| nukkamさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.44点 | 書評数:2940件 |
| No.1600 | 5点 | 七つの時計 アガサ・クリスティー |
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(2016/08/19 15:14登録) (ネタバレなしです) 1929年発表の本書は「チムニーズ館の秘密」(1925年)の続編にあたる作品で、バトル警視をはじめ何人かの登場人物が共通していますので(前作とは独立した物語ですが)できれば前作を読んでからこちらに取り掛かるのを勧めます。スパイ・スリラー小説に属する作品ですが本格派推理小説の要素も十分に持っており、謎の組織「セブン・ダイヤルズ」の実体解明と殺人犯探しの両方でクライマックスが用意されています。ケイタラム卿親子が実に楽しいキャラクターぶりを発揮しています。 |
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| No.1599 | 6点 | 髑髏城 ジョン・ディクスン・カー |
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(2016/08/19 14:54登録) (ネタバレなしです) 1931年発表のバンコランシリーズ第3作はライン河にそびえる古城、その名も髑髏城を舞台にした怪事件を扱い、ドイツの名探偵フォン・アルンハイム男爵との探偵競争を織り込んだ本格派推理小説です。この設定の妙だけでもどんな物語になるのだろうとわくわくする本格派好き読者も少なくないと思いますが、「夜歩く」(1930年)や「絞首台の謎」(1931年)と比べると謎を盛り上げる演出が弱く謎解きも意外と小ぢんまりした印象を受けます。二階堂黎人が「人狼城の恐怖」(1998年)を、加賀美雅之が「双月城の惨劇」(2002年)を書いたのは本書に微妙な物足りなさを感じてもっと舞台設定を活かした派手な作品を自分で書いてみようとしたのではと推測したくなります。私は本書を先に読んでそこそこ楽しめたのですが、二階堂作品や加賀美作品を先に読んでから本書を読んだ読者には凡作に映ってしまうかもしれません。 |
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| No.1598 | 4点 | 猫はブラームスを演奏する リリアン・J・ブラウン |
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(2016/08/19 14:11登録) (ネタバレなしです) シャム猫ココシリーズ前作の「猫は殺しをかぎつける」が1986年出版ながら書かれたのは1960年代だったのに対して、シリーズ第5作となる1987年発表の本書は恐らく正真正銘1980年代に執筆されたと思われます。そのためかどうかわかりませんがクィラランにとって人生の転換期ともいえる出来事が用意していますのでシリーズファン読者には重要作でしょう。もっともミステリーとしては残念ながら以前の作品からの改善は見られなかったです(笑)。日常生活的な謎解き(野生動物の仕業だったとか)が中心になっていてなかなか殺人事件が発生しない展開も少々ダレ気味です。初めての土地で戸惑っているクィラランはよく描けています。 |
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| No.1597 | 6点 | 毒を食らわば ドロシー・L・セイヤーズ |
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(2016/08/19 14:04登録) (ネタバレなしです) 1930年発表のピーター・ウィムジー卿シリーズ第5作はハリエット・ヴェイン初登場にピーター卿の妹メアリのロマンスまで描かれるシリーズ重要作の本格派推理小説です。ハリエットと元恋人のフィリップが同棲関係にあったという設定は当時の作品としてはなかなか大胆、アガサ・クリスティーの作品世界では絶対にこんな不健全なことありえない(笑)。ミステリーとしては専門的知識の必要なトリックが難点かな。ピーター卿が犯人を追い詰める場面はなかなかの緊迫感、でもどこかユーモラスですね。「不自然な死」(1927年)に登場したクリンプスン嬢が本書でも活躍していますがこれまたユーモアに満ち溢れた描写です。 |
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| No.1596 | 5点 | 白い僧院の殺人 カーター・ディクスン |
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(2016/08/18 19:01登録) (ネタバレなしです) 1934年発表のH・M卿シリーズ第2作の本書は「足跡のない殺人」の古典作品として大変有名な本格派推理小説です。2度に渡って登場人物(容疑者でもあります)が足跡トリックに挑戦していますが単なる思いつきでなくちゃんと手掛かりに基づく推理を披露しています。H・M卿の謎解き説明でも「おお、そんなところに伏線が!」と結構「やられた感」を味わえました。というわけで相当力の入った作品だとは思いますが残念なのはかなり読みにくいです。人物関係の整理があまりできていない(個性もない)、場面転換が唐突で混乱しやすい、現場見取り図も付いていないなどでせっかくのどんでん返しも効果半減になってしまったように感じます。 |
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| No.1595 | 7点 | ギリシャ棺の秘密 エラリイ・クイーン |
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(2016/08/18 18:37登録) (ネタバレなしです) 1932年発表の本書は書かれた順番ではシリーズ第4作になりますが、小説世界では大学を卒業したばかりのエラリー・クイーンが初めて手掛けた事件ということになっています。なぜエラリーが病的なまでに秘密主義で完璧主義なのかが本書を読むとよくわかります。でも個人的には全く共感できませんでしたけど(笑)。緻密で重厚、しかもクイーン作品中最大ボリュームの物語なので読みにくさも相当ですがどんでん返しの謎解きを堪能できました。余談ですがボツになったエラリー最初の推理が個人的には結構気に入ってます。 |
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| No.1594 | 5点 | 悪意の傷跡 ルース・レンデル |
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(2016/08/18 18:32登録) (ネタバレなしです) ウェクスフォードシリーズ前作の「聖なる森」(1997年)も登場人物の多さに驚きましたが1999年発表のシリーズ第18作の本書はそれを上回り、ハヤカワポケットブック版で4ページにまたがる登場人物リストには60人以上が並んでいます。どこまで続くんだ、この拡大路線(笑)。本書は国内ミステリーなら社会派推理小説と評価されてもおかしくない内容で、ある社会問題に対する無力を感じて悩むウェクスフォードが描かれていたりしているのが新鮮です。本格派推理小説としての謎解きはようやく後半になってお義理に挿入されたような感じでした(私は偏執的に本格派を求めている読者なのでお義理だろうと何だろうと推理による謎解きがあるかないかは大きな違いですけど)。 |
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| No.1593 | 5点 | 迷宮課事件簿Ⅰ ロイ・ヴィカーズ |
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(2016/08/18 18:19登録) (ネタバレなしです) 英国のロイ・ヴィカーズ(1888-1965)は1920年代からミステリーを発表していますが60作を越えるとされる長編のほとんどは現在ではあまり評価されず、短編作品に存在価値があるとされています。迷宮課シリーズはその代表とされていますが1930年代に発表された当初はそれほどの反響を得られず、エラリー・クイーンが注目したことによってようやく陽の目を見たそうです。フリーマンの倒叙ミステリーの伝統を引き継いだ作品とされていますが、miniさんや空さんのご講評で的確に指摘されているようにフリーマン型倒叙推理小説とは微妙に異なるように思います。1949年に10作を収めて短編集としてまとめられた際にクイーンが寄せた序文の紹介にもあるように、フリーマンの作品に比べて推理色が薄く探偵役としての迷宮課(主にレイスン警部)も個性がなく、さりとて犯人が最後まで主役を演じる犯罪小説でもなく、どこか中途半端な印象を受けます。個人的なお勧めは犯行に至るまでの人間関係の変容を描いた「オックスフォード街のカウボーイ」と「黄色いジャンパー」です。 |
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| No.1592 | 7点 | クリスマス・プディングの冒険 アガサ・クリスティー |
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(2016/08/18 18:08登録) (ネタバレなしです) いつの頃からはわかりませんが本国(英国)では「クリスマスにクリスティーを」という洒落たキャッチフレーズでクリスティーの新作を販売促進していたそうですが1960年に発表された本書はまさにこの宣伝文句にふさわしい短編集です。1920年代から1940年代にかけて書かれた作品(一部はリメイクされてますが)を寄せ集めたに過ぎず、しかもポアロ作品5作とミス・マ-プル作品1作というのは短編集としてはバランスが微妙に悪いように思います。とはいえなかなか充実した作品が揃っており、特に「スペイン櫃の秘密」は短編とは思えぬ深みのある物語で作者が自画自賛したのも納得の名作だと思います。謎解きは他愛ないですが「クリスマス・プディングの冒険」はクリスマスの雰囲気描写が見事だし、ちょっとオカルト・ミステリー風な「夢」も面白かったです。 |
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| No.1591 | 4点 | 三角形の第四辺 エラリイ・クイーン |
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(2016/08/17 15:18登録) (ネタバレなしです) 1965年発表のエラリー・クイーンシリーズ第27作で、「第八の日」(1964年)を代作したSF作家のエイヴラム・デイヴィッドスン(1923-1993)が書いたとされる本格派推理小説です。「第八の日」が時代は現代ながらも一般社会とは異なる社会を描いていたところがSF作家らしい発想だと思いましたが、本書はそういう意味では普通の作品です。マッケイ家の家族のきずなに影を落とした人物が殺され、殺人容疑がマッケイ家の人々の間を転々とするプロットです。全く無駄のない展開で終盤までなかなか読ませます。問題は結末であまりにもお粗末です。最初の推理説明もそれほど魅力的ではありませんが読者に全く提示されていなかった手掛かりでのどんでん返しには更にがっかりしました。 |
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| No.1590 | 6点 | 夜歩く ジョン・ディクスン・カー |
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(2016/08/17 14:26登録) (ネタバレなしです) 米国のジョン・ディクスン・カー(1906-1977)は不可能犯罪トリック、オカルト趣味、強烈なユーモア、歴史ロマンなど沢山の引き出しを持っていて今なお本格派推理小説家に強い影響を与えている巨匠中の巨匠です。米国人といってもヨーロッパに長く滞在し、ヨーロッパを舞台にした作品が多いためか同時代のヴァン・ダインやエラリー・クイーンの(当時としては)モダンなスタイルとは対照的に古きロマンのようなものを感じさせます。1920年代に限定出版された中短編もありますが1930年に発表された本書が実質的にはデビュー作にあたります。早速密室殺人事件が扱われており、トリックは偶然に頼ったようなところがありますが暗い幻想性に満ち溢れた独特な雰囲気がなかなか個性的です。多くの方々が粗削りだけどカーらしさは十分に発揮されているとご講評されていますが私も賛同します。 |
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| No.1589 | 5点 | フレンチ警部と紫色の鎌 F・W・クロフツ |
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(2016/08/17 13:58登録) (ネタバレなしです) 1929年発表のフレンチシリーズ第5作ですが本格派推理小説でなくスリラー小説に属する異色作です。映画館の切符売り子が事件に巻き込まれるのですが物語はフレンチ警部の捜査活動が中心になって描かれていることが本書の特徴であり、異色作と言っても他のシリーズ作品と共通部分も多いです。謎めいた話から驚きの進展を見せる序盤はなかなかサスペンスに富みますが、その後はいつものクロフツらしくじっくり丹念な展開になりますのでスリラー小説としてはやや中途半端な印象も受けます。最後は派手な大捕り物で締めくくられますが結局フレンチは活躍しているようで活躍していなかったような...(笑)。 |
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| No.1588 | 6点 | シャーロック・ホームズ最後の挨拶 アーサー・コナン・ドイル |
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(2016/08/17 13:09登録) (ネタバレなしです) これまでのホームズ短編集は基本的に1年間に集中的に書かれた作品をまとめたものですが、第一次世界大戦の影響があるのかドイルの熱意が薄れたのかよくわかりませんが執筆ペースが極端に遅くなり、1917年発表の第4短編集の本書に収録された短編は1908年から1917年の長い間にぽつりぽつりと書かれた作品です。また「ボール箱」(1893年)という短編は本来は「シャーロック・ホームズの回想」(1893年)に収められるはずなのがドイルが禁じたため本書でようやく陽の目を見ています(厳密には米国版の「シャーロック・ホームズの回想」の初版にも収められましたがドイルが抗議して2版からは除外されました)。ミステリー的には目新しいものはありませんが「瀕死の探偵」や「最後の挨拶」などはかなりの異色作として印象に残ります。 |
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| No.1587 | 5点 | 殺人者は道化師 梶龍雄 |
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(2016/08/17 11:39登録) (ネタバレなしです) 作者晩年の1989年に発表された短編集で、収められた7作品全てで探偵役が本名不詳の妖艶なリラ夫人、助手役がパックちゃんという少女です。パックという名前がシェークスピア作品の妖精名に由来しているからでしょうか、廣済堂ブルーブックス版の表紙には「痛快マジカル・ミステリー」という奇妙な宣伝文句が入っていますが別に魔法とか超能力とかは登場しません。短編なので描写はあっさりながらベッドシーンが随所で挿入されて通俗色がありますが本格派推理小説のツボは押さえていて、どの作品も推理による解決で締め括ります。表題作の「殺人者は道化師」などはかなり論理的に犯人を絞り込んでいます。リラ夫人は事件に巻き込まれて困っている依頼者(女性限定)を無報酬で助けるというスタンスですが、その裏でちゃっかり(多くは違法な手段で)稼いでいるところがモーリス・ルブランの「バーネット探偵社」(1928年)を連想させます。 |
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| No.1586 | 5点 | 殺人の詩学 アマンダ・クロス |
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(2016/08/16 15:28登録) (ネタバレなしです) 1970年発表のケイト・ファンスラーシリーズ第3作で、フェミニズム(男女平等主義)をまだそれほど前面に出していない分、一般受けしやすい本格派推理小説になっています。とはいえ(訳のせいかもしれませんが)ついに結婚を決意したケイトとリードの会話ぐらいはもう少し情感をこめてもいいのではと思いますが(ちょっとドライ過ぎです)。ミステリー的には犯人のちょっとしたミスに気づくという古典的な探偵法は気が利いていますが決定的手掛かりが足りないように思えます。前作と同じく名探偵役はケイトでなくリードが務めているのも微妙に物足りません。 |
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| No.1585 | 6点 | ドーヴァー5/奮闘 ジョイス・ポーター |
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(2016/08/16 15:14登録) (ネタバレなしです) 1968年発表のドーヴァー警部シリーズ第5作となる本書はドーヴァーの迷走ぶりが相変わらず楽しいけれど推理という面では「誤算」(1965年)や「切断」(1967年)に比べるとなるほどという説得力にやや乏しく強引さが目立つような感じがします。真相には意表を突かれましたが、(後の米国コージー派でよく使われた)ご都合主義的(棚ぼた式)な解決なので本格派好き読者の好き嫌いは分かれそうです。 |
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| No.1584 | 5点 | ひらいたトランプ アガサ・クリスティー |
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(2016/08/16 14:58登録) (ネタバレなしです) 空さんのご講評でも紹介されているように、1936年発表のポアロシリーズ第13作の本書は「ABC殺人事件」(1935年)の中でポアロが「手掛けてみたい事件」と言った通りの事件を扱っているだけあってなかなかの意欲作となりました。4人の容疑者対4人の探偵という珍しい設定に過去の事件と現在の事件の謎解きを組み合わせた複雑な本格派推理小説です。もっともポアロ以外の探偵役はバトル警視、アリアドニ・オリヴァ、レイス大佐といかにもな脇役キャラクターばかり揃えたので探偵競争というよりは連携捜査の色合いが濃いです。犯人は1人ですから主役探偵もポアロ1人に絞った方がよいと判断したのでしょう。問題は4人の容疑者が関係した過去の4つの事件が相互関連が全くないため、同時に4つの推理小説を読んでいるような感じがして結構読みにくかったことです。 |
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| No.1583 | 6点 | 渇いた季節 ピーター・ロビンスン |
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(2016/08/16 14:10登録) (ネタバレなしです) 1999年出版のバンクスシリーズ第10作で、現在の物語と過去の物語が交互に描かれる構成を採っています。戦後生まれの作者ですが戦時下の田舎の雰囲気が結構それらしく描かれています。バンクスの私生活の変化についてもかなりのページを費やしています。デビュー作の「罪深き眺め」(1987年)と比べると何と劇的に変化したことでしょう。バンクスが手掛かりに基づく推理を披露したりして「誰もが戻れない」(1996年)よりは本格派推理小説らしさがありますが謎解きはそれほど緻密ではなく、その分物語性で読ませている作品です。余談ですがホラー小説の巨匠スティーヴン・キングがこのバンクスシリーズの熱心なファンだというのは何とも不思議な感じがしますね。 |
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| No.1582 | 3点 | 沈める濤 天城一 |
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(2016/08/16 13:56登録) (ネタバレなしです) 天城一(1919-2007)の長編作品は全部で3作ですがその最後の作品が本書です。なかなか出版の機会に恵まれなかった作者ですが本書も完成から出版までの経緯が複雑です。1976年には完成していたそうですが私家版で出版されたのが1999年、商業出版されたのは2009年です(「天城一傑作集4」に第1長編の「風の時/狼の時」と一緒に収められました)。プロットは前半(第四章まで)を五百島(いおしま)部長刑事、後半(第五章以降)を淡路刑事を語り手として進行し、さらにはあの島崎警部も登場します。しかしながら物語の合間合間で語られる下士官出身者の戦時中や戦後の生き様や考え方のエピソードが謎解きの興味を寸断してしまいます。天城らしいといえばらしいのですがやたらと脇道にそれているように感じられます。また終盤に五百島が「死体を一つも見ない」「肝心の証人を1人も尋問できなかった」などと述懐しているように捜査描写もどこか焦点が定まっておらず、読み手を選ぶ本格派推理小説です。 |
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| No.1581 | 6点 | 風が吹く時 シリル・ヘアー |
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(2016/08/15 08:44登録) (ネタバレなしです) 9作しか書かれなかったヘアーの長編はマレット警部単独作品が3作、ペティグルー単独作品が2作、両者の共演作が3作、非シリーズ作品が1作という内訳ですが1949年発表の本書はペティグルー単独作品です(ペティグルーシリーズとしては全5作中の第3作)。ヘアー得意の法律知識に加えて音楽知識も要求されていますがとっつきにくさは意外となく、個性的な登場人物や警察に配慮してでしゃばるまいと苦心するペティグルーの描写などで読ませます。物語の締めくくりもなかなか味わいがあります。ハヤカワポケットブック版は半世紀以上前の1955年翻訳なのでそろそろ何とかしてほしいなというのも正直ありますけど。なお英語原題は「When the Wind Blows」ですがどこかの書評サイトで「Wind」を「風」と訳した日本語タイトルは誤訳で、本書での「Wind」は「管楽器」を意味していると指摘されていましたがなるほどと思いました。 |
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