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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.620 6点 ベルリンは晴れているか
深緑野分
(2020/09/16 15:13登録)
人間ドラマ付き歴史ミステリ超大作

「・・・1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ米ソ英仏の4カ国統治下におかれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅立つ。しかしなぜか陽気な泥棒を道連れにする羽目になり―ふたりはそれぞれの思惑を胸に、荒廃した街を歩きはじめる。・・・」(ブックデータベースより)

被害者の甥を捜索する現在パートと、戦時中の幕間パートとが交互に語られ、それらがミステリ的にうまくつながってゆく。
幕間Ⅲの終盤(たぶん2/3~3/4あたり)はクライマックスだろう。このあたりで現在パートにつながりそうで、なんとなく読めてきてもいいはずだが、真相まではたどり着けなかった。
真相の開示場面はあっけないが、最後の最後におまけもあるので、まずまずのサプライズ感あり、というところだろう。
種々の書評を見るとミステリとして弱いという意見もあるが、上等ではないか。
またミステリ要素を持ち込んだのが失敗、という直木賞の選評もあったが、はたしてそうなのか。ミステリファンとしては反論したい。

物語の進行とともに少女、アウグステの思いがじわじわ、じわじわと伝わってくるのには快感を覚える。
徐々に、徐々に盛り上がってくる高揚感は、じつに気持ちいい。
これは人物描写のせいだろうか、構成(テクニック)によるものだろうか。

ミステリ要素はよし、文章もよし、登場人物もよし、テーマもよし、テクニックもよし。
著者の取材力への努力もすごいはず。これにも敬服したい。

(さんざん褒めまくりましたが・・・)

でも、ちょっとだけ物足らない気もする。
わずか2日のできごとなのにスピード感がないからか。
それとも真相が気に入らないからか(あの真相は大好きなはずなのだが)。
とにかく理由はよくわからないが、不満はあり。

本作は直木賞の候補作となった。そのとき受賞したのは真藤順丈氏の『宝島』。
両方とも戦争が背景にある大河小説で、共通する部分はある。
どちらがいいか。個人的には、『宝島』かな。


No.619 8点 ボッコちゃん
星新一
(2020/09/02 17:54登録)
10年ほど前に表題作と『親善キッス』は本屋で立ち読みしたが、それ以外はほんとうに、ほんとうに久しぶりの再読である。

マイベストは、古い記憶にもとづけば、『親善キッス』『暑さ』『ボッコちゃん』の3作だったが、今回の再読では、これら以外に、『マネーエイジ』『雄大な計画』『ゆきとどいた生活』もランクインした。いやあ、もっとあるかも。
とにかく、もうひとつだなと思うような作品がわずかしかない。

ほとんどの作品にミステリー的なオチがあることが特徴。
少年時代に、SFとしてよりも、どんでん返し付きショート・ミステリーとして楽しんでいたことが思い出される。


No.618 6点 老ヴォールの惑星
小川一水
(2020/08/24 17:18登録)
本著者の初期短編集。4編収録。
なんらかの共通テーマがあると思っていたが、何もない。みな全く異なるところが面白い。

『ギャルナフカの迷宮』と最後の『漂った男』は人間が主人公で、読みやすい。いずれも時間軸は長い。
前者は投獄地での話。まあSF設定の島流しモノのようなものか。ハッピーエンドというか、あまりにもきれいにカッコよく作られたラストなので、個人的には興ざめ感あり。でも中途はよかった。5点ぐらい。
後者は、これもある意味、島流しのようなものか。よくがんばった、という感じか。映画『オデッセイ』が連想される。これは6点。

『老ヴォールの惑星』と『幸せになる箱庭』はいずれも宇宙モノ。ハードSFと呼んでもいいかも。これらは時間軸がさらに長い。
前者は、とにかく壮大でロマンあふれる超大作(中編ではあるが)。こんな発想ができることに驚かされる。ただ、『ギャルナフカの迷宮』の後の2編目だったせいで、そのギャップからか、登場人物が変転していくせいか、内容や設定がすぐには頭に入って来ず、結局2度読みした。でもこれは貴重な作品。6.5点。
後者は前者と同様、知的生命体が登場するし、人類も登場する作品。読み始めから期待は膨らんでいったが、イマイチ乗り切れなかった。4.5点。

全体としては、きれいにまとめすぎるところが大いに気になる。やはり、ミステリーファンだから、ちょっとひねったラストを期待してしまう。
個人的には、国内SFでは、星新一や小松左京、筒井康隆ぐらいしか読んだことがなく、SF慣れしていないため、もうちょっと、どんでん返しのようなものがあればなぁ、と思ってしまった。
きれいにまとめるのがこの著者の特徴なのだろうか。

めずらしい作品を読めたという喜びはある。そういう意味では7,8点級。
でも本サイトはミステリーサイトなので、点数としてはこんなところか。


No.617 6点 地球から来た男
星新一
(2020/07/27 11:27登録)
著者お得意のショート・ショート集。全17作。
ボッコちゃんなどにくらべれば、かなり長め。どの作品も20ページもある。

主人公の男たちは超常現象を体験し、中途では良い思いをするが、最後には・・・。
みなこのパターンかと思っていたら、すこし違うようなものもある。
でも、なんとなく似通っている。
しかもラストの驚愕度は、それほどでもない。
いろんな点でボッコちゃんとは異なる。

いままで読んできた中では、やや落ちるかな、という感じでしょうか。
子どものころ以来の星作品なので、ほかの作品集も、今読めばこんな感覚なのかもしれません。


No.616 6点 空白の時
エド・マクベイン
(2020/07/06 10:19登録)
87分署シリーズ、中編3編物。
黒澤の『天国と地獄』のアイデアが、本シリーズの『キングの身代金』にあることぐらいは知っていたが、本シリーズも本著者も読むのは初めてです。
手始めにまずは中短編から。

それぞれの作品にはスティーブ・キャレラ、マイヤー・マイヤー、コットン・ホース・・・などの刑事たちが登場します。
ただ、87分署の刑事たちがひっきりなしに登場し、刑事ごとに場面が変わり捜査をする、といったキャラの目立たない警察組織物の代表格なのかと想像していましたが、予想に反し、中編集ということもあって、それほど警察臭は感じませんでした。

特に3作目の『雪山の殺人』は、ただ一人の87分署の刑事・ホースが休暇中、スキー場で巻き込まれ探偵のように活躍するというスタイルなので、これはまったくの想定外でした。もしかして本作は番外編的な位置づけなのでしょうか?
この作品でホースがまさに事件に遭遇する場面はサスペンスがたっぷりです。この冒頭部分には魅かれました。

<他2作品>
『空白の時』 アパートでの若い女性の謎の死。これに最後まで引っ張られる。全体の構図、構成は悪くない。
『J』 ダイイングメッセージ物。超本格、ということは絶対にない。まずまずか、いやイマイチかな。


No.615 5点 シバ 謀略の神殿
ジャック・ヒギンズ
(2020/06/19 10:08登録)
第二次大戦前夜、アラビア半島を舞台にした冒険大活劇。
冒頭、ヒトラーが登場し、どんな話になるのかと期待は膨らんだが、ミステリー的な捻りがほとんどなくシンプルでお手軽なストーリーだった。
逃走、追跡場面は結構楽しめたが、お宝さがしみたいなのがないのは残念だった。シバの女王の神殿なんだから、そのぐらいあってもよさそうなのに。
映像化しても、インディージョーンズみたいにはならないだろうなぁ。

でも、軽く読めるのは本当にすばらしい。
それと、考古学者が主人公であるのもいい。学者がスーパーヒーローという、いかにも欧米の冒険モノという感じがして個人的には好き。


No.614 6点 深夜プラス1
ギャビン・ライアル
(2020/05/30 19:43登録)
名作といわれる作品なのでぜひ読んでおきたいと手にとったが・・・

筋が単純という評が多く、シンプルすぎるロードノベルを想像していたが、予想以上にプロットに変化があった。
単純なストーリーにも飽きさせない工夫が凝らしてある。
でも真相は読まなくてもわかるレベルかもしれない。

それと、主人公たち2人の男、ケインとハーヴェイの生きざまにファンは魅かれるのだろうと想像できる。たしかにケインの戦いが終わって吐く言葉は重みがある。
ただ彼ら以外の人物たちが、あまりにもパッとしない。

冒険小説なのに株の話が出てくるのもちょっと意外だった。
社会派冒険小説。いや「会社派」といったほうがいいか。
このアンマッチな感覚が読みづらくさせ停滞しがちであった。でも、何度も読めばだんだん気に入ってくるような気もする。噛めば噛むほどといった感じか。
とりあえず初読では後半の銃撃戦がいちばん楽しめた。


在宅が多くなって、ひそかな楽しみである移動時間での読書が減ってしまった。


No.613 7点 鬼畜 松本清張映画化作品集2
松本清張
(2020/04/25 18:54登録)
双葉文庫版の清張短編集。映画化作品を集めたらしい。
目次を見たら、新潮文庫の短編集「黒い画集」「張込み」「共犯者」からピックアップした寄せ集め集だった。
『潜在光景』『共犯者』は「共犯者」に所収。
『顔』『鬼畜』は「張込み」に所収。
『寒流』は「黒い画集」に所収。
『潜在光景』『共犯者』は未読だった。『寒流』は内容を覚えていなかったので再読。『顔』『鬼畜』は記憶がしっかりと残っているので再読せず。

潜在光景・・・最後のオチは、タイトルや途中の回想で想像できそう。でもページを繰る手は止まらなかった。
顔・・・なんでそんな行動をとるの、とハラハラドキドキ。なぜか主人公の肩を持ってしまう。それだけ夢中になれる作品。
鬼畜・・・おそろしいとしか言いようがない。ふつうの小市民なんだけどなぁ。貧しさゆえか?
寒流・・・気の毒すぎる。なんでそこまで主人公をいじめるの、清張さん。最後の一発逆転はあるのか?
共犯者・・・犯罪者は繊細さが必要だが、すぎるのはダメ。もっと堂々としてなきゃ。それと、そもそも共犯は絶対ダメ。馬鹿げてはいるけどおもしろい。

本短編集にかぎらず、多くの清張短編の根底には、人の心の奥底に潜む欲望や悪意がある。
小市民だろうが善人だろうが、清張にかかればみな、狡くて気が小さいコメディリリーフ(それでいて主人公)を演じさせられる。
さらに本短編集作品の主人公たちは、悲惨な末路が待ち受けている。


No.612 7点 張込み
松本清張
(2020/04/20 14:08登録)
清張の短編には、犯罪ものや、主人公の転落を描いたものが多く、本短編集では『顔』や『鬼畜』、『カルネアデスの舟板』などはそれに当たる。
ただ本短編集には、『張込み』や『声』のように刑事が活躍するものもあれば、社会派の『投影』も含まれている。
前者(犯罪ものなど)のほうが清張らしさがあって面白さも格別だが、立て続けに読むと辟易としてくるから、本短編集はちょうどいい塩梅である。

個人的には、前者では『カルネアデス』、後者では『声』が好みだ。とはいえ他が悪いわけではない。『張込み』、『投影』もかなりいい。
その他『地方紙を買う女』、『一年半待て』(これらも捨てがたい)を含み、全8編。

長編では社会派ミステリーが目立つが、長編でも上記傾向は変わらない。
刑事ものの『点と線』は2回読んでも好きにはなれなかったが、短編では『声』や『張込み』などの刑事ものが好みなのは我ながら意外な感じがする。
『点と線』は、社会派であり本格物でもあるので、本来好みのはず。もう一度読めば好きになるのかもしれない。


No.611 7点 野望のラビリンス
藤田宜永
(2020/04/07 13:53登録)
のちに恋愛小説家に転向した直木賞作家、藤田宜永氏のデビュー作です。
この鈴切信吾シリーズは残念ながら、本作と次作の『標的の向こう側』の2作で終わっています。彼の作品にはフランスでの経験を生かしたものが多く、本シリーズ作品もその代表的な作品といえるでしょう。

「フランス国籍を持ち、パリに住む邦人探偵・鈴切信吾。ある日、彼のもとへ奇妙な依頼が舞いこんだ―「猫を探して頂きたいのです」。だが彼を待っていたのは、猫を預かったまま失踪した男の死体であった。一体誰が、何のために。男の過去を手繰る他はなかった。男娼がいた。画廊の経営者夫妻がいた。淫売とヒモがいた。やがて鈴切は第二の殺人事件の渦中に巻きこまれ、そしてパリの裏街に潜む深遠なる情念の迷宮の只中にいるのを知った―。爛熟の都を舞台に綴る本格ハードボイルド。」(BOOKデータベースより)

ハードボイルド小説として雰囲気や語りを楽しむといった感じはあまりなく、フランスらしさもそれほどではないが、エンターテインメント作品としての価値は高いように思う。
事件にはいろいろな背景があり、やや駆け足気味に話しは進むが、その分場面に変化とスピード感があり、読者を飽きさせることはない。

読者が謎解きに参加できる本格ミステリーとはいえないものの、多くの謎があり、ミステリーとしてのオチに工夫もあり、個人的にはお気に入りの作品です。
ただ、久しぶりの再読では、先日読んだ『さもなくば友を』よりも、お気に入り度はやや落ちるかもしれません。


No.610 5点 愛ある追跡
藤田宜永
(2020/03/27 13:07登録)
獣医の岩佐一郎が殺人の容疑をかけられた我が娘を追う追跡ミステリー。
娘は国内を転々とし逃避行を続ける。父親は娘のうわさを聞き出没先に出向く。さらにその父親を刑事が執拗に追う。
娘の出没先ごとにその地方の人物が登場し、そこで彼らと一郎とのドラマが生まれる。そこには刑事も絡んでくる。まるで、連続ドラマの『逃亡者』のような連作短編ストーリーだった。

章ごとの登場人物たちは、事件にどのように関係してくるのだろうか、それとも単なるゲスト的な登場なのだろうか。各章(地方)の物語はスリルもあって期待は膨らんでいくが・・・

章ごとに動物がらみの場面があり、一郎が職業を生かして活躍する。そこはおもしろかったが・・・
でもミステリーとは言いがたい。終わり方は異常。
父と娘の親子愛の物語だったのか・・・
解説には、探偵・竹花シリーズにつながる人探し小説とあるが、シリーズ的につながっているわけではないだろう。

ストーリーはミステリーという語句とはアンマッチ、タイトルともアンマッチ。
旅情なんてほとんどないが、ジャンル的にはトラベルミステリーか。これもアンマッチかな。


No.609 5点 影の探偵
藤田宜永
(2020/03/19 09:47登録)
女探偵、唐渡美知子と、謎の探偵、影乃とが、美知子自身に対する狙撃をきっかけに、その事件や殺人事件を追う。
唐渡が主人公で、影乃が準主人公で主人公を支える片腕なのかと思っていたが、読み進むうちに、じつは違うことがわかってきた。タイトルをまともに見ていなかったようだ。

最初のうちは本格ミステリーかと思っていた。
謎が深まるにつれ登場人物が増え、本格性が薄れ、アクション場面が増え、ふつうのハードボイルド・ミステリーになってくる。
序盤に名前だけが登場する怪しき人物が、どんなに待ってもなかなか出てこない。このあたりは謎めいてうまいが、中盤ごろから、ワルらしき人物が多く登場し、宝探し的な要素も出てきて、ドタバタしてくる。
事件の背景が意外に凄いのには驚かされる反面、期待外れな面もあった。

プロットは凝っているともいえるが、ごちゃごちゃしすぎの感もあり、評価は、中の中ぐらいか。


No.608 7点 さもなくば友を
藤田宜永
(2020/03/09 10:20登録)
これぞ、本場フランスを舞台にした本物のノワール物。
本場といっても著者は日本人だが。

主人公は外人部隊出身で、インドシナ戦争経験者。物語にはそんな歴史的背景も関係する。
前半はギャングの仲間集めと、黄金の仏像の強奪。
ここまででも十分に楽しめるが、強奪後の後半こそノワールまっしぐら。
男の友情、裏切り、そして復讐。
わずかに色恋も絡む。

仲間集めの場面は七人の侍や荒野の七人を連想し、強奪のためのカジノ侵入の場面ではミッションインポッシブルが思い浮かぶ。黄金の仏像はマルタの鷹っぽくもある。
そして復讐場面は、健さんの唐獅子牡丹(昭和残侠伝)のラストの殴り込みって感じか。
小説や映画なんてその多くが、古典や名作からヒントを得ていることを想像できる。
本当にヒントにしたかどうかはわからない。藤田氏にたずねてみたいがもう聞けない。残念です。

かつては、ハードボイルド・鈴切信吾シリーズが好みだったが、歳のせいか、いまでは、本作のほうが合っているような気がする。
犯罪モノやノワール物は今まであまり読まなかったが、今回はかなり楽しめた。


No.607 6点 帽子屋の休暇
ピーター・ラヴゼイ
(2020/02/19 11:13登録)
クリッブ部長刑事&サッカレイ巡査シリーズ第4作。
彼らが捜査するのは、海水浴場ブライトンで起こる、とある家族に関連した殺人事件。
といっても、殺人事件も彼らの登場も中盤あたりの2部からで、それまでの1部は、モスクロップという変わったおじさんによるリゾート地での人間ウォッチング(ようするに覗き)の描写に終始している。
なにか起きるか、だれが殺されるのかを1部でミステリー的に惹きつけておいて、じつは人間観察のみ、という作りはなかなかうまいやり方です。しかも、避暑地の描写にも引きこまれてしまいます。この1部はちょっと長すぎますが、退屈することはありません。もちろん1部にも、いろいろな要素が含まれていることは言うまでもありません。

そして2部からが本番。
じつは、事件も捜査・謎解きも2段階あり、そこが二度おいしいところです。
特に2つ目の事件は、やや不明感があるも、度肝を抜かれる展開に驚かされます。クリップの迫力のある謎解きが読みどころでしょう。専門的ではありましたが・・・


No.606 5点 ピーター卿の事件簿
ドロシー・L・セイヤーズ
(2020/02/03 11:24登録)
ピーター卿シリーズの7中短編が収録してある。

いずれも奇想な流れで後半まで引っ張り、最後に一気に本格ミステリー化する。
これは短編ミステリーとしてうまい手である。
でも奇想なわりに話が種々変化しながら進むわけではないし、凄いと感心するほどの結末であるとも感じられない。悪くはなかったが・・・

セイヤーズは、正真正銘のお初。
短編好きなので、まず短編から試したいと思い手を出したが、これを機にいざ長編へ、とはいかないのかな。
とはいえ、みなさんの熱のこもった書評を前にすると、長編も読みたくはなる。
でも、評者の方々の間で、作品ごとに評価が分かれているのを見ると、好みの問題とはいえ、それはそれで気にはなる。
それに、人気作『学寮祭の夜』が分厚すぎる。これがいちばん気になる(笑)。


No.605 6点 エンジェル家の殺人
ロジャー・スカーレット
(2020/01/27 10:18登録)
江戸川乱歩が絶賛し翻案までした作品。
館も、密室も、遺言も、登場人物の構成や人間関係もよい。
雰囲気は、もっとおどろおどろしくしてもよかったのではとも思うが、まずまず良好である。

乱歩はよほど気に入ったのだろう。
個人的にも嗜好のど真ん中である。
図面がたっぷりあるのもよい。
推理小説を文学と捉えたいためか、図面を嫌うミステリーファンはいるが、この種の本格ミステリーには図面は必須である。
文章と図面とで読者に謎解きさせるようにしたことは、推理作家として好ましいかぎりである。

トリックは、当時としては、かなりすぐれたものではなかったのだろうかと思う。
動機は普通に見えて意外性があり、これもよい。
それに、馬鹿げた遺言が本格ミステリーにマッチしすぎているのがよかった。
とにかくアイデア的には抜群である。
物語性も悪くはない。
ただ、ミステリーとして不備なくまとめ上げたかというと、力出し切れず感があり、そこが残念なところ。


No.604 7点 二人のウィリング
ヘレン・マクロイ
(2020/01/14 10:43登録)
ベイジル・ウィリングシリーズ第9作。

適度に芝居じみた派手さはあるも、派手さだけではなく、大人好みのスマートな作品でもある。
そして読みやすくもある。
最初に多くの人物を集めて登場させておいて、普通ならわかりにくくなるところを、その後数人ずつ小出しにていねいに描写してくれるので、とても読みやすい。翻訳物を読み慣れない国内ミステリーファンに親切な海外ミステリーといったところだろう。
作者自身のセンスと特徴によるものなのだろうが、当然に訳者も一役買っているはず。

最後に明かされる真相は衝撃的、というよりも、そんなのでいいの?と、呆れるレベルなのかもしれない。
ということで、ラストにより評価を下げてしまいそうだが、導入部や中途の展開、それに伏線の回収が巧いので、文句の付けようなし、といったところか。

『幽霊の2/3』とくらべれば、ミステリー面では本作のほうがやや落ちるかもしれないが、どれだけ記憶に残るかという点をかんがみれば、本作が上だろう。
ということで総合的には互角か。


No.603 4点 絞首台の謎
ジョン・ディクスン・カー
(2019/12/27 13:18登録)
霧の中の絞首台の影や、喉をかき切られた死者が運転するリムジン、と怪奇趣味は映像的で、至極よい。
フーダニットはまずまず。トリックはいまひとつ。
それに物語の流れもいまひとつで、パッとしない。
結局、雰囲気だけが飛び抜けてよく、その他はイマイチで、総合的評価は低い。

ところで、カーをWikipediaで確認すると、1906年生まれと、クリスティやクイーン(二人)より遅い生まれであることにびっくり。
国内ミステリーのほうが好きなので国内作家と比較するが、生年は横溝(1902年)と松本清張(1909年)の間なのだ。彼らより、10年か20年は上だと思っていた。
とても古くさく感じていたのは、雰囲気によるものだったのか?
それに若書きでもあったのだ。

評者自身の認識は誤っていたけど、だからといって本作の評価は変わらない。
やはり、イマイチ(4点)であることにはちがいない。

映像的と評したが、いまの時代なら、映画、テレビに引っ張りだこの作品になってたかも。惜しいなぁ。
そういう意味では、古くさいというより、むしろ現代的なのか?


No.602 7点 おまえの罪を自白しろ
真保裕一
(2019/12/18 10:13登録)
タイムリミット誘拐サスペンス。

衆議院議員の宇田清治郎の孫娘(長女の娘)が誘拐され、犯人より、時限内にタイトルどおりの会見を行うことの要求をつきつけられる。
種々の疑惑(最近国内で似たようなのがあったような?)が俎上に上げられ、宇田やその家族たちは、対応すべく他の政治家たちと対峙し駆け引きが始まる。自分に害が及ぶのを恐れる政治家たちは逃げ腰気味になる。
宇田と政治家たちとの会話は、表面上、いちおうオブラートに包まれているが、地の文では内なる言葉で、本音に翻訳される。これがまず楽しめるところ。

宇田には3人の子供がいる。
次男で宇田の秘書の晧司は宇田とともに動き回るが、後半にいたるまで際立った変化を起こしてくれない。
警察は影が薄いし、犯人側も顔が見えない。
身代金の受け渡しがないから、緊迫したサスペンス感もあまりない。
こんな感じで8割ほどまでは、伏線を盛り込んであるも、宇田一族中心の平板な流れになっている。
そして怒涛の残りの2割へ突入する。最後の最後まで見せてくれる次男の活躍。

全体としてやや粗っぽさはあるも、社会、政治ネタを、時流に遅れないよう、タイムリーにうまくまとめてある。
後半の2割ほどは、うねりがあってほんとうに楽しめた。

実際にこんな事件が起きれば、当事者や周辺の政治家たちはどんな態度をとるのだろうか。
人一人の命が関わりつつも、自分自身の政治家生命が危機にさらされるかもしれないわけだから、簡単には行動も言動もとれないだろう。
政治家には究極の危機管理対策が必要ということかな。


No.601 6点 恋はフェニックス~湘南探偵物語~
喜多嶋隆
(2019/12/06 13:54登録)
舞台は湘南。時代は1994年頃か。
主人公は、湘南出身で留学経験がある、万里村桂。
おじいちゃん子、26歳。
特技は柔道。
愛車は、スカイラインGT-R。
既読の喜多嶋作品は2つともハワイが舞台だったが、今作は国内。なので、なぜか少し安心感がある。
でも、駐留米軍の依頼を受けて、事件を捜査するところは、かなり似ている。
シリーズ化されているようだ。

米軍の一人が海でウインドサーフィン中に謎の死を遂げる。
事故死なのか、自殺なのか、殺人なのか。
もしかして犯人当てモノなのか、と期待する面もあったが、果たして・・・・
ミステリーとしてすこしの工夫はあるが、まあ期待どおり?のアクション付きの超軽ハードボイルド、私立探偵もどき作品だった。
でもけっこう楽しめた。

本作にも、ちょっと懐かしいシンガーが登場する。
ダイアナ・ロス、ミニー・リパートン、リチャード・マークス、ドリー・パートン、アトランティック・スター、グレン・キャンベル(恋はフェニックス)。ほかにもいたかも。
じつは4人しか知らない。
それと、推理作家のスー・グラフトンというのを発見。
本サイトでも、わずかながら書評登録があるようだ。

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