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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.640 6点 蓬莱
今野敏
(2022/10/07 10:15登録)
今野敏氏が描く仮想世界、なんて勝手に想像していたが全く違っていた。
ゲームの販売をめぐる、零細ゲーム開発販売会社の社長、社員たちが謀略に立ち向かう、至極、現実的な冒険小説だった。ちょっと違うかな??
ヴァーチャルな内容がないわけではない。むしろテーマといってもよい。
中国古代史上の徐福が日本の現代史をプログラミングした、なんていう話はなかなか面白い。

キャラがまたすごい。
主人公の社長、渡瀬は意外にフツーだが、やくざにやられながら突如として変貌して、惹きつけてくれる。
その他頭脳明晰な社員や、やくざ、謎のバーテンダーなど種々登場する。
唯一スマートなのは安積警部補。いちおう神南署シリーズなのか。
さすが今野氏、登場人物についてはエンタメ小説として文句のつけようがない。

30年ほど前の小説で、フロッピーディスクやファミコンなんて語句が登場する。秒進分歩の世界なので古典を読んでいるような感覚だった。社会情勢も今とまるで違う。
当時を知る貴重な史料になるかもしれない。

リアルタイムに読んだとしても違和感を覚えただろうが、今読めば時代のずれが手伝って、ハチャメチャ感しかない。
途中、こんな本を今読んで満足のいく読後感が得られるのだろうか、と心配になったが、結果的には楽しい読書だった。単純すぎるのかなあ。


No.639 6点 テロリストのパラソル
藤原伊織
(2022/04/28 17:51登録)
元学生運動家で、現アル中バーテンダーの島村が新宿中央公園で起きた爆発事件に遭遇する。その被害者の中にかつての仲間がいた。
巻き込まれ型素人探偵ハードボイルド。

冒頭の事件はどでかいし、タイトルもたいそうだし、こういうやつの真相はきっと、と思って終盤まで読み進むと・・・
こういうところに落ち着くのか。まあ、それはそれでよし。

ミステリー性はもちろんあるが、それよりも主人公のキャラでもっている部分が大きい。主人公を取り巻く人物たちもよい。ワルはワルらしいというのもよい。
いろんな直木賞の選評を見ると、人間が描けていないという評がかならず出てくるが、本作はそうではないという典型例なのでしょうね。
個人的には、会話のテンポよさが心地よく、そこに魅かれた。


No.638 6点 太陽黒点
山田風太郎
(2022/03/16 18:00登録)
伏線はあるものの、それだけでは到底、犯人や真相には辿りつかず、謎解きミステリーという印象はまったくありません。そもそも後半にいたるまで事件らしい事件がありませんしね。
だから、最後の章の独白のような語りは、謎解き小説の真相解明というよりは、とってつけたような別物語のような感さえします。

結局のところ、物語の流れと、「死刑執行・〇カ月前」という章タイトルから想像できる結末とで楽しむサスペンス小説といってもいいでしょう。まあ、サスペンス的には十分に楽しめました。

以下ネタバレですが。

斎藤警部さんもご指摘されているように、途中までの中心人物が捨て駒だったというのは面白いところです。でもどうせなら、最後の最後まで中心人物風に描いてほしかったかな、という気がします。
なぜ中心から外れたのかな、と疑問を抱いて何度もページを行き来しながら謎解きに挑むのが、本当の謎解きミステリーの読み手なのかもしれませんが、疑問に感じただけで終わっちゃいました。


No.637 7点 いつか、虹の向こうへ
伊岡瞬
(2022/02/07 10:41登録)
ある不祥事で服役もした元刑事・尾木遼平。ボロボロのやさぐれ中年といった感じか。妻は逃げたが、売りに出す予定の家で3人の居候と奇妙な同居生活を送っている。そんなところに一人の女性(少女)が転がり込んでくる。そしてその女性がからむ殺人事件に首を突っ込む。

4,5年前から、近くの大型書店で平積みされた著者の文庫本が気になっていた。
「悪寒」「代償」「奔流の海」などのタイトルからは、ちょっと重めの、古いスタイルの社会派風推理小説を若手作家が時代に逆らって書いているんだな、と勝手に想像していたが、本書はなぜか希望のある明るめなタイトルで、内容も想像と違っていた。
しかも若手作家ではなかった。ペンネームからなぜか若い人を思い浮かべていた。

本書は横溝正史賞を獲ったデビュー作。しかもハードボイルド。その後の作品のジャンルは定かではないが、デビュー作は、ミステリー風味は控えめにして、かっこよく文章で決めてやろう、という意気込みだったのだろうか。
でも本書は、文章はハードボイルドらしくないし、作風やスタイルも全くそれらしくない。読み進みながら、なぜと思うようなところがあれば、その後何ページか、何十ページか後に、懇切ていねいに説明してくれる。このパターンが多い。実に親切なつくりである。そしてスピード感もある。
主人公の尾木は敵にやられまくるが、それでも立ち向かっていく。あまりにも熱すぎる。クールさは感じられない。このぐらいのほうが読まれるのだろう。この点もハードボイルドらしくない。

ということで本書は、読みやすく万人受けするハードボイルド風ミステリーだった。
謎や謎解きに関しては、どんでん返し(的なもの)もあり、けっこう楽しめた。


No.636 7点 夜の記憶
トマス・H・クック
(2022/01/22 20:39登録)
ミステリー作家である主人公が依頼を受けた50年前の少女殺害事件の真相の調査と、主人公の悲しい過去とが交錯しながら話が進む、陰鬱だけど、わくわくしながら読める物語だった。

素人探偵の捜査は聞き取り中心で意外に古典的。しかも女性の相棒付き。
もしかしてオーソドックスな本格推理物かと思いきや、ラストはこうきたか、という感じ。
こういう結末は予想外だったが冷静に考えれば、クックらしいとも言えるし、悪くはなかったどころか、むしろ好みだったのかも。
ただ、主人公の過去の挿入が多すぎて匂いすぎるのは欠点かな、いや長所なのかな。

本書はタイトルから、過去に読んだような気がしていたが、内容に全く覚えがなかった。気のせいだったようだ。


No.635 5点 シャーロック・ホームズの叡智
アーサー・コナン・ドイル
(2021/11/17 16:17登録)
「技師の親指」「緑柱石の宝冠」「ライゲートの大地主」「ノーウッドの建築士」「三人の学生」「スリー・クォーターの失踪」「ショスコム荘」「隠居絵具屋」の全8編。
新潮版で、「冒険」「帰還」「思い出」「事件簿」から漏れたものが「叡智」として収録されている。
したがって特別なホームズ短編集というわけではない。しかしホームズ短編はみな特別であるとも言え、いろんな背景のストーリーが楽しめた。
ただ期待しすぎたせいか、少し物足りなかったかな。話として、推理物としてもっと凝ったものがあってもいいような・・・
個人的には、「技師の親指」と「三人の学生」が好み。この2編が読めただけでもよかったかな。


No.634 5点 夏と花火と私の死体
乙一
(2021/10/09 13:26登録)
表題作
「スタンド・バイ・ミー」みたいな冒険物語として楽しめる。いやそんな生易しいものではない。怖すぎる。といっても読者に襲いかかるような恐怖感はない。
いちおうオチがある。それが作者の狙いなのか。

「優子」
こっちも仕掛けがある。でもありがちかな。
でもじつは映画で有名な「サ〇〇」みたいなのを想像していた。ちょっと発想が貧困だったかな。
こっちのほうが中途の展開が怖いように思う。


No.633 6点 にわか大根
近藤史恵
(2021/09/21 10:06登録)
同心、玉島千蔭が事件の謎を解く、猿若町捕物帳シリーズ第3弾。
本書は3中編の連作モノ。

三人の遊女が死んだ「吉原雀」、とある役者が突然芝居下手になった「にわか大根」、元陰間役者が殺害された「片陰」。
事件は著者の別シリーズ、「ビストロ・パ・マル」シリーズのような日常の謎ではなく、みな死が絡んでいてけっこう重い。
でも、ビストロシリーズのようにゆったり、ほんわかとした雰囲気はある。江戸情緒と、堅物な主人公やその年下の義理の母など、個性豊かな登場人物によるものなのだろう。
ただ、本格ミステリーとしては、伏線はあるも、みなあっけなさ感がある。

本3作には、作品ごとの謎解きだけではなく、千蔭と彼を取り巻く常連の人物たちに関する、全編に通じるサブストーリーが織り込まれていて、そこも楽しめるところだ。じつは第1作めでは、それを理解できず、戸惑ってしまった。


No.632 6点 てとろどときしん
黒川博行
(2021/08/25 10:40登録)
大阪府警・捜査一課モノ6編。
黒マメコンビ以外の作品も含まれている。

まず大阪弁の漫才風の会話によるおもろさに魅かれるが、それだけではない。
『てとろどときしん』『指環が言った』の2作は、短編ミステリーとして上等なクラス。
他の4作品(『飛び降りた男』『帰り道は遠かった』『爪の垢、赤い』『ドリーム・ボート』)も平均以上。

オモロイ系で共通化しているように見えるが、作りとしてはパターン化せず、それぞれに趣向が凝らしてあり、読者を飽きさせない工夫がある。
若い頃の著者のミステリー性を重視した意欲がうかがい知れる作品群である。


No.631 7点 出雲伝説7/8の殺人
島田荘司
(2021/08/16 09:53登録)
バラバラ殺人を扱った、抒情1/8トラベルミステリー超大作。
吉敷竹史シリーズの第2作です。
読者にとっては、犯人探しはほどほどですが、仕掛けを存分に楽しむことができます。
冒頭で、バラバラにされた人体各部が7つの駅で発見されます。なぜ頭部は見つからないか、犯人はどうやってばらまいたか、その謎解きがメインです。

吉敷は地道で現実的な捜査をやっているようにも思えるが、よく読めば、それほどでもない。堅実そうな鉄道ミステリー要素も、超ド派手事件に引っ張られ、現実感はほとんどないといってもいい。
でも、社会派と本格派とがこんなふうに滅茶苦茶に融合すれば、なぜかひっかかりなく読めてしまう。島田氏のストーリー運びのうまさによるものでしょう。
突っ込みどころは多々ありそうですが、そんなことは忘れさせるほどの花も実もある作品にはちがいありません。

最後にひとこと。
時刻表、地図、簡略路線図など図面が豊富なのは個人的には好みですが、残念ながら謎解きには全く生かされませんでした。


No.630 5点 ドイル傑作集1 ミステリー編
アーサー・コナン・ドイル
(2021/08/06 09:50登録)
「消えた臨急」「甲虫採集家」「時計だらけの男」「漆器の箱」「膚黒医師」「ユダヤの胸牌」「悪夢の部屋」「五十年後」の全8作。
ホームズが登場しない短編ミステリー集。
ホームズ物でなくても、謎の提起にはホームズ物らしい、わくわく感を覚える。

『消えた臨急』は、ミステリー編のトップバッターとして申し分なし。
タイトルどおりの列車モノで、意外に凝っている。
ホームズがいなくても十分にミステリーを構成しているだろう、とドイルが威張っているようにも想像できる。

最終編の『五十年後』は、他とはずいぶんと趣向の違いが感じられる。
解説を読むと、訳者が気に入って勝手に加えたとある。
冒頭の1文に「惑星」という語句が出てくるから、てっきりSFかと思っていたが・・・。
80年ぐらい前の有名なロマンス小説・映画作品を思い起こさせる。
この映画ほど恋愛風味はないのだが。
この作品も悪くなかった。


No.629 6点 許されようとは思いません
芦沢央
(2021/06/19 14:15登録)
比較的似たような趣向の5編ではあるが、じつは少しずつ違っていて種々楽しめる。
だからこそ好みも分かれそうで、本サイトや他のサイトのレビューを見ても、どれが一番なのか読む前には想像はできない。
解説の池上冬樹氏によれば、『姉のように』が傑作とのことだが、個人的には全くそうとは思わなかった。
読後感もいろいろだが表題作をラストに据えて、最後に気持ちよく終わらせてくれたのはよかった。

個別具体的には、
『許されようとは思いません』が一番、『目撃者はいなかった』『ありがとう、ばあば』が次点クラス、『絵の中の男』『姉のように』がその次、というところか。
点にこそ差はあれ、共通する持ち味は、読者を惹きつける中途の展開。
読書中はこの中途段階だけで、ラストなんてどうでもいい、と思えてしまった。


No.628 6点 犯罪
フェルディナント・フォン・シーラッハ
(2021/05/26 12:06登録)
弁護士でもある著者が扱った事件がモデルになっている短編小説集。
「このミス」で上位にランクインしているのを記憶していた。
だから当然、どんでん返しやオチがあるものと期待していたが、2,3話読んでまったくなしなので、愕然とした。こういう事前の読書姿勢は失敗だった。
もちろんトリックも、推理も、ロジックもなし。明るさもない。
ジェフリー・アーチャーの実話にもとづく短編とは、面白さの次元がまったく異なっていた。

読み進むうちに、端正な文章も手伝って、ドキュメンタリータッチの犯罪小説群に慣れてきた。
「エチオピアの男」がベストか。ちょっとほっこりする。ある意味俗っぽいかな。
「正当防衛」も気になる。いくつかリドルっぽいのもあり、それらは再読が必要かも。


No.627 6点 ゴメスの名はゴメス
結城昌治
(2021/03/22 13:47登録)
本編自体ももちろんよかったが、光文社文庫版の解説やあとがきなどのオマケもよかった。
著者の「ノート」は、スパイ小説を書くに至る経緯や、舞台をサイゴンとして書き始めた苦労話など、わずか4ページだが、普段あまり目にしない作家ノートを興味深く読むことができた。

肝心の本編についてだが、以下、少しネタバレ。

巻き込まれ型スパイ小説というジャンルか。
舞台を1960年代のベトナムとしたわりに、意外に現代風なのがよい。
ストーリー運びもよい。というかプロットの単純さが読みやすくしているのかも。
たしかにミステリー性はある。でも、ご都合主義的に事件の関係者となりそうな人物が次々に登場するのは、ミステリー小説としてはいただけない。
スパイ小説としては、スパイの非情な日常の中に、わずかな男の友情や恋愛が心地よく描いてあればいいが、中途半端な感があり、B級好きには物足りない。
ラストがあっさりとしすぎているところも拍子抜け。そこがいいところなのかもしれないが、この点もB級好きには物足りない。
みなさんがおっしゃるようなハードボイルドっぽさは、とてもよかった。


No.626 6点 どんぐり民話館
星新一
(2021/02/15 10:28登録)
表題作は著者の1001編目のショートショート作品らしい。
この作品のタイトルが示すように民話、童話、寓話の類が大集合。全31編。
時代設定、舞台設定などは種々雑多。
少年少女向けというよりは、やや大人向けか。

短編集『ボッコちゃん』のように、オチに切れ味の鋭さはない。
でも、どんでん返しなどのミステリー性はなくても、わずか5ページほどのストーリーの全体を楽しむだけで、星作品の読書目的が達成できてしまう。
これが新しい発見だった。


No.625 5点 涼宮ハルヒの憂鬱
谷川流
(2021/01/28 14:30登録)
途中の突然のSF展開にはビックリ。だからこそ、このサイトに登録されているのだが、それにしても意外すぎた。
初めは学園モノを書きたかったのかな。それだと当たり前すぎるから途中で方針変更したとか。だからプロットが練られてなかったのか。とにかく話の流れがわからなかった。
文章、文体は比較的好みだった。

じつはこの著者が通ったとされる、ちょっと懐かしい感じの喫茶店に、ときどき足を運んでいた。本作にまつわる記事のスクラップが置いてあり、そこで本書の知識を得た。
その喫茶店は今では場所を移し、古臭さはなくなり、小さくもなり、長居はしづらく、ちょっと残念。
でも、コロナ下で、なんとかがんばってほしい。

身近な作家、作品なので、だいぶ前に購入し、本棚を温めていたが、このたびようやく読了した。シリーズ物なので続きを読みたい気もするが、どうしようか?


No.624 6点 三体
劉慈欣
(2020/11/27 09:49登録)
話題の作品や、新聞に書評が載ったものを、うれしがって図書館にすぐに(といっても、たいてい100人超待ちレベルにはなっているが)予約を入れるほうなので、忘れたころに通知があり、そのときには気持ちが乗っていない状態のことが多く、読むべきか断るべきか迷ってしまう。
本書の場合、いちおう借りてみたが、けっこうな部厚さにすこし戸惑う。SFを読み慣れないということもあって、腰が引けた。でも、なんとかがんばって読んだ。
なんせオバマ元大統領も読んだとのことなので。

スケールのでかさ、というか歴史(文革)あり、宇宙あり、ゲームありの、とんでもなさが感じられた。肝心のSFとしては、宇宙へのメッセージというのがありがちな気がした。

ひとことで言えば、歴史小説風・謎解きサスペンスタッチSFって感じかな。米国が好んで映画化しそうなタイプだ。
ジャンルはさておき、巻き込まれ型探偵のような主人公や、ガラが悪く強引な刑事、そして文革絡みの謎の人物などが登場し、ミステリーとしては十分に体をなし、ミステリー好きとして身近な印象を持てたのはよかった。どんな小説でもむりやりミステリーにしてしまうのが、悪い癖なのかもしれないが・・・

それと、VRゲーム『三体』の話の中に始皇帝、ニュートン、フォンノイマンが登場するのが面白い。ゲームならよくあることかもしれないが、ゲームをやらないので、こんなめちゃくちゃな組み合わせにはとても魅かれる。いちおうテーマには合ってはいる。
とにかく、いろんな箇所で楽しめたことはよかった。ただ全体としてまとまりが欠如していることが気になった。連載小説だったらしいので、それも仕方ないのかもしれない。

三部作なので続編も絶対に読みたい。
ただ、その前に本作を今度こそは購入して、復習をしておきたい。もったいないから文庫版が出てからかもしれないが。


No.623 6点 灰色の動機
鮎川哲也
(2020/11/10 13:20登録)
ちょっと変わった鮎川短編集。
表題作は、他の短編にくらべ最も長く、登場人物も多い。
長編にもできそうなところを、ぜい肉を削ぎ落してスリムにしたという感じ。
物足らないともいえるが、上手いと評価すべきだろう。

いちばんの好みは、処女作品の超掌編「ポロさん」。
本格推理小説とはいいがたいが、オー・ヘンリー的ミステリーっぽさがあり、読み終わって、真相にじーんとくるところが良い。
斎藤警部さんがおっしゃるように、ホヮットダニットでもあるし、どのようにして調達したのかというハウダニットでもあり、なぜ○○したのかというホワイダニットでもある。
これはもしかして鮎川本格推理の原点なのかもw

「人買い伊平治」「死に急ぐもの」「蝶を盗んだ女」は、まずまずの出来。
「結婚」は、なんとSF設定だった。

「ポロさん」が秀逸、「灰色の動機」が次点、「結婚」「蝶を盗んだ女」がまあまあ、といったところか。
ミステリーとしてはまずまずだが、個人的にはかなり嗜好にマッチした短編集だった。


No.622 5点 探偵を捜せ!
パット・マガー
(2020/10/25 15:47登録)
犯人を探るのではなく、探偵を見つけるミステリーなので、いちおう本格派推理小説といっていいだろう。
主人公のマーゴットの心境描写には半ばお笑いのような怖さがあるから、変格サスペンスといってもいい。
主人公はいち早く探偵を見つけ出し始末したいと考えている、とんでもない悪女。でも、どうやって探偵を探し出すのか、どうやって犯人とばれないようにふるまうのか、そのあたりの行動が読んでいて楽しいところなので、探偵を推理するよりも、主人公がどうなるのか、どんな結末を迎えるのか、そっちのほうの期待が膨らんでいった。
ということで謎解きに関しては不参加だった。
登場人物は少ないし、しかもどんどん減っていくから、推理はしやすいはずではある。

それと、ちょっと気になる点、というか興味深い点がある。
(若干のネタバレあり)

三人称の小説で、主人公のマーゴットは、「マーゴット」か「彼女」と表現されているのに、なぜか「私」も登場する。この「私」はマーゴットのはずだが、かならずしも独白ということでもない。主人公視点だと考えてスルーすればいいが、すこし違和感を覚えた。
でも最後の章の「私」は、独白みたいなもの。このアイデアはすごいと思った。


No.621 7点 殺人交叉点
フレッド・カサック
(2020/10/07 12:44登録)
『殺人交叉点』
どのような最後の一撃なのか、と待ちかまえながら読んだが、待ちかまえること自体が受ける衝撃を小さくしてしまったようで、ちょっと損をした。
それに、いまでは叙述トリックの数ある態様のうちの1つだから、どこかで読んだスタイルだなと思ってしまう。
とはいえ名作であることにはちがいなしだろう。

『連鎖反応』
フランス流・会社派サスペンス。
個人的には新しいスタイルのミステリーだった。
会社が舞台で身近に感じられたのもいいし、本当は恐ろしいことなのに、ユーモアたっぷりに明るく描いてあるのもいい。
それでいてサスペンスも十分にある。
アランドロンの映画作品も観てみたい。

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