nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2864件 |
No.924 | 5点 | 球型の殺意 山村正夫 |
(2015/12/29 19:39登録) (ネタバレなしです) 山村正夫(1931-1999)はまだ10台の若さの1949年にミステリー短編を発表して長い作家歴を持ちますが短編作家のイメージが強く、長編作品に力を入れるようになったのは1980年代になってからです。「ボウリング殺人事件」のタイトルで1972年に発表された本書は当時の作者にとって希少な長編です。作者あとがきでは「本格的推理小説」と書かれていますがkanamoriさんのご講評の通り、一般的な犯人当て謎解き小説とは異なります。強盗事件で幕を開けますがこの強盗団の正体は早い段階で読者に知らされます。作者は「トリックのフェアプレー」にこだわっており、ちょっと変わった密室トリックが使われているのが印象に残ります。しかしそれ以外には読者が推理に参加できる余地がほとんどなく、通俗スリラー色が濃いのも好き嫌いは分かれそうです。 |
No.923 | 7点 | エコール・ド・パリ殺人事件 深水黎一郎 |
(2015/12/29 19:01登録) (ネタバレなしです) 2008年発表の芸術探偵・神泉寺瞬一郎シリーズ第1作の「読者への挑戦状」付き本格派推理小説です。エコール・ド・パリの画家たちに関する知識があちこちで紹介されていますが高尚な芸術論ではなく、画家の悲劇的な生涯を通じてその人間性を中心にした描写になっていますので美術の苦手な私でも十分に理解できる内容でした。しかもそれが単なる装飾ではなく、謎解きの伏線としても使われているのですからこれは巧妙としか言いようがありません。 |
No.922 | 5点 | 虹の舞台 陳舜臣 |
(2015/12/29 18:52登録) (ネタバレなしです) 非ミステリー作品が作者の主流となりつつあった時代の1973年に発表された陶展文シリーズ第4作の本格派推理小説で、「割れる」(1962年)以来のシリーズ作品ですがこれがシリーズ最終作となりました。謎解きに関しては最終章の「割り算の余り」の真相が読者に対してアンフェアに感じられてしまのですが、美味しそうな料理を始めとする日常生活描写が地味なプロットを退屈の手前で留めているのはこの作者らしいです。 |
No.921 | 5点 | 焦げた密室 西村京太郎 |
(2015/12/29 18:40登録) (ネタバレなしです) トラベル・ミステリーの量産作家として大成功した西村京太郎(1930年生まれ)の長編第1作は社会派推理小説の「四つの終止符」(1964年)(私は未読です)ですが、本書はそれよりも前の、懸賞小説に応募しては失敗していた時代の1962年に書かれたそうです。奇跡的に原稿が発見されて2001年に出版されて陽の目を見ましたが、何と本書はユーモア本格派推理小説です。「四つの終止符」が出版されて本書がボツになったのも社会派推理小説全盛の時代の流れだったのでしょうか。ユーモアに関しては不器用な印象を受けますが謎解きはしっかり考えられています(とはいえ犯人当てとしてはちょっと不満もあります)。出版にあたって改訂されたそうですが、古典ミステリーの露骨なネタバレは削除してほしかったですね。 |
No.920 | 5点 | キリオン・スレイの敗北と逆襲 都筑道夫 |
(2015/12/29 18:15登録) (ネタバレなしです) これまで3つの短編集で活躍してきたキリオン・スレイの最後の作品にして唯一の長編作品である、1983年発表の本格派推理小説です。相変わらずキリオンは変な日本語で話の腰を折っていますが、短編作品だとあまり気にならなかったのですが本書ではややしつこいような気もします。長編ならではでしょうか、見立て連続殺人を扱っていますが結構死人が出る割には登場人物たちが淡々としていて何とも不思議な雰囲気の作品です。犯人当て推理としては動機が後づけ気味になっているなど少々問題点ありですが、短編集では飄々としていたキリオンが本書では喜怒哀楽を表に出しているのが印象的でした。 |
No.919 | 6点 | 「不要」の刻印 本岡類 |
(2015/12/29 17:54登録) (ネタバレなしです) 2001年発表の水無瀬翔シリーズ第4作の本格派推理小説です。「意外性、派手さ、論理性などが過度なほどに重視される新本格ミステリーに疲れを感じている」読者向けと作者がコメントしているように、誘拐を扱いながらもサスペンスは控え目だし、中盤では「重量物に潰されて圧死」という珍しい謎が登場しますが「飛び鐘伝説殺人事件」(1986年)と比べると演出は随分と抑制されています。作者は「テーマからプロット、トリックまで全てが上手くいきました」と相当な自信をもって送り出していますが、本格派推理小説としては本書が最後と思われ、小説家としても非ミステリーの「愛の挨拶」(2007年)を最後に断筆して、再び小説作品が発表されるまで2023年まで待たなくてはなりませんでした。 |
No.918 | 4点 | デス・コレクターズ ジャック・カーリイ |
(2015/12/28 22:19登録) (ネタバレなしです) 米国のジャック・カーリイはジェフリー・ディーヴァーの後継者のように紹介されていたし、デビュー作のカーソン・ライダーシリーズ第1作である「百番目の男」(2004年)(私は未読です)もサイコスリラーと警察小説のジャンルミックスらしかったので本格派推理小説ばかり偏愛している私には関心外の作家だったのですが、2005年発表のカーソン・ライダーシリーズ第2作は本格ミステリとして評価、それも傑作として評価されているようなので読んでみました。文春文庫版の登場人物リストには3人もの「連続殺人犯」が載っていますが既に1人は死亡、2人は拘束されていて、本書で起きた連続殺人の犯人は終盤まで素性を隠しています。巻末解説では周到な伏線のことを誉めていますが、犯人が緻密に計画していることは丁寧に説明してはいても犯人を特定する手がかりについては説明不十分です。正体を現した犯人の異常な本性の描写など読ませどころはたっぷりあるのですが、私が期待していた「本格」とは異なる作品でした。これは私の読み方がいけなかったようです。 |
No.917 | 7点 | ミス・エリオット事件 バロネス・オルツィ |
(2015/12/27 06:19登録) (ネタバレなしです) バロネス・オルツィ(1865-1947)はハンガリーの貴族出身ですが使用人の暴動によって一家は祖国を離れて英国に帰化したという数奇な経歴の持ち主です。なおバロネスは名前ではなく「男爵夫人」または「女男爵」という肩書きのことで、オルツィの場合は夫が民間出身者なので女男爵と訳すのが正しいです。英国では歴史小説家として名高く、特に「紅はこべ」(1905年)は後に映画化もされ次々に続編が書かれたほどヒットしました。日本では隅の老人シリーズを書いたミステリー作家として有名で、何度も日本独自の短編集が出版されていますが作品社版は3つの短編集全てと単行本未収録だった「グラスゴーの謎」(1901年)のシリーズ全38作を収めたまさに完全全集版です。値段は短編集3冊分どころか6冊分ぐらいしてしまうのですが(笑)、資料的価値は非常に高いです。第一短編集である「ミス・エリオット事件」(1905年)は第二短編集である「隅の老人」(1909年)に収められた1901年から1902年の作品よりも後年の、1904年から1905年にかけて発表された12作が収められています。「隅の老人」の作品と比べると若干ながら登場人物が増えてプロットも複雑になり謎解き小説としての進化が確実に見られます。「<ノヴェルティ劇場>事件」で4人の容疑者から犯人当て推理を試みているのはその一例です。「トレマーン事件」や「<バーンスデール>屋敷の悲劇」もお勧めです。 |
No.916 | 6点 | 悪夢の優勝カップ アーロン&シャーロット・エルキンズ |
(2015/12/27 05:45登録) (ネタバレなしです) 1995年発表のリー・オフステッドシリーズ第2作です。前作と比べるとミステリーとしての面白さは格段に向上しており、凄いトリックではないものの雷による感電死のような殺人という謎が非常に珍しいです。リーの探偵ぶりも進歩しており、警察をリードして謎解きしているわけではありませんがとっさの閃きで犯人を指摘する場面は鮮やかな印象を残します。ゴルフ場面やロマンス場面もほどほどに楽しめました。この「ほどほどに」というのが個人的には重要でして、ミステリーを押しのけてはいないのがいいですね。 |
No.915 | 5点 | 木曜日ラビは外出した ハリイ・ケメルマン |
(2015/12/27 05:34登録) (ネタバレなしです) 1978年発表のラビ・スモールシリーズ第7作の本格派推理小説で、これで曜日をタイトルに使った作品は勢ぞろいです。なお本書以降もケメルマンはタイトルに「Day」を使ったシリーズ作品をさらに4作書き上げました。「金曜日ラビは寝坊した」(1964年)と同じく、謎解き伏線が見え見えで人物関係が複雑な割には犯人が当てやすい作品だと思います(私が当てられたかは内緒)。 |
No.914 | 5点 | 間にあった殺人 エリザベス・フェラーズ |
(2015/12/27 05:16登録) (ネタバレなしです) 1953年発表の本格派推理小説です。フランスのニースでのパーティへ招待された男女が何かの企みがあるのではないかと疑いつつもサリイにある招待者の家へ集合したところへ殺人事件が起きるという展開です(ニースへ出発とはなりません)。特定の探偵役をおかず(警察は登場しますが直接描写は少ない)、登場人物の疑心暗鬼ぶりが丁寧に描かれてはいるのですが謎解きがいまひとつ盛り上がりません。ハヤカワポケットブック版の翻訳が半世紀以上前の古い翻訳であることも読者にとっては厳しいでしょう。新訳ならじわじわとサスペンスが増していったかもしれませんが。 |
No.913 | 5点 | 七面鳥殺人事件 クレイグ・ライス |
(2015/12/27 01:24登録) (ネタバレなしです) 1943年発表のビンゴ・リグスとハンサム・クザックのコンビシリーズ第2作の本格派推理小説です。この作者は登場人物が多くても描き分けが上手いので読者にあまり難解さを感じさせないのですが、本書の場合は素性の知れない人物が多いためか人物整理が大変で結構読みにくかったです(私の読んだハヤカワポケット版の翻訳が半世紀以上も前の古い訳であることも理由の一つですが)。場当たり的なプロットのようですが最後はしっかり謎解きして締めているところはさすがです。 |
No.912 | 4点 | バレンタインは雪あそび レスリー・メイヤー |
(2015/12/27 01:12登録) (ネタバレなしです) 1999年発表のルーシー・ストーンシリーズ第5作のコージー派ミステリーです。残念ながら推理要素はほとんどないまま行き当たりばったりで解決されてしまいます。しかし語り口は安定しており、派手な内容ではありませんが安心してすらすら楽しく読める作品です(これが次作の「史上最悪のクリスマスクッキー交換会」(1999年)になると意外とダークな描写があるのですが)。 |
No.911 | 6点 | 青の殺人 エラリイ・クイーン |
(2015/12/27 00:49登録) (ネタバレなしです) エラリー・クイーン名義で1972年に発表されたマイカ・マッコールシリーズ第3作です。真正のクイーンであるフレデリック・ダネイとマンフレッド・リーのコンビではなくゴーストライターによる作品ですが、本書のライターは短編ミステリーの名手として名高いエドワード・D・ホックであることが注目に値します(ちなみに他のマイカ・マッコールシリーズは別の作家による代作です)。ホックらしくないのは(クイーンらしくもありませんが)ハードボイルド要素が強いことです。濃厚な描写ではありませんが暴力シーンやベッドシーンもあります。とはいえ最後は本格派推理小説としてきちんと推理で犯人を見つけており(巧妙に張られた伏線があります)、「謎解き」ハードボイルドと分類できそうな出来栄えです。 |
No.910 | 4点 | 夏のレプリカ 森博嗣 |
(2015/12/26 16:47登録) (ネタバレなしです) 1998年発表のS&Mシリーズ第7作ですがこれまでのシリーズのお約束事(というよりこちらの勝手な期待ですが)からの脱却を試みたようなところがあります。例えば初めて不可能犯罪を扱わなかったこと、犀川でも萌絵でもない人物を主人公にしたこと、もやもやを残す幕切れにしたことなどです。個人的にはちょっと変化させ過ぎかなという気がします。せめて本格派推理小説として謎解きは明快な結末にしてほしかったです。 |
No.909 | 6点 | ヨギ ガンジーの妖術 泡坂妻夫 |
(2015/12/26 16:38登録) (ネタバレなしです) 1980年から1984年にかけて発表されたヨギ・ガンジーシリーズ短編7作品をまとめて1984年に出版された第一短編集です。シリーズ短編はあと数作あるらしいので再版されるならそれも収めてほしいですね。ヨギ・ガンジーは怪しい雰囲気ぷんぷんではありますが、その一方で自ら演じる妖術(?)をすぐに「これはトリックです」と明かすなどどこか憎めない人物で、取り巻きが増えていくのも納得です。迷探偵と紹介されることも多いようですが本書では結構まともな謎解きをしていて普通に名探偵の資格十分です。事件は単純、トリックも単純ながらひっくり返し方の鮮やかさが印象的な「王の恵み」と真相は古典的ながら謎の演出が巧妙な「ヨギ・ガンジーの予言」が個人的には好みです。 |
No.908 | 5点 | 鍵孔のない扉 鮎川哲也 |
(2015/12/26 16:22登録) (ネタバレなしです) 1969年発表の鬼貫警部シリーズ第12作のアリバイ崩し本格派推理小説で、文献によると本書から時刻表が載らなくなったそうです。「最終章に至る前に」読者が真相にたどりつけるようフェアプレーで謎解き挑戦しているようですが、犯人当てならまぐれ当たりもあるでしょうがアリバイトリック破りはそうもいかず、難易度は高いと思います(作者側からすればまぐれ当たりなんか認めたくないかもしれませんが)。伏線は丁寧に張ってあり、複雑で緻密なトリックはアリバイ崩し好きの読者にはたまらない魅力でしょうが、そうでない私にはあまり楽しめませんでした。 |
No.907 | 6点 | コージー作家の秘密の原稿 G・M・マリエット |
(2015/12/26 15:50登録) (ネタバレなしです) G・M・マリエットはイギリス出身の米国女性作家で(日本で暮らしたこともあるそうです)、現在もイギリスと米国を行ったり来たりの生活をしているようです。2008年発表の本書(舞台はイギリスです)がミステリーデビュー作です。タイトルから謎解きが薄味のコージー派かと思いましたが(英語原題は「Death of a Cozy Writer」です)、さにあらず。事件が発生するまではやや冗長ですが探偵役のセント・ジャスト警部が登場してからはしっかりした謎解きプロットです。推理はそれほど論理的ではありませんが古典的な本格派推理小説の雰囲気を楽しめました。 |
No.906 | 3点 | プラムプディングが慌てている ジョアン・フルーク |
(2015/12/26 11:53登録) (ネタバレなしです) 2009年発表のハンナ・スウェンセンシリーズ第12作のコージー派ミステリーです。第1章でハンナが最後の訪問者となるはずのところに殺人者が被害者を訪問する場面が描かれます。第2章からは時間をさかのぼって犯罪に至るまでの色々な出来事が描かれています。しかしその大半はハンナ日常生活がらみのもので、これが中盤まで延々と続くのでミステリー好き読者に訴えるものがほとんどありません。殺人が起きてからも謎解きは盛り上がりを欠いており、ハンナとシリーズキャラの熱心なファン読者以外にはお勧めしにくい内容です。 |
No.905 | 5点 | 祟り火の一族 小島正樹 |
(2015/12/22 08:51登録) (ネタバレなしです) 2012年発表の海老原浩一シリーズ第5作です(島田荘司との共著「天に還る舟」(2005年)はカウントしていません)。半端ない謎が詰め込まれていて「やり過ぎの小島」らしさが十分に発揮されています。雰囲気づくりには手が回りきっていないし、感心できない謎解きもあってそういうところを批判することもありだとは思いますが、双葉文庫版で400ページ少々のボリュームにこれだけ謎がてんこ盛りサービスされた作品を読めた喜びの方が勝りました。 |