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ミステリの祭典

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殺人をしてみますか?
アルバート・フェルダーシリーズ

作家 ハリイ・オルズカー
出版日1959年01月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2020/05/30 17:55登録)
(ネタバレなし)
 アメリカ国内で大人気のテレビクイズ番組「ビッグ・クェスチョン」。この番組は問題の難易度は高いが高額の賞金が用意される。連続正解の回答者は、不正解の場合はこれまでの賞金が減額されるペナルティを覚悟してさらに難問に挑むか、あるいは現状の賞金を確保したまま途中で棄権するか、の二択権利が与えられていた。そして現在、16万ドルの賞金の次の難問に挑むか降りるか、カンザス州出身の回答者フィリップ(フィル)・エクリッジの選択を、無数の視聴者と番組スタッフが熱い視線で見守る。だがそのエクリッジが次の本番収録で表意をする直前、何者かに殺される。「ぼく」こと「ビッグ・クェスチョン」を製作するテレビ会社「ユナイテッド・ブロードキャステシング」の広告スタッフ、ピート・ブランドはこの騒ぎの中に否応なく巻き込まれていくが……。

 1958年のアメリカ作品。
 テレビ番組製作の裏面を題材にした業界風俗ミステリで軽パズラーだが、主人公ブランドの独白をふくめて会話がべらぼうに多く、さらに翻訳は名訳者・森郁夫。リーダビリティーは桁外れに高い。ブランドと美人秘書セアラとのラブコメ模様も好調で、読んでいるうちは本当に快感……というより「オレはなぜ、こんなオモシロイものを、本の現物(HM文庫版を新刊で購入。当時のレシートも挟んであった)を買ってからウン十年も放置していたんだろう……」といささか暗澹たる気分にさえなった(笑・涙)。
 
 というわけで作品の雰囲気は、ほかにクセのある対抗作品がなければそのままその年の乱歩賞をとれそうな<業界もの>であるが、50年代のテレビ文化には隔世の驚きもあれば、21世紀の今にも通じる普遍性もあってそのカオスぶりがとにかく楽しい。
 「ビッグ・クェスチョン」の番組形態は、まんましばらく前までみのもんた司会で放送されていた我が国の現実の番組「クイズ・ミリオネア」だが、きっとどちらも、そのモデルとなった昔からの番組があったのであろう。なお賞金の高額ぶりは、HM文庫版の解説でも少し触れられているが、いかにも70~80年代に(我が国の場合)公正取引委員会が干渉してくる前の時代の設定だな、正に。21世紀は不景気&合理化の世相だから、こんな番組はめっきり無くなったような。そもそもテレビに力がない。

 ミステリとしては後半の二転三転でそれなりに楽しめるし、さる事情からアマチュア探偵として内心で奮起する主人公ブランドの描写もいい。ただし本当のメイン探偵はフェルダー警部と当初から読者にもほぼお約束で見え見えなので(なんかシリーズが進行してからの一部のポアロの事件簿みたいな作りだ)、その辺はよろしいような、いや、これはこれで……(以下略)。

 真犯人は話の流れのポジション的には意外? ではあるんだけれど、とにかくこの作品では(中略)からだいたい読めてしまうんだよね。その意味では(前言をひっくり返すことになるが)意外性は薄いかも。ただまあ、作者のミステリ愛みたいなものは感じられて、キライにはなれない。

 途中の本当にハイテンポな時には8点あげてもいいかな、とおもったが、さすがにそこまではいかなかった。とはいえ十分に愛せる作品ではある。

※……最後にひとつだけ苦言。
  被害者エクリッジは31歳と記述されている(HM文庫版31ページ)のだが、その奥さん(最後までフルネーム不明)はのちに夫と同年代で45歳くらいと描写されている(同195ページ)。
 今後の再版や電子化の機会などには、確認の上で適宜に直しておいてください。

No.1 6点 nukkam
(2016/06/30 16:39登録)
(ネタバレなしです) 米国のハリイ・オルズカー(1923頃ー1969)は1958年発表の本書がミステリー第1作となりますがもともとテレビやラジオの作家としての実績があるためか文章は手馴れた感があり、とても読みやすい作品です。面白いのはフェルダー警部シリーズの第1作であるにもかかわらず主人公は別におり、登場場面の少ないフェルダー警部は要領のいい脇役といったところでしょうか。ユーモアに満ちた軽いタッチの作品ですが本格派推理小説としてしっかり謎解き伏線を張ってあるのが好ましく感じられます。

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