メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1835件 |
No.1695 | 5点 | ドールハウスの惨劇 遠坂八重 |
(2023/10/22 22:30登録) 第25回ボイルドエッグズ新人賞受賞、衝撃のミステリー! 正義感の強い秀才×美麗の変人、ふたりの高校生探偵が驚愕の事件に挑む! カルシウム摂取量全国トップ・滝 蓮司 × 眉目秀麗の超変人・卯月麗一 高2の夏、僕らはとてつもない惨劇に遭う! Amazon内容紹介より。 ナントカ賞を受賞したらしいですが、まだまだプロの域には達していない印象です。しかも衝撃でも何でもなくて、単なる青春ミステリだと思いますよ。まあどちらかと言えば本格寄りですけどね。第一章から第六章まで惨劇と言う文字が並びます。その割には実際の事件は密室での自殺に見せかけた殺人というだけで、惨劇でも何でもありません。これは、詐欺紛いの平凡な作品とは言いすぎでしょうかね、あながち間違ってはいないと思いますよ。惨劇より酷いのは母親の娘に対する躾けと言うか、縛り付けで最早虐待と呼んでも差し支えないですね。 こんなだから、誰が殺されるかは早々に分かってしまいます。密室トリックも使い古されたものですし、昨今の手の込んだ、凝りに凝った本格ミステリと比較すると随分劣るのは誰の目から見ても明らかでしょう。ただ、一章と二章の青春を謳歌する高校生達の生き生きとした姿と、対照的な主役級の女子高生の苦悩と一瞬の輝きはリアルに描かれています。その辺りを鑑みてこの点数ですから、ミステリとしては及第点に達していない訳ですよ。期待外れでした。 |
No.1694 | 6点 | 狩久探偵小説選 狩久 |
(2023/10/20 22:49登録) 才気あふるる奇才による異色の本格ミステリ集。「虎よ、虎よ、爛爛と―」ほか全13編。 『BOOK』データベースより。 短編にプラスして随筆、評論がおまけで付いている狩久作品集。 正直少々疲弊しました。昨今流行のソフトカバーの普通サイズと比べると、倍くらいの重さがあります。何しろサイズが一回り大きいですからね。で、ページ数が490ページで後半会話文と改行が極端に少なく・・・これは疲れますわ。最初の四編は瀬折研吉、風呂出亜久子の事件簿は軽妙なタッチで、二人のやり取りが楽しめる本格度の高い探偵小説と言えるでしょう。特に密室に拘りがあるようだし、自らの名前を出して来たりとメタな部分も見せています。ここまでは比較的読みやすく疲れませんでした。 その後、代表作であろう『落石』以降、やや私小説風ミステリが多くなっている気がします。事前の予想通り、『落石』を超える作品は残念ながら見当たりませんでした。しかし、この作品の裏話的でまるでノンフィクションかの様な『訣別――第二のラヴ・レター』を読めたのは大きな収穫だったと思います。自身のペンネームを捩った暗号に秘められたメッセージなど読んでいて、心が痛みました。 尚、作者は長編を生涯一篇しか書いていませんが、それはあまり書くと持病のため熱が出る為と自身で語っています。この人も早逝の悲劇の作家だったのかも知れません。 |
No.1693 | 5点 | 劇場版 呪術廻戦0 ノベライズ 北國ばらっど |
(2023/10/16 22:33登録) 高校生の乙骨憂太は、「呪い」となった幼なじみ・祈本里香に憑かれ苦しんでいた。 そこに最強の呪術師・五条悟が現れ、憂太を“東京都立呪術高等専門学校”へと導く。「呪い」を祓うために「呪い」を学ぶその場所で、憂太は里香の呪いを解くことを決意し、同級生の禪院真希・狗巻棘・パンダとともに呪術師として歩みだすのだった! Amazon内容紹介より。 漫画が原作の映画ノベライズ作品です。読んでみる限りラノベの様なものと断じても良いと思います。ですから、当然キャラの描き分けはキッチリ出来てはいます。中身はほぼ全編バトルで、短いページ数という制限がある中、基本だけは押さえているところは評価されるべき部分だと思います。 映像を観た方が当然臨場感があって良いのでしょう。わざわざ映画館まで足を運ぶとか、漫画を読む気にはなれませんが、多分文章で読むよりは面白いであろう事は想像に難くありません。Amazonでの評価も高いですしね。 前半はイマイチ乗れなかったですが、後半の呪術師と呪詛師の最高レベルのバトルはかなりのめり込めました。ただ、憂太と里香のエピソードのひとつも欲しかったところではありますね。そうすれば、もっと白熱したバトルを楽しめた気がします。 |
No.1692 | 8点 | 誰のための綾織 飛鳥部勝則 |
(2023/10/15 22:23登録) あの日、あの新潟の大地震の夜、私たちは拉致され、ある小さな島に監禁された。誘拐者たちは「おまえたちに、あの罪を認めさせるため」に連れてきたのだという。復讐だった。今にも私たちを殺してしまいそうな怒りだった。その夜、ひとりが木の枝で刺されて死んだ。しかし、私たちの誰も気づかずに、彼女を殺せたはずがないのだ。犯人はどうやって「そこ」に入ったのか。そして次のひとりが死んだ…。誰が生き残ったのか、そして誰が殺したのか。作中作に秘められた「愛」がすべての鍵。 『BOOK』データベースより。 これが盗作騒動を起こしていたのは知りませんでした。まあ別にプロットやストーリーを、という訳ではなかった様なので、そんなの関係ないとそれには目を瞑りこの点数。最後まで7点か迷いましたが、こういうの好きなんで。 しかし、細かな疵もあると思います。些細な事ですが例えば、事件の発端となった出来事(と言うにはあまりに悲惨)に関しての、加害者の心情が個人的にあまり理解出来なかった点。何となく誤魔化されている様な感覚でした。あと、終盤のある二人の会話がイマイチ噛み合っていなかった気がするところも、若干モヤモヤしました。 しかし、プロローグとエピローグは凄く良いんです。これがなければ小説として破綻していたのではないかと思うくらいです。作中作だけだとあまり評価できないのは確か。ただ蛭女に関しての記述は生理的に嫌悪感を催し、蛭が大嫌いな私には結構グッとくるものがありました。蛭自体の存在をクローズアップしている嫌らしさも不気味です。又、意外性のある和室のトリックも評価します。 まあね、怪作だと思いますよ。良い意味でね。やられた感も半端ないですし。 |
No.1691 | 5点 | 計画書 コウイチ |
(2023/10/13 22:27登録) 舞台は平凡でどこにでもありそうな名もなき町。 しかしある時から、その町では起こりそうもないような物騒な事件が頻発するようになる。 一方、二人の警察官は「100万円の家」と呼ばれる廃墟で一冊の本を発見する。表紙に「計画書」とだけ書かれた本には、その町で実際に起きた事件と同じ内容が綴られていた。しかしそれらの物語は「結末」の部分が少しずつ違っていて……。 Amazon内容紹介より。 うーむ、こういうのをメタフィクションと言うのでしょうか。 小さな町の警察官は何を思ったか、橋の上から川に飛び込む。すると気付いた時には町の様相が変わっており、自分の家も廃墟と化していた。そこで「計画書」という私家版らしき本を発見すると云ったのが大筋で、その中に書かれた「小説」がちょっと風変わりだったのです。 その物語は外からしか開けられないサウナに閉じ込められたり、おばさん三人組の食い逃げの模様だったり、懐中電灯で猫に変身したり、爆破される橋の一人称だったりしますが、どれもあまりパッとしません。かなり期待外れでした。この幾つかの短編小説の合間に二人の警察官の会話が挿入されているのですが、ここでもう一歩踏み込んだ内容であれば、少しは読み物として楽しめたかもしれませんが。 オチも奇を衒ったものでもなく、拍子抜けのエンディングでした。 |
No.1690 | 7点 | 三幕の殺人 アガサ・クリスティー |
(2023/10/12 22:25登録) 引退した俳優が主催するパーティで、老牧師が不可解な死を遂げた。数カ月後、あるパーティの席上、俳優の友人の医師が同じ状況下で死亡した。俳優、美貌の娘、演劇パトロンの男らが事件に挑み、名探偵ポアロが彼らを真相へと導く。ポアロが心憎いまでの「助演ぶり」をみせる、三幕仕立ての推理劇場。新訳で登場。 『BOOK』データベースより。 はい、これですね。「動機の問題」にて、私の愚問に回答いただいた、他ならぬ空さんの一推しとあっては読まない訳にいかないですよね。あ、大丈夫ですよ、みなさんに紹介していただいた作品も既読を除いて、いずれ読むつもり(入手困難などで例外あり)ですので安心して下さい。 流石クリスティーと言いますか、ポアロをさし置いて探偵気取りの三人が容疑者を尋問して、犯人を絞り込むというちょっと地味な展開ではありますが、すんなり読む事が出来ます。全く退屈さを感じさせません。 はっきり言って犯人については比較的簡単に予測が付くかも知れません。しかし、特に第一の殺人に関しての動機は、これは見当が付かないと思いますね。言わば「動機なき殺人」に対する動機ですからね、況してや事件かどうかも分からない状況ですし、これは難問でしょう。この年代の作品と考えると、なかなかこう云った発想は出来ないんじゃないですかね。だからクリスティーの考えるアイディアは先駆者的なものが多いんだと思います。 それにしてもポアロは美味しい所を掻っ攫いますね。それまで鳴りを潜めていたのに、最後の最後に出てきたと思ったら、惚れ惚れする推理、これはズルいですよ。 |
No.1689 | 6点 | 蠅の女 牧野修 |
(2023/10/10 22:16登録) 暗闇に包まれた廃墟。地中から、光り輝く男を掘り起こす異様な女たち。城島洋介とオカルト部の仲間は、救世主復活を標榜するカルト教団の秘密儀式を目撃してしまった。それが悪夢の始まりだった。一人、また一人と姿を消してゆく仲間たち…。そして、城島の前にもあの女たちが―「見つけたよ」。恐怖が奔流のように襲いかかるアクション・ホラーの傑作。 『BOOK』データベースより。 出だしはSNSのオフ会で、夜の廃墟を探検するという、如何にもなホラー小説風でごく普通な感じです。そこから死者が出たり行方不明者が出たりと、サスペンスフルな展開に。そして徐々に廃墟で目撃した怪しげな女二人の影がチラつき始め、恐怖を煽ってきます。 ところが後半、ベルゼブル(ベルゼブブ)が召喚されてから一気にヒートアップし、アクションへと移行します。スプラッターと言うほどではないにしても、ある程度のグロは作者の持ち味なのでやむを得ないところ。 短いながらもそれなりに物語の広がりは感じられ、前半後半で全く別の小説を読んでいる様な感覚を覚えました。まあ面白かったですよ、牧野修だからこんなもんでしょう。過度の期待は禁物です。 |
No.1688 | 7点 | ダンデライオン 河合莞爾 |
(2023/10/08 22:17登録) 東京の山間部、タンポポの咲き誇る廃牧場のサイロで、空中で刺殺されたとしか思えない異様な死体が発見された。被害者は16年前に行方不明になった女子大生・日向咲。捜査第一課の警部補・鏑木鉄生は、部下・姫野広海の口から「空を飛ぶ娘」という昔話の存在を知る。翌週、今度は都心の高層ホテル屋上で殺人事件が発生。だが犯人は空を飛んで逃げたかのように姿を消していた。やがて二つの事件の接点として、咲が大学時代に所属していた「タンポポの会」というサークルが浮上する―。 『BOOK』データベースより。 目茶苦茶読みやすく面白かったですね。これぞストレスフリーの読書って感じでした。それにしても、この作者はやはり島荘を標榜しているのでしょうか。何から何までそっくりです。 文庫本の帯にある解説者の大矢博子の「ミステリとして1ミリの無駄もない」という惹句はまさにその通りで、無駄な描写が全くありません。ただ、特に第一の殺人には図解が欲しかったところですね。まあこれは私の勝手な言い分なので言っても詮無い事だとは分かっていますけど。あと、解説は先に読まない方が賢明だと思います。 空を飛べる人という壮大な与太話を、真剣にいい大人が語っているのは可笑しいですが、そのあり得ない状況、つまり広義での密室をトリックと言うより人情物の様な語りで補完している点はまあ良しとしましょう。そこには作者も重きを置いていないのだと思います。それよりもその後に襲い来る衝撃の方が何倍も驚かされますよ。気持ちよく騙されました、完敗です。 デビュー作はそれ程でもなかったので、遠ざかっていました。しかし、今回長年積読しておいた本作を手に取ってみる気になったのは、幸運と言うべきか、遅すぎたと言うべきか・・・でも期待以上の出来に満足はしています。もっと世間に知られていい作品でありシリーズじゃないでしょうかね。 |
No.1687 | 8点 | エレファントヘッド 白井智之 |
(2023/10/06 22:20登録) 本格ミステリ大賞受賞の鬼才が仕掛ける、空前絶後の推理迷宮。 精神科医の象山は家族を愛している。だが彼は知っていた。どんなに幸せな家族も、たった一つの小さな亀裂から崩壊してしまうことを――。やがて謎の薬を手に入れたことで、彼は人知を超えた殺人事件に巻き込まれていく。 Amazon内容紹介より。 これを面白いかと聞かれると、残念ながら微妙だと答えるしかありません。しかし、この作品は悪魔的な奸計と緻密な理論を武器に、己の路線をひた走る白井智之の真骨頂だと言えるかも知れません。私のイメージとしては畏怖と深い溜息とがない交ぜになったものでしょうか。 グロは少々控えめながら健在です。前作で見せつけた実力とはまた違った意味で凄い傑作を書いたなと思います。 ネタバレにならないように書きますが、特殊設定の本格ミステリでありながら、それを逆手に取ったようなトリックが光ります。本質は正統派のパズラーと呼んで間違いないと思います。そして多すぎる伏線を見事に回収し、ロジックを徹底的に追求した本格巨編です。 個人的には前作の方が好みです。しかしながらロジカルで端正なミステリが好きな読者はこちらの方が読み応えがあって合うかも知れません。やや詰め込み過ぎな印象は否めません。だからちょっと難解な部分もあったり、複雑だったりして軽いミステリ好みの人を遠ざけてしまう可能性も捨てがたく、万人受けするとは言えないですねえ。でも各ランキングに名を連ねるのは間違いないでしょう。 |
No.1686 | 6点 | 名著奇変 アンソロジー(出版社編) |
(2023/10/03 22:28登録) 教科書に載る誰もが知る あの名作が現在に舞台を遷し、 奇怪な物語として蘇る! 国民的ベストセラーが持つDNAを 次世代の小説家がさらに 進化させた第一級のホラーミステリ。 謎解き、考察…。どんでん返し! 読書に馴染みのない方も ぐいぐい一気に引き込まれる! Amazon内容紹介より。 6編の中で元ネタを読んだのは『走れメロス』だけ。葉山嘉樹って誰?位の知識しか持っていない私に読む資格があるのか、とも思いましたが、問題なく読めました。更に著者は初めましての方ばかりで、大丈夫なのかとの不安もあったりしました。でもそれぞれが味を出していて結構楽しめました。一概にホラーと言っても、おそらくみなさんが想像している様なものとは違うと思います。それだけ日本のホラー小説も進化しているのかも知れないですね、人間の暗部を描いたものが多かったです。 中にはミステリっぽい作品もありますし、どんでん返しも。どれも一定の水準に達していますが、敢えて好みを交えて選ぶとすれば、相川英輔『Under the Cherry Tree』、大林利江子『せりなを書け』のツートップとしましょうかね。このお二方は文章がこなれており読みやすく、意外性もあり大変面白く読ませていただきました。 |
No.1685 | 8点 | 殺人犯 対 殺人鬼 早坂吝 |
(2023/10/02 22:18登録) 孤立した島の中で次々に起こる惨劇。ここには僕以外にもう一人、殺人者がいる。 殺人計画を続けながらの、犯人捜しが始まるーー。 鬼才が放つ、戦慄の本格ミステリ! ! Amazon内容紹介より。 これは・・・!久しぶりに衝撃を受けました。そしてまんまと騙されました。 最初は、あれ?子供が主人公で、登場人物も全て子供じゃないですか、そういうやつかあ、とちょっとだけ落胆しました。しかも何だか弛緩した雰囲気が漂っていて、あまり好みじゃないなと思いました。しかし、ですよ、事件が始まる前からあらゆるところに伏線が張られているし、斬新なトリックこそないものの、様々なギミックを施して、おまけに猟奇殺人と来ている。これは少し本作を見直す必要があるなと感じる部分でした。全てに於いて整合性も取れていますしね。意外と入り組んだ真相には驚きを隠せません。 そして最終盤、解決編とも言える対決に於いて、アッと驚くような、まさに後頭部を殴られた様なショックを受けました。こんな事よく考えたなと素直に感心しました。ここに作者の底力をはっきりと実感したのであります。 よって、最初の印象を見事にひっくり返し、大逆転でこの高得点を獲得した作者に対して惜しみない拍手を送りたい気持ちでいっぱいです。又、余分な描写がなく、短く纏め上げた点も評価に値すると思います。 |
No.1684 | 6点 | インキュバス レイ・ラッセル |
(2023/10/01 22:21登録) 1987年のアメリカ作品。 Amazon他各所で好評のようですが、それ程でもないと思いました。一応ホラーです、しかし怖くはありません。むしろエロ要素が散りばめられているサスペンスと云ったほうが正しいかも知れません。その中にミステリ要素も幾分含んだ感じでしょうか。 物語としては次々と小さな村の女たちが強姦されて、殺されると云うもので、総勢十人の被害者が出ます。ミステリ的にはフーダニット一本槍で突き進むのですが、犯人が判りやす過ぎてびっくりでした。頼むから予想を裏切ってくれと思いながら読みましたが、完全に読み通りでしたね。こんな私でも犯人を指摘出来たのだから、ほとんどの読者が同じように犯人に辿り着いたと思うのですが、実際そうではなかったようです。最後の最後までそこは謎のまま進行しますが、この結末で驚けた人は幸せでしょう。意外な犯人・・・。だったとはとても思えませんけどねえ。 そんながっかりの真相に落ち込んだ訳ですが、作品そのものの出来としては決して悪くはないと思います。適度なエロとテンポ良く殺される被害者達、一体何者が犯行を行っているのか、果たして人間の仕業なのかと云った謎に引っ張られて読み進める事は出来ます。しかし何度も言いますが、犯人が判ってしまっては興味は半減どころか、一気に失せてしまう可能性がある作品である事は覚悟しなければなりません。 |
No.1683 | 5点 | 日々の暮らし方 評論・エッセイ |
(2023/09/28 22:29登録) 「正しい散歩の仕方」「正しい自転車の乗り方」「正しい風邪の引き方」など、身近な作法が分からないで毎日を困惑と不安で過ごしているアナタ。人に聞くのをためらっているアナタ。物事はすべからく前向きに考えようではありませんか。来し方を反省するも良し、来るべき未来に思いを馳せるのもまた良し。充実した人生をと願うすべての人に捧げる、45項目に及ぶユニークでユーモアに溢れた別役版「正しい日々の暮し方」。 『BOOK』データベースより。 『主婦の友』のお友達のようなタイトルのエッセイ集。ですが、経験談を基にそれを多少脚色したものをエッセイと呼ぶのなら、本書はエッセイではありません。著者は確固とした信念に基づいた持論で日々の何気ない、何処にでもある事柄を題材とし、独自の理論を展開しています。しかし、それらははっきり言ってしまえば嘘八百であります。まあこれを真面に受け取って、じゃあ実践してみようと思う人はいないでしょうが。ある意味本書を「日常の謎」の方向へ強引に持って行っているのは著者自身で、ありもしない法則や定理、史実をさも現実の様に書いているいかさまの如き偽書です。 ミステリに寄せていると思われるものは『正しい誘拐の仕方』『正しい死体の取り扱い方』『正しい死刑の仕方』の三編。ある誘拐事件を取り上げて、誘拐犯をなっていないと叱ったり、死体が玄関の前に転がっているのを見て、警察に通報するでもなく生ごみとして処理しようとしたり、法務省に電話して「是非この手で死刑執行をしてみたい」と宣ったり。 なるほどそういう事なのか、ではなくなるほどそういう考え方もあるのか、という捉え方というか読み方もありますので、どうせなら本書をそんな形で楽しんでしまったほうが得策と言えるでしょう。そうじゃないだろう、不真面目だと怒り出す人が正常な感覚の持ち主かも知れません。 |
No.1682 | 6点 | 怖い食卓 アンソロジー(出版社編) |
(2023/09/26 22:31登録) 筒井康隆作〈定年食〉が物語るように、定年を迎えた男は最後に一家団欒の食卓上にて家族の胃袋へと消えて役目を終える。美味に酔う家族の笑顔が祝祭日にふさわしい。エロスの根源から湧き起こる人肉食への快美な誘惑。 『BOOK』データベースより。 カニバリズムばかりかと思いきや、そういう訳ではありませんでした。人肉かと思わせておいて実は・・・だったり、逆に植物に人間が取り込まれたりと様々な食に特化したホラー・アンソロジー。 当初7点にしようかと迷いましたが、意味不明なのが何作か混じっているので、その分を差し引いて6点としました。 印象に残っているのは最初の筒井康隆『定年食』、これは短い中にもストーリー性や家族間の機微を重視しながら、ストレートな表現力が生きています。他に作者らしいファンタジー色の強い、安倍公房の『魔法のチョーク』。流石の文章力とエンターテインメント性が前面に押し出された、谷崎潤一郎の『美食倶楽部』。ウルトラQ的な怪奇譚、ジョン・コリア―の『みどりの想い』。これは訳者が数多のミステリを翻訳した事で有名な宇野利泰であり、ここでも見事な仕事ぶりを見せています。他に既読ながら水谷準の『恋人を喰べる話』、村山槐多の『悪魔の舌』も良かったですね。 |
No.1681 | 7点 | 鵼の碑 京極夏彦 |
(2023/09/24 22:11登録) 殺人の記憶を持つ娘に惑わされる作家。 消えた三つの他殺体を追う刑事。 妖光に翻弄される学僧。 失踪者を追い求める探偵。 死者の声を聞くために訪れた女。 そして見え隠れする公安の影。 Amazon内容紹介より。 内容が内容だけに、刊行が延ばされたのは分かりますが、それにしても17年は長かったですよ。まあ2、3年は駄目だったろうなとは思います、しかしせめて5年くらい空けて出して欲しかったですね。 まず本書を手にして確認したのは、次作が告知されているのかどうかでしたが、どやらシリーズは続くものとみて間違いないようで、正直ホッとしました。いつ出るかは作者のみぞ知るところですが、2年に一作位は出してもらいたいです。 さて本作、薄味との意見もあるようですが、十分濃いです。特に京極堂の蘊蓄には相変わらず付いて行けません。ただ、事件が現在進行形ではなく、過去に起こった出来事を追うものなので、スリリングな展開は望めません。この辺りはHORNETさんに全面的に賛同します。そして、個人的に榎木津の出番が少なすぎて物足りなかったりしました。まあその分、緑川という女医がなかなか物言いとか堂々としていて、好感が持てましたが。過去に関口らとどんな出会いがあったのか気になるところです。あと、チョイ役のセツという「悪いけど」が口癖のメイドが面白い存在でしたね、どうでもいいですけど。 物語やプロットは良いんだけど、ミステリとしては弱いよね。 |
No.1680 | 6点 | すげ替えられた首 ウィリアム・ベイヤー |
(2023/09/17 22:20登録) 酷暑にあえぐ8月のニューヨーク。マンハッタンの東と西で、女性教師とコールガールが同時に、それぞれの自室で死体となって発見された。だが、驚くべきことに、二人の生首はおたがいにすげ替えられていた―。あまりに常軌を逸した犯罪に、捜査は難行する。ユダヤ系移民の初老の警部補ジャネックはこの巨大な都市、人間の欲望が歪み、きしみあうこのニューヨークの裏側に踏み込んでいく。エアロビクスのインストラクター、写真家、スプラッター映画の監督、コールガール組織―。ジャネックと若手女流写真家キャロラインとの心の交流を、サブストーリーとして、描き出される都会の現在。現代の異常さを、犯罪者の心の奥底にまで迫って描ききったこの作品のなかには、どこよりも危険で、どこよりも熱い大都会ニューヨークの魔性がつかみとられている。 『BOOK』データベースより。 真面目に書かれた作品だとは思いますが、衝撃とか驚愕とか意外性とかとは無縁の世界です。どちらかと言えば地道に捜査して犯人に辿り着く警察小説ですね。派手なタイトルに期待してはいけません。何故ならそこにはトリックや特記すべき理由がある訳ではないから。最後に語られる犯人の告白には納得は行くものの、動機に目新しさはなく、まあそうだろうなと思うばかりです。でも犯人像はなかなか魅力的です。 犯罪の決着は特別捜査班の手柄とされていますが、肝心の本件の捜査本部には全く触れられておらず、そんな筈はないだろうと思ってしまいました。まさかこのようなセンセーショナルな大事件を極秘捜査していたなんて事はないでしょうねえ、え?また刑事の誰も彼もが単独捜査なのはおかしくないですか。他にも鑑識の仕事が雑過ぎな点も気になりました。何だか文句ばかり並べてしまいましたが、二つの事件を追うことになる主人公のタフさには感心しました。 |
No.1679 | 7点 | 陰陽師 夢枕獏 |
(2023/09/14 22:37登録) 平安時代。闇が闇として残り、人も、鬼も、もののけも、同じ都の暗がりの中に、時には同じ屋根の下に、息をひそめて一緒に住んでいた。安倍清明は従四位下、大内裏の陰陽寮に属する陰陽師。死霊や生霊、鬼などの妖しのもの相手に、親友の源博雅と力を合わせこの世ならぬ不可思議な難事件にいどみ、あざやかに解決する。 『BOOK』データベースより。 端正で白い顔、赤い唇で長身の陰陽師安倍晴明と、無骨だがどこか愛敬のある武士源博雅。二人のバディが平安の世に蔓延る異形の者達を調伏し、事件を解決する時代小説。と言うか、本質はミステリそのものです。つまり構成としては晴明が探偵で博雅が助手であり、奇妙な話を持ち掛けるのがほぼ博雅となっています。 思ったより現代的な文体で会話文も堅苦しいものではありません。そして素晴らしいのが情景描写で、これは最早名文と呼んでも間違いではないと思います。 本書を読む切っ掛けは地上波で観た映画ですが、本シリーズがこれほど長く続いているとは思いも寄りませんでした。勝手に長編だと決めつけていましたが、意外と短めの短編集で、その点でやや物足りなさを覚えもしました。しかしそれはそれで味わい深く、まるで平安時代にタイムトリップした様な感覚でした、ちょっと大袈裟ですが。 こういうのが好きな人がもっと高い評価を付けたとしても、私は驚きませんね。事実シリーズを通してAmazonでの評点が高いのも納得出来ます。 |
No.1678 | 7点 | 完全なる首長竜の日 乾緑郎 |
(2023/09/12 22:36登録) 第9回『このミス』大賞受賞作品。植物状態になった患者とコミュニケートできる医療器具「SCインターフェース」が開発された。少女漫画家の淳美は、自殺未遂により意識不明の弟の浩市と対話を続ける。「なぜ自殺を図ったのか」という淳美の問いに、浩市は答えることなく月日は過ぎていた。弟の記憶を探るうち、淳美の周囲で不可思議な出来事が起こり―。衝撃の結末と静謐な余韻が胸を打つ。 『BOOK』データベースより。 読みやすいのは良いですが、淡々と起こった出来事だけを描いていて、面白味も何もあったものじゃありません。そして人間が描かれていない、もう少し何とかならなかったものかと思います。こういうのは綾辻行人に任せておけば、かなりの名作になったのになあとか思いながら読んでいました。 たまに起こる不可解で不自然な出来事にあれ?そして同じ事柄を何度も繰り返し念押しするしつこさに、何だかなあと感じてしまいました。 終盤まではこんな感じで、作者は一体何がやりたいのかが私には理解できませんでした。しかし、最後でばら撒かれたピースの一つ一つが収まるべきところに収まる快感に溺れることになろうとは、まさか思ってもみませんでした。まんまと作者の目論見に嵌められた私は、狙い通りの理想の読者だったと言えるでしょう。こんなに簡単に騙された私がボンクラだったのが、却って私的には良かったのだと言えましょう。 評価が割れるのも分かる気がします。 |
No.1677 | 6点 | いぬの日 倉狩聡 |
(2023/09/10 22:19登録) わたしの名前はヒメ。家族はわたしを「犬」と言う。でも「犬」って何?飼い主一家に愛されず、孤独に日々を過ごすスピッツ犬のヒメ。流星群の夜、不思議な石を舐めて驚く程の知能と人の言葉を得た彼女は、一家の末っ子、雅史を支配下に置いて…。飼い犬たちの暴走、町に響く遠吠え、巨大な犬の影、そして続発する猟奇殺人。史上最高にキュートでおぞましい「犬のカリスマ」ヒメ登場。彼女が命を懸けて欲したものとは…。 『BOOK』データベースより。 主人公はメスの飼い犬のスピッツ、ヒメ。一人称ではありません(全体を描き切れない為と思われる)が、視点の多くは彼女です。しかし、性格が悪く可愛げのない犬なので、感情移入は出来ません。 人間の言葉を話すことを覚えたヒメが、最初は些細ないたずらから始まって、次第に犬や猫を簡単に捨てる人間達に復讐する為、下僕を引き連れてさらにエスカレートする様はホラーと言うよりパニック小説ですね。 『かにみそ』がやたら面白くある意味切ないホラーだったので、期待し過ぎた為かやや肩透かしを喰らいました。それでも5点は忍びないので6点としました。ただし、犬好きが読んで楽しめるかと言うと、首を傾げざるを得ません。しかし、飼い主と固い絆で結ばれたミコトの存在は大きいです。また猫好きの私としてはどうしても黒猫のスズちゃんに好感を抱いてしまいます。 そして解説で初めて知った、作者が実は女性だったという事実に最も衝撃を受けました。 |
No.1676 | 7点 | 怪盗フラヌールの巡回 西尾維新 |
(2023/09/07 22:14登録) 亡き父親の正体は大怪盗だった――!? 長男の「ぼく」は、傷ついた弟妹と愛する乳母のため二代目怪盗フラヌールを襲名。持ち主にお宝を戻す“返却活動”を開始する。次なる標的は、天才研究者が集う海底大学。忍びこめたかと思いきや、初代怪盗フラヌールを唯一捕らえたベテラン刑事と、新世代の名(ウルトラ)探偵が立ちはだかり、不可能犯罪まで発生! 二代目怪盗フラヌールは、数多の謎を解き明かし、任務を完遂できるのか!? 衝撃の怪盗ミステリー、ここに開幕! Amazon内容紹介より。 久しぶりに西尾維新の本格ミステリを読みました。『クビキリサイクル』を読んだ時の衝撃を思い出しながら、一寸感傷的な気分になったりして。まず今さら怪盗と云うのはどうなのかと思われる向きもあるでしょうが、それには深い訳があります、色々と。それらを一々論うのはネタバレにもなり兼ねませんので避けます。 不満があるとすれば、やはり女名探偵の存在ですかね。思わせぶりな言動ばかりで何もしないじゃないかと。もみじまんじゅうばかり食べていて、これはネタなんですかね、ボケなんですかね。 作風としては、本格ミステリのど真ん中のストレートと思わせておいて、実はストンと落ちるフォークだったみたいな感じです。新味はないものの、様々なギミックを駆使して読者を欺こうという意気込みを感じます。結局そういうオチかとも思いましたが、途中ダレルことなく読ませ、読後感も悪くないのは作者の力量だと思いました。個性と個性のぶつかり合いも読みどころのひとつでしょう。 |