| 臣さんの登録情報 | |
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| 平均点:5.91点 | 書評数:673件 |
| No.313 | 6点 | 陰の季節 横山秀夫 |
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(2012/09/03 11:13登録) 警察の管理部門を舞台とした、今までにないスタイルの警察小説。 各短編の主人公はD県警の警務課、監察課、秘書課などに所属する刑事以外の警察官であり、かれらの身辺で起こる、事件にならないような人事や無断欠勤などが謎解きの対象となっている。 一編一編、なるほどなるほど、これはおもしろいと感心しながら読みきったものの、殺人のない日常の謎的な内容だけに、警察が舞台とはいえ、小道具を少し変えれば一般企業に置き換えた企業小説としても成り立ちそうだな、と思ってしまった。 「陰の季節」は想定外の結末に驚きはしたが、話が出来すぎの感があった。「地の声」はドンデン返しがあり、技巧的には抜群だが、リアリティが感じられず、やや興醒め。婦人警官を主人公に据えた「黒い線」の目新しさはよかった。「鞄」のきびしいラストには驚かされた。 総評すれば、技巧面では楽しめた。 一時期読んでいた企業小説、経済小説は比較的身近な設定となっているだけに、自分の身辺と比較してしまい、いくらなんでもそれはないだろうと感じて、読後の感動はあまりなかったが、本書もそれと似たような感覚があった。 横山作品、特に短編は優れているとは思うのだけど、年とともにすこしずつ感じ方が変わってきた。 |
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| No.312 | 5点 | 少年探偵団 江戸川乱歩 |
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(2012/08/30 11:29登録) 本書には、2つの話(概ね2部構成)が含まれています。連作といった流れです。いずれの話も、変装や、すり替えによる騙しの応酬に尽きます。もちろん、小林少年たちの大活躍も見逃せません。 ただし、初めて読む人でも大人ならだいたい先が読めるでしょう。章ごとのサブタイトルによるネタばらしがあるのも一因ですが、大人であれば過去にどこかで触れているだろうから、潜在意識程度に記憶の中に残っているのかもしれません。 それでもおもしろいと感じるのは、明智対怪人二十面相の戦いが逆転、また逆転と、目を離せないほどに変化があるからでしょう。たまの気分晴らしの読書に最適です。 怪人二十面相が変装用具を黒い風呂敷に用意していたことには笑えました。風呂敷って便利なんですよね。でも二十面相が使うとはねぇ。 明智探偵や二十面相は、不可能と思われることをマジックのようにやってのけますが、その後に、なぜ可能になったかを説明してくれます。小説の中で、「なぜ」にかならず答えてくれているようです。これはほんとうに素晴らしいことです。子ども向け通俗小説とはいえ、たんなる荒唐無稽な物語にはしたくなかったのでしょう。 |
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| No.311 | 6点 | 殺す者と殺される者 ヘレン・マクロイ |
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(2012/08/27 10:36登録) 主人公のハリーと、かつての恋人シーリアの周辺に出没する謎の徘徊者はいったい誰なのか。消えた免許証、差出人不明の手紙。そして中盤を過ぎたころには、恐ろしい事件が・・・。 語り手はハリー。この一人称による地の文や、会話文、それに全編を覆い包むような異様な雰囲気、どれをとってもサスペンスに満ち満ちています。 ハリーの語り口は、サスペンスを演出するためのもののようにも、ハリーのやさしさを表現しているようにも思われますし、さらには、ラストに何かとんでもないことが待ち受けているようにも感じられます。思わせ振りで信用ならない感じはありましたね。 驚愕の真相、その仕掛けと見事な伏線にはびっくりしました。テクニック抜群です。あとで気づきましたが、登場人物欄自体も伏線になっているのですよね。 ただ、いまどきのミステリー慣れした読者にとっては驚愕の程度も中ほどなのかもしれません。やはり、特上のサスペンスこそが、多くのミステリーファンに共通して楽しめる材料なのでは、という気がします。 |
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| No.310 | 5点 | 奇面城の秘密 江戸川乱歩 |
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(2012/08/22 10:16登録) 少年探偵団のチンピラ組に属するポケット小僧が怪人四十面相のアジトに侵入して大活躍するお話です。小さいながらも度胸満点。明智探偵も小林少年も脇役です。 シリーズ作品中、息子のいちばんのお気に入りの作品とのことで読んでみましたが、少年の活躍で悪者を一気にやっつけるところに、子どもたちは興奮して大喜びするのでしょうね。気持ちのいい冒険大活劇であることにはちがいありません。大人にとっては謎の美女の正体が気になる心残りな作品ではありましたが。。。 |
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| No.309 | 6点 | 大いなる眠り レイモンド・チャンドラー |
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(2012/08/17 13:47登録) 翻訳のせいかもしれないが、会話文は身近で気取りがないように感じられた。案外、ハードボイルド小説ってこんなものかもしれない。地の文は叙事的な短文を連ねた描写が実にハードボイルド的であり、強烈に印象に残った。書き出しの一節は本当に素晴らしい。 一方、ストーリーは単調に見えるし、ややこしくもあり、決して面白いものとはいえない。しかし、話の根幹が依頼人がわであるスターンウッド家にあり、その人間模様を楽しめたし、マーロウをかっこよく見せただけのストーリーではないことも好印象だった。 本書は良くも悪くもチャンドラーのハードボイルドの原点的作品。「長いお別れ」とくらべれば極上のエンターテイメントとはいいがたいが、リアリズムを追求した秀作文芸ミステリーという評価にはちがいないと思う。 双葉十三郎の訳は評判がイマイチのようだが、作り物といったイメージがあまりなく、結構好み。ただ、村上春樹の新訳予定もあるようなので、そちらにも期待したい。 |
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| No.308 | 5点 | トラブルはわが影法師 ロス・マクドナルド |
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(2012/08/13 10:41登録) Trouble follows me 直訳すれば、「トラブルがついてくる」 このほうがわかりやすい。「トラブルはわが影法師」だと深読みしてしまう。まあでも、なかなか良いタイトルです。 前半では主人公のドレイクが2つの殺人事件に遭遇する。中盤では大陸横断列車へと場面が変わり、ドレイクはさらなる事件に巻き込まれる。構成にメリハリはあるが、この巻き込まれ方の流れはすこし不自然にも感じる。 そんな中途半端なところが、作風にも出ているのか、本格ミステリといっていいのか、スパイ小説といっていいのかわからない。第二次世界大戦中の話で、ブラック・イスラエルという秘密結社も登場して徐々にスパイ小説らしくなるが、そうはいっても国際謀略風味は希薄だし、かといってアクション・シーンも少ししかなく物足りない。 読み終えてみれば、意外性もあったし、ミステリとしてはまあまあといったところなのだろうが、物語としては、ちぐはぐな印象を受けた。 |
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| No.307 | 6点 | 後鳥羽伝説殺人事件 内田康夫 |
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(2012/08/06 09:45登録) 事件の背景や、ヒラ刑事の地味な捜査など、なんとも古臭い感じのする旅情ミステリーです。 浅見光彦は被害者女性に比較的近い存在であり、どちらかというと巻き込まれ型探偵というゲスト的な位置づけでもあります。その素人探偵が最終的には一人で意外な犯人を追い詰めていくという、同シリーズではめったにない凄みも感じられます。まあシリーズ初作品はこんなものなのかもしれません。 このシリーズ初作品には、その後のシリーズ作品には欠かせないヒロインは登場せず、派手さはありませんが、派手さがない分、重みのあるドラマに仕上がっています。 社会派ミステリーがまだまだ主流だった当時としては、社会派の地味な匂いを感じさせるも、けっして典型的な社会派ではなく、もちろん本格派というほどでもなく、当時の流行りのスタイルの、きわめてニュートラルな推理小説らしい推理小説だったのではという気がします。 |
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| No.306 | 5点 | 007/死ぬのは奴らだ イアン・フレミング |
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(2012/07/30 09:43登録) 今作は、やや荒唐無稽な冒険大活劇で、シリーズ前作「カジノ・ロワイヤル」とは雰囲気が全く異なる。ボンドのやられ方も、前作にくらべてだいぶまし(でもないか)。その代わり、仲間のライターが酷い目に遭わされる。 悪玉は黒人のボス、ミスター・ビッグ。悪役ぶりがよく出ているが、登場シーンが意外に少ない。ボンドガールのソリテールも登場機会は少なめで、あまり目立たない。むしろ、中盤から後半にかけての、最後にビッグやソリテールが登場するまでの、海の中でのボンドの自然との大格闘が見ものだった。最後は思いのほか、あっけなかった。 描写力のすぐれたアクションたっぷりのハードボイルド娯楽作品だったが、謎解き推理性はほとんどなかった。でも楽しめた。 |
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| No.305 | 5点 | 怪盗紳士ルパン モーリス・ルブラン |
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(2012/07/20 09:52登録) わが少年時代、ホームズは読んだが、リュパンとの出会いはなかった。まさに人生初めての経験です。 ホームズにくらべると、ミステリーとしての、連作短編ものとしてのヴァリエーションが豊富なことは好印象です。それに冒険譚らしい物語ばかりなので、子ども心が揺さぶられること必定です。 子ども向けという印象が強いですが、それほど荒唐無稽な話ではなく、大人が読んでも小気味よく感じられることまちがいなしです。最後の「遅かりしシャーロック・ホームズ」は、小粋でしたね。 フル出場ではなく神出鬼没というリュパンの登場スタイルも、うまい物語構成テクニックだと感心しました。この種の小説を読み慣れていないということもありますが。 リュパンものの精神は、ミステリー要素的には今にも引き継がれているものの、怪盗が活躍する物語としては、近年の作品の中では同種のものを見つけるのが大変です。その点は残念ですが、まずはリュパンものを読んでいけばいいでしょう。 |
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| No.304 | 6点 | 死国 坂東眞砂子 |
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(2012/07/13 10:46登録) こういうのを、伝奇ロマンというのですね。 いまだ土俗的因習の残る四国偏狭の地のこわ~いお話です。 死者の甦りや死霊の呼び戻しを軸とした幻想伝奇小説なのですが、主人公・比奈子と、かつての恋人・文夫と、比奈子の幼なじみで若くして死んだ莎代里の霊とが絡み合ったメロドラマという印象のほうが強いです。 ラストは壮絶です。生にしがみつく死霊にまつわる怪談話ですから、このような結末にせざるを得ないのでしょう。余韻が残ります。 四国って怖いなぁ。 と読者に思わせるのが作者のねらいなのでしょうか。映画化もされたし、アマゾンの本書のマーケット・プレイス出品数から見ても書籍の売行きは凄かったようだから、おそらく四国のPRができたはずです。 たしかに本書を読めば四国って怖くて恐ろしい地というイメージを持たれそうですが、それ以上の魅力も感じられます。日本人だから、やはり日本的な土俗には惹かれます。 以上、いかにも恐ろしい小説のように評しましたが、実は怖さ的には求めていたものには及びませんでした。夏の夜を涼しく過ごすには、心の奥底が冷え冷えするような、もっともっと怖い話がいいですね。 |
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| No.303 | 5点 | 模倣の殺意 中町信 |
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(2012/07/07 14:08登録) まったく予想していなかった、かなり意外性のある真相とトリックなのだが、さして驚くことはなかったし、興奮することもなかった。分析するに、真相がわかれば、こんな話はまずないだろうとの考えのほうが、驚愕度に勝っていたということなのでしょう。 かといって、つまらないかというとそうでもなく、二人の素人探偵が並行して地道に謎を解きほぐしていく過程は、ほどほどに楽しめた。 |
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| No.302 | 6点 | 郵便配達は二度ベルを鳴らす ジェームス・ケイン |
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(2012/07/03 09:53登録) ハードボイルド風犯罪心理小説。 フランクとコーラの絆は強いのか、弱いのかよくわかりません。最後には判明しますが、かなり危ういのにはちがいありません。そんな危うさが読者を惹きつけるのでしょう。中途は、これからどうなるんだといったワクワク感でいっぱいでした。 はっきりと分かれているわけではありませんが、概ね三部(もしかして四部)に構成されていて、そんな構成の変遷が読者をさらに楽しませてくれます。ただ、後半に、もうひとつ盛り上がりがほしいところです。ピューマもなんだかわかりませんしね。 通俗小説をヘミングウェイ風のハードボイルド文体で書けば文学に変身するかというと、微妙です。やはり通俗は通俗なのかな。でも決して悪い意味ではなく、似非文学風通俗ミステリーだからこそ楽しめたのだと思います。 |
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| No.301 | 5点 | ひげのある男たち 結城昌治 |
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(2012/06/30 13:40登録) 本格的な本格ミステリーですが出来はあまりよくありません。まあ謎解きは論理的にしっかりしているとはいえます。それよりも、やや地味めですが、おとぼけ風のユーモラスな行動や会話のほうがむしろ楽しめます。 この作家については、「軍旗はためく下に」と「ゴメスの名はゴメス」ぐらいしか知りませんが、こういう小説も書いていたことには驚きました。けっこう幅広いのですね。といっても先述の2作は読んでないので、どういう作品なのか、どういう作風なのかは知らないのですが(笑)。 |
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| No.300 | 7点 | 容疑者Xの献身 東野圭吾 |
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(2012/06/26 10:22登録) 純愛物語とミステリが融合した作品です。ミステリに堪能し、純愛ドラマに感動したという意見が多数のようです。さすが東野さん、話はほんとうにおもしろい。 でもねぇ。 純愛を感動ネタにしているところが、ちょっとやりすぎに感じるんですよね。「愛は殺人よりも重い」なんてのは現代では通用しません。江戸時代の話にすればよかったのにという気がします。いっそのこと勧善懲悪で結ばなければよかったのにとも思います。 それに、レクターなみの頭脳を持った犯人が敢行する大トリックと、純愛部分とは、謎解き部分で背景が開示してあるとはいえ、あまりにもアンマッチというか、バランスが悪いというか、物語に酔いしれるところまではいきませんでした。 しかも、この大トリックはかならず破綻をきたします。詰めが甘いですね。天才なのにもっと完璧にすべきです。警察がたよりなさすぎとも言えますね。 まあでも、トリック自体の奇抜さは素晴らしいです。 超人気作品を選んで、300件目の書評としました。 |
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| No.299 | 6点 | 007/カジノ・ロワイヤル イアン・フレミング |
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(2012/06/20 13:03登録) 悲恋物語風・ハードボイルド・スパイ小説。 前半は賭博シーンやカーチェイス、ボンドの拷問シーンなど見せ場は十分にあります。後半は一転、サスペンスタッチの静かな恋愛ドラマへ。ラストにはミステリー的な仰天の真相が開示されますが、なんとなくわかりやすい作りだし、引っ張りすぎのようにも思います。 まあでも、いい雰囲気の佳品でした。 007は本では初めてで、しかも本作品は新旧ともに映画を観ていません。 アクション・シーンがたっぷりの他の映画作品とくらべると、ずいぶんと雰囲気がちがいます。秘密兵器も出てきませんし、「ゴールド・フィンガー」や「死ぬのは奴らだ」、「トゥモロー・ネバー・ダイ」などの派手な風味はいっさい入っていません。しいて言うなら、「ロシアより愛をこめて」と「女王陛下の007」の両方の味付けをまぜこぜにしたような感じです。 2006年の映画化作品は原作に忠実につくられたそうですが、あのダニエル・クレイグの面差しからすれば作風に似合っていそうですし、うまく仕上がっているのではと想像できます。 |
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| No.298 | 8点 | 写楽殺人事件 高橋克彦 |
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(2012/06/14 11:24登録) 写楽は誰なのか、という歴史ミステリー部分はもちろんですが、現代の事件の謎とその背景にも驚かされました。超力作です。最後の最後まで楽しめました。 細かなトリックや仕掛けなんかは、この際どうでもいいという感じでしょうか。大きな仕掛け、暗躍する登場人物、なんとも凄まじいです。浮世絵という芸術がテーマで、しかもアカデミックな色彩があるのに、まるでスパイ映画(かなり地味ですが)を観ているようです。 そして、もうひとつの凄さは、物語の構成にあります。歴史ミステリー編、現代の事件編、謎解明編と、場面におうじてテンポ、雰囲気をがらりと変えながら、きれいに3部にまとめています。すばらしいテクニックです。 後半の現代の事件編に入ってから流れが加速しますが、それまでの長くて読むのに時間を要した歴史ミステリー編が当然ながらきわめて重要なのです。この分量を少なくしたり、この新説を学説らしからぬ内容にすれば、この推理小説は成り立たなくなります。それぐらいこの歴史ミステリー編には重みがあります。いや、それぐらい重くしないといけなかったのです。 歴史ミステリー編に出てくる新説は高橋克彦氏が提唱したと信じる読者がいるらしい、と解説で中島河太郎が述べていましたが、たしかになんとなく説得力があります。私の場合はそれどころか、歴史ミステリー編を読みながら、新説候補が挙げられるたびに、そうだったのかと肯いていたほどです(笑)。 |
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| No.297 | 5点 | 四つの署名 アーサー・コナン・ドイル |
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(2012/06/08 10:21登録) 本書も奇想かつ不気味な雰囲気がよくでています。 この不気味な味と、ホームズのスマートであり偏屈でもあるキャラクタとの一見すると不釣合いにもみえる組み合わせが、ホームズシリーズの魅力です。本作はさらに冒険小説的な要素もあり、少年たちのこころを揺さぶるような作風となっています。 タイトルからは謎解き要素がたっぷり詰まったミステリーとも想像できますが、実際には推理小説とはいえず、自ら進んで謎解きを楽しむことはできません。でも、ホラー系冒険ミステリーとして読めば、十分に小説世界を堪能できると思います。 最終章では、それまでの事件の顛末編とはがらりと語り口を変えて、動機・真相を開示しています。このメリハリのある構成も巧みです。そのあたりは「緋色の研究」に似ていますが、現代のミステリーにすこしだけ近づいたような感じがします。 『すべての条件のうちから、不可能なものだけ切りすててゆけば、あとに残ったのが、たとえどんなに信じがたくても、事実でなくちゃならない』 このワトスンに対するセリフは本書に出てきたのですね。そのあとの、「あれほどたびたびいってあるじゃないか」というセリフからすれば、他の作品でも繰り返されているのでしょうか。 |
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| No.296 | 7点 | ビブリア古書堂の事件手帖2 三上延 |
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(2012/06/04 11:11登録) ビブリオマニアが泣いて喜ぶミステリー。いや、ふつうのミステリー好きでも十分に楽しめる爽やか系推理モノといったほうがいいでしょうか。 今回は、栞子さんと五浦くんの身辺のお話ばかり3編です。 第1話「時計じかけのオレンジ」・・・本書の中ではピカイチの出来。栞子さんは退院して自由の身になったせいか、力が入ってる。でも実はそれには理由があった。栞子さんは裏を固めただけだった。なぜ? 第2話「名言随筆 サラリーマン」・・・五浦くんの過去が絡む。こんな親子も悪くはないと思った。 第3話「UTOPIA 最後の世界大戦」・・・栞子さん、さすがに鋭い。栞子さんの家族の秘密がすこしだけあぶりだされるのもいい。もうすこしじわじわと次作、次々作ぐらいでやってほしいという気もするが。 前作が連作モノとしての色合いが強かったのに対し、今回はそうでもない。その点はマイナス。とはいえ、個別のレベル(ミステリー的にという意味ではなく)はほどほどに高い。 (以下、第1話に関しわずかにネタバレ) 第1話の真相について最初、すこしはこの可能性を考えていたのですが…。 栞子さんの結衣に対する態度。これはただ事ではない。高校生相手に逃げ道を与えない、このきびしすぎる真相究明の仕方。大人ならこれはやらないでしょう。青少年に対する教育的観点から、というのではなくどうみてもやりすぎ。この場面だけなら、栞子さんに対する見方が変わっていたかも。 もちろん、真相は実は・・・ということなのですが。それにしても栞子さんの迫力はすごかった。栞子さんの性格を他編で十分に開示したうえで、この作品を最終話にもっていったほうが面白かったのでは。 |
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| No.295 | 4点 | 六麓荘の殺人 吉村達也 |
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(2012/06/01 09:45登録) 追悼の意味をこめてのレビューです。 トリックは比較的わかりやすいように思います。特に第2の事件について、氷室は舞ちゃんからヒントをもらって解決へと一歩近づきますが、私の場合、その前からだいたい予想していて、この場面を読んで確信したというよりも、むしろなにか裏があるのではと思ってしまったぐらいです(笑)。 自分の推理は当たっていましたが、科学的にうまくいくかどうかは甚だ疑問です。そのあたりの検証を解決編でていねいに開示しておけば、本格ミステリとして高い評価が得られたのではという気がします。ただ、このぐらいのほうが受けはいいのかもしれませんが… 本作は本格コードに則っているとはいえませんが、本格の雰囲気を十分に備えて、ほどほどに楽しめた作品でした。 この作家さん、西村京太郎、内田康夫、赤川次郎などの老練な多作作家さんたちを追いかけるように、まだまだ量産しつづけるものと思っていたのですが、あっさりと旅立ってしまいました。 多種多様な数多くの作品を精力的に創り出してくれる作家さんが若くして亡くなられたことは、本当に残念です。 |
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| No.294 | 6点 | 初秋 ロバート・B・パーカー |
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(2012/05/28 10:08登録) ミステリー性、ハードボイルド性についてはほとんど期待していなかったので、それらの欠如については意に介さないのだが、少年ポールの大人への成長物語として読んでも、感動するほどではなく、全体として物足らなかった。 そして不満はもうひとつある。 主人公のスペンサーは一本筋の通ったハードボイルド的なタフな男ではあるのだけど、あまりにも健全で明るく、スーパーマン的であることが気に入らない。ハードボイルドや探偵小説の主人公としてはミスが少なすぎるし、性格にしても欠点がなさすぎる。これがネオ・ハードボイルドと呼ばれる理由だろうか。 世間に対し斜に構えるなど、もっと歪んだ性格であってほしいし、すこしは痛めつけられてもほしい。 文芸作品でもエンターテイメントでも、自分自身がそういったタイプの主人公を望む、たんなる嗜好の問題なのかもしれないけど、ポールをだしに使ってスペンサーの偉大さを描いただけの小説というふうにも見えてしまう。 まあでも、多くのファン、特に白黒をはっきりさせたい現地米国のファンは、非の打ち所のないスペンサーの雄姿に拍手喝采なんでしょうね。 以上、批判するところも多かったけど、後半の盛り上がりには興奮したし、前に読んだ「約束の地」よりも断然よかったので、点数はこんなところかな。 |
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