臣さんの登録情報 | |
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平均点:5.91点 | 書評数:667件 |
No.427 | 5点 | かまいたち 宮部みゆき |
(2014/09/26 09:31登録) 「かまいたち」「師走の客」「迷い鳩」「騒ぐ刀」の時代物サスペンス全4編。 サスペンスフルな「かまいたち」がいちばんの出来。町娘おようは勇気をもって、でもかなり危なかしく立ち回る。そこが惹かれるところ。想像どおりに予定調和な結末を迎えるが、それでも中盤があまりにもおもしろいので文句のつけようがない。 「師走の客」は最も短く、20ページ程度。いくら短くても、もっとうまく作れるはず、というのが読後すぐの感想だが、しばらく経つと気分よく場面がよみがえってくる。どうも映像的に記憶にきざまれてしまったようだ。絵本にすればまちがいなく売れるだろう。 残りの2編は、町娘お初のシリーズ物。超能力ジュブナイル作品といったらいいだろう。「迷い鳩」にはタイトルどおり鳩が登場し、「騒ぐ刀」には犬が登場する。動物系でもあり楽しく読める。 考えてみたら本書は動物シリーズなのか。「師走の客」は十二支(とくにヘビ)と犬、「かまいたち」はイタチ。う~ん、ちと苦しいか。 やはり、ごった煮かな。だから、ミステリーを期待しても、童話を期待しても、ファンタジーを期待しても、みな適度な裏切られ感がある。そこが残念なところだが、個々の出来としては標準といえる。 |
No.426 | 6点 | すべてがFになる 森博嗣 |
(2014/09/19 09:57登録) 理系ミステリーの走りだそうですが、このジャンル名が、すべての理系人を満足させる呼び方だとは思いません。コンピュータ・テクノロジーの分野は論理の世界なので、理系、文系で分けられないジャンルだと思います。 コンピュータ・テクノロジーは比較的好きな分野であるため、すらすらと読めましたが、そういった読みやすさを無視して、ミステリー性、物語性などで総合的に評価すれば、標準よりやや上かなといったところです。 それに前半のあの事象は、大筋ではあっても真相を予想させるもので、これはいかがなものかと思います。もちろん、微細な点は常人が想像できるような単純なものではなく、容易にたどり着けるものではありません。そのへんが狙いだったのでしょう。仕掛けはよく考えられています。 それと、嗜好の問題ですが、犀川のキャラクタがいまだに肌に合いません。 我を通したり、夢中になったりするところはあるのに、やる気満々という感じではない。適度にオタクで、適度にニヒルで、適度に熱意もあれば、適度に頑張りもする、といったキャラは、あまりにも中途半端です。 虚無丸出しで引きこもりな、コンピュータ・オタク探偵ぐらいに極端なほうがよかったのではとも思いましたが、それも読みたくないですね(笑)。 それと、細かいことですが気になっったので。 エネルギィ、キャラクタ、タイプライタなど、カタカナ語句の最後の長音符をあえて使わない、こだわり表記。でも、「メジャ」はひどい。そのくせ、「ヘリコプター」や「タワー」というのはある。どういう基準なのか? いろいろとけちをつけましたが、いままで読んだ同シリーズではいちおうベストです。 本書を後回しにして正解でした。最初に読んでいたら、その後、ガッカリ、ガックリの連続になっていたかもしれません。 |
No.425 | 6点 | 原始の骨 アーロン・エルキンズ |
(2014/09/10 10:10登録) 今作の謎は、ジブラルタル(海峡ではなく土地)で起きた殺人事件や、ギデオン自身に降りかかってきた殺人未遂事件 等々。けっこう盛り沢山です。 でも、謎解きがイマイチです。手も足も出なかったということもありますが、すっきりしません。 推理小説としての際立ったうまさは見出せませんでしたが、提起される謎自体はなかなか魅力的。それに、考古学とうまく噛み合っていることにも満足しました。 ネアンデルタール人と現生人類との混血を示唆する骨の謎や、その他開示される薀蓄もなんとも興味深い。事件の背景となるテーマは、いままで読んだなかではいちばんでした。 なお、本作から得た情報ではありませんが、ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスによって滅ぼされたという説があるようです。絶滅理由にはいろいろと説があって、いまだ謎です。辺境の地に今も生息しているという小説もありましたが、共存していたらどうなっていたでしょう。 本シリーズは安心して読めます。 本を前にしてのワクワク感は超本格物にくらべれば落ちますが、読みやすい点は一級品です。旅先でのジュリーを交えての軽めの(軽すぎはしない)会話によるものなのでしょうか。 個人的には海外版トラベル・ミステリーという位置づけです。 |
No.424 | 6点 | 探偵ガリレオ 東野圭吾 |
(2014/09/01 13:27登録) 読者が謎解きに挑戦することを前提とした作品ではないし、種明かしされた後でも、そうだったのかと唸るような作品でもない、ということを知って臨めば、マイナス点も少なく、理系、文系に関係なく楽しめるはずだが。 実は本書のような理系トリックはそれほど好きではない。理系のくせにわからないから、というのが本音だが。 でも、この短編集は、理系トリックに徹底的にこだわってチャレンジしたことに意義がある。作者の自己満足も多少はあるかもしれないが、個人的には、東野さん、よくやった、と賞賛している。 それに、捜査の過程を十分に描写して、犯人当てをする余地を残してくれているのはうれしい。伏線を見つけて楽しむ方法もあれば、キャラを楽しむ方法だってある。理系短編でこれだけの楽しみ方ができるなんてすごいこと。だから、理系ミステリーだからという理由だけで評価を下げるつもりはない。 ということで、評価は標準超え。 もしかして、トリックは理解できないながらも、潜在的な理系の血が騒いだのかもしれない(笑)。 出来は多少の差がある。『離脱る』はミステリーとしてはいまひとつなのだが、けっこう好みだ。トリック(とはいえないが)もわかりやすくていい。 最後に 理系ミステリー、理系トリックという用語が一般化しているが、個人的には、自然科学(系)ミステリー、自然科学(系)トリックと呼びたい。ただ、「自然科学ミステリー」だと、「〇〇の科学の謎を探る」みたいな、NHKのドキュメンタリー番組と勘違いされそう。 |
No.423 | 4点 | 汝の名 明野照葉 |
(2014/08/28 09:47登録) 主たる登場人物は、陶子と久恵の二人。 陶子は人材派遣会社の経営者。見た目が派手で、やや気分屋のところがある。久恵は精神的に弱く、人間関係のもつれで会社を辞め、陶子のマンションに居候し、陶子に仕え、家事全般をこなす。そんな二人だから、家の中でも上下関係ができ、いわばサド、マゾの間柄になっている。そして、その関係が徐々に変化していく・・・。 途中までは読みやすいも退屈な感もある。中ほどからは、読み手が感じられる恐怖感はほどほどとしても、サスペンスでうまく引っ張りながら読ませてくれる。 本サイトでは好まれないタイプの小説なのだろうが、個人的には守備範囲に入るし、夢中にもなった。 ただ不満も多い。 陶子が経営する人材派遣会社は、依頼人を見栄えよくするための恋人役や、老人が家族旅行を装うための孫娘役などの演技者を派遣する、かなり胡散臭い派遣業。この設定に意味があるのだろうか。演技者と依頼人との間でやがて心が通じ合うようになるラヴ・コメディの類だったらいいのだが。 中途に明かされるサプライズ(というほどでもないが)は、ほとんど意味がなく、なくてもいい。でもこれが売りのようでもある。最後のオチも読みやすい。 女性二人は見かけも性格も対照的でわかりやすく、そこが読者を惹きつけてくれるが、男性たちは、誰が誰だか記憶にとどめるのも困難。男はどうでもいいと思って描いたのか。 で、結論は。 読んでいてその場は楽しめるが、ただそれだけ。中短編で十分。 別々の事象を強引に結びつけ、さらに枝葉をつけて長編のプロットを構築したという感じがした。 |
No.422 | 5点 | ローマ帽子の秘密 エラリイ・クイーン |
(2014/08/20 13:29登録) 殺人は1件のみ、ポイントは帽子のみ。これだけのことに、この長さと登場人物の多さには辟易します。 作者は、読者に、純粋に、フェアな謎解きロジックだけを楽しんでもらおうと考えたのでしょう。万人に楽しんでもらおうとは一切考えなかったのでは、と思います。本作は、エンターテイメント小説としての、読者を喜ばせるためのプロットづくりができていないようです。 変な見方かもしれませんが、プロットが不十分なまま自己満足的に書き上げた純文学との共通性を感じます。 本格推理小説を目指して書いたデビュー作なんて、こんなものなのでしょうか。有栖川氏の「月光ゲーム」を読んだときも同じような印象を受けました。 もちろん、謎解きだけを目的に、地道にじっくりと読むファンには好まれることにはちがいありません。それに本作には、劇場という衆人環視の中での殺人という、題材の魅力があることもたしかです。 エラリー・クイーンといえども、全作が名作というわけにはいかないようですが、本作も魅力がゼロなわけではないし、謎解きはそれなりの出来だし、なんといっても歴史的意義があるから、エンターテイメント小説(ミステリー)の評価としては、「標準作品」と位置づけていいでしょう。 |
No.421 | 3点 | カリオストロの復讐 モーリス・ルブラン |
(2014/08/08 09:41登録) 有名な『カリオストロ伯爵夫人』と勘違いして手にしました。 ルパンは怪盗ではなく探偵役なのか、と読み始めで思い、さらに読み進むとそうでもなく、巻きこまれ型では、という流れになってきます。なんか変だなぁと思いつつも読み進みますが、ついに不安になり、いろいろ調べてみると・・・ 本作は、『カリオストロ伯爵夫人』を前提とした後日談のような位置づけのようです。しかも、シリーズ後半の作品で、いままでのシリーズ登場人物も絡んでくるようです。 ルパン・シリーズというのは、シリーズの進行とともに、主人公ルパンが年を重ね成長してゆくスタイルをとっているようで、シリーズそのものがルパンのライフ・ストーリーとなっているようです。 といったシリーズなだけに、『怪盗紳士ルパン』『奇岩城』の2作を読んだだけで本書を手にとったのは、馬鹿げた選択だったのかもしれません。 ルパンに深くかかわりのある人物が殺人事件に巻き込まれ、そのためルパン自身も渦中の人となるという設定で、その裏には実は・・・ まあ、単体でも面白そうな気もしますが・・・ とにかく一連の作品を読んでから、もう一度読んでみましょう。 ただ、そうはいっても冷静に考えてみて、本作がそれほど楽しめる代物かというと、そうではなく、ストーリー・ライン自体がイマイチかな・・・ ファンがルパンの後半生の一部を楽しむだけの内容なのでは・・・ いや作品には罪はない!? 評点は本作を選んだ自分自身に対するものです。 |
No.420 | 6点 | 現場に臨め アンソロジー(国内編集者) |
(2014/08/04 09:35登録) 蒼井上鷹、安東能明、池井戸潤、逢坂剛、大沢在昌、今野敏、佐野洋、柴田哲孝、曽根圭介、長岡弘樹、新津きよみ、誉田哲也、薬丸岳、横山秀夫、連城三紀彦。 総勢15名のアンソロジー。うち8名が未読作家だった。 初めての作家では安東、逢坂、柴田、薬丸の作品がよかった。久しく読んでいなかった大沢にはわくわくした。佐野洋の「爪占い」は光っていた。長岡の「文字板」は技巧的。 みな2,30ページという短さがよかったし、多くの作品が警察小説であることにも満足した。 本書は、「小さな異邦人」を図書館に予約しようとした際に操作を誤って予約を入れたもの。キーワードを入力ミスしたためかと思い、とくに奇異には感じなかったが、今回本書を借り目次を見て納得。「小さな・・・」が所収されていたのだ。 予約ミスに気づいた時点でその原因を究明しないなんて、ミステリー読みのくせにまだまだ甘い。 それにしても、数年前の発行なのに5,6人の待ちがあったのには驚いた。連城氏最後の短編集の表題作が収録されていることによるものか、それとも私同様、予約ミスによるものなのだろうか。ちなみに、「小さな・・・」は複数冊の所蔵があり、すぐに回ってきた。 |
No.419 | 7点 | 臨場 横山秀夫 |
(2014/07/27 15:01登録) 横山氏の本格系作品集の中では出色の出来栄えです。どの作品集も軒並み良しと言えますが、とくに本短編集は、いかにも本格という香りがする点がさらに良しです。ただ、この作家の場合、個人的には本格系作家というより、短編小説の名手というほめ言葉がまず思い浮かんできます。 「眼前の密室」は結末が意外すぎるとも言えるが、良作にはちがいない。テレビ版も面白かった。 個人的名作は、「鉢植えの女」。こういう小手先っぽいのは本来好きではないが、トリックがストーリーに溶け込んでいるのが良い。短編にしっかりとしたサブ・ストーリーが盛り込んであるのにも関心した。 「餞」は心温まる作品。こういうのをさりげなく挿入するところが心憎い。 「声」はとても印象に残る作品。この真相(実は藪の中)を現場の状況から判断して結論を出す倉石は、やはり超人。 「真夜中の調書」。倉石は天才か?ちょっとやりすぎなのでは?話はやや湿っぽい。 「黒星」。倉石が人格者でもあることを証明した作品。 最初の「赤い名刺」と、最後の「十七年蝉」。工夫はあるが、出来はごく普通。 映像版も、また良しです。テレビならではの一般受けしそうなキャラクタ作りがされています。原作のほうが抑え気味とはいうものの、倉石は強烈です。全般に短編小説ならではのクールな雰囲気が漂っていますが、ほろっとさせる作品を適度にバランスよく配合するなど、作品ごとに変化がつけてあり、読者の惹きつけ方は絶妙です。 ドラマのほうは回を重ねるごとに、お涙頂戴指数が徐々に度を越してきた感があります。倉石の潤んだ目が臭く感じられてきます。ちょっと芝居がかりすぎていたようです。 |
No.418 | 5点 | 消えずの行灯 本所七不思議捕物帖 誉田龍一 |
(2014/07/18 10:01登録) 江戸時代物連作短編集。タイトルどおり、7編収録。 主人公はワトスン役の仁杉潤之助と、ホームズ役の榎本釜次郎。二人は御家人の子息で、蘭学を学ぶ学生の身分。 さらに、腕の立つ今井や、噺家の次郎吉たちも素人捜査に加わる。その他、同心や潤之助の姉は謎解きの準レギュラーメンバーとして登場する。 事件はおもに殺しだが、たいした謎解きはない。ただ、科学的なからくりが多く、アイデアとしては評価できる。表題作は小説推理新人賞を受賞している。殺しを扱ってはいるが、江戸物らしいほのぼのさがあり、その事件とのアンマッチ感も魅力である。 潤之助を除く常連メンバーもゲスト陣も、実在の人物であることが途中で明かされ、最後にはその後のことも紹介される。そこは面白いところ。時代物なら実在の人物でも好きなことを書けるので、おそらく時代作家さんたちは、想像をふくらませて楽しみながら書いているのでしょう。 個人的には、こういう連作短編はパターン化されていて飽きがくるので、たまにしか読みたいとは思いませんが、一般的には喜ばれるのではと思います。まずまずの作品集といえるのでは。 |
No.417 | 6点 | リガの犬たち ヘニング・マンケル |
(2014/07/14 09:55登録) シリーズ第2弾。 スウェーデンの南部の海岸に救命ボートが漂着した。そのボートの中には二人の男の死体が横たわっていた。 この事件を田舎町のイースタ署のヴァランダーたちが捜査する。捜査が進むにつれ、二人が東欧の人間であることが判明する。そしてその後、外務省の役人や、ラトヴィアの刑事がイースタへやってきて、国際犯罪捜査物らしくなるが。 これからが予想もつかぬ展開となる。 それからのヴァランダーは、まるでハードボイルドか、スパイスリラーか、冒険大活劇の主人公のよう。これが警察ミステリーとはとてもいえない。 ボートの謎の死体から始まるわりには謎解き要素は少ないが、ストーリーにいろいろ変転があって楽しめた。 主人公のクルト・ヴァランダーには臆病な面もあれば、勇敢な面もある。勇敢というより無鉄砲という感じだろうか。敵に一人で立ち向かっていく姿はけっこうシリアスなんだけど、気弱な面が顔を出すからか、可笑しくも感じてしまう。とてつもなく恰好の悪い場面もあったりする。 本作での彼の行動は警察官の正義感によるものではなく、プライベートな理由によるもの。滅茶苦茶なんだけど、そんな彼の行動や内面がこの小説、このシリーズの魅力となっているのでしょう。 |
No.416 | 6点 | 小さな異邦人 連城三紀彦 |
(2014/06/26 14:07登録) 『指飾り』『無人駅』『蘭が枯れるまで』『冬薔薇』『風の誤算』『白雨『さい涯てまで』『小さな異邦人』の8作。 人間同士とくに男女間の愛憎を軸にしてミステリー仕立てにした作品群、といったところだろううか。 『蘭が枯れるまで』はシニカルなラストが冴えていた。 『白雨』には、いつも以上の強烈な反転で度肝を抜かれた。ラストの畳みかけには参った。 そして表題作。こんな誘拐もあったのか。あの短さでこの内容、ほんとうに充実している。それにしても、8人の子どもたちを一人で育てるなんて、大変だなぁ。 恋愛小説家に見合った、ミステリー要素のすくない小説のように見せながらも、あのプロット、あのラスト。読み始めでは薄味に感じたが、やっぱりあざやかなミステリーだった。 ただ、総じて〇だが△があるのもたしか。 シュールすぎるのでは、という気もした。この作者なら、言わずもがななのだが。 |
No.415 | 6点 | 黒蜥蜴 江戸川乱歩 |
(2014/06/20 09:54登録) みなさんが記載されているように、映画、演劇では有名な作品です。 原作は初めてですが、断片的な記憶しかなかったので、まあ読んでよかったかなという程度です。でも、ちょっとちがうかなという感はおおいにありますが。 挿絵付きだったので、それによる効果はあったようです。うまく描かれているなあと挿絵ばかりを見返してました。 こんな小説が今、突然出てきたとしたら、どんな評価を受けるのでしょう。 少年向けとしては大人っぽいところが多すぎるし、大人が読むとしたら、目の肥えた現代人にはどう考えても・・・、いや意外に新鮮にみえるのかもしれません。まあ大騒ぎされることはまちがいなしです。 ラストも余韻が残りましたしね。これも無茶苦茶な感はありましたが、今なら新鮮ですw 乱歩に関しては映像は多く観ていますが、原作を読んだのはごくわずか。タイトルを見れば、懐かしくて読んでみようかなとも思うのですが、通俗物、少年物はほどほどにしておくのがよさそうです。 |
No.414 | 6点 | 硝子の葦 桜木紫乃 |
(2014/06/16 18:37登録) 直木賞作家だが、個人的には縁のない作家さんだと思っていた。 本作文庫版の帯には「傑作ミステリー」とあったから読んでみた。 「ミステリータッチ」でも、「ミステリー風」でもなければ、「サスペンス」でもなく、しっかりと「ミステリー」と書いてあった。どんなものかと、裏の解説も読まずに臨んだ。 序章で事故で死んだ主人公らしき節子の、死に至るまでの経緯を、読者に想像させるような、その程度のミステリーだと思っていた。そういうふうに想像しながらの読書は、ほどほどに楽しめた。 序章のあとの、事故発生までを描いた本編は、ラブホテルを経営する節子の夫が交通事故を起こし意識不明になるところから話が始まる。そして一方では、主人公の短歌仲間の親娘との交流話も始まる。どうも重要な人物らしいがよくわからない。わけがわからないまま本編の終盤に来てやっと話がはっきりと動く。 そして終章で、本作が「ミステリー」であることの謎が解ける。 一部の登場人物の人間関係は複雑。尋常ではないが、当たり前のようにごく普通に描いてある。ただこの関係はミステリーにはそれほど関係がない。 本格ミステリーではないが、ただのサスペンスともちがう。たしかにミステリーにはちがいない。実はジャンルとして適切なものがあるが、それを開示してしまうとネタバレになるかなと思い、サスペンスとした。 とにかく陰気くさい小説だった。直木賞受賞作『ホテルローヤル』の評を見ても、暗いというキーワードが見つかる。 本作の場合、最後まで読めば暗いのにはわけがあるという感じがしないでもないが、この暗さはもうすこしなんとかならんのかなぁ。 |
No.413 | 5点 | ゴッドウルフの行方 ロバート・B・パーカー |
(2014/06/10 10:02登録) スペンサー・シリーズ第1作。 まだ恋人も仲間も登場していない。 スペンサーのキャラが、既読の『約束の地』や『初秋』のそれとはかなり違うように思う。女性に手が早く、荒っぽく、口が悪いマッチョ男という感じだ。しかも悪党にやられる場面もある。 これが当初作者が想定していた姿なんだろう。 その後の作品のスーパー・ヒーロー振りよりもましな気もするが、頭の中にイメージが出来上がっているせいか、これこそがハードボイルドのヒーロー像というわけにはいかない。 あらすじは、大学から手書き写本が盗まれ、それに絡んで殺人が起こり、被害者のガールフレンドが容疑者にされ、その容疑を晴らすためにスペンサーが雇われる、というもので、一応はミステリーになっている。 ギャングも登場し、撃ち合いもあり、ハードボイルドらしい流れになるのだが、ミステリーのプロットとしては物足らない。 主人公の日常はあまり描かれていない。このシリーズは、スペンサーの身の回りのサイドストーリーこそが特徴のはず。スーザンが登場してからのスタイルなのか? ようするに、第1作は、その後の作品とはいろんな面で違っていた。 気に入って読んでいるシリーズではないが、読みやすいから読んでしまう。もうやめようと思いつつ、読んでいて膝を打つような何かが見つかればいいのになと思いながら続けている。 |
No.412 | 7点 | 天使の眠り 岸田るり子 |
(2014/06/04 10:28登録) 13年ぶりに再会した元恋人の一二三に対する宗一の態度は、どう考えても尋常ではありません。これが重要なのですが、軽く流していました。じつに大胆な大トリックが使われていました。 読みはじめでは女流作家の男性視点に違和感をもち、その後繰り返される視点転換で、もしや『殺戮にいたる病』風ミステリーなのかと疑い、でも書き振りからすれば、カトリーヌ・アルレーか小池真理子似のサスペンスではと感じていたのですが・・・。 じつはこういうミステリーだったんですね。 ミステリー的な伏線がたっぷりと、惜しげもなく開示されていたのですが、みごとに騙されてしまいました。 しかも終わり方がなかなか粋で、これも好印象。 ただ1点、あの人がちょっとかわいそうだなと思いました。本当はそれこそが上手いところなんですけどね。 はじめての作家さんなので、文庫裏の解説からどんなミステリーなのか、どんな作家なのか、いろいろと想像しましたが、なにもかもはずれていました。 結局、「天使」つながりの、夏樹静子の『天使が消えていく』みたいな読後感でした。 |
No.411 | 7点 | レーン最後の事件 エラリイ・クイーン |
(2014/05/31 21:24登録) シェイクスピアの稀覯本がテーマ。 サム元警視の娘ペイシェンスの登場で花を添え、のんびりと失踪人と本の行方でも推理するか、というのが前半。 ところが後半、しかも詰めの段階でかなり雲行きが怪しくなり、殺人も発生する。そして怒涛の勢いでラストへと。やはり悲劇だった。 ゆるめの雰囲気からシリアスへのこの変化はたまらない。日本人なら好きな人は多いのではないだろうか、と勝手に日本人の代表のように代弁してしまったが。 ただクイーン・ファンにとっては、やや物足らないのではないか。犯人当ての楽しみはあるだろうが、ミステリー的にみてXやY、Zよりも1枚おちるだろう。 極端に言えば、この結末があれば、中途のプロットは適当でもいいのだし。まあでも、中途までは抜群、ラストで台無しという小説にくらべればはるかにいい。 嗜好だけならまちがいなく8点以上だが、評価となれば、いろんな要素をかんがみて点数はこんなところ。 |
No.410 | 7点 | スイス時計の謎 有栖川有栖 |
(2014/05/22 10:25登録) 「あるYの悲劇」・・・ダイイングメッセージ+α。単純だが平均以上の出来。 「女彫刻家の首」・・・いちばん印象が薄い。なんで首切ったんだったかな? 「シャイロックの密室」・・・トリックそのものはそれほど好きではないが、倒叙モノならではのワクワク感がたまらない。 「スイス時計の謎」・・・かなり良い。だが、登場人物が「論理的」とか「ロジック」とかいう言葉を吐きすぎ。こういうセリフに左右され、そう思い込んでしまうこともある。ちょっとずるいなあ。 短編ということもあって総じて地味。でも満足。 こういった作品群を読むと、本格ミステリって本当にいいな、とあらためて感じさせてくれます。 |
No.409 | 5点 | 検屍官 パトリシア・コーンウェル |
(2014/05/16 18:57登録) 検屍官シリーズの第1作。 本作は連続殺人モノで、被害者は若い女性たち。 捜査するのは、刑事マリーノ。主人公の検屍官ケイ・スカーペッタがこれに加わる。 本格モノと信じて読み始めたら、しだいにケイの周辺の雲行きが怪しくなり、サスペンスフルなストーリーになっていく。 本格モノと思っていたから、ケイの一人称で語られるのに違和感があったが、こういうミステリーだったからなのかと納得した。 まあでも本格モノとも言えるのだが。 主人公の職業柄、医学的なものはもちろんだが、データベースへの侵入など、専門的な事柄も絡んでくる。本来なら一部の読者にしか受け入れられそうにないタイプなのに、広範囲な読者層に読まれるように、きわめて読みやすく書いてあるのがすごいところだ。 ケイの揺れ動く内面の描写も面白い。突飛なたとえだが、「隠蔽捜査」の竜崎のようだ。こういうところが受ける理由なのだろう。ケイの私生活部分のサイドストーリーも好まれる理由だろうか。まるでパーカーのスペンサーシリーズのようだ。 ただ、どうしてこんなに売れたのだろうという疑問がわく。当時としては新しいタイプのミステリーだったからなのか。でも、そんなにすごいとは思えない。読みやすいわりには、ストーリーにとりとめのなさもある。 さらに、ブックオフで大量に売れ残っているのも不思議だ。時代性がある内容だが、そんなに飽きられる小説だとも思えない。バカ売れしたという証明なのか。 う~ん、けなしているのか、擁護しているのか、自分でもさっぱりわからない。 |
No.408 | 6点 | 残照 今野敏 |
(2014/05/07 10:08登録) 安積警部補シリーズ。 安積にくわえ、交通機動隊の速水警部補が活躍する。 捜査の対象は、暴走族のリーダーの殺害事件。 ポイントの1つめは、速水によるカーチェイス。さすが今野氏、文章でも興奮できるところはすごい。人物描写だけではなく、情景描写もわかりやすい。 2つめが、隠蔽捜査みたいに身内に敵がいること。捜査会議での相良たち本庁とのやりとりは楽しめる。敵といってもあくまでも身内なのでベクトルは同じ。だから、最終的には1つにはなる。予定通りではあった。 予定調和という感じはするものの、ほどほどに楽しめた。本格ミステリーではないのでしかたないが、犯人像が見えにくいところは難点。手がかりというだけでなく、小説としての伏線もすくないように思う。 |