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ミステリの祭典

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平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.300 7点 容疑者Xの献身
東野圭吾
(2012/06/26 10:22登録)
純愛物語とミステリが融合した作品です。ミステリに堪能し、純愛ドラマに感動したという意見が多数のようです。さすが東野さん、話はほんとうにおもしろい。

でもねぇ。

純愛を感動ネタにしているところが、ちょっとやりすぎに感じるんですよね。「愛は殺人よりも重い」なんてのは現代では通用しません。江戸時代の話にすればよかったのにという気がします。いっそのこと勧善懲悪で結ばなければよかったのにとも思います。
それに、レクターなみの頭脳を持った犯人が敢行する大トリックと、純愛部分とは、謎解き部分で背景が開示してあるとはいえ、あまりにもアンマッチというか、バランスが悪いというか、物語に酔いしれるところまではいきませんでした。
しかも、この大トリックはかならず破綻をきたします。詰めが甘いですね。天才なのにもっと完璧にすべきです。警察がたよりなさすぎとも言えますね。
まあでも、トリック自体の奇抜さは素晴らしいです。

超人気作品を選んで、300件目の書評としました。


No.299 6点 007/カジノ・ロワイヤル
イアン・フレミング
(2012/06/20 13:03登録)
悲恋物語風・ハードボイルド・スパイ小説。
前半は賭博シーンやカーチェイス、ボンドの拷問シーンなど見せ場は十分にあります。後半は一転、サスペンスタッチの静かな恋愛ドラマへ。ラストにはミステリー的な仰天の真相が開示されますが、なんとなくわかりやすい作りだし、引っ張りすぎのようにも思います。
まあでも、いい雰囲気の佳品でした。

007は本では初めてで、しかも本作品は新旧ともに映画を観ていません。
アクション・シーンがたっぷりの他の映画作品とくらべると、ずいぶんと雰囲気がちがいます。秘密兵器も出てきませんし、「ゴールド・フィンガー」や「死ぬのは奴らだ」、「トゥモロー・ネバー・ダイ」などの派手な風味はいっさい入っていません。しいて言うなら、「ロシアより愛をこめて」と「女王陛下の007」の両方の味付けをまぜこぜにしたような感じです。
2006年の映画化作品は原作に忠実につくられたそうですが、あのダニエル・クレイグの面差しからすれば作風に似合っていそうですし、うまく仕上がっているのではと想像できます。


No.298 8点 写楽殺人事件
高橋克彦
(2012/06/14 11:24登録)
写楽は誰なのか、という歴史ミステリー部分はもちろんですが、現代の事件の謎とその背景にも驚かされました。超力作です。最後の最後まで楽しめました。
細かなトリックや仕掛けなんかは、この際どうでもいいという感じでしょうか。大きな仕掛け、暗躍する登場人物、なんとも凄まじいです。浮世絵という芸術がテーマで、しかもアカデミックな色彩があるのに、まるでスパイ映画(かなり地味ですが)を観ているようです。

そして、もうひとつの凄さは、物語の構成にあります。歴史ミステリー編、現代の事件編、謎解明編と、場面におうじてテンポ、雰囲気をがらりと変えながら、きれいに3部にまとめています。すばらしいテクニックです。
後半の現代の事件編に入ってから流れが加速しますが、それまでの長くて読むのに時間を要した歴史ミステリー編が当然ながらきわめて重要なのです。この分量を少なくしたり、この新説を学説らしからぬ内容にすれば、この推理小説は成り立たなくなります。それぐらいこの歴史ミステリー編には重みがあります。いや、それぐらい重くしないといけなかったのです。

歴史ミステリー編に出てくる新説は高橋克彦氏が提唱したと信じる読者がいるらしい、と解説で中島河太郎が述べていましたが、たしかになんとなく説得力があります。私の場合はそれどころか、歴史ミステリー編を読みながら、新説候補が挙げられるたびに、そうだったのかと肯いていたほどです(笑)。


No.297 5点 四つの署名
アーサー・コナン・ドイル
(2012/06/08 10:21登録)
本書も奇想かつ不気味な雰囲気がよくでています。
この不気味な味と、ホームズのスマートであり偏屈でもあるキャラクタとの一見すると不釣合いにもみえる組み合わせが、ホームズシリーズの魅力です。本作はさらに冒険小説的な要素もあり、少年たちのこころを揺さぶるような作風となっています。
タイトルからは謎解き要素がたっぷり詰まったミステリーとも想像できますが、実際には推理小説とはいえず、自ら進んで謎解きを楽しむことはできません。でも、ホラー系冒険ミステリーとして読めば、十分に小説世界を堪能できると思います。
最終章では、それまでの事件の顛末編とはがらりと語り口を変えて、動機・真相を開示しています。このメリハリのある構成も巧みです。そのあたりは「緋色の研究」に似ていますが、現代のミステリーにすこしだけ近づいたような感じがします。

『すべての条件のうちから、不可能なものだけ切りすててゆけば、あとに残ったのが、たとえどんなに信じがたくても、事実でなくちゃならない』
このワトスンに対するセリフは本書に出てきたのですね。そのあとの、「あれほどたびたびいってあるじゃないか」というセリフからすれば、他の作品でも繰り返されているのでしょうか。


No.296 7点 ビブリア古書堂の事件手帖2
三上延
(2012/06/04 11:11登録)
ビブリオマニアが泣いて喜ぶミステリー。いや、ふつうのミステリー好きでも十分に楽しめる爽やか系推理モノといったほうがいいでしょうか。
今回は、栞子さんと五浦くんの身辺のお話ばかり3編です。

第1話「時計じかけのオレンジ」・・・本書の中ではピカイチの出来。栞子さんは退院して自由の身になったせいか、力が入ってる。でも実はそれには理由があった。栞子さんは裏を固めただけだった。なぜ?
第2話「名言随筆 サラリーマン」・・・五浦くんの過去が絡む。こんな親子も悪くはないと思った。
第3話「UTOPIA 最後の世界大戦」・・・栞子さん、さすがに鋭い。栞子さんの家族の秘密がすこしだけあぶりだされるのもいい。もうすこしじわじわと次作、次々作ぐらいでやってほしいという気もするが。

前作が連作モノとしての色合いが強かったのに対し、今回はそうでもない。その点はマイナス。とはいえ、個別のレベル(ミステリー的にという意味ではなく)はほどほどに高い。

(以下、第1話に関しわずかにネタバレ)
第1話の真相について最初、すこしはこの可能性を考えていたのですが…。
栞子さんの結衣に対する態度。これはただ事ではない。高校生相手に逃げ道を与えない、このきびしすぎる真相究明の仕方。大人ならこれはやらないでしょう。青少年に対する教育的観点から、というのではなくどうみてもやりすぎ。この場面だけなら、栞子さんに対する見方が変わっていたかも。
もちろん、真相は実は・・・ということなのですが。それにしても栞子さんの迫力はすごかった。栞子さんの性格を他編で十分に開示したうえで、この作品を最終話にもっていったほうが面白かったのでは。


No.295 4点 六麓荘の殺人
吉村達也
(2012/06/01 09:45登録)
追悼の意味をこめてのレビューです。

トリックは比較的わかりやすいように思います。特に第2の事件について、氷室は舞ちゃんからヒントをもらって解決へと一歩近づきますが、私の場合、その前からだいたい予想していて、この場面を読んで確信したというよりも、むしろなにか裏があるのではと思ってしまったぐらいです(笑)。
自分の推理は当たっていましたが、科学的にうまくいくかどうかは甚だ疑問です。そのあたりの検証を解決編でていねいに開示しておけば、本格ミステリとして高い評価が得られたのではという気がします。ただ、このぐらいのほうが受けはいいのかもしれませんが…
本作は本格コードに則っているとはいえませんが、本格の雰囲気を十分に備えて、ほどほどに楽しめた作品でした。

この作家さん、西村京太郎、内田康夫、赤川次郎などの老練な多作作家さんたちを追いかけるように、まだまだ量産しつづけるものと思っていたのですが、あっさりと旅立ってしまいました。
多種多様な数多くの作品を精力的に創り出してくれる作家さんが若くして亡くなられたことは、本当に残念です。


No.294 6点 初秋
ロバート・B・パーカー
(2012/05/28 10:08登録)
ミステリー性、ハードボイルド性についてはほとんど期待していなかったので、それらの欠如については意に介さないのだが、少年ポールの大人への成長物語として読んでも、感動するほどではなく、全体として物足らなかった。
そして不満はもうひとつある。
主人公のスペンサーは一本筋の通ったハードボイルド的なタフな男ではあるのだけど、あまりにも健全で明るく、スーパーマン的であることが気に入らない。ハードボイルドや探偵小説の主人公としてはミスが少なすぎるし、性格にしても欠点がなさすぎる。これがネオ・ハードボイルドと呼ばれる理由だろうか。
世間に対し斜に構えるなど、もっと歪んだ性格であってほしいし、すこしは痛めつけられてもほしい。

文芸作品でもエンターテイメントでも、自分自身がそういったタイプの主人公を望む、たんなる嗜好の問題なのかもしれないけど、ポールをだしに使ってスペンサーの偉大さを描いただけの小説というふうにも見えてしまう。
まあでも、多くのファン、特に白黒をはっきりさせたい現地米国のファンは、非の打ち所のないスペンサーの雄姿に拍手喝采なんでしょうね。

以上、批判するところも多かったけど、後半の盛り上がりには興奮したし、前に読んだ「約束の地」よりも断然よかったので、点数はこんなところかな。


No.293 7点 凍りつく心臓
ウィリアム・ケント・クルーガー
(2012/05/28 09:59登録)
極寒の地、ミネソタ州アイアン・レンジの小さな町、オーロラを舞台に、過去の苦い事件を引きずる元保安官コーク・オコナーを中心として、人間くさいミステリー・ドラマが繰り広げられる。
コークはたんなる探偵役かと思っていたが大間違い。巻き込まれ型探偵というよりも、ミステリーの渦中の人という感じだ。

自宅で死を遂げた判事。その判事宅を最後に訪れたとされる少年の失踪。そしてコークがその真相を追う。話が進むうちに、人種問題も絡んできて、背景にはいろんな組織が見え隠れしてくるから、国内流にいえば社会派ミステリともいえるのだが、徐々に見えてくる真相は意外に俗っぽく、そのあたりがかえって馴染みやすくもあり好印象。
話は二転三転というよりも無理に引き延ばしているような感じで、真相はいったいどうなっているのかと期待が半分、いい加減に明かしてくれという気持ちが半分だった。ネイティブ・アメリカンの歴史や現状に詳しければもっと楽しめたように思う。

コークは肉体的にも精神的にもかなり痛めつけられる。でも打たれ強いところが良い。暗い過去があるのも良い。妻や愛人との関係に変転のドラマがあるところも面白い。やはり小説はこうでなくっちゃ。

総評すると、伏線が随所に散りばめられていて、細部で楽しめたが、ストーリーとしてはやや冗長な感もした。最終章には感銘を受けた。


No.292 3点 特別鑑識捜査官
島田一男
(2012/05/28 09:43登録)
イニシャルKが殺されるという殺人予告広告が新聞に掲載。そして予告どおりに殺人が起きる。被害者は旧華族出身のクラブの会員たちが住む高級マンションの住人で、そのクラブはイニシャルKの独身男女たちで構成されていた・・・。

前半はマンション住人に対する嘘発見器による尋問場面ばかりで、会話文が延々と続く。後半になって場面が変わるプロットかと期待したが、歴史的背景が絡んで謎めいてくるものの、平坦な印象しか持てなかった。そして、あっという間に犯人が指摘される。もうひとつよくわからないうちに終わってしまった。

クラブには秘められた謎があるみたいだが、それよりも、わけのわからない趣旨のクラブの成り立ちや、その会員たちの異様な人間模様のほうが面白かった。まさに乱交マンションだった。


No.291 7点 密室の鍵貸します
東川篤哉
(2012/05/28 09:27登録)
作者が読み手に話しかける語り口が気になりました。これは素人作家が奇をてらって採った手法なのか、という感じもしましたが、読み進めていくうちに、ユーモアやギャグを含め、文章的にはすべてを気に入り、その語り口もベテラン風に見えてしまいました。

1つ目のトリックは、よく練られているように思います。このトリックは辻褄あわせが十分でないとうまくいきませんが、それを細心の注意をはらいながら犯人に実行させたことは見事です。
2つ目はどちらかというと許せないタイプの真相ですが、1つ目の事件と整合をとりながらうまく関連付け、きれいにまとめていると思います。お笑いで茶化しながらも、考えつくした、気合の入ったデビュー作という感じがします。

タイトルは本作、次作ともに映画にちなんだネーミングが用いられていて、とても洒落ています。作中に映画の話が出てきますが、作者はミステリー通であるとともに、かなりの映画ファンなのでしょう。このネーミングはもうすこし続けてもらいたいですね。


No.290 5点 仮題・中学殺人事件
辻真先
(2012/05/01 14:02登録)
「読者が犯人」という大トリックに挑んだ意欲作です。
デビュー作(1972年)で、単なる入れ子構造ではない複雑なメタミス構造を成し遂げ、そして、犯人=読者を、なんなく実現したことは賞賛に値します。

大トリックについてはネタがわかればなんてことはないのですが、まあ、コロンブスの卵ですね。アイデアを思いついたこと自体が立派です。愚にもつかぬトリックを個々の話の中に散りばめてメタミス構造にすると、意外や意外、大変身して、なぜかほどよい佳作に仕上がってしまうことにも驚かされます。

物語からは昭和の匂いがぷんぷんと漂ってきます。個人的には郷愁よりも古さを感じました。でも、時代設定を変えれば今でも現代版ジュブナイルとしても好まれるでしょうし、ミステリー的にも今でも(今だからこそ)十分に通用するように思います。


No.289 6点 頼子のために
法月綸太郎
(2012/04/27 13:34登録)
あの手記を読んで奇異に感じるものなのでしょうか。ある1点を除いてなんの疑いも持ちませんでした。その1点については自信があったのですが、残念ながら真相との関連性はごくわずかでした。あの真相を究明した探偵・法月綸太郎、おそるべしです。とはいえ真相は藪の中という感じがしないでもないですが。

ラストは強烈です。このラスト、けっこう好きなほうですが賛否が別れそうです。□□の白い歯がこぼれた、なんてのが最後の1行だったら、さらに凄かったのですが。。。ちょっとやりすぎですね(笑)。

テーマ、ストーリー、真相、ラストのどれもよくできていると思いますが、全体としてはなんとなくバランスがよくないですね。このテーマと語り口、それからタイトルも合っていません。まあ合っていないタイトルだからこそいいんだという意見もあるでしょうが。
それにときどき挿入される海外作品なみの比喩表現も気になります。すべてがちぐはぐという印象です。探偵のキャラを抑えたところは、唯一よかったところです。


No.288 6点 仕立て屋の恋
ジョルジュ・シムノン
(2012/04/21 14:04登録)
原題を翻訳すると「イール氏の婚約」だそうですが、邦題には映画のタイトルをそのまま採用しています。「仕立て屋の恋」では映画の印象が強すぎるし(映画は観ていませんが)、イール氏は仕立て屋ではないですし、あまりにもかけ離れた感があります。一方の「イール氏の婚約」では味も素っ気もありません。
本書は恋愛物とは言いがたく、心理サスペンスと呼ぶのがぴったりで、このタイトルではピンときません。ただ、イール氏のアリスとの恋が物語の根幹をなしていることにはちがいありません。

物語は、イール氏に殺人の容疑がかけられそうになるところから始まりますが、この冒頭でなんとなく結末を想像してしまいました。イール氏とアリスが三人称の近視眼的な視点で描かれているので、ちょっとした動作でも、自分の目で見ているような感覚になります。そんな描写によってイール氏を身近に感じたせいか感情移入でき、自分の想像した結末にはならないことを祈りましたが、はたしてラストは・・・。

裏窓からの覗きや、薄汚れた感じのするアパートでの情事など、湿っぽい印象があり、抵抗感もありましたが、シムノンの明快で畳みかけるような短文に読書欲をそそられ、結果的には貪るように読んでしまいました。


No.287 7点 ビブリア古書堂の事件手帖
三上延
(2012/04/18 10:08登録)
一話ごとに謎解きあり、最終話では大きな謎が解明する、典型的な連作短編集。
どの短編もプロット良し、謎解きレベル高し?
しかも、しっとりとした雰囲気も良し。安楽椅子探偵役は対人恐怖症気味で本好きな美人店主の栞子さん。よって、キャラクタも良し!

4話とも、古書にまつわる薀蓄を散りばめながら話が進み、栞子さんが少ない情報をもとに真相を解明していく。テーマは、ほのかな恋愛というところか。どれがベストということはなく、甲乙はつけがたい。ただ、最終話はそれまでのしっとり感とちがって、ややドタバタ気味(ある意味、スリルとサスペンス)なのは評価が分かれるところでしょう。まあ、このぐらいでないと連作短編の最終話として盛り上がりに欠けるのでしょうね。ちょっと微妙な印象ではありますが。

ネタ元書籍の「○○○○」を読んだくせに最終話の真相を見抜けなかったことには悔しい思いもありますが、それ以上の満足感が得られました。
こういう作品は、少ないファンの間でひそかに読んでもらいたいなという気持ちはありますね。でも、これだけ目立って売れてしまえば、「告白」「謎解きはディナーのあとで」を追い抜くぐらい、とことん売れてほしいという期待感もあります。


No.286 6点 骨の島
アーロン・エルキンズ
(2012/04/13 10:30登録)
お手軽な海外旅情本格ミステリーです。ギデオン・オリヴァーが北イタリア滞在中に現地の事件を取り扱うという設定です。
拳銃ドンパチの派手な誘拐事件という、いかにもギデオンの出番がなさそうな事件を発端にもってくるあたりは上手いというか、映像的というか、安っぽいというか、でもそういうのが好みだったりもします。ただ、あの真相は、序盤のあの事象からすれば当たりまえすぎるでしょう。あの事象の記述は伏線という類のものではなく、「要注意」という看板を掲げているようなものです。まあ、それも楽しからずや、なのですが。

本シリーズ作品は主人公の職業柄、骨の専門知識が謎解きに使われるのは当然なのでしょう。本書も例に洩れませんが、その薀蓄の開示は丁寧でわかりやすく、真相解明の鍵に使われても嫌味に感じることはありませんでした。

本シリーズを読むのは2冊目。前回が第2作の「暗い森」、今回は第11作。読み比べると、前回は硬さがあったように思いましたが、今作はとにかく読みやすく、登場人物も肩の力が抜けているような感じで、会話や行動、食事などすべてが自然な印象を受けました。
どうやら心を和ませてくれるシリーズのようです。


No.285 7点 第二の銃声
アントニイ・バークリー
(2012/04/05 10:27登録)
初読作品、初読作家です。評判どおりの素晴らしい作品でした。
「○○事件」とネタは同じ、というネタバレ情報に触れていたうえでの読書なのでそれほど期待しなかったのは事実です。でも読んでみると、もしかしてあのネタバレ情報はガセだったのと思わせるような展開でした。すぐれた描写力によるものなのでしょう。細かなところを再読でおさらいせずとも、そのことがわかります。

メインの仕掛けこそ「○○事件」に似ていますが、背景、動機については「△△事件」や「××事件」にも似ているようにも思います。後半の自白合戦は芥川の「□□□」みたいにもみえました。
また、長編に殺人が1件という少なさは問題なしです。これをもったいないと嘆くことはなく、むしろこれだけ多数の要素が含まれているぜいたくな作りに感心頻りです。

聞けばこの作家、国内に紹介されたのは近年になってからとのこと。この手の変則的な作品は受け入れがたい、ということからなのかもしれませんが、個人的には感情移入もでき、余韻にも浸れるベストな作品であったようです。むしろ欧米でこそ本作のようなスタイルは嫌われるのではないでしょうか、あの主人公、あのラストですから。
「炎に絵を」や「兄の殺人者」などで感じられたストレートな本格要素、ストレートな物語性、ストレートな感情移入によるものとは質の異なる読後感が得られたことにも満足しました。

経験の乏しい多感な頃に本作に出会っていれば、という残念な気持ちもありますが、これから楽しみが増えたことをいまは素直に喜ぶべきなのでしょう。ハズレもないようですので。


No.284 6点 カウント・プラン
黒川博行
(2012/03/31 14:01登録)
ちょっと変わった性癖がテーマか?アブナイ主人公たちが登場します。
淡白そうにみえて一癖も二癖もある短編5編でした。

冒頭の男の描写、これはいったいなんだろうか、この先どうなるのかと思った表題作「カウント・プラン」。「黒い白髪」「オーバー・ザ・レインボー」「艦」も、かなり狂っているという印象。これら4作には、数え症、色彩狂、ゴミ漁りなど病的な性癖を持つ人たちが登場する。
「うろこ落とし」は、他がヘンなのばかりなせいか比較的普通のミステリーに見えてしまった。

個別にみると表題作が良かったかな。全体としては、奇妙な性癖の持ち主と、警察とを適度なバランスで書いてあるのがうまいと思った。この程度の短編でそんなふうに描けるのはなかなか難しいのでは。
ただ、とても興味深い作品集なんだけど、基本的にこのコンセプトにはあまりついていけそうになく、たてつづけに5編読むのはきつい。たまに1、2編読むぐらいがいいかな。
ミステリーならなんでも来いという人ならぜひ読んでほしい作品だが、変化球が苦手な人にはあまりお薦めできない。ちなみに東野圭吾は大絶賛していました。


No.283 7点 顔のない肖像画
連城三紀彦
(2012/03/26 09:54登録)
7編の反転ミステリーが収録されている。
①「瀆された目」・・・7編の中では本格の匂いがした。後半は度肝を抜かれた。
②「美しい針」、③「路上の闇」・・・「瀆された目」で本書がこの種のミステリー集であるとわかったためか、これら2編にあまり驚きなし。想定内だった。
④「ぼくを見つけて」・・・誘拐物。あいかわらずの凝った作り。でもラストはやや不満。
⑤「夜のもうひとつの顔」・・・強烈すぎて吹っ飛びそう。
⑥「孤独な関係」・・・騙し方が気に入らないなぁ。手が尽きた感あり。
⑦「顔のない肖像画」・・・これはいくらなんでもないだろう、というとんでもない真相。馬鹿げているが愉快。

①がいちばん、次に⑤、その次が⑦④、ついで⑥②③の順。
サプライズの程度には差があるが、どれもこれも中途のスリリングな展開には楽しめた。

「戻り川心中」よりは好み。「夜よ鼠たちのために」と同格か少し上。
でも、実は連城作品は自分にはそれほど合わないことも事実。
と、書評も、反転、また反転。


No.282 4点 警視庁捜査一課 南平班
鳥羽亮
(2012/03/22 09:51登録)
「剣の道殺人事件」で江戸川乱歩賞を受賞し、いまは時代小説家として著名になった鳥羽亮の南平班シリーズ。
顔を潰すという東京で起きた猟奇殺人は3年前の箱根の殺人事件に似ていた。そして同様の顔潰し殺人は連続して発生する・・・。

真相に意外性はありますがトリックはありがちです。南平班の班長、南部平蔵の推理はご都合主義的に進んでいくのが妙な感じを受けます。その推理が真相とは少しずれながら進んでいくところはご愛嬌です。まあ、寄り道するからこそ面白いですしね。
地の文によれば、主人公の南部は孤高の人のように想像できるのですが、実際にはそうでもありません。というか、あまり個性的とはいえずイメージが頭に浮かんできません(ドラマでの主人公ともちょっと違う)。よって、キャラクタ物としてはイマイチ。シリーズを通して読めばちがうのかもしれまんが。
さっと読めるところは好印象。


No.281 7点 透明人間の納屋
島田荘司
(2012/03/17 15:23登録)
①ナイーブな少年の視点、②社会的、歴史的な背景と真相、③密室トリック この3本柱の超豪華?本格ミステリーです。
キャッチフレーズが「かつて子どもだったあなたと少年少女のための・・・」とのことなので、①はしかるべしです。そしてその出来は想像以上のものでした。
②は踏み込みすぎの感あり。でも島田氏はどうしてもこれを骨子にして書きたかったのでしょう。物語の年代や書かれた年代を頭に浮かべながら真相を推理しましたが、まったくダメでした。
③はちょっと無理があるものの、②を前提にすればなんとか許容できます。

中でもいちばん気に入ったのがヨウイチ少年の真鍋さんとの交流話。
宮本輝の「泥の河」なんかもそうだけど、子どもの視点で書かれた切ない少年物語には郷愁を覚えます。また、おじさん(島田氏)がどうしてあれほどに子どもらしい子どもの心を描けるのか、と感心もさせられます。
「Pの密室」の御手洗潔よりも少年らしい少年が描かれているところもよかったです(笑)。

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