メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1836件 |
No.456 | 5点 | 愛国殺人 アガサ・クリスティー |
(2014/04/14 22:38登録) 再読です。 翻訳物独特のしゃちほこばった文体が自分にはやはり合わないと、再認識させられた。とは言うものの、こなれた文章ではないにしても、決して読み難いわけではないと思う。ただ、なんとなく上滑りして、内容が頭の中にすんなりと入ってこない感覚を覚える。相当昔に翻訳されたというのも一つにはあるだろう。これを面白がって、感心しながら読んだ幼少期の自分を褒めてやりたい。既に私の灰色の脳細胞も老化現象が始まっていると思われる。 さて、事件は自殺か他殺か判然としない歯科医師の死体に始まり、かなり複雑な人間模様が繰り広げられる。途中まではさすがのポアロもお手上げ状態だが、ふとしたことから天啓を受け、そこからは一気に事件解決へとなだれ込む。途中顔を潰された死体も登場し、一見単純な入れ替わりかと思わせて実は・・・という、ミステリ読みの達人をも唸らせるようなさすがのトリックを弄したりして、クリスティの名に恥じない作品に仕上がっているとは思う。 やや真相が複雑なだけに、あまりインパクトがなくカタルシスも生まれてこなかったのは心残りだが、犯人の「愛国」心とポアロの信念がもたらす、表裏の心理を上手く表現するラストは印象深いものがある。 |
No.455 | 6点 | 火蛾 古泉迦十 |
(2014/04/12 22:11登録) 再読です。 難解な言語、イスラム世界の宗教観、貧しい修行者の連続殺人、これは激しく読者を選ぶ作品である。また、これほど書評が難しいものも珍しいのではないだろうか。とても気軽に読めるミステリではない、本作を読もうとする者はかなりの覚悟が必要になってくるだろう。 とは言うものの、文体はむしろ明快であり、なんら引っ掛かるような表現はないと思う。ただ、見たことも聞いたこともない単語が散見されるのみである。これがちょっとだけ厄介だが。 まあいずれにしても、これまで誰も読んだことのない類の超異色作ということが言えるのではないだろうか。謎も不可思議だが、謎解きがまた圧巻である。最終章も余韻を残しながら、良い雰囲気で締めくくられている。 |
No.454 | 5点 | 公開処刑人 森のくまさん 堀内公太郎 |
(2014/04/10 22:34登録) ふざけたタイトルに多くの方は「どうせロクなもんじゃないだろう」と思われているか、或いは無関心かのどちらかだろう。しかし、これが案外悪くない。私自身も、怖いもの見たさで読んでみただけだが、意外な拾い物をした気分である。 ストーリーはB級の匂いがプンプンする、どこか勘違いした正義の味方を気取った殺人鬼が、ネットを通じて「処刑」の対象を選び、次々と残虐な方法で殺害していくというもの。ありがちなパターンで、これといって新味はないものの、まずまずツボを押さえた力作に仕上がっているのではないだろうか。 無論、問題点もある。最も気になるのは、ところどころ三人称の文章なのに、視点が一人称になっている部分である。どちらとも取れる文体は、ややもすればミステリの作法に則っていないとのそしりを免れないのではあるまいか。これが本作最大の瑕疵だと思う。読者によってはルール違反であるとか、アンフェアと言われかねない。他にも、イマイチ登場人物に魅力がないとか、描写が足りないとか、背景などがほとんど無視されている、文章が素人っぽくプロの域に達していないなどが挙げられる。 だが、そんな欠点を考慮しても、一読の価値はあると思う。B級サスペンスがお好きな方は読んで損はないのではないだろうか。 |
No.453 | 6点 | 八ヶ岳「雪密室」の謎 アンソロジー(国内編集者) |
(2014/04/09 22:43登録) 再読です。 スキー好きのミステリ作家と編集者を集い、作家の笠井潔が主宰する第4回スキーツアーで遭遇した密室(殺人ではない)事件。 手記によると1998年1月17日、この日は記録的な大雪で都内でも20cm以上積もったそうだ。車3台と列車に分かれて八ケ岳に向かった一行だが、道中ちょっとしたアクシデントに見舞われながらも、何とかロッジに到着。その後鍵を部屋に置いたまま施錠せずに買い物に出かけ、帰ってきたら鍵がかかっていたという。勿論、鍵は部屋に置かれたままだった・・・。 問題編となるメインの手記は笠井潔、二階堂黎人、編集者の布施謙一が、それを補う形で、我孫子武丸、桐野夏生、貫井徳郎がそれぞれの立場で手記を載せている。また回答編に挑んでいるのは、鯨統一郎、柄刀一、霞流一(一が多いな)、斎藤肇、喜国雅彦(漫画家)の錚々たる面々。喜国以外の解答者は、ツアーとは関係ない人々である。 しかし、この問題編がどこまでがノンフィクションで、どこからがフィクションなのか全く分からないのである。上手く読者を煙に巻いている感じだが、それぞれの手記に矛盾はなく、キッチリと整合性は取れている。おそらくは大半が実際に起こったことを元に話は綴られているのだとは思うので、妙にリアリティがある。しかも、ご丁寧に何枚もの現場の写真を掲載しており、とても作り話とは思えない。 気になったのは、回答編の密室トリックが同じようなパターンに偏ってしまったこと。致し方ないとは言え、もう少しいろんなバリエーションがあっても良かったのでは、と思った。って言うか、誰かこれ読んでる?埋もれちゃって。 |
No.452 | 4点 | 消えた探偵 秋月涼介 |
(2014/04/07 22:27登録) 再読です。 様々な神経系の病状を持った患者たちが集まる診療所が舞台。主人公のスティーヴは、例えば部屋の入り口から入って窓から出るといったように、入口と出口が違うとパラレルワールドに陥ってしまうという、強迫観念を持っている。実際過去に、二度それを経験していると自分では信じている。 他の患者たちの症状は様々で、あらゆる強迫観念を持つ者、ほぼ5分で過去の記憶を失くしてしまう者、多重人格、自分がエクソシストで悪魔と戦っていると信じる少女など。 そんな中でスティーヴは死体らしきものを目撃し、誰かに3階から突き落とされるが、九死に一生を得る。しかし、例のパターンでパラレルワールドに落とし込まれてしまい、死体は勿論、犯人も有耶無耶になってしまう。そこで自ら探偵として行動するという、かなり風変わりなミステリである。 正直、ラスト10ページ余りの真相の為に、実に地味な聞き込みや張り込みといった捜査活動を延々と読まされ、いささか退屈を覚える。確かに、その真相は首肯させられるものではあるのだが、そこにいたるまでがあまりにも長かったため、さしたるカタルシスも得られず。 今まで誰も書評を書かなかったのも分かる気がする。というより、誰も読んでないんだろうな。 |
No.451 | 6点 | 地獄のババぬき 上甲宣之 |
(2014/04/05 23:44登録) 前作の主要メンバー総出演の上、さらにアクの強い新キャラ達が登場し、にぎやかな作品に仕上がっている。 名神高速を走るバスがジャックされ、トランプのババ抜きで生き残る人質を順番に決めていくという、犯人の意味不明な要求に加え、それをTVで全国放送の生中継をするという前代未聞の事態に突入する。果たして犯人の真の目的は何か、という一見単純なストーリーのように思われるが、実はそこに至るまでにホラーやミステリの要素を盛り込んで、読者を飽きさせない工夫がなされている。 しかも、スピード感やスリルが効いているので、物語が盛り上がるのは間違いない。だが、残念ながら、肝心のババぬきの試合の模様が、やや冗長になってしまっているため、手に汗握るというわけにはいかない。ただ、マジックの技や心理戦、裏ワザなど様々な仕掛けが施されており、読み応えは十分である。単純なゲームだからこそ、読者を引き込む力を持っているのではないだろうか。 勿論、漫画のような設定に馬鹿馬鹿しさが先に立ってしまう読者にとっては許容できないかもしれない。私のような悪食、面白ければ何でもOKな読者には格好の暇つぶしになるであろう。 |
No.450 | 2点 | 歪んだ創世記 積木鏡介 |
(2014/04/02 22:14登録) 再読です。 これはいけません。読むほうも読むほうだけど、書くほうも書くほうだよね。メフィスト賞の選考委員は何を見て選んだんだろう。それにしてもこんな作品再読するなんて、最低。 出だしはまあまあ面白い感じがしないでもないが、途中からメタな展開になり、その辺りからもう目茶苦茶というかボロボロ。こんなのがありなら、どんな不可能犯罪でも可能になるわ。 細かいことを言うと、当て字が多すぎ。動悸(どきっ)としたとか、獅噛みつく(しがみつく)とか、いちいち目障りなのだ。それとユニットバスやクロゼットなどわざわざ日本語にしなくてもいいんじゃないかな。 もうね、最後の方なんか読んでいて眠くて仕方なかった、正直どうでもよくなってしまってね。それでも意地で最後まで読んだけど、読む価値なしってのが本音。 |
No.449 | 6点 | 暗黒童話 乙一 |
(2014/03/31 22:18登録) 再読です。 帯に惹かれて読んでみたのが約十年前だろうか。あまりピンと来なかったが、今回読み直してみても似たようなものだった。無駄な描写が目立つので、どうしても冗長になりがちだし、テンポもあまりよくない。面白いのは面白いのだが、やや文章が読みづらいところや稚拙な表現があるため、手放しで喜んでもいられない感じである。 グロイとの評価が多いようだが、決してグロくはないと私は思う。この程度なら大したことはない、もっとエグイのがホラー小説にはいくらでもある。個人的にはメイン・ストーリーよりも、このグロイと評される挿話のほうが作者が生き生きしているというか、輝いている気がしてならない。 瞳がソファで腹筋を使って体を弾ませて遊んでいるシーンや、真一と幸恵が瞳の体を撫でて森へ去っていくシーンなどが印象深い。このように心に残っているシーンがいくつかあるということは、やはり良作なのだなと思う。 |
No.448 | 3点 | 異説 夢見館 霞田志郎 |
(2014/03/29 23:40登録) 再読です。 太田忠司が自作のキャラ霞田志郎名義で書き上げた、幻想的なミステリ作品。 主人公の純はひきこもりの高校生。毎日自分の部屋でゲームばかりしているのだが、あることからそのゲーム『真説・夢見館』(セガ・サターンから実際に発売された)にそっくりのアネモネ荘に迷い込み、その後も頻繁に訪れるようになる。そして、その後自分と一人の住人を残して、管理人を含むアネモネ荘の住人が皆殺しにされてしまう、というストーリー。 全般にごくごく薄味、というより薄っぺらで、微塵も奥深さが感じられない。最後に実は叙述トリックもありました的なのも明かされ、やや意外性があるものの、まあ評価に値しない駄作と言ってもいいんじゃないだろうか。 結局最後は夢オチのようで、正直よく分からないが、作者は何を書きたかったのかも私には理解できなかった。 賢明なる本サイトの書評家達は、まさか本作を読まれてはいないとは思うが、今後ももし古書店で見かけられても本書を手に取らないように。良い子のみんなは決して読まないでください、ってことですね。ごめんなさい、太田さん。でもいいよね、もう絶版だから。 |
No.447 | 7点 | 白い部屋で月の歌を 朱川湊人 |
(2014/03/28 22:43登録) 再読です。 第10回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品の表題作と、中編の『鉄柱』を併録する朱川氏初期の代表作。 表題作はいわゆるゴーストバスターズの3人組の話で、霊能者である中年女性が悪霊を封じ込め、その依代として車椅子の「ぼく」が悪霊を憑依させる。もう一人霊能者の弟は、営業マン的な役目をしている。どこにでも転がっていそうな話ではあるが、朱川氏の腕にかかると、これがなんとも言えない独特の世界観を醸し出す。 ホラーなのに、叙述トリックまで仕掛けられていて、いかにも選考委員受けしそうな作風である。直木賞受賞者の実力を遺憾なく発揮した傑作であろう。 個人的に表題作よりも気に入っているのが『鉄柱』(クロガネノミハシラ)である。 女性関係の失敗(妻は事情を知らない)で小さな町に左遷になった主人公の雅彦とその妻は、引っ越し先の小高い丘の上にある広場で逆L字型の鉄柱を見つけるが、一体何の目的でそれが建っているのかが分からない。 町の人達はみな一様にいい人ばかりで、夫妻は内心喜んでいたのだが、次第にその町にしかない異様な慣習が明らかになっていくにつれ、じわじわと精神的に追い詰められていき、最後にはとんでもない破局を迎えることになるというストーリー。 死という概念を逆説的に捉えた、普通の感覚では発想すら難しい怪異を、流麗な文体で描いた佳作である。 |
No.446 | 6点 | 灰色の仮面 折原一 |
(2014/03/26 22:11登録) 再読です。 初期の作品だけに、活きの良さが際立っている。勿論叙述トリックも然りだし、プロットもらしくていいんじゃないかな。私はノベルズを読んだので、改訂版ということになるらしいが、単行本とは違った結末というか構成になっているとのこと。そちらの方は知らないが、改訂版はスッキリして分かりやすいので、その辺りに筆を入れ直したということだろうか。 また、本作は折原流のラブ・ストーリーとも言えると思う。それもあまり恋愛に免疫がない若者同士の感じがよく出ていて、初々しさがなかなか微笑ましい。そんなにうまくいくものか、という気がしないでもないが、気の合った二人ならまあアリなのかもね。 突出したものがないだけに高得点とはならなかったが、いかにも折原氏らしさが出ていて、初期の代表作の一つと言ってもいいかもしれない。 |
No.445 | 5点 | 白ゆき姫殺人事件 湊かなえ |
(2014/03/25 22:30登録) どことなくダサいタイトルだけど、意外に面白かったりします。全編、証言と独白、そして巻末にドーンと控える参考資料から成り立っている、独特の構成。湊女史ならではのアイディアが光っているとは思うが、ミステリとしてどうだろう。一応、フーダニットとホワイダニットが興味の中心だが、一級品の文章とテクニックにはぐらかされた感じで、正直ミステリとしての評価は低い。 しかし、ほぼ証言だけで構成されているにしては、ぶつ切り感もないし、スムースなストーリー展開になっているのは、この作者にしかできない芸当かも知れない。 また、近日映画公開されるわけだが、確かに映像化には向いている作品だと思う。観に行く予定はないけれど、かなり難しい役柄を井上真央ならやってくれそうな気がする。 それにしても、ほとんど伏線らしきものが見当たらないまま、いきなり犯人が明らかになる辺りは、やはり本作がミステリとしての体裁を有していないことを物語るものである気がしてならない。私は湊女史をミステリ作家とは思っていないので、それは当然なのかもしれないけれど。だからこの人に本格ミステリを望んでも土台無理な相談なのだろう。 |
No.444 | 4点 | 喜嶋先生の静かな世界 森博嗣 |
(2014/03/23 22:06登録) 本作は、森博嗣をこよなく愛する人に捧げられるべき作品であって、私のように大学生活をパチンコと麻雀に明け暮れていた下衆が読む小説ではないね。まあ真面目で真っ当な学生生活を過ごしている人、或いは過ごした人にとっては有意義な読書体験になるかもしれないけれど。特に理系の人間にはね。要するにこれは内容こそ難解ではないが、それだけ私にとって敷居の高い作品なのだ。 そして敢えて苦言を呈するならば、森博嗣という作家は執筆作業から得られる代償を単なる労働の対価と考えており、それを公言してはばからない人だ。ならば尚のこと、読者を裏切るような作品を書いてはいけないだろう。また、私はすべての小説は広義でのエンターテインメントでなければならないという持論ももっていて、その意味で本作は全くその条件を満たしていないのも不満の一つである。これを読まれた多くの方は「何を寝ぼけたことを言っているんだ」と憤慨されるかもしれないが、あくまで個人の意見なので大目に見てもらいたい。 ただ、終盤の数ページだけは少しばかり意外性もあり、考えさせられるものではあった。 蛇足だが、中学生の頃、近所の女子大だか女子短大だかの学園祭に、友人に誘われて遊びに行ったことがあるが、招いてくれた女子大生たちは一様に楽しそうだった。大学というのはそんなに楽しいところなのかとその時思ったものだが、それが幻想だと気付くのにはまだ数年の時を必要とするのであった。 |
No.443 | 6点 | 8の殺人 我孫子武丸 |
(2014/03/21 22:29登録) 再読です。 まあ何と言うか、よくありがちなストーリーとプロットで、際立った特徴は見られないが、全般にユーモアが効いていて私には結構面白く感じられた。速水三兄弟の描き分けも上手く決まっていると思うし、他のキャラも性格や行動様式などがよく描かれている気がする。 トリックは目新しいというわけではないが、分かりやすく好感が持てる。また、死体を引きずった跡が残っていた理由などは非常によく考えられていて、デビュー作のわりにはそつなくまとめられているように思う。 いかにも新本格という作風だけど、我孫子氏独自の「色」をさりげなく押し出しており、その後の作品にも自然に継承されているのは、一応戦略として成功を収めてると言ってよいだろう。 余談だが、ノベルズの巻末に収められている島荘の『本格ミステリー宣言』に書かれている「予言」は見事に的中しており、今更ながらその慧眼に驚かされるばかりである。 |
No.442 | 5点 | 白い森の幽霊殺人 本岡類 |
(2014/03/19 22:25登録) 再読です。 第一の殺人は雪だるまの中に埋め込まれた女子大生、しかも両足が切断されているという、なかなか猟奇的なものだが、第二、第三の事件は事故か殺人か判然としないという、いたって地味なものである。 ペンションのオーナーである邦彦は、巻き込まれるように探偵役を演じることになるのだが、その独自の捜査がいかにも地味で、なんだか一向に期待感が盛り上がってこない。他にはあまりこれと言って目立った人物が登場しないため、全体的に平板な感じを受けてしまう。地道な捜査により、次第に事件の全貌が明らかになっていくタイプのミステリが好みの読者には向いているだろうが、私にはどちらかというと嗜好が合っていないと感じた。 ただし、謎解きのシーンはそれなりに読み応えもあり、なぜ両足が切断されたのか、あるいはなぜ雪だるまに死体を隠したのか、といった理由には納得させられた。 よくよく考えてみると、結構面白い事件なのだが、ストーリーに派手さがないので、せっかくの逸材がかなり控えめな作品と言う印象になってしまっているのは残念である。 |
No.441 | 6点 | 殺人の駒音 亜木冬彦 |
(2014/03/17 22:24登録) 再読です。 ミステリのパートを除いては、将棋を指すシーンや将棋を生業としているキャラたちのエピソードがいちいち面白いのだ。いっそのこと、殺人事件など取り除いて、エンターテインメント一本で作品を仕上げてしまったほうが良かったのではないかと思うほど、対局シーンなどが際立っている。それは確かに劇画的なタッチと言えるかもしれないが、普段将棋など全く指さない私でも自然に引き込まれるような臨場感あふれる描写であり、本当に素晴らしいと感じる。 一方、ミステリとしてはさして特筆すべき点はない、どちらかと言うと平凡な作品と言えよう。ただ、ミスリードも含めて、意外な犯人であるのは評価できる。しかし、新味はないし、殺人事件の話になると、急に面白味が半減してしまうので、せっかく娯楽小説として一級品であるだけに勿体ない気がする。 エピローグがまたいい味を出している。私が過去に読んだミステリの中でも、5本の指には間違いなく入る、素晴らしい締めくくり方ではないかと思う。 総括すれば、エンターテインメントとしては8点超え、ミステリとしては4点くらいな感じだろうか。しかし、約20年ぶりくらいに読んで良かったと素直に思った。また何年かしたら忘れてしまうだろうが、その時はまた読めばいいかなと思わせるような作品ではあった。 |
No.440 | 4点 | そのケータイはXXで 上甲宣之 |
(2014/03/15 23:24登録) 再読です。 シーマスターさんの書かれている通り、ドタバタ劇の連続。しかも第一章、第二章とそれが続き、正直飽きが来る。さらには、各章とも視点が固定されているため、変化に乏しくサスペンスが一向に効いてこない。少しは緩急を考えて、場面を変えるとか、もっと物語に起伏が欲しかった。 特に第二章は、本筋にほとんど関係ない敵に主人公の一人が狙われるという、読者にとってはどうでもいいような展開を長々と読まされて、悪い意味で疲れてしまう。それでも、文章が下手なわりに読みやすいので、つい引っ張られてしまうという、悪循環の繰り返し。初読の際はもう少し面白かったイメージがあったので、再読してみたが、どうやらその価値はなかったようである。 最終章では、主人公の女性が、自分が心の中で描いていた理想と現実の差に、とんでもない愚行を犯してしまう。これは一体どう言った心理なのか、理解に苦しむ。 面白かったのは第一章の、村に昔から伝わる因習を事細かに説明されるシーンくらいのもので、どんでん返しがあるわけでもなく、イマイチ魅力を感じない作品であった。 |
No.439 | 5点 | 黄昏の囁き 綾辻行人 |
(2014/03/12 22:26登録) 再読です。 ストーリーの流れは島荘を彷彿とさせる。だけど事件終息に向けてのアプローチの仕方は全然違う。そりゃそうだ、いくら師匠と仰ぐ島荘でも、その辺りはキッチリ線引きをしているということだろう。今や、綾辻氏が師と仰がれる立場になっているから、それでいいと思う。 序盤で大方の展開は読めてしまうのに、なかなか進展具合がスピーディでないため、じれったいというか、多少イラッと来る。特に、過去にあった出来事が小出しにされるため、どうにもスッキリしないねえ。 しかし、結局はそれを逆手にとって、叙述トリック風の仕掛けを施している辺りは、さすがに綾辻だと言わざるを得ない。それに加えて、犯人は実に意外な人物であり、サスペンスの括りの中にも、本格スピリットを忘れていないので、ジャンルを超えた異色作に仕上がっているのではないだろうか。 「囁きシリーズ」は全般的に、今邑彩女史辺りが書きそうな作風にも思える。似ているというのではなく、どこか共通するものを感じるというだけの話だけど。 |
No.438 | 6点 | 暗闇の囁き 綾辻行人 |
(2014/03/10 22:28登録) 再読です。 うーん、悪くはないんだが普通だね。どこをとっても普通。これと言って突出した部分もなければ、特別アラも見当たらない。まあ雰囲気はそれなりのものを出している気はするけど。 亜希以外の兄弟は、そんなに異様な感じもしないし、不気味な存在感を醸し出しているふうでもない。その点、亜希はどこか不透明で、その生死さえ不明なので、最後までホラー作品としての一翼を担っていると思う。彼の存在がなければ、かなり平凡な作品になっていただろう。 途中、死体の髪が切られていたり、片方の眼球がくり抜かれたりして、内心「おっ」と思ったが、その真相にはやや脱力感が漂う。肩透かしを食らった感じである。 色々なジャンルを含有しているのもいいが、どうも中途半端に終わっているようで、やや消化不良気味の出来になってしまっていると思われるのは、少々残念である。 |
No.437 | 6点 | 緋色の囁き 綾辻行人 |
(2014/03/08 23:22登録) 再読です。 相変わらず人間が描けていないなあ。と、冗談はさておき、そこはかとなく綾辻テイストが味わえるが、どうも全般的に回りくどい文章が目立つ気がする。勿体付け過ぎなんだよね。 『サスペリア』は程遠いが、やはり元祖はホラーだし、こちらはあくまでミステリだからやむを得ないのか。しかし、もう少し書き様もあったのではないかと思ってしまう、サスペンスもそれほど効いていないし、ホラー小説としてもなんだか中途半端。心理描写もなっていない、これではせっかくの構想が相当悪い方向に走ってしまっているではないか。 しかし、終盤の真相が明かされるシーンは俄かに生き返る感じで、それまでのまったりした展開は何だったのかと言いたくなってしまう。 まあ綾辻作品としては、テンポも良くないし、キレもないので、出来としてはよくない部類になるのかもしれないけれど、犯人の意外性と過去の事件と現在の事件を貫く一貫性に敬意を表してこの点数にしました。 |