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ミステリの祭典

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踊り子殺人事件
酒島章警部シリーズ

作家 嵯峨島昭
出版日1972年01月
平均点4.50点
書評数4人

No.4 5点 人並由真
(2020/11/12 19:43登録)
(ネタバレなし)
 妻子持ちの若手サラリーマンで、都内の土地会社の販売第一主任・久里村。彼は出張先の鳥取県で、レズビアン同士である美人ダンサーのコンビ、白川緋沙子と鳳芙蓉(おおとり ふよう)と知り合う。やがて彼女たちが出演する京都のクラブの楽屋に足を踏み入れた久里村だが、その周辺で殺人事件が発生。久里村は事件との関わり合いを避けるが、東京に帰ったあとも緋沙子と芙蓉との奇妙な交際は続いた。一方、京都府警の酒島警部は、この殺人事件を追い続けるが。

 最初の元版は1972年9月のカッパノベルス(光文社)。評者は今回、徳間文庫版で初めて読了。

 元版刊行当時、ミステリマガジンの新刊国産ミステリ時評で、この作品が取り上げられていた。そこでは最後に明かされる本作品の大ネタをぎりぎりまでぼやかしたまま「こういう事実は本当にあるのだろうが、一般常識を越えている。困った謎解き作品」という主旨の記述がなされていた。
 最初にその時評を目にしたときは「はて、どういうことだろうか」とコドモ心に首をかしげたが、その後、数年してSRの会の例会などに参加すると、やはりたまたまこの作品のことが話題になり、とある先輩メンバーがそこでもまた核心の部分は隠したまま「いや、ああいうことは確かに本当にあるんだ」とニヤニヤしながらのたまう。

 そして時が経って元版の刊行からほぼ半世紀が過ぎた2020年の現在、ようやっと評者は実作を読むに至ったが、すでに新本格の書き手も世代を重ね、もうこんなネタなどは……(中略)。
 まあ、時代のなかで書かれた一冊なのは間違いないだろうな。

 しかしほぼ全編を通じて、もともとは平凡なサラリーマンだった久里村がアンダーなドサ回り世界の水になじんでいく描写は予想以上の粘着質。途中で何度も何度も「なんでオレはこんなものを読んでいるんだ?」という自問の念に駆られてしまった(汗・笑)。
 とはいえ最後まで読み終えると、たしかに随所にミステリとしての仕掛けも忍ばせてあったのだから、なかなか隅に置けない? 作品ではある。

 さらに名探偵役の酒島警部のマイペースぶり(捜査の合間の、実業家の人妻になった元カノの令嬢とのゴルフ三昧)は、謎解きミステリ的には実にどうでもいいんだけれど、まあヘンなキャラ立ちとして印象には残る……かも。
(ちなみに警部の名前の公式設定は「章」と、徳間文庫版の解説(武蔵野次郎)にあるけれど、本作の徳間文庫版167ページでは地の文で「彰」表記。これはどちらが正しいのか?)
 
 最後に本作品のミステリとしての総評をまとめると、大技・小技は反則技? をふくめてそれなりにあるんだけど、一冊の読了に費やすカロリーがそれらの謎解きの部分に対して、ではないのが、なんというか……。
 まあ昭和ミステリの裾野の広がりを探求したいファンなら、コワイモノに付き合う覚悟で一回ぐらいは読んでおいてもいいかも? とは思う。

【付記】
 まったくネタバレにはならないと思うからここに書いておくけれど、本作のプロローグ部分は映画、小林旭版「多羅尾伴内」シリーズ第1作の序盤シーンの元ネタだよね? あまりにも、まんまのビジュアル過ぎるので。

No.3 4点 nukkam
(2016/01/18 16:05登録)
(ネタバレなしです) 純文学作品も書いていて芥川賞まで受賞していながら官能小説家として大成功した宇能鴻一郎(1934年生まれ)が嵯峨島昭(さがしまあきら)名義で1972年に発表したミステリーデビュー作が酒島章警部(後に警視)シリーズ第1作の本書です。酒島の出番は控え目で、売れないセールスマンの久里村を主人公にした巻き込まれ型サスペンスのプロットと謎も推理もある本格派推理小説のジャンルミクックス型です。大胆な真相が用意されていますが謎解きよりも久里村の落ち目人生描写や濃厚な官能描写に力が入っていて、退廃的な雰囲気が漂っています。低俗趣味と敬遠したくなる読者も少なくないでしょうね。

No.2 5点 kanamori
(2010/05/29 17:15登録)
女性二人組の旅芸人が全国各地を巡行する中で遭遇する殺人事件を、ひょうんなことから同行者となった普通の会社員の視点で描いています。
後の作品でシリーズ探偵役となる酒島章(さかしましょう)警部は人妻とゴルフばかりして、なぜか最後にちゃかり解決する。
ミステリの趣向として面白いのは、”人物に関するトリック”が4種類も入っているところで、通俗小説として読んでいるとまんまと騙されます。

No.1 4点 江守森江
(2010/05/23 19:09登録)
「私××なんです」で書き出される夕刊紙エロ小説の大家であり芥川賞作家でもある宇能鴻一郎大先生が、覆面作家として嵯峨島昭→(探しましょう)と駄洒落たペンネームでミステリーを書き出した最初の作品。
主人公が登場する女性達とやりまくり、性描写と旅回りの踊り子世界の描写に力点があり、ミステリーよりもエロスを追求した作風で、そのまま宇能鴻一郎名義で発表してもよかったかもしれない。
一部では、エロを絡めた結末の付け方がバカミスとして高評価されているが、それ程の作品ではない。
※発表当時より数年先の風俗に関する余談
私が学生時代のストリップは警察の摘発に負けず、まだ過激で本番マナ板ショーなどもあり、先輩に連れていかれ、後輩は舞台に上がるジャンケンに強制参加させられた(寮生の宿命)
親友がジャンケンに勝ち残り、みんなの前でさらし者になったのは今でも語り草で同窓会でも話題になる。

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