臣さんの登録情報 | |
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平均点:5.90点 | 書評数:660件 |
No.420 | 6点 | 現場に臨め アンソロジー(国内編集者) |
(2014/08/04 09:35登録) 蒼井上鷹、安東能明、池井戸潤、逢坂剛、大沢在昌、今野敏、佐野洋、柴田哲孝、曽根圭介、長岡弘樹、新津きよみ、誉田哲也、薬丸岳、横山秀夫、連城三紀彦。 総勢15名のアンソロジー。うち8名が未読作家だった。 初めての作家では安東、逢坂、柴田、薬丸の作品がよかった。久しく読んでいなかった大沢にはわくわくした。佐野洋の「爪占い」は光っていた。長岡の「文字板」は技巧的。 みな2,30ページという短さがよかったし、多くの作品が警察小説であることにも満足した。 本書は、「小さな異邦人」を図書館に予約しようとした際に操作を誤って予約を入れたもの。キーワードを入力ミスしたためかと思い、とくに奇異には感じなかったが、今回本書を借り目次を見て納得。「小さな・・・」が所収されていたのだ。 予約ミスに気づいた時点でその原因を究明しないなんて、ミステリー読みのくせにまだまだ甘い。 それにしても、数年前の発行なのに5,6人の待ちがあったのには驚いた。連城氏最後の短編集の表題作が収録されていることによるものか、それとも私同様、予約ミスによるものなのだろうか。ちなみに、「小さな・・・」は複数冊の所蔵があり、すぐに回ってきた。 |
No.419 | 7点 | 臨場 横山秀夫 |
(2014/07/27 15:01登録) 横山氏の本格系作品集の中では出色の出来栄えです。どの作品集も軒並み良しと言えますが、とくに本短編集は、いかにも本格という香りがする点がさらに良しです。ただ、この作家の場合、個人的には本格系作家というより、短編小説の名手というほめ言葉がまず思い浮かんできます。 「眼前の密室」は結末が意外すぎるとも言えるが、良作にはちがいない。テレビ版も面白かった。 個人的名作は、「鉢植えの女」。こういう小手先っぽいのは本来好きではないが、トリックがストーリーに溶け込んでいるのが良い。短編にしっかりとしたサブ・ストーリーが盛り込んであるのにも関心した。 「餞」は心温まる作品。こういうのをさりげなく挿入するところが心憎い。 「声」はとても印象に残る作品。この真相(実は藪の中)を現場の状況から判断して結論を出す倉石は、やはり超人。 「真夜中の調書」。倉石は天才か?ちょっとやりすぎなのでは?話はやや湿っぽい。 「黒星」。倉石が人格者でもあることを証明した作品。 最初の「赤い名刺」と、最後の「十七年蝉」。工夫はあるが、出来はごく普通。 映像版も、また良しです。テレビならではの一般受けしそうなキャラクタ作りがされています。原作のほうが抑え気味とはいうものの、倉石は強烈です。全般に短編小説ならではのクールな雰囲気が漂っていますが、ほろっとさせる作品を適度にバランスよく配合するなど、作品ごとに変化がつけてあり、読者の惹きつけ方は絶妙です。 ドラマのほうは回を重ねるごとに、お涙頂戴指数が徐々に度を越してきた感があります。倉石の潤んだ目が臭く感じられてきます。ちょっと芝居がかりすぎていたようです。 |
No.418 | 5点 | 消えずの行灯 本所七不思議捕物帖 誉田龍一 |
(2014/07/18 10:01登録) 江戸時代物連作短編集。タイトルどおり、7編収録。 主人公はワトスン役の仁杉潤之助と、ホームズ役の榎本釜次郎。二人は御家人の子息で、蘭学を学ぶ学生の身分。 さらに、腕の立つ今井や、噺家の次郎吉たちも素人捜査に加わる。その他、同心や潤之助の姉は謎解きの準レギュラーメンバーとして登場する。 事件はおもに殺しだが、たいした謎解きはない。ただ、科学的なからくりが多く、アイデアとしては評価できる。表題作は小説推理新人賞を受賞している。殺しを扱ってはいるが、江戸物らしいほのぼのさがあり、その事件とのアンマッチ感も魅力である。 潤之助を除く常連メンバーもゲスト陣も、実在の人物であることが途中で明かされ、最後にはその後のことも紹介される。そこは面白いところ。時代物なら実在の人物でも好きなことを書けるので、おそらく時代作家さんたちは、想像をふくらませて楽しみながら書いているのでしょう。 個人的には、こういう連作短編はパターン化されていて飽きがくるので、たまにしか読みたいとは思いませんが、一般的には喜ばれるのではと思います。まずまずの作品集といえるのでは。 |
No.417 | 6点 | リガの犬たち ヘニング・マンケル |
(2014/07/14 09:55登録) シリーズ第2弾。 スウェーデンの南部の海岸に救命ボートが漂着した。そのボートの中には二人の男の死体が横たわっていた。 この事件を田舎町のイースタ署のヴァランダーたちが捜査する。捜査が進むにつれ、二人が東欧の人間であることが判明する。そしてその後、外務省の役人や、ラトヴィアの刑事がイースタへやってきて、国際犯罪捜査物らしくなるが。 これからが予想もつかぬ展開となる。 それからのヴァランダーは、まるでハードボイルドか、スパイスリラーか、冒険大活劇の主人公のよう。これが警察ミステリーとはとてもいえない。 ボートの謎の死体から始まるわりには謎解き要素は少ないが、ストーリーにいろいろ変転があって楽しめた。 主人公のクルト・ヴァランダーには臆病な面もあれば、勇敢な面もある。勇敢というより無鉄砲という感じだろうか。敵に一人で立ち向かっていく姿はけっこうシリアスなんだけど、気弱な面が顔を出すからか、可笑しくも感じてしまう。とてつもなく恰好の悪い場面もあったりする。 本作での彼の行動は警察官の正義感によるものではなく、プライベートな理由によるもの。滅茶苦茶なんだけど、そんな彼の行動や内面がこの小説、このシリーズの魅力となっているのでしょう。 |
No.416 | 6点 | 小さな異邦人 連城三紀彦 |
(2014/06/26 14:07登録) 『指飾り』『無人駅』『蘭が枯れるまで』『冬薔薇』『風の誤算』『白雨『さい涯てまで』『小さな異邦人』の8作。 人間同士とくに男女間の愛憎を軸にしてミステリー仕立てにした作品群、といったところだろううか。 『蘭が枯れるまで』はシニカルなラストが冴えていた。 『白雨』には、いつも以上の強烈な反転で度肝を抜かれた。ラストの畳みかけには参った。 そして表題作。こんな誘拐もあったのか。あの短さでこの内容、ほんとうに充実している。それにしても、8人の子どもたちを一人で育てるなんて、大変だなぁ。 恋愛小説家に見合った、ミステリー要素のすくない小説のように見せながらも、あのプロット、あのラスト。読み始めでは薄味に感じたが、やっぱりあざやかなミステリーだった。 ただ、総じて〇だが△があるのもたしか。 シュールすぎるのでは、という気もした。この作者なら、言わずもがななのだが。 |
No.415 | 6点 | 黒蜥蜴 江戸川乱歩 |
(2014/06/20 09:54登録) みなさんが記載されているように、映画、演劇では有名な作品です。 原作は初めてですが、断片的な記憶しかなかったので、まあ読んでよかったかなという程度です。でも、ちょっとちがうかなという感はおおいにありますが。 挿絵付きだったので、それによる効果はあったようです。うまく描かれているなあと挿絵ばかりを見返してました。 こんな小説が今、突然出てきたとしたら、どんな評価を受けるのでしょう。 少年向けとしては大人っぽいところが多すぎるし、大人が読むとしたら、目の肥えた現代人にはどう考えても・・・、いや意外に新鮮にみえるのかもしれません。まあ大騒ぎされることはまちがいなしです。 ラストも余韻が残りましたしね。これも無茶苦茶な感はありましたが、今なら新鮮ですw 乱歩に関しては映像は多く観ていますが、原作を読んだのはごくわずか。タイトルを見れば、懐かしくて読んでみようかなとも思うのですが、通俗物、少年物はほどほどにしておくのがよさそうです。 |
No.414 | 6点 | 硝子の葦 桜木紫乃 |
(2014/06/16 18:37登録) 直木賞作家だが、個人的には縁のない作家さんだと思っていた。 本作文庫版の帯には「傑作ミステリー」とあったから読んでみた。 「ミステリータッチ」でも、「ミステリー風」でもなければ、「サスペンス」でもなく、しっかりと「ミステリー」と書いてあった。どんなものかと、裏の解説も読まずに臨んだ。 序章で事故で死んだ主人公らしき節子の、死に至るまでの経緯を、読者に想像させるような、その程度のミステリーだと思っていた。そういうふうに想像しながらの読書は、ほどほどに楽しめた。 序章のあとの、事故発生までを描いた本編は、ラブホテルを経営する節子の夫が交通事故を起こし意識不明になるところから話が始まる。そして一方では、主人公の短歌仲間の親娘との交流話も始まる。どうも重要な人物らしいがよくわからない。わけがわからないまま本編の終盤に来てやっと話がはっきりと動く。 そして終章で、本作が「ミステリー」であることの謎が解ける。 一部の登場人物の人間関係は複雑。尋常ではないが、当たり前のようにごく普通に描いてある。ただこの関係はミステリーにはそれほど関係がない。 本格ミステリーではないが、ただのサスペンスともちがう。たしかにミステリーにはちがいない。実はジャンルとして適切なものがあるが、それを開示してしまうとネタバレになるかなと思い、サスペンスとした。 とにかく陰気くさい小説だった。直木賞受賞作『ホテルローヤル』の評を見ても、暗いというキーワードが見つかる。 本作の場合、最後まで読めば暗いのにはわけがあるという感じがしないでもないが、この暗さはもうすこしなんとかならんのかなぁ。 |
No.413 | 5点 | ゴッドウルフの行方 ロバート・B・パーカー |
(2014/06/10 10:02登録) スペンサー・シリーズ第1作。 まだ恋人も仲間も登場していない。 スペンサーのキャラが、既読の『約束の地』や『初秋』のそれとはかなり違うように思う。女性に手が早く、荒っぽく、口が悪いマッチョ男という感じだ。しかも悪党にやられる場面もある。 これが当初作者が想定していた姿なんだろう。 その後の作品のスーパー・ヒーロー振りよりもましな気もするが、頭の中にイメージが出来上がっているせいか、これこそがハードボイルドのヒーロー像というわけにはいかない。 あらすじは、大学から手書き写本が盗まれ、それに絡んで殺人が起こり、被害者のガールフレンドが容疑者にされ、その容疑を晴らすためにスペンサーが雇われる、というもので、一応はミステリーになっている。 ギャングも登場し、撃ち合いもあり、ハードボイルドらしい流れになるのだが、ミステリーのプロットとしては物足らない。 主人公の日常はあまり描かれていない。このシリーズは、スペンサーの身の回りのサイドストーリーこそが特徴のはず。スーザンが登場してからのスタイルなのか? ようするに、第1作は、その後の作品とはいろんな面で違っていた。 気に入って読んでいるシリーズではないが、読みやすいから読んでしまう。もうやめようと思いつつ、読んでいて膝を打つような何かが見つかればいいのになと思いながら続けている。 |
No.412 | 7点 | 天使の眠り 岸田るり子 |
(2014/06/04 10:28登録) 13年ぶりに再会した元恋人の一二三に対する宗一の態度は、どう考えても尋常ではありません。これが重要なのですが、軽く流していました。じつに大胆な大トリックが使われていました。 読みはじめでは女流作家の男性視点に違和感をもち、その後繰り返される視点転換で、もしや『殺戮にいたる病』風ミステリーなのかと疑い、でも書き振りからすれば、カトリーヌ・アルレーか小池真理子似のサスペンスではと感じていたのですが・・・。 じつはこういうミステリーだったんですね。 ミステリー的な伏線がたっぷりと、惜しげもなく開示されていたのですが、みごとに騙されてしまいました。 しかも終わり方がなかなか粋で、これも好印象。 ただ1点、あの人がちょっとかわいそうだなと思いました。本当はそれこそが上手いところなんですけどね。 はじめての作家さんなので、文庫裏の解説からどんなミステリーなのか、どんな作家なのか、いろいろと想像しましたが、なにもかもはずれていました。 結局、「天使」つながりの、夏樹静子の『天使が消えていく』みたいな読後感でした。 |
No.411 | 7点 | レーン最後の事件 エラリイ・クイーン |
(2014/05/31 21:24登録) シェイクスピアの稀覯本がテーマ。 サム元警視の娘ペイシェンスの登場で花を添え、のんびりと失踪人と本の行方でも推理するか、というのが前半。 ところが後半、しかも詰めの段階でかなり雲行きが怪しくなり、殺人も発生する。そして怒涛の勢いでラストへと。やはり悲劇だった。 ゆるめの雰囲気からシリアスへのこの変化はたまらない。日本人なら好きな人は多いのではないだろうか、と勝手に日本人の代表のように代弁してしまったが。 ただクイーン・ファンにとっては、やや物足らないのではないか。犯人当ての楽しみはあるだろうが、ミステリー的にみてXやY、Zよりも1枚おちるだろう。 極端に言えば、この結末があれば、中途のプロットは適当でもいいのだし。まあでも、中途までは抜群、ラストで台無しという小説にくらべればはるかにいい。 嗜好だけならまちがいなく8点以上だが、評価となれば、いろんな要素をかんがみて点数はこんなところ。 |
No.410 | 7点 | スイス時計の謎 有栖川有栖 |
(2014/05/22 10:25登録) 「あるYの悲劇」・・・ダイイングメッセージ+α。単純だが平均以上の出来。 「女彫刻家の首」・・・いちばん印象が薄い。なんで首切ったんだったかな? 「シャイロックの密室」・・・トリックそのものはそれほど好きではないが、倒叙モノならではのワクワク感がたまらない。 「スイス時計の謎」・・・かなり良い。だが、登場人物が「論理的」とか「ロジック」とかいう言葉を吐きすぎ。こういうセリフに左右され、そう思い込んでしまうこともある。ちょっとずるいなあ。 短編ということもあって総じて地味。でも満足。 こういった作品群を読むと、本格ミステリって本当にいいな、とあらためて感じさせてくれます。 |
No.409 | 5点 | 検屍官 パトリシア・コーンウェル |
(2014/05/16 18:57登録) 検屍官シリーズの第1作。 本作は連続殺人モノで、被害者は若い女性たち。 捜査するのは、刑事マリーノ。主人公の検屍官ケイ・スカーペッタがこれに加わる。 本格モノと信じて読み始めたら、しだいにケイの周辺の雲行きが怪しくなり、サスペンスフルなストーリーになっていく。 本格モノと思っていたから、ケイの一人称で語られるのに違和感があったが、こういうミステリーだったからなのかと納得した。 まあでも本格モノとも言えるのだが。 主人公の職業柄、医学的なものはもちろんだが、データベースへの侵入など、専門的な事柄も絡んでくる。本来なら一部の読者にしか受け入れられそうにないタイプなのに、広範囲な読者層に読まれるように、きわめて読みやすく書いてあるのがすごいところだ。 ケイの揺れ動く内面の描写も面白い。突飛なたとえだが、「隠蔽捜査」の竜崎のようだ。こういうところが受ける理由なのだろう。ケイの私生活部分のサイドストーリーも好まれる理由だろうか。まるでパーカーのスペンサーシリーズのようだ。 ただ、どうしてこんなに売れたのだろうという疑問がわく。当時としては新しいタイプのミステリーだったからなのか。でも、そんなにすごいとは思えない。読みやすいわりには、ストーリーにとりとめのなさもある。 さらに、ブックオフで大量に売れ残っているのも不思議だ。時代性がある内容だが、そんなに飽きられる小説だとも思えない。バカ売れしたという証明なのか。 う~ん、けなしているのか、擁護しているのか、自分でもさっぱりわからない。 |
No.408 | 6点 | 残照 今野敏 |
(2014/05/07 10:08登録) 安積警部補シリーズ。 安積にくわえ、交通機動隊の速水警部補が活躍する。 捜査の対象は、暴走族のリーダーの殺害事件。 ポイントの1つめは、速水によるカーチェイス。さすが今野氏、文章でも興奮できるところはすごい。人物描写だけではなく、情景描写もわかりやすい。 2つめが、隠蔽捜査みたいに身内に敵がいること。捜査会議での相良たち本庁とのやりとりは楽しめる。敵といってもあくまでも身内なのでベクトルは同じ。だから、最終的には1つにはなる。予定通りではあった。 予定調和という感じはするものの、ほどほどに楽しめた。本格ミステリーではないのでしかたないが、犯人像が見えにくいところは難点。手がかりというだけでなく、小説としての伏線もすくないように思う。 |
No.407 | 7点 | スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 スティーヴン・キング |
(2014/04/29 13:14登録) こんな非ホラーのヒット作品があれば、いまとなればホラー作家というレッテルを貼られていることが、本人にとってはかえって小気味がいいのではないだろうか。と、かってに本人の気持ちを読んでしまいましたが・・・。 映画でも有名な「スタンド・バイ・ミー」(秋編)は、作者がどうしても書きたかった作品なんだろうなぁ、という気がします。 ホラーではもちろんなく、ミステリーでもない。エンタテイメントかといえばちょっとちがう。 自伝的思い出語り青春小説といったところだろうか。オチもないから本来なら一般受けはしそうにないが、少年たちの冒険物語だから、いつまでもガキの心を持っていれば、どっぷりとはまってしまうでしょう。それにけっこう大胆な表現が使ってあるし、なんせ冒険テーマが死体探しだから楽しめることはまちがいなし。 「マッハッタンの奇譚クラブ」(冬編)は、奇譚クラブの会員である医師が語る、かつて診た女性患者の話。ホラー要素のあるファンタジーだろうか。この結末は強烈。ミステリーファンにも喜ばれると思うが・・・。 「恐怖の四季」は春夏秋冬に対応した全4編だが、寄せ集めという感じがしないでもない。本書はそのうちの秋冬編が収録されている。 |
No.406 | 6点 | マルタの鷹 ダシール・ハメット |
(2014/04/21 10:02登録) 伝説のマルタの鷹像の分捕り合戦。 たしかに伝説のエンタテイメント作品とはいえる。でも、ハードボイルドというよりも、なぜかお笑い作品に見えてしまう。感覚がずれているのだろうか。映画版の印象が強すぎたのかもしれない。 個人的には、いまでは古臭すぎるようにも感じる「赤い収穫」のほうが好みかな。とはいってもあまり差はなく、もっとも好きな「ガラスの鍵」にくらべれば、両者は似たり寄ったりかな。 ただ、本作はテーマ的には、時代が変わっても楽しまれる作品ではないだろうか。しかもプロットがシンプルなのもよい。 そういう意味では、子どもが読んでも楽しめるだろうし、ハードボイルド嫌いでも受け入れられそうです。いろんな人に読んでもらい感想を聞かせてほしいような気がします。 |
No.405 | 5点 | 陪審15号法廷 和久峻三 |
(2014/04/15 11:46登録) 赤かぶ検事シリーズではなく、ノン・シリーズ物。 海外の某有名作品と同じアイデアが使ってある。やはり、これはまずいなぁ。 被告人の妻が派手な服装をして法廷に立った時点で、なにかいやな予感がした。 本作はこのメインの謎(トリック)以外に、もう一つの謎がある。法廷で証人が、音もなくピストルに撃たて死ぬという事件だ。しかしながら、この謎の種明かしもたいしたことはなかった。 途中までは、読みやすくもあり読み応えもあって胸躍らされたのだが、結果的には、がっかり感のほうが大きかった。残念。 とはいえ、昭和初期に導入されていた国内の陪審制の法廷物を読めたことは収穫だった。現代のベテラン弁護士が、当時の模様を女子大生に話して聞かせるというスタイルもよかった。 上記海外某作品を未読であれば、まあまあ楽しめるのではと思い、この点数。 じつは本書購入の際、タイトルを読み違え、制度導入時に法廷物大家がリアルタイムに書いた裁判員制度モノの文庫書き下ろしか、と勘違いしていた。数年の積読後、タイトルをよく見ると・・・。 発刊が1989年で、再文庫化が2009年。あきらかに裁判員制度の導入タイミングを狙って文庫化したとしか思えない。 |
No.404 | 6点 | 恐怖の谷 アーサー・コナン・ドイル |
(2014/04/09 14:51登録) 第一部は、殺人事件とその種明かし。 第二部は、ある男のスパイ・ストーリー。こんな話だったとはね。「赤い収穫」風の話で、国内の時代小説を読んでいるような気分にもなれた。 それぞれ独立した話として楽しむことはができるが、2つの話がどのようにつながるのか、そこも楽しむための要素だ。 2つの独立したストーリーを作っておけば、あとでそれら2つをつなぐことはどうということはない、ということがよくわかった。「緋色の研究」「四つの署名」も同じような2部構成となっている。うまく考えたものと感心した。 最後の長編である本作についても同じ様式を採用したということは、結局、ドイルはこのスタイルからは脱しきれなかったということだろう。 嗜好からすれば悲劇性のある「緋色の研究」のほうがすこし上だが、ミステリー性を加味すれば両者は同格か。 もう1つの長編「バスカヴィル家の犬」だけは2部構成ではないらしい。これは子どもの頃にも読んでおらず、まったくの未読なので、楽しみにしている。 それにしても本作の記憶は5%ぐらいだろうか。かなりひどい。 |
No.403 | 6点 | 青春の葬列 笹沢左保 |
(2014/04/02 11:29登録) 表題から連想できるように、若者の自殺、心中がテーマとなっている。 主人公の現在と、他者の過去の死とがどうリンクするのか、そこらあたりが謎(ミステリー)となっている。 登場人物たちは世をはかなんで死を望むのではなく、意外にあっけらかんとしているが、かといって明るい話はなく、また湿っぽいというわけでもない。 収録作品は、「噴煙はわが位牌」「十字架にわが業火」「過去に見た終焉」「明日こそわが柩」「絶唱は海の彼方に」の5編。笹沢左保らしいネーミングである。 「明日こそわが柩」はラストにサプライズはないが、ミステリーらしい流れで、楽しめた。これがベスト。「噴煙はわが位牌」が次点。 短編集なので、こんなものかな、と思えばそれなりに満足できる。 20年ほど前に読んだときは、笹沢氏の短編ってすばらしいと思ったものだが、再読すると物足らなさを感じる。 |
No.402 | 6点 | 殺人者の顔 ヘニング・マンケル |
(2014/03/29 14:05登録) スウェーデン南部の片田舎で起きた殺人事件を扱った警察ミステリー。 主人公はイースタ署の刑事、クルト・ヴァランダーです。 警察小説というよりは、心身ともにボロボロに擦り切れたヴァランダーのキャラクタ小説といってもいいぐらいです。 ありとあらゆるすべてが彼の視点で描いてあります。もちろん私生活もです。彼は署内でナンバー2ぐらいの地位ですが、自ら動くというのが身上のようで、だからこそ、ヴァランダーの視点だけでも十分に楽しめるということなのかもしれません。登場人物が多いわりに読みやすいのは、そんな理由からなのしょう。 手がかりは読者へいちおう開示され、最後には回収されるのですが、手がかりをもとに謎解きすることは絶対に無理です。そういった非本格ミステリーですが、個人的には楽しめました。捜査の過程を楽しむつもりで読めば満足感は得られるのではないかと思います。 シリーズ第1作だから主人公に関する描写を中心にしたのは止むを得ない気もします。次作以降がどうなっているのか、楽しみです。 |
No.401 | 7点 | エクステンド 鏑木蓮 |
(2014/03/20 17:12登録) なにげなく手にとった本だったが、アタリだった。 作者の名前すら知らなかった。第52回乱歩賞受賞作家らしい。『東京ダモイ』で受賞とのこと。 本書は、京都が舞台の警察モノ。主人公は京都弁を操る女性新米刑事と、キャリア警察官。 (以下、ややネタバレ) 二転三転したあと最後に見せた容疑者起訴のための決定打は、警察がぎりぎりのところで掴んだ証拠だった。これが強烈だった。 文庫裏の解説には、カウントダウン・サスペンスとある。警察モノで時限が絡むとしたら、たぶんアレしかないと思っていたが、それは中ほどでほとんどわかってしまう。しかも犯人は中盤で判明したようなもので、あとは証拠を時間内にどのように見つけるか、そこがポイントとなる。 倒叙モノとあまり変わらない作りだ。最後の決定打はコロンボが仕掛ける罠のようなもので、本作では罠に匹敵する決め手が、打つ手なしとなったときに天の助けのごとく表れる。 偶然の産物ではあるが、タイムリミットの流れとあいまって抜群の効果があった。伏線も利いている。 ただ、最初に死んだ女性がやや疎略な扱われ方をしているのは気になる。これに関し最後の最後にオチがつけてあるが、わざとらしく感じた。 とはいえ十分に楽しませてくれた。 なお、もともとは『エクステンド』というタイトルだそうですが、これをたぶん出版社が改題したようです。タイムリミット物ということを強調したかったのでしょう。 |