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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.60 4点 弔鐘はるかなり
北方謙三
(2009/07/28 14:00登録)
北方謙三氏の書評登録は本サイトではゼロ。総合ミステリ書評サイトとして寂しいので、ファンではありませんが、すこし盛り上げてみたいと思います。
本作は氏のハードボイルド第1作です。純文学からの転向後に書いた初めてのハードボイルド作品だと思います。これ以後、量産が始まり、驚異的な人気となったのですね。
本作はそんな記念碑的な作品で、すでにこの作品には、北方氏の特徴である短文による描写が随所に見られ、印象に強く残っています。ただ、暴力シーンは肌に合いませんでした。その暴力シーンも得意の短文で描写され、それによる強烈な効果があったのかもしれません。時代小説のちゃんばらシーンだったら、どれだけ血が流れようと気にならないのに、不思議ですね。
当時、あれほど流行った北方ハードボイルドも、今は影を潜めています。今書いたとしても、売れないのでしょうか。氏の時代物をあまり読んでいないのでわかりませんが、たぶん、時代物、中国歴史物のほうが(氏の風貌にも)似合っているのでしょうね。現代物ならともかく、時代物、中国物は十分な調査と取材が必要なのに、どうしてあんなスピードで書けるんでしょうか?本当に凄いです。


No.59 3点 支那そば館の謎
北森鴻
(2009/07/26 22:01登録)
50ページごろに住職が推理しはじめ、2,3ページ後に終了。連作短編集とは知らずに借りてしまいました。短編も好きだし、軽めでユーモアたっぷりだから気分転換にはいいかと思いきや、有馬次郎という寺男と折原けいという女性記者との掛け合いは、意外に面白くありません。ユーモアのセンスはイマイチなのでしょうね。有馬次郎を「アルマジロ」と呼ぶのだけが笑えました。
北森鴻といえば鮎川哲也賞作家で、いかにも本格派らしい作家です。初めて読む作家で期待したのですが、期待には応えてくれませんでした。今度は、賞をとったメジャーな作品を読んでみたいと思います。


No.58 7点 雪蛍
大沢在昌
(2009/07/23 09:44登録)
佐久間公シリーズ。
薬物中毒者の更正施設の管理人である元探偵の佐久間が、その友人で更正施設の理事長である沢辺からの依頼を受けて失踪人調査を行うという設定。物語は、失踪人調査を行う過程で殺人事件に巻き込まれていく話と、佐久間が施設内で心を閉ざした問題児・ホタルと心を通わせていく話とが同時進行します。すこしテレビドラマ風です。
うがった見方をすれば、物語自体も佐久間のセリフも安っぽさがあるのですが、こんなテレビ的ストーリーに弱い私は、すぐに引き込まれ、少しソフトなハードボイルド・ヒューマンドラマとして楽しむことができました。
かつては、シリーズ物の途中の作品であることなど調べもせずに読む悪い癖があって、この作品もその例に漏れなかったのですが、特に問題なく楽しめたので、本作品については正解でした。でも失敗も多いので、これからは、このサイトで情報を得るなどして、注意して選ばないといけませんね(笑)。


No.57 6点 自殺の殺人
エリザベス・フェラーズ
(2009/07/20 10:37登録)
トビー&ジョージシリーズ。
冒頭、自殺未遂事件を起こしたジョアンナの父が翌日、不可解な死を遂げる。自殺なのか、他殺なのか、これが最大の謎。中盤にも死亡事件が起きるが、これも自殺か他殺かはわからない。
大団円(エピローグの前の部分で、勝手にそう呼んでいます。)では一波乱あり、どんでん返しもあり、エピローグでのジョージによる背景や真相の説明もていねいでわかりやすく、ミステリとして十分高評価できる要素を備えています。また、登場人物の役割分担もうまくできています。
こう書けば申し分なしのようですが、実は、中盤は、文学的な表現も手伝って、あまりにも退屈な展開となっています。ただ、退屈でページが進まない分、立ち止まって自ら推理できます。この点はメリットでしたね。
ラストが巧いので、中盤に事件の背景にもページを割きながら展開よく話を運べば、かなりの高得点でしょうね。


No.56 4点 花ならアザミ
志水辰夫
(2009/07/18 11:28登録)
ハードボイルドではなく、謎解き中心の普通の推理小説だ。登場人物がみなミステリアスで、物語の雰囲気は好みなんだけど、謎解きがストレートすぎて作品としてはイマイチ。
著者は独特のシミタツ節というのを持っているそうだが、本作では出ていないのかもしれない(詳しくないので不明です)。ただ、私の場合、『行きずりの街』よりは印象が良かった。


No.55 7点 世界の名探偵50人
事典・ガイド
(2009/07/15 10:16登録)
ぜひ、もう一度読みたいガイドブックです。
タイトル通り、内外の探偵とトリックが紹介されています。ホームズ、ルパン、メグレ、明智小五郎などはもちろん、当時聞いたことのない探偵も紹介されていました。たしか、半七や87分署も載っていました。ただし、ネタバレもあったように思います。
そして、最大の収穫は、ノックスの十戒が説明されていたことです。30年ほど前に読みましたが、これには目から鱗でした。
表紙は、拳銃と赤いバラという派手で俗っぽい構図。装丁やイラストなどは安っぽさがあり、内容も初心者向けの稚拙さがあるガイド本だったように記憶していますが、私にとっては思い出の書です。
もう家にはなく、図書館にもなく、絶版なので古書を探すしかなさそうです。
点数は思い入れの部分がだいぶ入っています。


No.54 6点 松本清張を推理する
評論・エッセイ
(2009/07/15 07:09登録)
『点と線』『ゼロの焦点』『黒い画集』『砂の器』など(11作品)を、作品ごとに批評しています。少しコメントを抜粋。

・「小説はすべてミステリーだ」 小説にはなんらかの謎が提示され、なんらかの解決がある。(大賛成)
・『ゼロの焦点』には、戦後の鄙びた風景の描写が、日本人の原点に属する懐かしさを表現している。(納得、戦後すぐのことは知らないが、その描写だけで心打たれる)
 冒頭の引き込み方がうまい。(これも納得)
・『黒い画集』所収の『遭難』の動機が、清張社会派ミステリーにしては弱い。(大好きな作品。考えもしなかった。この一文を読んで、実は私は社会派に向いていないのかなと思った)

こんな感じで、様々な角度で分析してあります。紹介された全作品を読んでないので評価が難しいですが、清張ファンなら楽しめると思います。
ところで著者の阿刀田高は、このサイトでは登録されていないようですね。


No.53 5点 もう一人の乗客
草野唯雄
(2009/07/10 12:27登録)
草野唯雄の代表作といわれている。冒頭の、殺人現場から逃げ出した女性の「もう一人の乗客」とのタクシー相乗りシーン、後半の法廷シーンなど、プロットは巧く書けている。でも、はっきりいって中身は、叙情に欠けた叙情ミステリであり、中途半端なハードボイルドという感じだ。

この作品、大昔にテレビドラマで放映され、たまたま最終回のタイトルバック(しかもエンディング)を観て、その雰囲気に惹かれたのが、初読のきっかけです。タイトルにも惹かれましたが、草野氏の場合、『女相続人』『山口線貴婦人号』のように、ストレートなネーミングのほうが作風に合っているように思います。


No.52 8点 十角館の殺人
綾辻行人
(2009/07/10 12:13登録)
某名作を超えようとするあまり、本格要素(作中の図面や探偵の推理、アリバイ工作など)を取り入れすぎた感がある。ミスリード目的のものもあるけど、やりすぎ。作者の勇み足?また、ストーリーからして本土編は必要なんだけど、それを挿入することで『そして』ほどのサスペンスフルな雰囲気は出ていない。

それから、本格要素が多くなると、その解決編を十分に開示しなくてはいけないが、その量が多すぎるとサスペンスの雰囲気がくずれてしまうし、少なすぎると動機が弱いとか、批判を浴びてしまう。本作はそれを適量にした結果、中途半端になってしまっている。

それに、挑戦、オマージュ、翻案という言葉にだまされそうだけど、結局は真似。ストーリーが違っていても、孤島CC、見立てという枠組みを取り入れてしまえば、それはやはりモノマネでしかない。
というわけで、絶対に『そして』は超えられませんね。

と、批判しましたが、実は15年ぶりの再読で大きな収穫を得ました。『十角館』って、こんなよくできたミステリだったんですね。あの台詞には度肝を抜かれるし(既読なのに覚えてなかったのか!)、その他、傍点の使い方など、会話文、地の文ともに巧いですね(傍点は少しくどいかな)。初読時は、なんて古めかしいテーマなんだと馬鹿にしていたせいか、真剣に読まなかったようです。
若干20数歳で本作を書いた綾辻氏の才能には感服しました。


No.51 6点 人間の証明
森村誠一
(2009/07/09 16:12登録)
森村氏の代表作といえば、『高層の死角』と本作です。前者は本格派推理で、本作はどちらかといえば人間ドラマ風ミステリです。
当時、小説、映画ともにあれだけ話題になったのに、本サイトでコメントがゼロというのは、あまりにもさびしいですね。ミステリとは思われてないのかな。
30年以上前に、2作とも読んだ時点では、間違いなく『高層』派だったのですが、年を重ねた今なら、だいぶ嗜好が変わってきているので、果たしてどちらなのかわかりません。それに、本作はわずかに記憶に残っているのに、『高層』はほとんど記憶にありません。私の場合、本格物は読了時点で面白いと思っても、記憶には刻まれないのかもしれません(笑)。

さて、書評ですが、再読していないので要点だけです。
西条八十の詩や方言、外国人の訛りなど、細かな手掛かりから真相を手繰り寄せていく推理プロセスは読みごたえがあり、ストーリーとしては人間ドラマであるというものの、リアリティのある刑事物(社会派?)ミステリの要素を十分に備えているように思います。さらに犯人側にもスポットが当てられていて、清張の『点と線』に『砂の器』の要素を加味したような(逆かもしれません)欲張りな作品だったように記憶しています。当時は『高層』の印象があまりにも強かったので、森村氏らしからぬ作品だなと感じたものです。


No.50 7点 浅見光彦殺人事件
内田康夫
(2009/07/09 16:00登録)
内田氏は本サイトで人気がないので、少しだけ盛り上げてみます。
トリックが面白いですね。叙述トリックではありませんが、書き手には、読み手を意識した文章テクニックを必要とします(という意味では叙述トリックなのかもしれません)。勘の良い人なら、これだけでわかってしまうかもしれませんね。でも私は、読みが浅かったのか、あるいは勘が悪いのか、内田作品を3冊以上読んでいるのに解けませんでしたね。だまされたせいか、印象に残っている作品です。

内田作品といえば、作品数が多すぎて安っぽく見られがちですが、本作は秀作の部類ではないでしょうか(再読が必要かもしれませんが・・・)。本作だけではなく、初期の作品群もミステリ的に面白いものが多いですね。

内田氏は、私がミステリを休止している時期に、年間、数冊読んでいた数少ない作家のひとりです。なにしろ読みやすいので、忙しい時期に細々とつなぐにはピッタリでしたね。氏の量産作家という肩書きは、質が低いという意味合いにとられがちですが、氏の作品のように展開が良いものばかりだと、ストーリーテラーという称号に値すると思います。私にとって最高のストーリーテラーといえば、内田氏と、横溝正史、その他2,3人しか思い浮かびません。


No.49 10点 そして誰もいなくなった
アガサ・クリスティー
(2009/07/06 10:03登録)
名探偵の代名詞であるホームズと同様、ミステリファンでなくても、本作のタイトルを知らない人はいないのではないでしょうか。円熟期に書かれた、クローズドサークル&見立て殺人物であって、他の追随を許さない超傑作です。
孤島に招待された人たちが、童話になぞられて一人ずつ殺されていくストーリーには、クリスティーの文章表現も手伝って、恐怖感が指数関数的に増大させられます。作中の人物といっしょに読者も味わえるこの恐怖感は最高です。
この作品は、プロットはもちろん絶品ですが、実は文章の巧みさが際立つ作品だと思います。その巧みさは、たんに叙述トリックの巧さということだけではなく、むしろ、会話文と、地の文と、話者が特定できない心情吐露の独白文とによる表現力の豊かさにあると思います。そして、その表現力でもって、登場人物の心情変化が発現されて、サスペンスに満ちた作品となっています。
翻訳(誤訳)のせいで多少のアンフェア感が出ていましたが、作品を楽しむうえではほとんど問題はなかったように思います。かりに、翻訳文ではなく原文にアンフェアな記述があり、本格派推理小説として認められなかったとしても、これほどのアイデアと構成を考え出したことと、秀逸なサスペンス作品に仕上げたことに対して満点の評価は変わらないと思います。
映画も懐かしいですね。たしかラストが原作とは違っていたように記憶しています。


No.48 9点 検察側の証人
アガサ・クリスティー
(2009/07/06 09:55登録)
フレンチ婦人殺人事件の嫌疑をかけられたレナード・ボールの裁判において、アリバイを証明するはずの妻ローマインが、なぜか検察側の証人として証言台に立つ。これが最大の謎です。そしてラストには、重なるどんでん返しが待ち受けています。これには背筋が震えます。人物描写にすぐれた作品で、ローマインが魅力的で、人間的に描かれています。
本作を読めば、物語性重視の私にとっては、トリックや謎解きだけでなく、プロットや文章表現を重視した作品こそがミステリの名作になりえるのだなということが再確認できます。映画『情婦』も良かったですね。


No.47 5点 ソクラテス最期の弁明
小峰元
(2009/07/01 12:29登録)
青春推理シリーズ第3弾。登場人物が『アルキメデス』よりもさらに虚無的です。そういった虚無的なところは、僕にとって、ユーモア系の『ピタゴラス』よりも好みなのですが、ミステリ要素についても物語性についても、それまでの2作品よりも劣っていますね。ただ、地元の話だったので友人たちとの間で話題になり、その結果、楽しく読めたように記憶しています。


No.46 5点 ピタゴラス豆畑に死す
小峰元
(2009/07/01 12:25登録)
青春推理シリーズ第2弾。ミステリとしても、ストーリーとしても『アルキメデス』と同程度ですが、登場人物の会話は軽妙で、物語全体としても軽めでユーモアに富んだ作品になっています。ただ、軽妙なやりとりでもって、面白いストーリーに花を添えているつもりなんでしょうが、アホらしさも感じられますね(笑)。また、作中の関西弁は、作者だったら得意なはずなのですが、これも変です。時代が変わればユーモアの感じ方は変わるもので、私の場合、今なら絶対ダメ、当時も許容範囲ぎりぎりだったと記憶しています。
当時、世間を騒がせていた「ツチノコ」という架空の動物が懐かしいですね。


No.45 6点 眠りの森
東野圭吾
(2009/06/25 16:03登録)
バレエ団というクローズドな空間での殺人事件を取り扱った作品です。
こういう設定は好みだし、ミステリとしてもまずまずの出来だし、読後感も悪くはなかったのですが、なぜか印象は薄いです。好みの問題なんでしょうね。評価が分かれて当然、という感じの作品でした。ただ、この作品も再読要かな?


No.44 8点 放課後
東野圭吾
(2009/06/25 16:02登録)
青春推理は好きな分野。予想を裏切らず、ストーリーもトリックも上質で、まとまりの良いバランスのとれた作品でした。乱歩賞は伊達じゃないと思います。
動機に問題があるという評価が多いようですが、全く気になりませんでした。というよりも、違和感がなかった、という記憶しかありません。でもみんなの書評を見ていると、再読の必要がありそうだなと感じました。再読後、再評価するかもしれません。


No.43 5点 虚構の殺人者
今野敏
(2009/06/22 15:04登録)
安積警部補を中心とした警察内の人間模様がていねいに描かれています。キャラ的には、他シリーズの竜崎や樋口ほどの個性はありませんが、その分、心理描写がしっかりしていて、主人公の心情が細やかに表現されています(すこし鼻に付く感じもしますけど)。この種の書き方だと、「人間が描かれていない」なんて評価は、絶対にされないでしょう。小説修行を相当積んできたことがうかがえます。しかも、三人称一視点で、主人公の心理と、主人公の目を通した同僚たちの個性とが、一人称小説なみに十分に描かれているので、すぐに感情移入もできます。ミステリを書かかせるのがもったいない感じさえします。いやこういう作家だからこそ、すぐれたミステリが書けるのかもしれません。氏には謎解き中心の「本格物」も書いてほしいですね。ハードボイルドも面白いかもしれません。
ところで、肝心のミステリとしての本作の評価ですが、はっきりいってイマイチでした。謎の提起の仕方はよかったのですが、謎解きロジックにひねりがありません。あまりにもあっさりしていて、謎解きをするほどではありません。人間を描きすぎたことの代償でしょうか。連続ドラマを想定して書いたのでは、という気さえします。


No.42 6点 虹の舞台
陳舜臣
(2009/06/22 14:54登録)
陶展文シリーズも本作が終盤なんでしょうか。探偵役である陶展文もやや老いて、ストーリー自体もゆったりとした、落ち着いた感じがします。もっとも陶展文は安楽椅子探偵なので、シリーズのどの作品を読んでも、ある程度そんな印象を受けますが。。。
物語の背景にはインド独立があり、歴史ミステリーっぽいところがあって興味が惹かれましたが、謎解きには物足りなさを感じます。陶展文が襲われるというサスペンス展開が案外読みどころかもしれません。


No.41 7点 五瓣の椿
山本周五郎
(2009/06/17 12:33登録)
(動機についてネタバレを含みます)



ミステリ仕立ての復讐劇、と一般的には言われていますが、ミステリ仕立てというよりも、間違いなく本物のミステリだと私は思います。周五郎ですから時代物です。だから、本格ミステリというわけにはいきませんが、文章力、プロットは抜群で、どちらかというと物語性を楽しむミステリ作品だと思います。個人的には「復讐」という言葉を聞くだけでワクワクするほうなので、もちろん申し分なく楽しめました。

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