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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.1325 5点 江南の鐘
ロバート・ファン・ヒューリック
(2016/06/19 01:57登録)
(ネタバレなしです) 初めて国内に紹介された時は「中国梵鐘殺人事件」というタイトルの1958年発表のディー判事シリーズ第2作です。「半月小路暴行殺人事件」、「仏寺の秘事」、「鐘の下の白骨死体」の3つの事件を扱っていますが、順繰りに解決されることもあって初期作品の中では構成がシンプルです。本格派推理小説らしさが感じられるのは「半月小路暴行殺人事件」のみ、しかしそれも一般的な犯人当てを期待すると肩透かしを食らう真相です。一筋縄ではいかない悪役の登場や大捕り物など全体的には壮大な時代劇の印象を残します。巻末の「著者あとがき」を読むと時代描写に細心の注意を払っているのがよくわかりますが、前作の「中国迷路殺人事件」(1956年)と同じく処刑の場面を丁寧に描写しているのは好き嫌いが分かれると思います。それも作者が参考にしている中国の犯罪小説では珍しくないのかもしれませんが。


No.1324 4点 E・S・ガードナーへの手紙
スーザン・カンデル
(2016/06/19 01:34登録)
(ネタバレなしです) 美術評論家でもある米国のスーザン・カンデル(1961年生まれ)は伝記作家シシー・カルーソーシリーズ第1作の本書を2004年に発表してミステリー作家としてデビューしました。内容的にはコージー派の本格派推理小説でミステリーに関する知識とヴィンテージ・ファション描写を作中に散りばめているのが特徴です。ただし博識ぶりを披露するなら関心の低い読者への配慮が必要だと思いますが本書の場合はわかる人にしかわからないレベル、読者を選びそうです(私ごときでは完全に選外です)。登場人物リストに載っていない登場人物が多く、前半部があまりミステリーらしくない展開ということもあってコージー派としては読みにくく感じました。謎解きが運任せ気味に解決されてしまうのはいかにもコージー派ですけど(笑)。


No.1323 6点 九人の偽聖者の密室
H・H・ホームズ
(2016/06/18 23:12登録)
(ネタバレなしです) アントニー・バウチャー(1911-1968)はH・H・ホームズというペンネームで修道尼ウルスラシリーズの本格派推理小説を長編2作といくつかの短編を発表しており、1940年発表の本書はその長編第1作です。英語原題は「Nine Times Nine」で、邪教徒集団による「ナイン・タイムズ・ナイン」という死の呪いをかけられた者が密室内で死んでしまうという魅力的な謎を扱っています(呪いの場面がなかなかなの迫力です)。途中でジョン・ディクスン・カ-の名作「三つの棺」(1935年)の密室講義が引き合いに出され、この講義の密室分類と照らし合わせながら密室の謎をああでもないこうでもないと議論する場面は不可能犯罪ファンには受けること間違いなし。使われている密室トリックがまた「三つの棺」のトリックの影響濃厚なのも面白いです。「三つの棺」を読んでなくてもそこそこ楽しめますが、先に読んでおく方をお勧めします。


No.1322 8点 OZの迷宮
柄刀一
(2016/06/17 18:35登録)
(ネタバレなしです) 8つの短編を収めて2003年に発表された短編集です。「ケンタウロスの夕べ」のように100ページを越す中編から40ページに満たない短編まで多彩な作品が揃っていますがいずれも本格派推理小説としての謎解きに真っ向から取り組んでおり、しかもトリックに工夫を凝らした作品が多いのはこの作者ならではです。驚くべきなのは個々の作品の書かれた時期はばらばらなのに連作短編集として仕上げられており、「本書必読後のあとがき」に至るまでの大胆極まりない全体構想は衝撃的でさえあります。個人的には「あとがき」は蛇足ではと思いますが。あえてお勧めを1つ選べと言われれば「絵の中で溺れた男」ですが、これは全編通して読むべき短編集だと思います。


No.1321 6点 人喰いの時代
山田正紀
(2016/06/17 18:11登録)
(ネタバレなしです) SF小説の大家として知られる山田正紀(1950年生まれ)の初のミステリー作品が1988年発表の本書だそうですが、あとがきによればミステリー作家として認知されるようになるまでにはそれから10年近くを費やしたそうです。探偵役として呪師霊太郎(しゅしれいたろう)が活躍する6短編を収めた本格派推理小説の短編集で、探偵役の名前と全作品が「人喰い」を付けたタイトルを持つことからさぞオカルト色の雰囲気が濃い作品だろうと思ったらそうではありませんでした。推理のプロセスはそれほど丁寧に説明されず、どちらかといえば事件の背景(主に動機)描写の方に力を入れています。連作短編集となっており、最後の「人喰い博覧会」の風変わりなプロットが奇妙な読後感を残します。


No.1320 7点 炎に絵を
陳舜臣
(2016/06/17 13:26登録)
(ネタバレなしです) 陳ミステリーの代表作と紹介されることも多い1966年発表の本格派推理小説です。探偵役としての特別な能力を持ち合わせていない会社員を主人公にし、産業スパイ小説要素が織り込まれているなど社会派推理小説風な部分もあります。戦前に中国革命軍から預けられた資金を横領したとされる父の無実を晴らしてほしいと病床の異母兄から依頼される事件の真相は案外と他愛もないものですが、絶妙なタイミングで新たな事件と謎を生み出すプロットで読者を飽きさせません。家族愛の描写と鮮やかなどんでん返しの謎解きの絡ませ方が見事で、小説と謎解きのどちらも楽しめる作品に仕上がっています。


No.1319 5点 複合誘拐
大谷羊太郎
(2016/06/17 12:02登録)
(ネタバレなしです) 1980年発表の誘拐サスペンスと本格派推理小説のジャンルミックス型ミステリーです。誘拐トリック、人質輸送トリック、身代金受け取りトリックとトリックメーカーの作者らしさを発揮していますがトリックだけでなく誘拐事件自体がタイトルの通り複雑な展開を見せ、追う立場の人間をまた別の人物が追ったりと二転三転どころでないひねりが読者を翻弄します。後半になると殺人事件が発生し、こちらの謎解きもどんでん返しの連続が圧巻ですが惜しくらむは少々やり過ぎ気味に感じられます。前半ほとんど登場しない人物が突然容疑者として浮上したり、ある容疑者にアリバイがありますと指摘されて「共犯者を使ったと考えればいい」と短絡的な発言が飛び出すなど、何でもありの謎解きでは読者がなるほどと得心しにくいと思います。


No.1318 4点 水のなかの何か
シャーロット・マクラウド
(2016/06/16 15:59登録)
(ネタバレなしです) 1994年発表のピーター・シャンディ教授シリーズ第9作は舞台がいつものバラクラヴァでないためシリーズキャラクターはほとんど登場していません。そのためか過去作品に見られた、容疑者よりもシリーズキャラクターの方が目立つというアンバランスさはなくなって普通のミステリーらしくなっています。ところがこれまでの作品のはちゃめちゃぶりに私が中毒になってしまったのか、お騒がせ役を欠いた本書はおとなし過ぎてどうも物足りなく感じました。ピーターも探偵役としては精彩がなかったように思います。唐突に明らかになるトリックの大胆さが印象に残ります(常識的にはこんなトリックは実行されないという意味での大胆ですが)。


No.1317 5点 殺人セミナー
B・M・ギル
(2016/06/16 15:44登録)
(ネタバレなしです) 英国の女性作家B・M・ギル(1921-1995)はミステリー作家としては1970年代のデビューと遅咲きですが、それより以前から別名義でロマンス小説を書いていたそうです。1作ごとに作風を変えようとするタイプのようで犯罪小説あり、サスペンス小説ありと多彩ですが1985年発表の本書はメイブリッジ主任警部シリーズの本格派推理小説です(シリーズ第1作と紹介されていますが「Victims」(1980年)という作品が第1作という文献もあります)。メイブリッジが講演者として参加したミステリ作家団体のセミナーで殺人事件が起きるという設定は古典的ですが、アガサ・クリスティーなどの黄金時代の本格派とは雰囲気の異なる作品でした。ロマンス作家出身とは思えぬほどドライなタッチの文章で人間を描いています。終盤にはどんでん返しの謎解きがありますが探偵役の推理よりは幸運に恵まれての真相解明に近いです。


No.1316 5点 大聖堂の殺人
マイケル・ギルバート
(2016/06/16 15:31登録)
(ネタバレなしです) 英国のマイケル・ギルバート(1912-2006)は事務弁護士としてハードボイルドの巨匠レイモンド・チャンドラーの遺言書作成に関わったことでも有名で、ミステリー作家としては1947年に本書でデビューしました。長命に恵まれて作家生活は50年以上に渡りましたが、シリーズ探偵に重きを置かなかったことや様々なジャンルの作品を書いたことで特徴が見えにくくなってしまった作家でもあります。本書は6つの長編といくつかの短編に登場するヘイズルリッグ主任警部シリーズの第1弾となる本格派推理小説です。登場人物リストに人物プロフィール(学歴や家族構成)を紹介しているのがとても珍しいです。デビュー作ゆえでしょうか、丁寧に描いてはいますが文章が硬くて物語のテンポは重く、人物の個性も感じられません。現場見取り図やマニアックなクロスワードパズルなど本格派らしさは十分にありますがちょっと地味過ぎですね。


No.1315 5点 殿下と七つの死体
ピーター・ラヴゼイ
(2016/06/16 15:25登録)
(ネタバレなしです) 1990年発表のバーティシリーズ第2作で作中時代を1890年にした本格派推理小説です。読みやすい文章に加えて次々に人が死ぬ展開なのでまず退屈はしません。ユーモアも豊かです。そして第22章冒頭では「読者への挑戦状」的なメッセージがあり、これは謎解き好き読者ならわくわくすると思います。ところが肝心の真相解明場面でのバーティの説明が意外と短く、推理のプロセスがはっきりしないのは残念です。


No.1314 4点 コンピュータから出た死体
サリー・チャップマン
(2016/06/16 15:16登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家サリー・チャップマンはIBMやシリコンバレーのソフトウェア会社勤務のキャリアを持つためか、1991年発表されたデビュー作の本書はコンピュータやプログラムに関わる会話が大変多く、またハウダニットの謎解きにもその知識が活かされているところに特色があります(コンピュータ用語に疎い私にはちょっと難解)。丁寧なハウダニットに比べてフーダニットの謎解きがかなり荒削りなのが気になります。また研究や開発に携わる人間が仕事に入れ込むというのは(私もサラリーマンなので)わからなくもないのですが、仮にも部長職であるヒロイン(ジュリー・ブレイク)がプロジェクトのためなら周囲の迷惑お構いなしというのは少々やり過ぎで共感できません。会社のためならどんなひどいことも平気でする人間がよく登場する森村誠一の企業ミステリーを思い出しました。


No.1313 6点 QED 式の密室
高田崇史
(2016/06/15 11:54登録)
(ネタバレなしです) 2002年発表の桑原崇シリーズ第5作の本書は講談社文庫版で250ページにも満たない短い作品で、シリーズ入門編として本書から手にとる読者もいるでしょう。密室という古典的かつ魅力的な謎があり容疑者数も多くないなど謎解きプロットはシンプルで読みやすいです。一方、作者が得意とする日本史や日本文学史に関する知識はどうかというと、この領域だけはしっかりとページを費やしており私にとっては頭痛のタネ以外の何物でもありませんでした(笑)。本書を読んで拒否反応を起こすなら他のシリーズ作品には手を出さない方が無難かも。


No.1312 6点 灰色の砦
篠田真由美
(2016/06/15 11:37登録)
(ネタバレなしです) 19歳の桜井京介と栗山深春が輝額荘という木造下宿で初めて出会い、そこで起こった謎の死亡事件に巻き込まれる1996年発表の桜井京介シリーズ第4作の本格派推理小説です。建築探偵ものとしていまひとつに感じられたのは、作中で紹介される著名な建築家フランク・ロイドにまつわるエピソードと輝額荘(ロイドが建築に関わったわけではない)との結びつきが弱く感じられたからです。とはいえそれがあまり問題に思えないのは人間ドラマとしての充実ぶりが際立っているからで、安直なハッピーエンドに収まらない真相は印象に残ります。


No.1311 5点 ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利
ロバート・バー
(2016/06/15 11:20登録)
(ネタバレなしです) あのコナン・ドイルと親交があったイギリスのロバート・バー(1849-1912)が創作したフランス人探偵ヴァルモンの活躍を描いた8作の短編を収めて1906年に出版された短編集です。かつてフランス政府の刑事局長を七年間務め、ある理由でフランス政府に首にされたがロンドンで私立探偵として開業して以来パリにいた時よりも商売は繁盛しているというヴァルモンは、アガサ・クリスティーのベルギー人探偵エルキュール・ポアロの先駆者的評価を受けることもあるようですが名探偵らしからぬ失敗もしているところはアントニイ・バークリーのロジャー・シェリンガムの先駆者とも言えそうです。。「チゼルリッグ卿の失われた財産」などはストレートな探偵物語で一般受けしやすいと思いますが、当初の目的とは全く違う空騒ぎに終わったような結末を迎える作品もあり、時に意外と難解な印象を与えます。


No.1310 7点 日記の手がかり
キャロリン・キーン
(2016/06/15 10:19登録)
(ネタバレなしです) 1932年発表のナンシー・ドルーシリーズ第7作で、ナンシーのボーイフレンドとなるネッド・ニッカーソン初登場となる作品です。このシリーズとしては謎解きにひねりが効いており、不幸な人を助ける喜びの描写などこれまで書かれた作品中でも充実した内容だと思います。


No.1309 4点 アマチュア手品師失踪事件
イアン・サンソム
(2016/06/15 10:13登録)
(ネタバレなしです) 2006年発表のイスラエル・アームストロングシリーズ第2作は、しゃべればしゃべるほど窮地に陥ってしまうイスラエルが面白くユーモアは快調です。しかし謎解きという点では薄味な上に、イスラエルよりもテッドの方が解決に貢献しているように思えるのは私の気のせいでしょうか?


No.1308 5点 エヴァ・ライカーの記憶
ドナルド・A・スタンウッド
(2016/06/14 18:42登録)
(ネタバレなしです) 米国のドナルド・A・スタンウッド(1950年生まれ)は完成に8年もの歳月をかけた本書を1978年に発表してデビューしました。謎解き小説、サスペンス小説、冒険小説といったさまざまなジャンル要素を全て併せ持った傑作と評価されています(基本的には冒険スリラーと言っていいでしょう)。私は本格派ばかり偏執的に求めている読者なのでどうしても謎解き部分にばかり目が行きやすいのですが、推理がないわけではありませんけど犯行場面が回想風に再現されて謎が解けるパターンが圧倒的に多く、探偵役による推理を期待するとあてが外れます。しかしながら1912年のタイタニック号沈没、1941年の殺人事件、1962年の冒険に謎解きと長い年月をまたぐスケール豊かな物語は読み応えたっぷりで、本の厚さを感じさせないストーリーテリングとしっかりしたプロット構成はなるほど幅広い読者にアピールするものがあると納得できました。なお作者は本書の後にさらに9年の歳月をかけて2作目の「七台目のブガッティ」を1987年に発表しますがこちらはどうも失敗作と評価されてしまったらしく、以降は沈黙してしまったようです。


No.1307 5点 ハゲタカは舞い降りた
ドナ・アンドリューズ
(2016/06/14 13:05登録)
(ネタバレなしです) 2003年出版のメグ・ラングスローシリーズ第4作は舞台がオフィス(しかも理系の)とがらりと趣向を変えました。本書の前に人工知能チューリング・ホッパーを主人公にした新シリーズの「恋するA・I探偵」(2002年)を発表したことも影響しているかもしれません。SF仕立てではありませんが自動メールカートのような、どこにでもあるとは言えない小道具に重要な役割を与えているのでちょっと謎解きがわかりにくく感じました。途中までの展開はやや地味ですが、犯人の正体が判明してからはまさにスラプスティック(どたばた劇)でした。


No.1306 6点 チャーリー・チャンの追跡
E・D・ビガーズ
(2016/06/14 12:29登録)
(ネタバレなしです) 1928年発表のチャーリー・チャンシリーズ第3作の本格派推理小説で、「チャーリー・チャンの活躍」(1930年)と並ぶ代表作とされています。犯人を特定する決定的手掛かりが十分ではないことから謎解きパズルとしては「チャーリー・チャンの活躍」に劣ると評価されることもあるようですが、小説としてのプロットでは本書の方が数段上でしょう。前作「シナの鸚鵡」(1926年)に比べてチャンの個性が発揮されていますし、若い男女のロマンスが面白さに彩りを添えています。歳月というカーテンの向こうにある謎が醸し出す神秘性も魅力的です(英語原題は「Behind the Curtain」です)。

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