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ミステリの祭典

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007/死ぬのは奴らだ
007

作家 イアン・フレミング
出版日1957年01月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 クリスティ再読
(2019/07/15 16:50登録)
本作が一番最初に紹介された007である。映画化もまだ先の話で、ポケミス重版時のあとがきが「初紹介から七年後」の話になっていて興味深い。完全な先物買いとして都筑道夫が主導して紹介したようだ。ポケミス裏表紙の作品紹介は初紹介時のそのままなのだろう。

現在、ケヴィン・フィッツジェラルド、ロバート・ハーリングなどと共にスパイ小説界の第一人者と目されている新進作家である。近代版スティーブンスンと言われるロマンチックな作風、キビキビした文体と無類のストーリー・テリングは、第一級の冒険スパイ小説となっている。

ケヴィン・フィッツジェラルドとかロバート・ハーリングって誰だろう....と調べてみると、Robert Harling は見つかる。海軍でフレミングのと同僚だっただけでなく、一緒に秘密活動していたようだ。戦後ペーパーバックで小説を書いて、フレミングの親友であり続けた人だが、翻訳紹介はなさそうだ。時代の違いを感じさせる紹介文なので、面白くなってつい脱線。

で本作の敵は黒人ギャングで、ヴードゥーの魔術を使った恐怖支配をするミスター・ビッグ。大量の古金貨が流入しているらしい...その源を追って、ボンドはNYに赴いた。旧友レイターとも再会し、FBI・CIAとも共同戦線での仕事である。どうやらジャマイカから、フロリダの魚釣用生き餌会社を経由して、金貨は密輸されているようだ。それを仕切るミスター・ビッグの手の内を探るためにハーレムのクラブに潜入した二人は、ミスター・ビッグと神秘的な美女ソリテアと対面する...ソリテアを奪うかたちでボンドはフロリダ行きの列車に飛び乗り、さらに舞台はフロリダからビッグの本拠のジャマイカにまで広がる。海賊血まみれモーガンの財宝が眠る島に、ボンドは水中を潜行して侵入を試みる!

という話。実は漫画っぽさはあるけども、雰囲気がかなり地味。ヴィランのミスター・ビッグ、スメルシュの手先だそうだが、そうそう非道い悪事を働いてはいないんだよね。金密輸くらいのもの。ビジネスに手を出す者には容赦しないから、相棒のレイターが片腕を失うのはこの話。ボンドがビッグと対面するのも二回だけだし、雰囲気マアマアでも話はスローテンポで、なかなかヤマがかからない。本の半分かかってやっとフロリダ着、海を潜って本拠潜入も40ページほどで片付いてしまう。一番の読みどころは潜水しての道中の描写だから、バランスが取れないや。
まだ試行錯誤中、という印象。ストイックな冒険小説のテイストの方が強いかなあ。裏表紙での「近代版スティーブンスン」って比較は、要するに「007in宝島」ということなんだろうな。

No.1 5点
(2012/07/30 09:43登録)
今作は、やや荒唐無稽な冒険大活劇で、シリーズ前作「カジノ・ロワイヤル」とは雰囲気が全く異なる。ボンドのやられ方も、前作にくらべてだいぶまし(でもないか)。その代わり、仲間のライターが酷い目に遭わされる。
悪玉は黒人のボス、ミスター・ビッグ。悪役ぶりがよく出ているが、登場シーンが意外に少ない。ボンドガールのソリテールも登場機会は少なめで、あまり目立たない。むしろ、中盤から後半にかけての、最後にビッグやソリテールが登場するまでの、海の中でのボンドの自然との大格闘が見ものだった。最後は思いのほか、あっけなかった。

描写力のすぐれたアクションたっぷりのハードボイルド娯楽作品だったが、謎解き推理性はほとんどなかった。でも楽しめた。

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