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ミステリの祭典

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黒い列車の悲劇
列車シリーズ

作家 阿井渉介
出版日1993年02月
平均点4.67点
書評数3人

No.3 5点 E-BANKER
(2016/12/21 23:00登録)
1993年発表。
警視庁・牛深警部を探偵役とし、全十作からなる「列車シリーズ」の最終作となるのが本作。

~トンネル内で列車が消え、犯人からの身代金要求は六億円。三陸海岸に沿って走る北リアス線の車輌が、百メートルもないトンネルに入ったままで出てこない。数分後、反対方向からやって来た車輌は、何事もなかったかのようにトンネルを抜けていった! 単線の鉄道でなぜこんなことが起こる? 牛深警部シリーズ最後の事件~

本シリーズは個人的にも思い出深い作品が多い。
本作も発表当時読了しており、今回が再読となるが、これほど強烈な不可能趣味を前面に押し出したシリーズは他に類を見ないし、社会派的とも取れる、何とも重々しい雰囲気とのコラボレーションというのもあまり他に例がないように思う。

本作で登場する「不可能趣味」もかなり強烈。
①(紹介文のとおり)単線のトンネル内で列車が消えたとしか思えない状況で、反対方向から来た列車が無傷で通り過ぎる謎
②消えた列車が海の上を通るのを目撃された謎
この二つが冒頭から牛深警部の前に立ち塞がることになる。
これまでも、駅が消えたり、乗客全員が消えたり、八両連結の中の一両だけが消えたりと、とにかく「消す」ことにかけては手を変え品を変えチャレンジしてきた本シリーズ。
でも今回は過去最大級。何しろ列車そのものを消すのだから・・・

ただ、この解法が問題!
このトリックはあまりにもリアリティを無視しているのではないか?
現実の鉄道車両をなにかプラレールのようなものと取り違えているのではないか。これを「机上の空論」と言わずして何と言う!
としか思えないのだ。②も同様にちょっとヒドイ。
まぁ今回はトリック云々というよりは、牛深警部の暗く重い過去とシンクロさせ、発表当時話題となっていた外国人労働者の問題やら戦後の日本の闇などに焦点を当てたかったのだろう。
さすがに十作目ともなれば、トリックにも切れ味はもはや感じられないということか。これ以上シリーズが続けられなかったのも自明。

かなり辛口に書いてきたけど、本シリーズが好きで読んでいたことは事実で、こんな荒唐無稽なトリックにチャレンジするだけでも価値のあることだと思う。
小島正樹といい、作者といい、島田荘司の影響ってやっぱりスゴイと感じた次第。
(偶然、今晩「報道ステーション」で北リアス鉄道が紹介されてた。とにかく三陸鉄道の全面復旧、お祝い申し上げます。)

No.2 5点 nukkam
(2015/12/08 14:19登録)
(ネタバレなしです) 1993年発表の列車シリーズ第10作にてシリーズ最終作です。序盤にスケールの大きな謎が2つ提示されます。一つは単線路を走る列車がトンネルに入ったまま出て来ず、反対側からやって来た列車が無事にトンネルをくぐり抜けたという列車消失の謎。もう一つは消えた列車と同じと思われる列車が線路のない霧の海の上を走っているのを目撃されるという謎。しかし捜査で重要視されるのは誘拐された列車の乗客の安否であり、また身代金の運び人として犯人から牛深刑事が指名されたことから牛深と犯人との間にどういう因縁があるのかという謎解きに多くのページが費やされます。牛深を単なる捜査官にしていないところはシリーズ前作の「虹列車の悲劇」(1992年)に通じるところがありますが人間ドラマとしての緊迫感はやや薄れたように思います。それにしてもトリックも含めてこれほど大掛かりにする必要性があったのかは疑問ですね。

No.1 4点 まさむね
(2011/07/09 22:00登録)
 三陸鉄道のトンネル内で乗客もろとも列車が消えた。数分後,反対側から来た列車は,何事も無かったかのようにトンネルを抜けていった…。単線なのになぜ?その夜,海の上を走る列車の目撃情報が。
 確かに謎は魅力的です。しかし,トリック面については,真正面から勝負していると言えなくもないですが,ちょっと強引ですねぇ。海の上を走るくだりも蛇足っぽい。動機にも疑問。牛深警部の想いとか社会派的な視点は,むしろ中だるみを助長してるだけのような気が…。
 作品はさておき,震災で甚大な被害を受けた三陸鉄道の完全復旧がなるべく早くなされるよう,お祈りいたします。

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