③「清められた卓」=“麻雀”が題材となる本編。四人のプレイヤーが各自独特のキャラクターを持っているのが面白い。しかも新興宗教の女性教祖や小学生が参加する最強戦って・・・ありえる? 麻雀ファンには堪えられない展開&台詞。
④「象を飛ばした王子」=古代インド発祥の“チャトランガ”(=将棋のルーツのようなものか?)が題材。あのブッダの子供が主役として登場するのだが、隣の強国に攻め込まれる寸前という悩ましい状況。で、彼のとった行動とは?
⑤「千年の虚空」=“将棋”が題材。ある兄弟とひとりの奔放な女性による奇妙な共同生活。その中で生まれる愛憎渦巻くエピソードの数々・・・。結局将棋の場面はほとんどなし。
⑥「原爆の局」=再び①の世界&人物が描かれる最終話。ちょうど広島に原爆が落とされた日に行われていた囲碁の本因坊戦。そして、それを再現するかのようにアメリカの砂漠で行われている一局・・・結構シュールだ。

以上6編。
前評判が高いので、一体どんな佳作かと思って読んだわけだが・・・
うーん。正直なところ、良さが分からなかった。
で、そもそもこれってSFなんでしょうか? SFってなに?という疑問が次々に湧いてきた。

個人的には次作となる「ヨハネスブルクの天使たち」の世界観が実に良かっただけに、本作の世界観が合わなかったとしか言いようがない。
でもまぁこれがデビュー作だとしたら、確かにスゴイ作家だと言えるのかもしれない。
読者の評価云々とはちょっと違う次元の作品という感じにはなった。
私が読み手としてまだまだ未熟ということなのだろう。


No.1263 5点 鐘楼の蝙蝠
E・C・R・ロラック
(2016/08/21 18:42登録)
1937年発表。
全部で四十七編からなるマクドナルド主席警部登場作品のうちのひとつがコレ。
作者の作品は「悪魔と警視庁」に続いて二作目だが、女流作家というのは今回初めて気付いた・・・

~作家ブルース・アトルトンはドブレットと名乗る怪人物に執拗につきまとわれていた。彼の身を案じた友人の頼みで記者グレンヴィルは、ドブレットの住む荒れ果てた建物<鐘楼>を突き止めるが、戸口に現れた髭と眼鏡の男に追い払われてしまう。翌日、無人となった建物に入り込んだ彼は、地下室でブルースのスーツケースを発見する。一方、パリへ旅立ったはずのブルースはそのまま消息を絶っていた。通報を受けた警察が建物の調査に乗り出すと、壁の中から首と両手を切断された死体が・・・~

最初に書いたとおり、ロラックの作品も二作目なのだが、なにかちょっと惜しいような、なにか足りないような・・・
そんな気にさせられる作品だった。
紹介文を読んでいると、まさに本格ミステリー黄金期、猟奇的でおどろおどろしい、まるでカーのような雰囲気を想像してしまうのだが、実際には軽さというか、悪く言うと「薄さ」を感じさせる作品。

「どこが薄いのか?」
と問われれば、「全て」ということになるかな・・・
怪人物やら首のない死体やら、いかにもファンが喜びそうな材料が序盤から示されているのだが、それが疑似餌なのは明らか。
それはそれでいいんだけど、どうにもそれらすべてが必要性というか必然性のないものばかりに思えるのだ。
結局、真犯人っていったい誰をスケープゴートにしたかったのか?
(それが怪人物っていうなら、あまりにお粗末だろうし・・・) などなど

どうにも“ファンにウケそうな材料を取り揃えました!”感がありすぎて、それが「薄さ」に繋がっているのだろう。
ラストのサプライズも予定調和というレベル。
ちょっと辛口すぎるかもしれないけど、四十七編も続いたということは、人気のあったシリーズなんだろうな・・・
もしかして読み方が悪いのか?


No.1262 6点 仮面同窓会
雫井脩介
(2016/08/21 18:41登録)
2014年発表のノンシリーズ。
年一作ペースという寡作の作者が贈る“変格”ミステリー(?)

~青春の思い出を語り合うだけのはずだった・・・。同窓会で再会した洋輔ら四人は、旧交を温め合ううちに、かつての体罰教師への仕返しを思いつく。計画どおり暴行し置き去りにするが、教師はなぜか別の場所で溺死体で発見された。犯人は俺たちの中にいる? 互への不信が募るなか、仲間のひとりが殺されて・・・。衝撃のラストに二度騙される長編ミステリー~

途中までは外面でいえば、立派なフーダニット・ミステリー
でも、単純な”いわゆる”本格ミステリーでは終わらなかった・・・
このラストを嫌う読者はいるだろうなぁー
世界観が一変するわけだから・・・

実に企みに満ちた作品なのは間違いない。
同窓会への誘いの場面で始まる静かな序章・・・のはずが、すでにここから読者は驚かされることになる。
それまで主人公・洋輔の三人称視点で進んできた物語に、突然死んだはずの「兄」が闖入!その「兄」と意識の中で会話を始めてしまうのだ。
いわゆる二重人格?って思ってると、突然視点が一人称に変わったりするパートも登場!
これって・・・どういう仕掛けが施されているのか、と読者は考えざるを得ない。

紹介文で触れられている「二度騙される」っていう惹句。
一度目は恐らく「兄」の正体のことだな(ネタバレ気味だが・・・)
でもこれは・・・ちょっと腰砕けっていうか、疑似餌なのだろう。
で問題は二度目の方。
救いがないよなぁ・・・。まぁそもそも単なる「犯人当て小説」を書こうと思ってないのだろうから、このオチでいいのかもしれない。
一筋縄ではいかないプロット、これこそが作者らしいミステリー(ということにしておこう)。
評価は・・・ビミョウだな。


No.1261 5点 花窗玻璃 シャガールの黙示
深水黎一郎
(2016/08/14 10:43登録)
「エコール・ド・パリ殺人事件」「トスカの接吻」に続く“芸術探偵シリーズ”三作目。
当初は講談社より「花窗玻璃~シャガールの黙示」として発表されていたが、今回は河出文庫よりサブタイトルを変更して出版されたものを読了。
2009年発表。

~フランス・ランス大聖堂の南塔から男が転落、地上八十一,五メートルにある塔は密室状態で、警察は自殺と断定した。だが半年後、再び死者が・・・。被害者の共通点は死の直前、シャガールの花窗玻璃(ステンドグラス)を見ていたこと。ここは呪われている? 壮麗な建築と歴史に隠された事件の意外な結末とは何か・・・?~

『マルク・シャガール』・・・1887年ロシア(現ベラルーシ)生まれの画家。途中フランスに移り、エコール・ド・パリの一人としても知られる。別名「愛の画家」。1985年没。
『ランス大聖堂』・・・ランスはフランス北部シャンパーニュ地方の都市。人口約二十万人。歴代フランス国王の載冠式が行われることでも有名。ゴシック建築の代表作としても知られ、1991年にはユネスコ世界遺産として登録された。

以上、この程度の予備知識を持って読まないと、神泉寺瞬一郎から放たれる大量の蘊蓄にゲンナリしてしまうこと請け合い。
文庫版の見開きにはランス大聖堂の写真が挿入されていますが、確かに見事なものですなぁ・・・
(ケルンやミラノの大聖堂は実際に見たことあるけど、これは見てないからな)
ここに著名なシャガールのステンドグラスがあるわけですね・・・
シャガールってもっと昔の画家だと勘違いしてたけど、割と最近まで生きていたんだねぇ・・・(ウィキペディアには本田宗一郎と面談したエピソードが書かれている)
もしフランスに行く機会があれば是非とも見て、登らなくては・・・

えっ! 書評は?って・・・すっかり忘れてた。てっきりガイドブックかと・・・
でもこの密室トリックって・・・まさに島田荘司の影響バリバリって感じだよねぇ。
(実際、作者が島田氏に強い影響を受けているのは確かなのだが)
いくら強度があるからといって、人間のメンタルとしてこんな殺害方法選ばないだろう!
というのが素直な感想だけど、それを言っちゃあおしまい・・・だよな(表現が古い)
作中作にしているのも正直よく理解できなかった。(どうやら理由があるようですが)
でも作者がいろいろ考えてアイデアを投入しているのはいいことだと思います。


No.1260 7点 人影花
今邑彩
(2016/08/14 10:42登録)
2014年、作者の死後に発表された短編集。
これまでどの作品集にも収録されたことのないものを集めた記念碑的作品。

①「私に似た人」=“間違い電話”をプロットの軸に置いた作品はたまに見かけるが、その中でも出来の良い方だと思う。ほんのちょっとした出来心が思わぬ方向に・・・だけで終われば普通の作品だが、ラストは作者らしいオチに。
②「神の目」=いわゆるストーカー犯罪がプロットになった一編。ごく普通に終わるかと思われた矢先に示されるサプライズ・・・まさに短編の見本というやつだ。登場する探偵コンビもなかなかいい味出してる。
③「疵」=これも一見して軽いホラーかと思いきや、ラストは見事な反転にヤラレタ・・・っていう感じになる作品。まぁ作者の作品を読みなれていれば大凡の予想はつくかもしれないが・・・
④「人影花」=タイトルは「椿」の別名のこと。椿という花はそこにいる人の数だけ花を咲かせるという言い伝えがあるという・・・。妹夫婦の仲に危険の萌芽を感じた兄が恐ろしい予感にかられたとき・・・
⑤「ペシミスト」=気の利いたショート・ショート。
⑥「もういいかい・・・」=気の利いたショート・ショートその2。でもこちらはホラー風味。
⑦「鳥の巣」=これは実に作者っぽい一編。鳥の化身とも思える女の姿にゾッーと思ってるうちに、更なるサプライズなラストを迎える・・・(こういうオチなのね)
⑧「返してください」=これも反転の効いた作品なのだが、ちょっとパンチ不足気味。
⑨「いつまで」=ホラー版「ちょっといい話」・・・っていう感じ。

以上9編。
実に達者だ。前述したとおりだけど、作者らしさが良く出た作品集。
ホラーという調味料をうまい具合に絡ませながら、サプライズ&反転というパンチの効いた後味を出す・・・
料理で表現すればまさにそんな感じ。

こんな佳作が今まで未収録だったこと自体、作者の力量を表しているのではないか?
返す返すも若くしての逝去が惜しまれる。
まだ多少未読作品が残ってるので、順次手に取っていくつもり。
(ベストは⑦かな。次点が①or②。ショート・ショートの2編も実によい)


No.1259 6点 12番目のカード
ジェフリー・ディーヴァー
(2016/08/14 10:41登録)
「魔術師」に続くリンカーン・ライムシリーズの第六作。
時空を超えた事件にライム、アメリア・サックスらがどのように挑むのか?
2005年発表の作品。

~NYはハーレムの高校に通う十六歳のジェニーヴァが、博物館で何者かに襲われそうになるが、機転を利かせて難を逃れる。現場にはレイプのための道具に、一枚のタロットカードが残されていた・・・。単純な強姦未遂事件と思い捜査をはじめたライムとサックスだったが、その後にも執拗に少女を付け狙う犯人に何か別の動機があることに気付くのだが・・・~

今回もやはり「ドンデン返し」の連続が楽しめる佳作・・・という評価。
ただし、いつものようにフーダニット或いは“意外な真犯人”という方向性は薄い。
(もちろん、意外感はあるのだが)
その代わりとして読者に仕掛けられたのは、「動機」に関するミス・ディレクション。
紹介文にも書かれているとおり、殺し屋が執拗に付け狙うのはひとりの黒人の少女。
ライムの科学捜査はこれまでどおり、ビシバシと真犯人に迫っていくのだが、最後まで解き明かされなかったのが「なぜこの少女が狙われるのか」・・・というわけなのだ。

確かに、今回はいつも以上に「動機」の謎にフォーカスさせられながら読み進めてきた。
レイプ、大規模窃盗、テロリズム・・・とつぎつぎに“いかにも”という動機が明かされるのだが、どうもそれが「餌」にしか思えない展開。
「本当の動機はなんだ?」と疑問を抱き続けているうち、終章でようやく判明する真の構図、そして真のからくり。
なるほど・・・だからこその「時空を超えた」プロットというわけか・・・
(でもさすがにこれは日本人には理解できないよなぁ)

毎回印象的な真犯人、殺し屋が登場する本シリーズ。けど、今回はちょっと地味め。
(ボイドの正体に関するミス・ディレクションはなかなか秀逸)
いつもはアメリアのピンチシーンにドキドキするけど、今回はそれもあまりなくて、ピンチ・フェチ(?)の方には不満かもしれない。
でもまあシリーズも六作目ともなると、多少の変化球は仕方ない。
本作はすげぇー変化球というよりは、多少横に曲がる“スライダー”とでも表現すべき作品か。
その分、やや物足りないと感じる方は多いかもね。
私個人的にはそれなりの満足感という読後感。


No.1258 5点 その死者の名は
エリザベス・フェラーズ
(2016/07/31 22:13登録)
トビー&ジョージのコンビが活躍するシリーズの第一弾。
(作者というと「猿来たりなば」という印象しかなかったのだが・・・)
1940年の発表。

~深夜、人を轢いてしまったと警察署に女性が飛び込んできた。死んだ男は泥酔して道の真ん中で寝込んでしまったらしい。土地のものではないと見当はつくものの、顔は潰れていてどこの誰だか分からない。ただ奇妙なことに、この男どの酒場にも寄った様子がなく、酒壜も持っていなかった。そこで、酒壜探しを命じられた若い巡査が涙ぐましい捜索を続けていると、勝手にそれを手伝い始めた男がふたり。その名をトビーとジョージといった・・・~

プロットとしては悪くないと思う。
轢いた犯人は明白である代わりに、死者が誰だか分からない。
中途で恐らくこの人物ということは判明するのだが、事件そのものが徐々に混迷していく・・・
という展開。

トビー&ジョージのコンビも名探偵というよりは、事件をかき回していく役割も担っている感じ。
言われてみれば簡単な真相を、もって回ったように複雑化しているきらいはある。
そこが本作の不満点に繋がっているのだろう。
(最終的には死者の名前というよりは、純粋なフーダニットで終わっているもんね)

シリーズ一作目ということで、作者も手探りで書いていた面もあったのかな。
登場人物の造形も今ひとつ頭に入ってこなかった。
でもまぁそれほど悪くはないと思う。
(どこがどうという理由は思い付かないのだが・・・)
どうも煮え切らない書評でスミマセン・・・


No.1257 6点 恐怖の金曜日
西村京太郎
(2016/07/31 22:11登録)
1982年発表の長編。
もはや超お馴染みの“十津川警部・亀井刑事”コンビが大活躍するシリーズ作品。
最近角川文庫にて復刊されたため早速読了。

~金曜日の深夜、二週続けて若い女性の殺人事件が発生した。残された手掛かりから犯人の血液型はB型と判明。十津川警部の指揮のもと、刑事たちは地道な捜査を続けていた。そんななか、捜査本部に<9月19日 金曜日の男>とだけ便箋に書かれた封書が届き・・・当日は何もなく夜が更けたかに思えたが、翌早朝、電話が鳴り響いた。若い女性を恐怖のどん底へ落とし込んだ姿なき犯人とは?~

一種のミッシング・リンクをテーマにしたサスペンス・ミステリー。
こういう手の作品は作者の得意技でもある。
巻末解説の山前氏も書かれているが、「夜行列車殺人事件」や「殺人列車への招待」など、なぜ犯人がこういう犯罪を犯すのか分からないという命題のほか、警察宛の挑戦状がプロットの軸の一つになっている例も結構多い。
やっぱり、十津川警部を始めとする警察機構VS犯人という図式を取る以上、クローズドな環境はありえないわけで、こういう広域捜査に適したプロットが選択される。

本作では「日焼け跡の残った若い女性」がミッシング・リンクをつなぐ材料として浮かび上がってくる。
当然ながら、なぜそれがミッシング・リンクをつなぐのかが最も重要な謎・・・というわけだ。
最終的に浮かび上がる犯人像については、十津川があれだけ悩んでてそれかよ、もう少し早く気付けよ! って突っ込みを入れたくなるものではあるのだが、最後までうまくまとめているなという感想にはなった。

まぁ辛口な見方をすれば、いつもと同じじゃないかと言えなくもない。
相変わらず亀井刑事は地道な捜査を続けるし、三上刑事部長はマスコミに弱いし、若手刑事はミスをするし、十津川は煮え切らないし・・・
それでも読まされてしまうこの安定感。
やっぱりトラベルミステリーよりも、こういったタイムリミットサスペンス的なプロットが一番作者の良さが出ると思う。
(今回は少し違うけど・・・)
書籍や地上波でもう嫌というほど作品が発表されていても、尚且つ毎月のように新作や復刊がされる事実。これだけでも、作者の偉大さが分かるってことだろう。


No.1256 7点 ストロボ
真保裕一
(2016/07/31 22:10登録)
~走った。ひたすらに走り続けた。いつしか写真家としてのキャリアと名声を手にしていた。情熱あふれた時代が過ぎ去った今、喜多川はゆっくりと記憶のフィルムを巻き戻す。愛し合った女性カメラマンを失った四十代。先輩たちと腕を競い合った三十代。病床の少女の撮影で成長を遂げた二十代・・・夢を追いかけた季節が蘇る~
2000年発表。

①「遺影-50歳」=ベテランカメラマンの喜多川に母親の撮影を依頼に来た娘。訪ねてみると、母親は病床にあり撮影は明らかに遺影だった・・・。喜多川の過去を知るという女性そのものが本編の謎。なぜ彼女は喜多川に頼んできたのか?
②「暗室-42歳」=かつて愛し合った美貌の女性カメラマン。袂を分かち合った彼女が挑んだのは、世界の高峰での危険な撮影だった。彼女の名誉を守るため、喜多川と盟友・仁科は暗室へこもる。そして、喜多川の妻の行動が・・・。女性って・・・そうなんだな・・・
③「ストロボ-37歳」=かつての師匠・黒部と久しぶりに再会した喜多川。しかし、黒部はもはや過去の男だった。かつての自身と黒部との関係が、今現在の喜多川と弟子の関係にシンクロするとき・・・。親の心、子知らずではないが、師匠の心、弟子知らずってことかな。
④「一瞬-31歳」=カメラマンとしてようやく独り立ち始めた喜多川。そんなとき、ある雑誌社の取材で美貌のライターと出会う。彼女の心を振り向かせるため、喜多川はひとりの病床の少女と向き合うことに・・・。これも先輩・守口がいい味出してる! でも女って・・・
⑤「卒業写真-22歳」=世は学生運動華やかなりし頃、という時代設定。大学の写真学科に在籍していた喜多川は、ひとりの友人と仲良くなる。しかし彼は学生運動の渦中へ自ら進んでいくことに・・・。何ともノスタルジックな話だな・・・

以上5編。
お分かりのとおり、本作は現在から過去へ遡る形式。
全編、喜多川光司というカメラマンを主人公としているが、ひとつひとつの話は独立する連作短編の形をとっている。
あとがきで作者も触れているが、全編にある種の謎が設定されてあり、ミステリーとしてもよくできている。

しかし何より、なんとも“いい話”なのだ。
っていうか、正直こんな人生うらやましい!
刺激に満ち溢れ、栄光と挫折を繰り返す人生。それでも天賦の才能を抱えているからこそ、前向きにチャレンジできる・・・
登場する女性もなんとも魅力的。
男って所詮、どれだけいい女に巡り会えるかで人生が決まるのかもしれない・・・そんな思いにさせられた。
(やっぱり、二十代の頃っていいよなぁ・・・。若いけど、可能性に溢れてて・・・ってジジイか!)


No.1255 5点 毒薬の輪舞
泡坂妻夫
(2016/07/30 22:02登録)
「死者の輪舞」に続く、「~輪舞シリーズ」の二作目がコレ。
警視庁特殊犯罪捜査課刑事・海方が探偵役を務めるのは前作と同様。1990年発表。

~青銅色の鐘楼を屋根にいただく精神病院に続発する奇怪な毒殺事件。自称“億万長者”、拒食症の少女、休日神経症のサラリーマンなどなど・・・果たして殺人鬼は誰なのか? 患者なのか? それとも医師なのか? 病人を装って姿なき犯人の行方を追う警視庁の名物刑事・海方の活躍。全編、毒薬の謎に彩られた蠱惑的ミステリー~

何とも独特の雰囲気or作品世界を纏った作品。
これが「泡坂らしい」と言われればそうなのかもしれないが、これが“初泡坂”という読者がいたら、何とも可哀想な気がする。
そんな感想。

精神病院という舞台設定で、登場する患者は全員一癖も二癖もある奇妙な人物ばかり。
探偵役の海方やその相棒までもが捻れた人物を装っているという作品世界だから、当然中途は何がなんだか分からないような展開が続いていく。
各章のタイトルも毒薬の名前で統一されているけど、それがプロットと絡んでいるかというと、そうでもないのだ。
毒殺事件も起こってるんだか、起こってないんだがよく分からん! って思っているうちにようやく発生するひとつの毒殺事件が事件解決の契機となる。

さすがに終章の「反転」(という表現でいいのか?)はうまくやられた感は残った。
まぁ予定調和と言えなくもないんだけど、だからこその舞台設定だなーという気にはさせられた。
この辺りはさすがの手練手管。

評価としてはどうかなぁ・・・
スイスイ読めるといえばそうなのだが、五里霧中のまま読まされている感がありすぎてどうも消化不良だった。
これを高評価するのは無理だな。
(前作は未読なので、一応気になる・・・)


No.1254 7点 アデスタを吹く冷たい風
トマス・フラナガン
(2016/07/30 22:01登録)
シリーズもの四篇にノンシリーズ三篇を加えた早川オリジナルの作品集。
読者の「復刊希望アンケート」で堂々二度もNO.1に輝いた名短篇集(とのこと)で期待大。

①「アデスタを吹く冷たい風」=表題作らしい格調と短編らしい“切れ味”を感じる佳作。①~④までは「共和国」のテナント少佐を探偵役とするシリーズ。銃の密輸を取り締まる国境の緊張感と意外な隠し場所が判明するラストがなかなか鮮やか。
②「獅子のたてがみ」=将軍(ジェネラル)も一目おく男・モレル大佐の殺人事件をめぐる一編。いわゆる「操り殺人」がテーマなのだが、これまたラストに判明する“ある事実(真実?)”が相当鮮やか! 遠くからなら分からないよね・・・(今だったら近くからでも分からないかもしれないけど・・・)
③「良心の問題」=シリーズ四篇のなかでは一番目立たない作品かな。あまり頭に残らず。
④「国のしきたり」=①に続いてまたまた国境での密輸取り締まりが舞台。任務に忠実でどのような密輸品でも見つけると豪語する取締り官に対し、テナント少佐の鋭い観察眼が光る。プロットは①と同系統。
⑤「もし君が陪審員なら」=⑤~⑦はノンシリーズ。これは・・・いわゆる「最後の一撃が炸裂!」的な作品。もちろん暗喩なのだけど、当然読者はそう想像してしまう。
⑥「うまくいったようだわね」=これも⑤同様に「最後の一撃」が鮮やかなプロット。女性にさんざん振り回される知人の弁護士がなかなか憐れ・・・。
⑦「王を懐いて罪あり」=中世の北イタリアを舞台とした作品。いわゆる密室殺人&密室盗難が取り扱われているのだが(作者は意識してなかったとのことですが・・・)、これもラストに意外な真相が判明するのがニクい。

以上7編。
確かにこれは「冠」に相応しい作品集。
前半のシリーズは、地中海沿岸にあると思われる「共和国」が舞台だけど、無国籍感が漂っていて独特の世界観。
独特の世界へ読者を引きずりこみつつ、ミステリー的には人間の心理の死角をついた意外な真相という短編ミステリーらしいプロットなのが実に心憎い。
ノンシリーズも作者の達者な腕前が遺憾なく発揮されている。

高品質な作品集という評価でよいだろう。
(個人的にはやはり①がベストということになるかな)


No.1253 6点 ビッグボーナス
ハセベバクシンオー
(2016/07/30 21:59登録)
2004年発表。
第二回の「このミス」大賞優秀賞受賞の長編作品。

~犯罪小説に新たな金字塔! パチスロメーカーで企画開発をしていた主人公・東は、今は攻略情報を売る超やり手の営業マン。軽妙な爆裂トークでガセネタの攻略法をパチスロ中毒者へ売りつけ、大金をふんだくっている。やがて、そんな彼の周囲で不穏な空気が流れ始める・・・。パチスロ・ノワールという新ジャンルを切り開いた「このミス」大賞優秀賞受賞作!~

ありがちといえばありがちなクライムノベル・・・という感じか。
一般社会からドロップアウトし、裏社会に手を染めつつ生きている主人公。順調に商売をしていた矢先に、徐々に周囲からキナ臭い雰囲気が立ち込めてくる。そしてやがて訪れるメルトダウン・・・
といったようなプロット&ストーリー。
誰もがどこかで触れたことのあるヤツではないか?
(個人的には真保裕一の「奪取」とどうしても印象がカブってしまった)

別につまらないわけではない。
スピード感溢れる展開と意外性のある終盤、ラストのカタストロフィなどなど
この手の小説を読みたいファン心理は十分捉えてはいる。
残念ながら個人的にパチスロに嵌った経験がないので、途中の薀蓄があまり理解できなかったのだが、パチスロ好きなら更に面白く読めたのだろう。

まっでも、巻末解説でも書かれてるけど、ちょっと“型にはめすぎ”っていうのが本作最大の弱点かな。
この感じだと、今いちヒットしなかった日本映画の原作っていうのが、本作に最もフィットする表現に思えた。
デビュー作品だし、あまり高いレベルを期待するほうがそもそも間違っているといえばそのとおりなのだが・・・
ちょっと辛口かな?
(全然関係ないですが、私は昔サクラバクシンオーが大好きでした・・・)

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