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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.180 6点 第三の男
グレアム・グリーン
(2010/11/16 09:37登録)
著者自身の序文によれば、本書は読んでもらうためではなく、見てもらうために書いたとあります。いきなり脚本を書くのではなく、あくまでも原作小説を書くところがグリーン流なのでしょう。

主人公のロロ・マーティンズは友人のハリー・ライムに招かれて第2次大戦終結後のウィーンにやってきたが、そのときすでにハリーは死んでいた。
この衝撃的な冒頭シーンから始まるスリラーは映画と同様、終始、謎とサスペンスに満ち満ちています。映画向けなせいか、余分な贅肉はついておらず、映画そのものといった感じです。
脚本みたいなものだから当然、原作にも映画で有名な大観覧車の中の再会シーンや、下水道の中の追跡シーンがあります。でも名場面であるラストは映画とはまるで違っていて、グリーン本人も認めるように映画のほうが断然決まっています。原作では綺麗にまとめようとしすぎたみたいです。
映画との合わせ技なら7,8点ですが、原作だけなら点数はこんなところです。


No.179 6点 まほろ市の殺人 夏
我孫子武丸
(2010/11/12 13:22登録)
先の展開が気になってあっという間に読めました。抜群のストーリーテリングです。ホラー的な味付けは悪くはありませんが、結末にはやや不満が残りました。

それよりも驚いたのは、前半のある箇所で読み間違い(勘違い)をしていて、その勘違いが真相に似ていたこと。その箇所を読み返してみると特にミスリードとかいうものではなく、たんに正確に読んでいなかっただけでした。作者の潜在意識が伝わってきたのでしょうか。


No.178 5点 まほろ市の殺人 春
倉知淳
(2010/11/12 13:14登録)
なかなかいいんじゃないですか。中編本格で、しかも青春ユーモア推理なんだから、このぐらいアホらしい真相(トリック)のほうが楽しめます。伏線の散りばめかたもよかったし、中途の推理合戦もよかったし、読みやすいし、なんといっても短いのがよかった。馬鹿げた内容ながらも上手くまとまっていたと思います。特に大きな非はなかったですね。


No.177 7点 無実はさいなむ
アガサ・クリスティー
(2010/11/05 13:17登録)
キャルガリがジャッコの無実を家族に伝える冒頭の引き込みの上手さもさることながら、そのことで家族たちが疑心暗鬼におちいっていく様は実にうまく描かれています。冤罪がテーマなだけに、全体として地味でサスペンスも少なく、謎解き自体も物足りませんが、それを感じさせない上質な作品だと思います。
初読のときは、その暗さで不覚にも居眠りしてしまった映画化作品「ドーバー海峡殺人事件」に引きずられて、凡作の印象しか残りませんでしたが、今回の再読では、予想に反して素晴らしい作品であるとの印象を受けました。再読せずに記憶だけで評していたら、たぶん4、5点だったでしょう。

巻末の濱中利信氏の解説では、複数視点のことをとやかく指摘していますが、それなら「そして誰もいなくなった」だってそうですし、これこそがクリスティーのテクニックだとも思うのですが。一部の状況しか知らない探偵役が謎解きしたことについても指摘していますが、これには納得です。


No.176 7点 赤死病の館の殺人
芦辺拓
(2010/11/01 10:15登録)
「密室の鬼」を除く「赤死病の館の殺人」「疾駆するジョーカー」「深津警部の不吉な赴任」の3作品は標準以上、むしろ良質といえるでしょう。
表題作は、トリックはいくらなんでもそれはという感じもしますが、伏線はいいですね。長年ミステリを読んでいて、この伏線でピンとこないのが情けない気もしますが(笑)。
「疾駆するジョーカー」は、ストーリーもトリックも非常にシンプルで素晴らしい。
「深津警部の不吉な赴任」は話の流れがよく、ストーリーとトリックのバランスもよく、多くの人に喜ばれそうな作品だと思います。
「密室の鬼」はちょっと混乱しそうですね。自分にはあまり向いてなかったようです。

短篇好きには、この上ない作品集でした。


No.175 5点 小説新潮 2009年 5月号
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/10/27 12:42登録)
松本清張 生誕100年の特集。
清張と山崎豊子の対談、映画化コーナー、「私の発想法」、北村薫と宮部みゆきの対談、「津ノ国屋」という未発表短篇、清張45冊を小倉で1週間で読むという企画などが掲載してあります。
「津ノ国屋」は北村薫と宮部みゆきが最も気になる作品ということ。掌編ですが、たしかに清張らしい味わいを感じます。「45冊を1週間で読む」は馬鹿げてはいますが楽しめました。挑戦者が後半、音を上げてしまうのには笑えます。たしかに1週間で45冊はきついですね。
清張は新本格派世代には敬遠されがちで、このサイトでも書評はごくわずか。時代の流れなのでしょうか。周りにはまだまだファンはいるのですが。。。
なお、2009年 12月号でも清張を取り上げています(「江戸綺談 甲州霊嶽党」一挙掲載300枚)が、これは買いそびれました。


No.174 4点 犠牲者たち
ボアロー&ナルスジャック
(2010/10/27 11:50登録)
本書はいかにもフランス産の恋愛小説風サイコサスペンス・ミステリという感じで、なかなか味わい深いものがあります。
二転三転と展開してゆくストーリーと、最後に明かされる大トリックはもちろん面白いのですが、それよりも、中途で主人公の微妙な心理状態を文章で追いながら、状況変化がいつ起きるのかと待ち構えているときのドキドキ感がたまりません。これこそが心理モノの醍醐味です。
ただこの種の翻訳サスペンスは、心理状態を表情や態度でしか表現できない映像モノのほうが、さらに深みを出せるようにも思います。


No.173 6点 ミステリ読書案内
事典・ガイド
(2010/10/27 11:33登録)
1996年発行。当時のミステリ作家、総勢44名が取り上げられている。
対象作家はベテランの泡坂、志水から当時の若手の麻耶までと年齢層はそれほど広くないが、ジャンルは本格派、ハードボイルド、その他種々雑多のジャンルにわたり幅広く網羅してある。
島田荘司、東野、宮部、連城、折原、吉村、綾辻、有栖川、法月、我孫子、京極、逢坂、高村、北方、船戸、大沢、藤田宜永、小池真理子、小野不由美、恩田などが作家ごとに紹介されている。その他、浅田次郎、花村、鈴木光司など、このサイトではあまり書評のない作家たちも入っている。
対する評論家陣は、池上冬樹、縄田一男、井家上隆幸、西上心太、日下三蔵、新保博久・・・と、こちらも10名以上の顔ぶれ。
評者が多く、辛口批評がないことから、評者ごとに個別に思い入れのある作家のみを評しているとも想像できる。だから、すべてを鵜呑みにはできないが、当時としては若手、中堅の作家を知る手軽なガイドブックであったにちがいない。いま読めば、第一線で活躍中の作家たちばかりだから初心者向きとして利用できる。知らない情報も多くあり、また作品よりも作家中心に紹介、評論してくれているのが好かった。

興味深いのは、連城は恋愛物に移行したが、評者によれば恋愛物もミステリとして楽しめるということ。吉村達也は、多作なのに文章がいいらしい。創作に時間をかけないのは、マニアだけではなくみんなに読んでもらいたいからだとか(これは本人の弁らしい)。 etc


No.172 5点 約束の地
ロバート・B・パーカー
(2010/10/22 13:57登録)
「愛だ。きみたちの間には愛がある」
探偵がこんな気障なセリフを吐くミステリーはちょっと遠慮したいな、というのが率直な感想。洒落た会話とはとても言えない、歯が浮いた、虫唾が走りそうな会話ばかりで、それが鼻に付きます。洋画だったら気にならないけど活字だとイヤですね。miniさんがおっしゃるように好き嫌いは分かれるはず。いや、日本人なら嫌う人のほうが多いと思います。
それに話も出来すぎです。スペンサーと、恋人のスーザンと、依頼人の夫婦だけがなぜ、そんなに有利に事を運べるの?MWAの最優秀長編賞をとったそうですが信じられません。
主人公と恋人の日常生活を描きすぎなのも欠点かな。ミステリーにはほとんど関係ないですしね。でもおそらく、この書き方こそがこの作家の特徴(人気の秘密か?)なんでしょう。
こんな印象ですが、読みやすさだけは賞賛に値します(村上憲郎氏がパーカー作品は文章が短くわかりやすいので、原書で読んで英語を勉強せよって言ってたことが理解できます)。
かなり長いシリーズでもあるし、気になる作風でもあるので、読みやすさに免じて、もうすこし読んでみようかな。
こうやって読み続けてファンになってしまうのでしょうか(笑)。


No.171 7点 甲賀忍法帖
山田風太郎
(2010/10/18 10:14登録)
塩で体が溶け水で元に戻る忍者、なんど殺されても生き返る忍者、毒の息を吐く女忍者。滅茶苦茶ですがページを繰る手は止まらない。中盤は忍術バトルに終始していますが、全体として物語性もあります。特に、歴史的周知の事実を踏まえながらも物語としてうまくまとめたラストには感心しました。

忍者ものは活字よりも映像に限ると考えていたためか、山田風太郎の時代小説は未読でしたが、初めて読んでみるとこれが滅法面白い。忍者ものの映像化作品が少なくなった今(本書は2005年に映画化されているが)、この忍法帖シリーズは貴重な存在です。


No.170 7点 アクロイド殺し
アガサ・クリスティー
(2010/10/14 10:01登録)
このサイトを訪れるまでは、ストーリー、トリック、読後感のすべてを忘れていた。
でも、サイトの書評を斜め読みしただけで、忘れていたメインのトリックをあっという間に思い出してしまう、そんなデリケート作品である。
本書がきっかけでミステリにはまったという人は多いと思うが、私の場合、すべてが忘却の彼方というぐらいだから、もちろんそうではない。実は、サイトの評を見て代表作であることを再認識したという、実にお粗末なファンである。初読は20年以上も前だが、そのときにすでに、この大トリックの既読感があったのかもしれない。
その程度の位置付けだから読み直す必要もないんだろうけど、なんとなく読んでしまった。
再読して思うことは、歴史的価値は色あせてはいないが、後続の同種の作品によって、いまでは驚愕度が希釈されていることはまちがいない。同種のトリックが氾濫しているから初心者にしかお薦めできない。なぁ~んだ、その程度か、と感じる人もいるはず。
よかったのは、麻雀シーンと、ポアロの天才探偵ぶりと、伏線を確認しながらニヤリとする再読ならではの楽しみ方ができたこと。


No.169 5点 取調室 静かなる死闘
笹沢左保
(2010/10/04 20:19登録)
テレビでいかりや長介主演でシリーズ化されていたので、笹沢左保の後半ミステリの代表作のように思っていましたが、とんでもない勘違いでした。
アリバイ崩しものにはちがいありませんが、これはアリバイトリックとは言いません。ネタバレになるので詳しく説明しませんが、とにかくトリックに関してはひどいです。それに私でもピンときましたから、この程度のことを刑事が気付かないはずがないでしょう。しかも取調官が被疑者と対峙しながら謎を解いたわけではなく取調官自らの調査で見出せただけなので、舞台設定を取調室にすることもなかったのではと思います。
作者は取調官・水田をキャラクタとして定着させたかったのでしょうか。たしかにキャラクタとしては目新しさがあったし、キャラクタ小説としてわりに楽しめましたが。。。


No.168 6点 ニューウェイヴ・ミステリ読本
事典・ガイド
(2010/10/02 17:27登録)
新本格作家と同世代本格作家にスポットをあてた評論&ガイドブック。
作家、作品種々盛り沢山に集めてある。文字がぎっしり詰まっているので、ちょっと抵抗はあるが、すこしずつ拾い読みできるのが良い。作品ガイドも多数載せてあり、これから新本格を切り拓きたい人にはおすすめ。今後活用しようと思っている。

1997年発行とある。ミステリを休止し、新本格に特段の興味を示さなかった時期のはずだが、その頃から何故この本が積んドクされていたのか、それが最大の謎。


No.167 6点 黒猫館の殺人
綾辻行人
(2010/10/02 15:57登録)
設定や構成、プロット、トリックのすべてについて凝ってはいるのですが、見せ方が安易な気がします。だから、先の筋が読めてしまうのではないかと思います。1つわかれば芋づる式ですね。もちろん細かな伏線まではわかりませんでしたが。。。
とはいえ、やや地味めな作風と、おとなしめな舞台設定はけっこう好みなので、十分すぎるほどに楽しむことができました。


No.166 6点 黒い天使
コーネル・ウールリッチ
(2010/09/28 11:20登録)
若妻が、殺人容疑をかけられた夫を救うために素人探偵になって、危険に立ち向かいながら冒険小説の主人公のごとく動き回ります。容疑者男性ごとに章立てし、連作短篇らしく各短篇をほどよく独立させ、それぞれをサスペンスフルに仕立てています。でも、長編全体としてみればちょっと物足りない感があります。それに解説にもあるように、ご都合主義的だし、論理性も欠如しています。また、ラヴストーリーとしても不十分なのではという気がします。
いろいろと欠点ばかりを並べ立てましたが、でもなぜか魅力的な作品であることもたしかです。それは、サスペンス感たっぷりの文体によるものなのか、ちょっと寂しげな現代都会風味が感じられるからなのか、それとも女性主人公が魅力的に描かれているせいなのでしょうか。
「黒衣の花嫁」とくらべると構成は同じなのですが、あくまでも本書は若妻の視点で描いてあり、そのためストレートに女性主人公に感情移入できるようになっています。そこが「黒衣の花嫁」とはちがうところです。そのへんの作り分けは本当にうまいなぁと感心します。


No.165 7点 黒衣の花嫁
コーネル・ウールリッチ
(2010/09/28 09:58登録)
若い女が男たちを次々と殺害する怖い話です。被害者がわの視点で描かれているので、サスペンスたっぷりの作品となっています。特に第三部の「モーラン」はどんなタイミングでどんな殺られ方をするのか、背筋を震わせながら読みました。
動機ネタは知っていましたが、にもかかわらずサスペンスと、ひねりのあるラストで最後まで飽きることなく十分に楽しめました。しかも被害者ごとの各部は独立感があるものの、作りがパターン化しないよう工夫されており、各部ごとにも、もちろん長編としても楽しめる充実した作品となっています。いろいろと稚拙に感じる箇所もありますが、みな許せる範囲です。

山本周五郎が本書をもとにして書いたのが『五瓣の椿』です。筋を忘れてしまっているので比較はできませんが、こちらも秀逸な異色時代サスペンス作品でした。


No.164 4点 今夜も木枯し
風間一輝
(2010/09/24 10:30登録)
この種の国内版現代冒険小説はどうも性に合わないようだ。主人公の仙波が不法就労のタイ人ホステスを警察やヤクザから守るために逃走する、ただそれだけのストーリー。主人公は甲子園をめざしたが暴力事件で出場を断念した元高校球児。女房にも逃げられ、世の中の底辺をさまよっているような男で、仕事は百科事典の行商をやっている。そんな変わった男を主人公に据えて受けを狙ってはいるが、筋が馬鹿げていて話の中に入り込めなかった(いつもの悪い癖が出て、自分流の現実感を感じられなかっただけなのか?)。でも、ユーモアのセンスはあるし、テンポがよく痛快でもあるので(それなりに楽しんだのかも?)、かるい気持ちで読めばもっと楽しめたのかもしれない。


No.163 6点 暗闇のセレナーデ
黒川博行
(2010/09/22 12:50登録)
美和と冴子の女子大生コンビの軽妙で軽快なお笑い本格ミステリーです。
本作は、密室トリック、アリバイトリックなど十分すぎるほどの本格要素があるうえに、美術(彫刻)界という特殊な世界に焦点を絞り込み、さらに女子大生や個性的な刑事たちなど魅力的なキャラクタを多く登場させ、しかも関西風のお笑い要素でもって読みやすくしています。これだけそろえば、軽めのテレビドラマミステリであっても高評価できます。
森博嗣氏が犀川&萌絵シリーズの理系ミステリで当てたように、美和&冴子の美術ミステリとしてシリーズ化すればまちがいなくヒットしたと思うのですが。


No.162 5点 このミステリーがすごい!2010年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/09/12 18:24登録)
昨年に引き続き季節はずれな書評です。「ミステリが読みたい 2010年版」は早い時期に目を通しましたが、こちらは古本を購入し、読破。読破というほどではありませんが、「隠し玉」「私のベスト6」は夢中になって読んでしまいました。面白かったですね。ランキングの見せ方としてはあっちが上ですけど、企画ものに関しては、こちらが勝っているようです。さすが老舗です。
ガイド本で楽しめるなんてホント幸せ者です(笑)。


No.161 7点 休日の断崖
黒岩重吾
(2010/09/12 18:07登録)
「背徳のメス」の直前に直木賞候補になった作品です。
冒頭から事件発生までの導入部は秀逸です。これぞミステリ、背筋がぞくぞくしましたね。このうまさは清張作品なみ。清張だといわれれば信じたかもしれません。主人公・川草のキャラクタもハードボイルドっぽくて良い感じが出ています。
主人公の友人・十川の突然の死の謎を川草が仕事を犠牲にして追う展開。ミステリとしては、アリバイ崩しがメインで、トリックというほどのものもなく、全体として初心者向きかもしれませんが、伏線はうまいように思います。それに、女性が多く登場し、素人探偵・川草とのやりとりなど、人物がうまく描写されており、物語性とあいまって読者を引き寄せてくれます。その辺は抜群のテクニックです。
好みからいえば「背徳」よりは上、黒岩らしさからいえば「背徳」が上なのかもしれません。二作しか読んでないので、本当のらしさはわかっていないのですが。

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