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ミステリの祭典

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私が見たと蠅は言う

作家 エリザベス・フェラーズ
出版日1955年09月
平均点5.80点
書評数5人

No.5 6点 人並由真
(2022/07/21 09:15登録)
(ネタバレなし)
 1942年の春。大戦下のロンドン。女流画家ケイ・ブライアントは、知己である刑事コリー警部補に再会。彼とともに、3年前の殺人事件のことを思い出す。その物語は、今は空襲のために消失してしまった十番街のアパートの一室の床下から、拳銃が見つかったことから始まった。

 1945年の英国作品。
 評者はフツーに新訳のHM文庫版で読了。本来は部分的にユーモアミステリの趣がある? 本作だが、旧訳のポケミスで読むとなんとなく怪奇ミステリっぽい雰囲気があるとのネットの評判。そんなウワサが気になって、まずは読みやすいのであろう新訳で手にとってみた。

 作者が持ちキャラのトビー&ジョージものを封印してノンシリーズ路線に移行した、その第一弾だそうだが、メリハリのある展開、決して多くない頭数の登場人物を使い分けた作劇と、読み物としてはとても面白い。

 ちなみに文庫版の紹介文(「住人たちはそれぞれ勝手に推理」「二転三転する真相」など)から、多重解決っぽい内容を期待したが、実際の中身は当該の登場人物数人が常識的な判断を当たり前に(ややドヤ顔で)言い合っているだけで、実に歯ごたえがない。まあ素人探偵気取りの連中が嬉しはずかしで浅い物言いをし合うというのはリアルと言えばリアルではある。

 いろんなヨミ(読み)で、犯人はたぶん……と思ったら、ズバリ正解だったが、なぜ拳銃がそこに隠されたかについての真相は、個人的にはなかなかイケるとは思う。そっちはさすがに予想もつかなかった。いやまあくだんの該当の人物に、だったらあーしろよ、こーしろよと言いたくなる部分もないではないが、グレイゾーンで看過できる範囲ではあろう。
(ちなみに読み返してみると、関連する部分の叙述はやや際どいが、ぎりぎりセーフだと判定。)

 全体的にテクニカルなミステリを書こうとする作者の意欲を実感し、そこにある種のロマンを感じる好編。たぶんこれまで読んだフェラーズの作品の中では、一番スキだ。

 それでも評点は7点……に……ギリギリ……いかないなあ(先行レビュアーの中では、評点をつけ直したらしい臣さんのご心情が痛いほどわかる)。 
 まあ6点の最大上限という感じで。

No.4 5点 nukkam
(2016/05/16 16:11登録)
(ネタバレなしです) 第二次世界大戦後のフェラーズの創作はシリーズ探偵の登場しない作品が多くなります。1945年発表の長編第6作である本書はその嚆矢となった作品です。アパートの床下から拳銃が発見され、前の住人のナオミ・スミスが疑われるがそのナオミが殺され、問題の拳銃が凶器だったことがわかるというプロットです。容疑者であるアパートの住人たちはそれなりには個性的ではあるのですがその描写はどこか抑制されているように感じられます。終盤になるとこの住人たちが次々に「犯人がわかった」と自説を披露する、本格派ファンがわくわくしそうな展開になりますが、こういうのを得意にしたクリスチアナ・ブランドに比べると推理があまりに粗すぎて当てずっぽうと大差なく感じられるのが謎解きとして弱いです。

No.3 6点 kanamori
(2015/04/07 18:30登録)
夫と別居した女流画家ケイが住むロンドンの安アパートの隣室の床下から拳銃が見つかり、つづいて、その部屋を出たばかりの女性が公園で射殺死体となって発見される。コリー警部補から容疑者とみなされたアパートの住人たちは、それぞれ思い思いに勝手な推理を繰り広げるが-------。

先ごろ復刊されたフィルポッツの「だれコマ」同様、タイトル(=原題は”I,Said The Fly")はマザーグースの”コック・ロビン殺し”の一節から採っています(タイトルの正確な意味合いは、エピローグでのコリー警部補の説明まで待たなければなりませんが)。本作には、ヴァン・ダインが「僧正」でやった童謡殺人のような派手な趣向や強烈なサスペンスはなく、多肢多彩なアパート住人たちによるコージー風で軽妙なやり取りによる推理の披露合戦が最大の読みどころです。また、隠れたテーマである”蠅”の正体にも意外性がありました。
ただ、それぞれの推理そのものは論理性に乏しく、どちらかというと感情的なものが中心で、最終的な解決の仕方も含めてロジックを重視する本格を期待すると少々物足りなく感じるかもしれません。

No.2 6点
(2009/08/03 12:40登録)
安アパートの元住人の部屋から拳銃が見つかり、さらに、その拳銃でその元住人が殺害されたことが発覚する。アパートの全住人が容疑者になり、みな他の住人を疑い始める、ちょっとしたアパートCC物です。さぞスリリングでサスペンスフルな展開かと思いきや、実は全編をとおして、アパートの人間模様が軽妙なタッチで描かれていて、サスペンス物ではあっても暗さはほとんど感じさせない内容となっています。都会的でお洒落で、国内物ではまず味わえないコージー調のラブコメディっぽい雰囲気があります。1940年代に書かれた作品だとは、とても思えませんね。
ミステリとしては、本格フーダニット物のわりには粗さがあります。でも、住人たちが好き勝手に「犯人はあいつだ」と謎解きするので、それがミスディレクションを誘う形となって、読む方も右往左往してしまい、結果、意外に楽しむことができました。著者の手口に見事にやられたなと言う感じです。
採点を迷うところですが、翻訳物経験の少ない私にとってカルチャーショック的な作品なので、7点を献上します。

(2010年4月追記、点数訂正)
後になって考えれば7点はやりすぎ。他の作品とくらべてみても6点が妥当です。

No.1 6点 mini
(2008/10/28 11:14登録)
フェラーズのファンの間でもあまり評判の良くない作だが、私は擁護しておきたい
私は翻訳者の良し悪しについては細かい突っ込みはしたくないのだが、フェラーズに関しては翻訳者について言いたい
「蠅」は古いポケミスで出てはいたが評判が悪かった
英文は苦手なので分からないが、どうも原著独特のユーモアが上手く表現されてなかったようで、早川文庫での長野きよみの新訳で面目一新したという評論家の指摘もあった
私も同感で、旧訳は読んでないので分からないが、新訳を読むとなかなか良い作品だと思う
少なくとも戦後のフェラーズがトビー&ジョージものを捨て去り、サスペンス風本格に転向したのは正しい判断だったと思う
トビー&ジョージものは私が中村有希の訳が苦手なのもあるが、フェラーズの本質自体がサスペンスものの方に合っている気がするんだよな
トビー&ジョージもののトリッキーな部分ばかり褒める人は、「蠅」に関しては概ね評価が低い傾向があるが不当な評価であると言えよう

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