ベルリンは晴れているか |
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作家 | 深緑野分 |
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出版日 | 2018年09月 |
平均点 | 7.12点 |
書評数 | 8人 |
No.8 | 6点 | よん | |
(2024/05/07 16:10登録) 一九四五年、ドイツの降伏によって連合国の統治下に置かれたベルリンにて、十七歳のドイツ少女・アウグステは謎の事件に巻き込まれる。被害者の死を彼の甥に告げるべく、様々な過去を背負った人々と旅をする主人公。 過去と現在を行き来する構成によって骨太に織りなされるロードノベルにしてミステリ、そして戦争によって暴かれる人間の生きざまを直視した普遍性のある歴史小説である。 |
No.7 | 8点 | 麝香福郎 | |
(2023/04/04 22:29登録) 舞台は一九四五年のベルリン。米ソ英仏連合軍が占領し、七月のポツダム会談に入る直前、奇妙な殺人事件が起きる。 主人公アウグステは、米軍食堂に勤務する地味で実直なドイツ少女。ただし、ソ連軍の凄惨な略奪と暴行行為に巻き込まれ、傷つけられた過去がある。親類縁者もなく孤立無援の状況で、ソ連当局から恩人が殺されたことを告げられ、命じられるまま犯人と思しき被害者の甥を探すため、ベルリン近郊のバーベルスベルクへ赴く。 本書では、殺人という非日常的な出来事が、大量殺戮を背景にした戦争という非常事態の中で吟味される。もちろんそれは、ナチの人種政策や連合軍人の得体の知れなさ、生き延びるため裏切りや騙しなどが日常茶飯事になった同国人らの鬱屈を背景に、ファシズムの台頭と人間性の崩壊を抉り出すことに他ならない。同時に、それは密告と同調圧力の世界で、隣人を告発しない善良な人々や、ファシズムを止められなかった大衆が、転換する世界でどう行動するかも描き切っている。読み終えて、緩やかに価値の転換期を迎えている現代日本の姿を連想せざるを得なかった。 |
No.6 | 7点 | 猫サーカス | |
(2022/07/18 18:25登録) 第二次大戦下のドイツ、つまり「ナチスの時代」をテーマにしたミステリ。戦中戦後の荒廃したベルリンの市街と、そこで必死に生き抜く人々の描写に圧倒的な迫力と臨場感がある。クリストフ殺害の容疑者としてソ連のNKVDの取り調べを受けたアウグステは、捜査を担当する大尉の命令で行方不明になった被害者の甥を捜すことになる。なぜか陽気な泥棒男を道連れに瓦礫の街を奔走する彼女の前に、次々に危険で困難な壁が立ちふさがる。この作品の主たるテーマが、孤独な少女の人捜しと殺人事件の謎の解明にあることは確かだが、読みどころはそれだけにとどまらない。NKVDの大尉はなぜ彼女に人捜しを命じたのか、陽気な泥棒男の正体は何者か、そもそもクリストフは本当に殺されたのか。様々な謎が複雑に交錯して、物語の興趣は最後まで尽きることがない。 |
No.5 | 7点 | ʖˋ ၊၂ ਡ | |
(2022/07/01 14:12登録) ドイツ少女の見た世界の残酷さ、赤軍兵に蹂躙される祖国。連合軍も決して味方ではない。戦中はナチスに両親や大事な家族を奪われ、ただ生きるために必死に駆け抜けて、やっと戦争が終わったと思っても、まだ誰にも救いは訪れない。 あの時代に生まれ、あの国に生まれ、どう生きるのが正解だったのか、何が正義で何が悪なのか、簡単に出せない問いを突き付けられる。 ものすごく凄惨で重いテーマなのに、エーリヒを訪ねるカフカとの旅はユーモラスだし、主人公アウグステをはじめ登場人物が一人一人生き生きとして悪役ですら魅力的。読後感もなぜだかすがすがしい。 |
No.4 | 6点 | 臣 | |
(2020/09/16 15:13登録) 人間ドラマ付き歴史ミステリ超大作 「・・・1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ米ソ英仏の4カ国統治下におかれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅立つ。しかしなぜか陽気な泥棒を道連れにする羽目になり―ふたりはそれぞれの思惑を胸に、荒廃した街を歩きはじめる。・・・」(ブックデータベースより) 被害者の甥を捜索する現在パートと、戦時中の幕間パートとが交互に語られ、それらがミステリ的にうまくつながってゆく。 幕間Ⅲの終盤(たぶん2/3~3/4あたり)はクライマックスだろう。このあたりで現在パートにつながりそうで、なんとなく読めてきてもいいはずだが、真相まではたどり着けなかった。 真相の開示場面はあっけないが、最後の最後におまけもあるので、まずまずのサプライズ感あり、というところだろう。 種々の書評を見るとミステリとして弱いという意見もあるが、上等ではないか。 またミステリ要素を持ち込んだのが失敗、という直木賞の選評もあったが、はたしてそうなのか。ミステリファンとしては反論したい。 物語の進行とともに少女、アウグステの思いがじわじわ、じわじわと伝わってくるのには快感を覚える。 徐々に、徐々に盛り上がってくる高揚感は、じつに気持ちいい。 これは人物描写のせいだろうか、構成(テクニック)によるものだろうか。 ミステリ要素はよし、文章もよし、登場人物もよし、テーマもよし、テクニックもよし。 著者の取材力への努力もすごいはず。これにも敬服したい。 (さんざん褒めまくりましたが・・・) でも、ちょっとだけ物足らない気もする。 わずか2日のできごとなのにスピード感がないからか。 それとも真相が気に入らないからか(あの真相は大好きなはずなのだが)。 とにかく理由はよくわからないが、不満はあり。 本作は直木賞の候補作となった。そのとき受賞したのは真藤順丈氏の『宝島』。 両方とも戦争が背景にある大河小説で、共通する部分はある。 どちらがいいか。個人的には、『宝島』かな。 |
No.3 | 7点 | 八二一 | |
(2020/09/03 18:24登録) 少女と泥棒コンビの冒険に寄り添いながら、戦争によって傷ついた都市の姿を伝えてくれる。 |
No.2 | 6点 | びーじぇー | |
(2019/09/09 18:07登録) アウグステとカフカのロードムービー的な冒険が描かれる現在パートと並行して進むのは、アウグステの生い立ちや、ドイツが破局へと突き進んでいく過程を描いた過去パート。著者の「戦場のコックたち」が直木賞候補となった際、選評では「なぜアメリカ軍の兵士の物語を書かなければならないのか」という点で評価が分かれたようだが、当時の日本にとって敵国であったアメリカの兵士を、読者の共感を呼ぶように描くことで、対立する側にもそれぞれの人生があり論理があることを浮かび上がらせるのが著者の手法。本書においても、ドイツの人々がナチスを支持し、ユダヤ人迫害を黙認する過程のリアルな描写が、当時の日本でも起きていたことを類推させ、ひいては現代日本の世相のきな臭さへの警鐘となっている。 「戦場のコックたち」への直木賞での選評ではミステリ的な弱さを指摘されたが、むしろ本書の方がその点は引っかかった。クリストフ毒死の真相が明かされてから再読すると、ある人物の心理描写が不自然に感じる。しかし、本書のミステリとしての読みどころはそこではなく、アウグステとカフカに託された任務に秘められた目論見、そして二人の思惑が明かされてゆく過程であると見るべきでしょう。 アウグステもカフカも、罪のない人間とは言い難い、それは戦争という極限状況に置かれた人間の大半が犯すかもしれない罪であり、やむを得ないという見方もあるでしょう。安易なハッピーエンドにはせず、それでいて救いを感じさせる結末は見事。 |
No.1 | 10点 | sophia | |
(2019/03/23 17:16登録) ネタバレあり 「戦場のコックたち」で圧倒された緻密な描写はこの作品でも健在です。さらに「戦場のコックたち」は兵隊目線でしたが、今回は市民目線での戦争+ミステリー小説です。日本人がこれを書けるのは本当にすごい。しかもこういう雰囲気の作品にこの手のトリックを仕込んでくるとは。 現在パートと過去パートが最後につながって終わりますが、その交点の置き方もいい。ラストシーンは希望を感じさせるものでしたが、そこは現在パートではなく過去パートであることを強く意識しなければなりません。現在パートである人物に指摘されたアウグステの「老人のような目」が俄然意味を持ってくるからです。それは戦争というものの深い罪を表すにこの上なく効果的でしょう。本屋大賞にノミネートされていますが、ミステリー好きのみならず多くの人に読まれることを願います。 |