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ミステリの祭典

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毒を食らわば
ピーター卿シリーズ/別題『毒』『ストロング・ポイズン』

作家 ドロシー・L・セイヤーズ
出版日1955年06月
平均点5.36点
書評数14人

No.14 6点 測量ボ-イ
(2024/10/12 12:45登録)
この作者の作品を読むのは、「ナインテイラーズ」
以来の2作め。
前作よりかはだいぶ読みやすかったです。
毒殺を扱う作品ですが、真相がシンプルなだけに、
人にやってはモノ足りなさを感じるかも。

国内某作品に極似したトリツクですが、年代はこ
ちらの方がだいぶ先ですね。
そこに敬意を評してプラス1点。

No.13 6点 弾十六
(2024/03/07 15:17登録)
ピーター卿第5作。1930年9月出版、Gollanczでの最初の長篇。創元文庫で読了。浅羽さんの訳は文句なく素晴らしい。
私は若い頃にはずっと、作品と作者は別なので伝記事実から作品を云々するのは見当はずれだ!と感じてたけど、最近はむしろ作者がフィクションに自己の体験をどのように書き込んじゃってるのか?に興味がゆくようになった。全く無視してた伝記的ゴシップまでも読みかねない… まあ堕落ですね。ピュアな純粋主義者が年取って正反対に、ということだろう。
本作は、シリーズのヒロイン初登場、ということで、読む前からどんなロマンス展開なのか妄想してたが、セヤーズさんのありきたりにしたくない感が伝わってくる筋立て、でもあまり上手くない。人を納得させる恋のパッションに欠ける(第二主人公チャールズ・パーカーのロマンス描写も全く控え目… そういう点には冷めている作者だ)。本作の幕切れが素敵だからまあ良いとしましょう。
この頃のセヤーズさんは、恋に敗れ(結婚を望んでいた相手が、セヤーズさんに対しては作家とは結婚しないなんてほざいてたのに、米国で女流作家(それも三流の)とちゃっかり結婚しちゃってた)、その後「自由恋愛」のあげく望んでない妊娠から極秘出産(1924)を経て、子供は親戚に預けて収入を得るために一人頑張ってた。 1926年に子の父ではないAtherton Fleming(1881-1950)と結婚。父母を続けて亡くし(1928&1929年)気分が落ち込んでいる状況での執筆だったから、惚れた腫れたの気分ではなかったことだろう。ヒロインの境遇はセヤーズさんの実人生を知れば、ああシンクロしてるなあ、と感じられるところがあり、とても興味深い。
作者の手紙The Letters of Dorothy L. Sayers 1899-1936: The Making of a Detective Novelist(ed. Barbara Reynolds 1995)を読むと、明るいバカ話にしようとしたが上手くいかず、執筆当時は歳をとったピーター卿にウンザリしていたようだ(軽口だが、プロットに巻き込まれて死んじまえThere are times when I wish him the victim of one of his own plots! 、とまで書いている)。なお、トリック的に問題視される医学的なネタは、Robert Eustace(正体は高明な医師Eustace Barton)にしっかり相談してて、誤りがないか下書きを送って確認してもらっている。
本作は第4章までの展開がとても良くて、あとはおまけ(とは言え楽しい話だけど…)。推理味は薄い。いろんな女性が大活躍するが、大上段に女性進出を叫ぶ、という訳ではない。中心となるのは青春時代が19世紀だったおばちゃんの目線。昔はこうだったけど、今は違うのよね… 結構良い点もある、という感じで、あくまでも伝統を外さない。そこが英国での人気の高さの理由かも。
Edward Petherbridge主演のTVドラマ(BBC1987英語版)も見た。食事の場面で料理が入念に再現されててわかりやすい。でもPetherbridgeの顔が気に入らない。バンターも若すぎヒョロっとしてて不満。ハリエットも少し愛嬌が欲しいなあ。
以下トリビア。参照した原文はOpen Road 2013、おなじみBill Peschalからの注釈ネタは[BP]で表示。気になったので幻戯書房の新訳も買っちゃいました。早川HPB(井上一夫訳)も国会図書館デジタルコレクションで読めることがわかったので参照できた。
大量にあった文学作品からの引用は全部[BP]に任せることにして、ここのトリビアではほぼ削除した。元々そういうのには興味がなくて、ここは何とかからの引用だよ、と言われてもどうでも良いなあ、翻訳者さんは無駄に付き合わされて大変だなあ、と思ってしまうだけ。
翻訳は圧倒的に創元が良い。セリフが生きてる。幻戯は女性の発言に「わ」をしつこくつけるタイプ。ジェンダーがどうたら言う前にそういう癖を辞めたら?と言いたくなる。トリビア好きなら幻戯は買いだ。通りの名前や地名が出てきたらいちいち割注があるし、注釈の量が半端ない(全部で188、ただし注釈番号が超小さく、注釈一覧にはページ数が書いてないので探すのが大変)。さらに入手したいがバカ高くて諦めたLord Peter Wimsey Companion[PWC]がInternet Archiveにあった(改訂版2002のほう。これは嬉しい。全文検索機能も使える!)ので参照した。
ジェンダーで思い出したがWeb連載「五代ゆうの ピーター卿のできるまで」の本書の記事がとっても良かった。ニヤニヤして読みましたよ。
作中現在はp13, p52, p76, p233から冒頭は1929年12月で確定。
価値換算は英国消費者物価指数基準1929/2024(79.61倍)で£1=15141円、1s.=757円、1d.=63円
原書にも献辞は無いが、目次の後にOld Balladの引用あり。(創元、幻戯、早川のいずれも欠。結構重要だと思うけど…) 英WikiによるとAnglo-Scottish border ballad “Lord Rendal”の変種の一つという。参考まで全文引用。
“Where gat ye your dinner, Lord Rendal, my son? / Where gat ye your dinner, my handsome young man?”
“—O I dined with my sweetheart, Mother, make my bed soon, / For I’m sick to the heart and I fain wad lie down.”
“Oh that was strong poison, Lord Rendal, my son, / O that was strong poison, my handsome young man,”
“—O yes, I am poisoned, Mother; make my bed soon, / For I’m sick to the heart, and I fain wad lie down.” (変な話だが、書店でこの詩の訳がついたHPBを見たような記憶がある。夢なのかなあ。なんで幻戯は、この詩を訳してないのかなあ… 底本Hodder2016についてないのか)
p8 最近の下世話な言い方…『受け持ち』(in the modern slang phrase, ‘up to’)
p9 いかなる合理的な懐疑の余地もないまで(beyond all reasonable doubt)◆この概念のわかりやすい説明が後段にある。
p10 『自由恋愛』(free love)◆ 後ろでD・H・ロレンス(D. H. Lawrence, p122)も出てくる。そういう時代。
p10 『推理』もしくは『探偵』小説と呼ばれる(so-called ‘mystery’ or ‘detective’ stories)
p11 現在、二十九歳(now twenty-nine years old)◆当時作者は36-37歳
p11 同棲して... 親密な関係を(live on terms of intimacy)
p13 一九二九年二月(February 1929)
p15 ダウティ街(Doughty Street)… ウォーバーン広場(Woburn Square)◆いずれもロンドンに実在
p15 メアリ・スレイター(Mary Slater)
p16 キドウェリーの毒殺事件(Kidwelly poisoning case)
p16 イーディス・ウォーターズ(Edith Waters)
p19 [六月]二十日◆事件の日、死亡は23日(p31)
p20 署名は単に<M>(And it is signed simply ‘M.’)◆BBC1987ドラマでは「H」と直してるので訳注の通り作者の誤りなんだろう。当初はMで始まる名前だったのかも。幻戯(g024)は問答無用でHと修正。早川はMのままで特に言及なし。
p21 広告によれば『体にいい』…ギネス(had a Guinness, … according to the advertisements it was ‘Good for you.')◆このキャッチコピーはギネス社が170年の伝統を破って初めて広告を打った時のヒット(1929)、広告会社はS.H.Benson、じゃあセヤーズさんが携わったのかも?と思ったら、ちゃんと英Wikiに記載があった。Dorothy L. SayersとGuinessの項目に明記。[John Gilroyのイラストに] she penned accompanying verse such as "If he can say as you can/Guinness is good for you/How grand to be a Toucan/Just think what Toucan do、マスコットにToucanを使ったのはセヤーズさんのアイディアだったとも。ここは密かな自画自賛の一行だったわけだ(もちろん当時の読者は気づくはずもない。[BP]も拾えてない)。1929年末に作者はS.H.Bensonを辞めている。驚いたことに、あるWeb記事ではこの広告キャンペーンについて、イラストレイターが特筆されてセヤーズさんへの言及が全くないのがあった。幻戯(g024, 注012)「広告が『健康的だ』と謳っているギネスビール」 セイヤーズが書いたコピーとしている。[PWC]には項目なし…
p21 上等のオレロソ(a fine Oleroso)◆ 幻戯(g025)割注で「オロロソの誤りか」
p23 バッジ番号D1234の巡査(Police Constable D.1234)◆Web記事『1888年の「シティ警察とスコットランド・ヤード」の警察官の人数』によるとDはマリバン管区(もっと新しい資料が見たいなあ)。Woburn Squareの出来事を目撃した警官なので、正確には調べていないがMarylebone地区で合っていそう。
p27 タイピスト派遣事務所(a typewriting office)
p28 ポケットに自動何とかや<救命具>を持って(automatic thing-ummies and life-preservers in every pocket)◆ここはautomatic(pistols) & revolversの言い間違いか? life preserverをWebで検索すると19世紀の護身用仕込み杖が拾えた。そっちはポッケに入るイメージではなかろう。幻戯(g030)「ポケット全部に自動なんとかやら棍棒やらを持って」
p28 ランドリュー(Landru)
p28 ウィムジィが久しぶりに帰ってきてくれて嬉しい(Top-hole to see old Wimsey back)◆ここら辺はあのつまんない冒険もの短篇『アリババの呪文』の設定に忠実に従って、ピーター卿がしばらく不在だった、という事なのかも。ただし『アリババ』のラストシーンは明白に1月と書かれてるので、本作冒頭と不在期間の時期がちょっとかぶってしまっている。
p28 パーカー首席警部(Chief-Inspector Parker)
p28 ジェフリーズ(Jeffreys)◆George Jeffreys, 1st Baron Jeffreys PC (1645-1689) "the Hanging Judge"として知られたウェールズの判事(英Wiki)
p29 ジンジャー・ビール(ginger-beer)◆ジンジャーエールの源流らしい
p32 同じブルームズベリの文学集団(the same literary set in Bloomsbury)◆公共良俗を乱す怪しい集団だと思われてたんだろうね。
p36 公正なけだもの(a just beast)◆テンプル博士(Dr. Temple, the headmaster of Rugby school)についてある生徒が評した言葉(訳註及び[BP])
p37 いわゆる『パーマネント・ウェーヴ』(what is termed a ‘permanent wave’)◆ ドイツ人発明家Karl Ludwig Nesslerが1906年10月8日にロンドンのオックスフォード街の美容室でpermanent wavesを初披露した。(Web記事Karl Nessler and the Invention of Permanent Wavesより。このページの広告(1908)ではFee £5 5s. Cpi換算で14万8千円!そんなに高かったのか?)
p39 マデライン・スミス事件(19世紀半ば)、セドン事件(1911)、アームストロング事件(1922)(the Madeleine Smith case, the Seddon case and the Armstrong case)
p43 お顔もほんとに個性的… 厳密に言えば美人ではない(a really remarkable face, though perhaps not strictly good-looking)
p43 エドガー・ウォーレス◆ 幻戯(g044, 注024)によればキュルテン事件解決に携わったらしい。
p43 あのスレイターとかいう人(the Slater person)◆ Oscar Slaterのこと
p43 スコットランド… 変な法律… 結婚について(in Scotland where they have such very odd laws about everything particularly getting married)◆ここら辺は知りたいなあ。スコットランドには結婚関係の変な仕組みがあるんだろうか。幻戯(g044, 注028)によると、正規に届け出てない同棲を婚姻と認める規定があったようだ。
p50 今後十二年間(for the next twelve years)◆へえ、知りませんでした
p52 翌日は日曜(The following day was a Sunday)◆これが何日なのかは記載なし。p76参照
p52 女一名、半分だけ女なのが一名、四分の三だけ男(One woman and half a woman and about three-quarters of a man)◆ここは「女1名と女1/2名、男3/4名」という事だろう。一人分とまではいかないが部分的な賛同者がいたよ、という感じ。幻戯(g051)は創元とほぼ同文。早川(h41)は正しく「一人の女性と、半人分の女性と四分の三人分くらいの男性」
p54 ふざけた歌に出てくる歯に穴があいた男(the man with the hollow tooth in the comic song)◆いろいろ検索したが調べつかず。[BP]でも出典不明。幻戯(g053, 注036)はIrving BerlinのI've Got A Sweet Tooth Bothering Me (1916)を提案、なるほどね!
p56 自分の墓にかける柳の冠(twine willow-wreaths for his own tomb-stone)◆訳註は"柳の冠"は「失恋した者が被る」としているが、[BP]によればweeping willow signified mourningで、ここの意味はa reminder of the Resurrection and the lifeであろう。
p64 がーんと来て(stunned)◆ 幻戯(g060)「完全にまいってしまって」、早川(h42)「全く息をのんでしまって」
p64 『鮮やかな幻の園を気ままにさまようことが…』(However entrancing it is to wander unchecked through a garden of bright images...)◆ 訳註はちょっと誤り。ブラマ作 “The Story of Hien”(短篇集“Kai Lung’s Golden Hours“(1922)に収録)より [BP]
p65 白い蛆虫(white slugs)◆ピーター卿の自虐
p68「余剰」(“superfluous”)◆ 幻戯(g064, 注041)「余った女」 、早川(h32)「余計者」ここは戦争で若い男性がたくさん死んで「余った女」が社会問題になってたことを示している。『箱の中の書類』にもそういう表現があった。幻戯の注ではそれはジャーナリズムが作り出した不安だった、としている。未調査
p68 いきのいい若者(Bright Young Things)◆戦後(WW1)の伝統破りの若者たち、a group of Bohemian young aristocrats and socialites in 1920s London (英Wikiに主要メンバーのリストあり) 同名の懐古映画(2003, 原作イヴリン・ウォー)がある(DVDを入手しました!未見)。幻戯(g064, 注042)「陽気な若者たち」、早川(h53)「若くて{いけ}るような娘」({ }内は傍点)
p69 <僕の猫舎>(My Cattery)
p69 あのなんとかいうドイツ女(like that German female, what’s her name)◆Gesina (or Gesche) M. Gottfried(1828年逮捕)[BP]
p70 ジョージ・ロービィ(George Robey)◆ミュージックホールの大スター(1869-1954)。作者はチャップリンが好み、というわけではなく、登場人物に合わせたものだろう
p71 すてきな頰髯にみんなうっとり… 今なら笑われる(with whiskers which we all admired very much, though today they would be smiled at)
p72 死んだら心臓に... と書いてあるのが見つかる(When I die you will find .... written on my heart)◆メアリ女王の有名なセリフは"when I am dead and opened, you shall find Calais engraved on my heart"、フランス軍の攻撃でカレー(英国が保持していた最後のフランス拠点)が落ちた1558年5月のこと。幻戯(g068, 注048)
p73 ティーポットから最大限引き出す(getting the utmost out of a tea-pot)◆コツが書いてある
p74 ファラー学長の本(Dean Farrar’s books)◆ Frederic William Farrar(1831-1903)、引用は“St. Winifred’s”第22章から[BP] Dean of Canterbury(1895-1903)なので「司祭」が適切か。幻戯(g069)「ファラー主教」
p75 プラスラン公爵---あれが自殺だったとすれば(There was the duc de Praslin, for instance — if his was suicide)◆Charles-Louis Theobald, the Duc de Choiseul-Praslin, 妻殺しで逮捕されたが裁判前に砒素で自殺した(1847) [BP] 実は自殺は嘘で、密かに国外逃亡を許され、英国で余生を送ったという噂があった。この事件を元にしたMarjorie Bowenの小説 Forget-Me-Not(初版は米国1930、Joseph Shearing名義でLucile Cleryというタイトル)は売れたようだ。(英Wiki)
p76 弱気な心(faint heart)◆元の諺はfaint heart never won fair lady、Webで調べるとThomas Lodge“Rosalind: Euphues' Golden Legacy”(出版1590, 沙翁’As You Like It’の元ネタ) Section 17に用例があるが、ここでも諺っぽい感じで使われてるので起源はもっと古そう。(Web上にInternet Shakespeare Editionsという便利なサイトあり。沙翁のフルテキスト(異本も網羅)だけでなく関連文書まで収録。すごいなあ)
p76 ミクルマス期は二十一日に終わり… 今日は十五日… ヒラリー期は一月の十一日から(The Michaelmas Term ends on the 21st; this is the 15th. … and the Hilary term starts on January 12th)◆イングランドの裁判カレンダーは一年を四つに分ける。Michaelmas term(10-12), Hilary term(1-4), Easter term(4-5), Trinity term(6-7) (英Wiki “Legal year”) 不揃いなのが古い伝統っぽい。ここの「15日」は全体の流れから1929年12月15日で確定。この日は日曜日なのでp52からここのくだりまでは同じ日の出来事なのだろう。ピーター卿は急いでいるはずだから
p77 光の道筋(the path of the light)◆アインシュタインは『箱の中の書類』にも引用されてた。
p77 女にめろめろ(goopy over the girl)◆ goopは米国作家Gelett Burgess(1866-1951)の造語。Goops, and How to be Them (1900)などに登場する馬鹿げた行いをする禿げ丸頭の子供?のこと。幻戯(g072)「ぞっこん」、早川(h59)「いかれてる」
p78 ジャック・ポイント(Jack Point)◆Gilbert & Sullivan "Yeomen of the Guard"の登場人物 [BP]
p80 そっちがイングランドを留守にしたりするからだ(You shouldn’t have been out of England)◆ p28参照。
p81 マードル夫人(Mrs. Merdle)◆ Dickens “Little Dorritt” Chapter 3 の登場人物。ピーター卿の愛車は『不自然な死』(1928)で初登場(車種はDaimler Twin-Six、レース用のボディとの記載あり)
p81 十二本の排気筒(all twelve cylinders)◆ 浅羽さんは気筒と排気筒を混同してる。幻戯(g075)「十二気筒エンジン」、早川(h62)「十二気筒」
p83 戦後世代(post-war generation)
p85 『妹と背の道』(Voice that Breathed o’er Eden)◆ [BP]に歌詞全文あり。
p88 五十ポンド
p88 教会鼠(proverbial Church mice)◆ Wikitionary "poor as a church mouse" 参照
p90 銀行券をひと摑み(a handful of treasury notes)◆ treasury note(元は大蔵省が戦時中に臨時発行したもの)は£1及び10s.紙幣の二種類しかない(1933年通用停止)。1928年11月から正式に英国銀行券に切り替わった。ここは「少額紙幣」という意味でtreasury noteという語を使っているのだろう。英国銀行券は£1000まであったのだ。なお a handful of は「片手にいっぱい」ではなく「ほんの少し」の意味らしい。幻戯(g082)「手に載せられるだけの法定紙幣を」、早川(h68)「一つかみの紙幣を」
p90 定価の七シリング六ペンス… 三シリング六ペンス… 一シリング版(the original price of 7/6… the three-and-sixpennies… the shilling edition)◆ まだペイパーバックの無い時代。当時の小説本は最初7/6dで出て普及版3/6dから廉価版1/- に至る。
p91 儲けとは無関係の評価(シュクセ・デチーム succès d’estime)◆発音はシュクセ・デスチムだが… 仏語借用の英語表現で「〔一般には受けず〕批評家だけに受ける芸術作品」
p91 水の上にパンを投じる(cast your bread upon the waters)◆ フリーマン『青いスカラベ』でも引用されていた。無駄な行為のようでも、後で見返りがあるよ、という聖書句(Ecclesiastes 11:1)
p91 『よき業を豊かに供えたる者に、み手より豊かに報い給わん』(plenteously bringing out good works may of thee be plenteously rewarded)◆ 英国教会祈祷書の三位一体後第25主日(Twenty-fifth after Trinity)の集祷文(The Collect)の文句。「三位一体節後〜」はバッハのカンタータでお馴染みですよね?
p92 そこそこよく売れていました--国内で三千から四千部(books have always sold reasonably well—round about the three or four thousand mark in this country)◆ アガサさんの『アクロイド』(1926)はよく売れたと言われるが5500部らしい。『スタイルズ』は2000部近く。
p92 ZZZZが釈放されてしまえば--(When ZZZZ is released--)… 『されれば』じゃなくて良かった(I am glad you say 'when.')◆ これだと違いがちょっと微妙。幻戯(g084)「無罪放免となったときは--」「"ときは"と言っていただけて嬉しいです」試訳「ZZZZが釈放された後は--」「"された後"とは嬉しい言葉」
p93 連載化権… すぐに収益になる(serial rights… immediate returns)◆ セヤーズさんの実感か。米国雑誌で『雲なす証言』が連載されてたのは知ってるけど、他はどうだったか。アガサさん『茶色の服』(1923〜1924連載London Evening News)は500ポンドで売れた。アガサさんは売れっ子作家で、他の長篇も大抵雑誌や新聞で連載している。
p93 『鍋の中の死』(Death in the Pot)◆ 架空の探偵小説のタイトル
p93 トルーフット社(Trufoot)
p101 国家対ヴェイン(R. v. Vane)◆ ここは「国王対ヴェイン」が正しい。英国では刑事事件の訴追側は王(国王Rex, 女王Regina)、裁判は人対人の争いだ。幻戯(g092)も創元と同じ。早川(h76)「ヴェーン事件」
p102 ウェストモアランド県ウィンドル町(Windle, Westmorland)◆ 幻戯(g093, 注059)によるとモデルはケンダルKendalらしい。[PWC]にはKendal, known for the manufacture of shoes and bootsとあった。
p103 陪審員というものはあてになりません。ことに、女も陪審員になれる今は(juries are very unreliable, especially nowadays, with women on them)◆ 女性が陪審に加われない、という制限を撤廃したのはThe Sex Disqualification (Removal) Act 1919らしい。Web 記事How women finally got the right to jury serviceに詳細があった。
p104 スカートの長さもお約束の膝下4インチ(their skirts are the regulation four inches below the knee)
p106 ビノリー(Binnorie)◆ 「訳註 スコットランドのバラード」幻戯(g096, 注063)殺人バラッドThe Twa Sisters(Child 10; Roud 8)、英Wikiに項目あり
p110 塞いだ(stopped)◆ 狐狩りで、事前にキツネの巣穴を塞ぐ準備作業のこと [BP]
p113 燻製鰊(kippers)
p120 郊外住宅地(suburban)
p120 ハンガリーの歌(a Hungarian song)◆ ジプシー風?今はロマか
p122 長いスカート(long skirts)◆ これを不道徳と結びつけるとは…
p123 僕はもうじき四十なんだ(I’m getting on for forty)◆ 後ろのほうでは「道化者ぶるにはもう歳(was surely getting too old to play the buffoon)p183」と人から言われている。作者がまだ若かったからこんな感想なんだろう。歳をとっても実はあんま変わらないよ、とオジサンは思う。
p124 クルーソー(Crusoe)◆ 幻戯(g109, 注074)
p124 千九百六十年の革命(the revolution of 1960)◆ 当時はこの年で十分に未来だった。
p126 代戦騎士(champion)◆ ああそうか。元の意味はそういうものだったんだろうね。裁判の決着を決闘で決めていた時代があったのだ。かつて英国の裁判で陪審の裁きではなく古式ゆかしい決闘を望んだ人があり、法的には当時でも有効だったので困った、というエピソードを読んだ記憶がある。
p127 六パイントの水(six pints of water)
p127 ぎゃふん(Crushed)◆ 幻戯(g112)「失敗」 早川(h90)「やられた」
p128 例のホームズの原理(the old Sherlock Holmes basis)◆ ありえないことを除いて、残ったものが真相というやつ
p128 コーヒーをシロップにしたがる(liked to make their coffee into syrup)◆ 西洋の男は甘々コーヒーが好きなのだろう。エスプレッソも甘々が本場流。
p129 借金魔や、手を握っててほしがる人ばかり(too many borrowers… and too many that wanted their hands held)◆ ダメ男に惚〜れるなよ
p130 女の天才は甘やかしてもらえない(Women geniuses don’t get coddled)
p130 すぐ逃げて--何もかもバレた(Fly at once—all is known)◆ ノックス『陸橋殺人事件』(1925)では“All is discovered; fly at once.”、そちらに詳しく書いたので参照ください。幻戯は残念、注無し。早川(h98)は誤訳。
p131 脱水機(a wringer)◆ ローラー式脱水機。間に洗濯物を挟み、圧迫して水気を搾り取るやつ。
p132 クランペットをあぶって(toasting crumpets)
p133 コックさんって呼ぶ人が多い(callin’ you Cook as they mostly do)
p141 毛布の反対側で遊んで(taking his amusements on the wrong side of the blanket)◆ 面白い表現。幻戯(g123, 注084)は創元と同文。試訳「誤った毛布の中でお楽しみを」
p141 コレラが流行った時に死んで(died in the cholera)
p142 半日休みは水曜(Wednesday is my ’arf-day)◆ 使用人の休み。半休しかなかった?
p143 サルーン・バーの看板娘(the life and soul of the saloon bar)◆ サルーン・バーは「訳註 パブの仕切りのうち上品なほう」 幻戯(g125, 注086)「パブの上室」
p144 決められた時間のあとで酒出し(drinks after hours)◆ 幻戯(g125)「時間外の酒の提供」
p144 壜売り(serve in the jug and bottle)◆ 「訳註 客の持参した壜に酒を詰めて売る商行為」幻戯(g126, 注087)「容器持参」店外で飲むために客が自分で持ってきた容器に酒を入れる。家庭冷蔵庫も無いし、ガラス瓶による販売は高価になるので普及してなかったのかも。
p145 いい名前だった(it’s a better name).… 所帯持つとなったら、女はいろいろ犠牲に(a girl has to make a lot of sacrifices when she marries)◆ 苗字を変える嘆き
p145 四ペンス売り(the four-ale business) ◆ 「訳註 エールを1クォート四ペンスで壜売りすること」 幻戯(g127)「安ビール」 ここら辺は幻戯の方が意味がわかりやすい。Webにギネスの1パイントの値段史ポスター(1900-1992)があるが直近で1928年が10d.、[PWC]は本来1パイント4ペンスの意味だが、資料によっては1 quart(=2 pint)で4 penceと読めるのもあり、だって。
p145 この前の八月の銀行休業日(last August Bank Holiday)
p146 看板は十一時◆ 幻戯(g127, 注089) 当時のパブは夜11時で閉めるのが多かったようだ
p146 八杯よか(over the eight)◆ 「訳註 第一次大戦中はビール八杯が飲める限界とされていた」 Wikitionaryには“one over the eight”の形で1920s UK origin, from the idea that one can drink eight pints of beer without getting drunk. ビール八杯以上で「へべれけ」ということ。
p149 ニュース・オヴ・ザ・ワールド(News of the World)
p155 おなじみの田舎牧師(the usual country parson)
p163 ウッドストック型のタイプライターで打たれた(typed on a Woodstock machine)◆ イリノイ州ウッドストックの会社、1907年創業。シアーズ・ローバック傘下。Model No. 5(1917-1940?)がロングセラー。幻戯(g141)の割注で何故か「1916年に発売」と断定している。モデル5で間違いなさそうだけど…
p164 家族の聖書から… 名前を消して(erased… name from the family Bible)◆ 「訳註 一族の出生・結婚・死亡を見返しに記す習慣があった」Family Recordというページがあって、実際のものがWebで見られる
p170 バーバラ(Barbara)◆ ピーター卿の初恋か
p170 『バルバラ…』(Barbara celarent darii ferio baralipton)◆ 訳註及び[BP]
p170 僕はもちろん、ベイリアルの学生でした(I was a Balliol man)
p171 ばか話(talk piffle)
p172 メガセリウム信託(Megatherium Trust)◆ 架空のもの
p174 晩年のウィムジイ(when he was an old man)… 以降二十年間(for the following twenty years)◆ ありゃりゃ… 未来を語ってる。
p175 『エクスプレス』紙に出ていたジェイムズ・ダグラスの記事(James Douglas’ article in the Express)◆ James Douglasは架空だろう。Daily Expressかな?
p176 図書館の会費(a library subscription)◆ 「訳註 当時は会費制で維持されていた」 幻戯(g151, 注105) そういう会員制図書館もあった、ということらしい
p176 最も清らかな文学(the purest literature)◆ なるほどね
p177 槙肌作りや… 郵便袋を縫ったり(picking oakum or sewing mail-bags)◆ 刑務所の労役
p178 顔はパンケーキみたいに平凡(she’s as plain as a pancake)
p180 お茶の時間なんぞ、発明されなければよかった(nobody had ever invented tea)
p180 新聞記者の言い草じゃないが、何か露見したか?(Has anything transpired, as the journalists say?)
p182 問題は僕がキリスト教徒(the trouble was that I was a Christian)◆ 英国ではセヤーズさんが反ユダヤとの評があるらしい。でもゴランツはユダヤ人。前の版元ベンもユダヤ人。ここの記述もむしろ親ユダヤ。
p183 花婿の友達にも何か役目(some sort of bridegroom’s friend comes into it)… 帽子は脱がん決まり(You keep your hat on)◆ ユダヤの結婚式の作法のようだがちょっと曖昧な知識
p184 晩餐とダンスと、何とも疲れるジェスチャー遊び(dinner and dancing and charades of the most exhausting kind)◆ クリスマス・パーティだねえ。
p186 昔風な寝巻がお好み… スプーナー博士みたいに(prefers the old-fashioned night-gown, like Dr. Spooner)◆ なぜここにスプーナー博士?(スプーナリズムで有名, My Queer Dean!) Webを漁ったら次の逸話を発見。Mrs. Grey, daughter of one of the masters of Rugby School, is reported to have taken a banana ... and have said to Dr. Spooner. 'Do you like bananas?' He suddenly roused from a reverie: 'Er, what? Well, I must confess I prefer the old-fashioned nightgown!" (Rossell Hope Brown "The Warden's Wordplay: Toward a Redefinition of the Spoonerism"(1966)より) バナナとパジャマを聞き間違えたのだろう。ここは幻戯(g159, 注114)でも拾えていない。[PWC]でも博士のナイトガウンの趣味は不詳、としているよ
p189 オービュソンの絨毯(an Aubusson carpet)◆ 高級なものなんだろう。幻戯(g162)に割注あり
p191 映画館(cinemas)… おやつのメンデルスゾーンと、『未完成』の切れっ端(snacks of Mendelssohn and torn-off gobbets of the ‘Unfinished.’)◆ サイレント映画の時代は、映画館にピアニストが雇われていて、場面に合わせてピアノを弾いていた。幻戯はどうせ注釈をばら撒くなら、そういうことも書いて欲しいなあ。
p191 現代音楽(Moderns)◆ この頃ならシェーンベルクとかストラビンスキー。
p191 イタリア協奏曲… ハープシコードで弾いたほうが合う(the Italian Concerto... It’s better on the harpsichord)◆ チェンバロ専用曲の代表、と言ったらバッハ「イタリア協奏曲」BWV971だろう。二段鍵盤の効果はピアノでは物足りない。1930年代はドルメッチが古楽器を作り始めてた古楽第一世代のころ。
p191 バッハは脳味噌にいい(I find Bach good for the brain)◆ フーガなんてとっても論理的な音楽だしね… それでいてバッハには情感がある。
p191 『平均律』の一曲(one of the “Forty-eight.”)◆ バッハで「48」なら「平均律クラヴィア」のこと。何番かは不明だが、フランス風の第5番ニ長調BWV850なんてどう?
p195 ラム(Rumm)
p195 目隠し(Blindfold)
p196 『栄光、栄光、栄光』 (Glory, glory, glory)◆ probably a reference to hymn 455 in the Salvation Army Hymnと [PWC]にあった。「救世軍聖歌455番か」と訳註及び幻戯(g1687, 注122)にあるのは[PWC]由来だろう。Salvation Army Hymnは未調査
p196『みどりもふかき』(Nazareth)◆は"Ye fair green hills of Galilee"が歌い出しで、作詞Eustace Rodgers Conder、メロディは古い英国民謡によるもの。幻戯(g168, 注124)は[PWC]によりヴィクトリア朝の英国で人気があったグノー作曲の"Nazareth"(英訳詞Henry F. Chorley)としている。
p198 ハレルヤ(Alleluia)
p197 ハルモニウム(harmonium)
p198 ハープ、サックバット、プサルテリウム、ダルシマー(harp, sackbut, psaltery, dulcimer)
p200 豚足(とんそく)trotters
p202 ブラマ(a Bramah)◆ 開錠困難を謳っていた。ラッフルズでもお馴染み。幻戯(g172, 注131)
p206 残余財産相続人(residuary legatee)
p209 有名なもの(that famous one)◆ 幻戯(g178, 注134)でも不明
p211 四時半で終業(knock off at half-past four)◆ 当時の労働時間?9時5時じゃなかったの?
p212 椅子(回転式… 最近の型ではない)the chair (which was of the revolving kind, and not the modern type…)◆ どんなのだろう?
p220 『門をひと思いに通り、新しいエルサレムの門を…』(Sweeping through the gates, Sweeping through the gates)◆ 何故か創元・幻戯に注なし。[BP]には記載あり。[PWC]ではTullius Clinton O'Hare作の聖歌"Washed in the Blood of the Lamb"のコーラス部。
p220 ぼけが来た(Going dotty)◆ この感覚はちょっとわからない。本書の裏テーマは「私も歳をとったなあ」という述懐なのかも。
p221 <ルールズ>(Rules)◆ 幻戯(g188, 注140)
p222 十二月三十日
p232 マックス・ビアボームの話に出てきた男(the man in Max Beerbohm’s story)… 「感動を与えるのが大嫌い(hated to be touching)」◆ 幻戯(g197, 注144)の短篇「A・V・レイダー」(1914)に出てくる男
p233 望山荘(HILLSIDE VIEW)
p233 一九三◯年一月一日(JAN 1ST, 1930)
p233 家の中で火を焚くことを許さない(never permit a fire in the house)◆ ヴィクトリア朝の人ってすごいなあ。
p234 ちゃんとした女◆ ここの形容詞はrespectable
p234 乗合バス… 1ペニーで(omnibus... a penny ride)
p235 娘時代は誰でも、水彩画の手ほどきを受けさせられた(as girls we were all brought up to dabble a little in water-colours)
p237 喫茶店(tea-shop)… <ライオンズ>一軒(a Lyons)… ◆ 人口2〜3万人程度なのに喫茶店が8軒とライオンズがある。
p238 楽団もソーダ水売場もない、ありふれた地味な<ライオンズ>(an ordinary plain Lyons, without orchestra or soda-fountain)
p238 全粒粉ビスケット(digestive biscuits)
p241 靴の試し履き(Trying on shoes)
p242 尾行(shadowing)
p246 スコンとバター、紅茶をポットで(scones and butter... and a pot of tea)◆ cupじゃなくてpotで頼むんだね。二人で別々に二つのポットを頼んでる事例があったなあ。
p247 これ以降のネタはとっても興味深かった。かなり面白いのがふんだんに。ネタバレ回避で書けないのが残念。
p255 最愛のルーシィ(My dearest Lucy)
p269 コヴェントリーに住んでたんで、よく冗談の種にしてた(lived at Coventry and we used to have a joke about it)◆ Send to Coventryは意図的に仲間はずれにすること。英Wikiに項目あり。
p297 ポメリー(Pommery)
p302 四・五ポンド 三シリング四ペンス(4½lb. ¾d)◆ 牛肉の塊の値段。電子版の原文は4分の3ペンスと読めるが、流石に安すぎるので3シリング4ペンス(3/4dと表記する)だろう。100gで123円。ずいぶん安い。英国(2023年)だと生肉で265円。
p303 ボーンズ(Bourne’s)◆ 店が閉まる前、六時半には着きたい、と言ってる。ということは閉店は七時か?英Wiki "Bourne & Hollingsworth"
p308 マーシュ・テスト(Marsh’s test)
p315 ブラヴォー事件(Bravo case)◆ 幻戯(g263, 注163) 1876年の事件。
p316 ジーヴズ(Jeeves)◆ 幻戯(g263, 注164)直前のセリフI endeavour to give satisfaction my Lordが真似だったから。
p322 まさしく謎よ(Riddle-me-right, and riddle-me-ree)◆ 幻戯(g267, 注171)「なぞなぞなあに」幻戯も[BP]同様「マザー・グース」から。創元では『魔女の戯れ』のもじりか?とあるが何を指してるのかわからず。
p322 『英国有名裁判全集』(Notable British Trials)◆ 懐かしい!旺文社文庫で分厚い文庫版が出てたことは、もう忘れ去られてるよね。 『ミステリの祭典』に登録しておこうかなあ。(確かめたら、自分で一冊登録済みでした…)
p323 『英国写真』誌(British Journal of Photography)◆ 幻戯(g268, 注177) 実在の写真誌、1854年創刊。
p325 シーザーの妻(Caesar’s wife)◆ Caesar's wife must be above suspicion. Wikitionaryに項目あり。幻戯(g270, 注181) 「カエサルの妻」 ひどい夫だなあ。これ「李下之冠」と似てるようで全然違う。自分や身内への戒めじゃなくて妻(弱い立場の他人)への戒めだから… カエサルの弟またはカエサルの母、ならまだ感じが良いが… まあ夫の権威を傘に威張るバカ女に対して使うなら無問題かな?
p328 先週の『スージーの内緒話』のマダム・クリスタルの欄(in Madame Crystal’s column last week, in Susie’s Snippets)◆ 英国で発売されてたTit-Bitsみたいな週刊新聞か? [PWC]もTitbits風の架空雑誌だろうとしている。一致したので素直に嬉しい。
p329 ダイムラー(a Daimler car)◆ 高級車の象徴
p329 映画(the talkies)◆ ここはトーキーに意味がある。英国上陸1928年だから流行最先端の娯楽だった。幻戯(g273)は「トーキー」と訳しているが「最新流行」というような説明に欠ける。早川(h235)「物語」
p331 ターキッシュ・ディライト(Turkish Delight)◆ 幻戯(g275)も同じ。早川(h237)「トルコ風菓子」 日本ではロクム、ターキッシュデライトとして知られているようだ。
p343 国家(the Crown)◆ 幻戯(g285)「検察当局」 当時の英国には日本や米国のような検察機構は無かった。ここもp101同様「国王側」が一番正確だろう。
(完結!)

No.12 4点 レッドキング
(2023/09/16 23:06登録)
ドロシー・セイヤーズ第五作。最近評したクロフツ諸作や、それ以上に後期クイーン作品に頻出する有罪判決条件の、必要条件:「犯人で在り得る(その可能性がある)」と、十分条件:「犯人でない事は在り得ない(明晰判明である)」の問題が、冒頭の裁判シーンで鮮やかに描かれる。判事自身、被告側には無罪証明(=必要条件の否定=「在り得ない」の証明)の義務はなく、検察にこそ有罪の十分条件(=明晰判明)の証明が求められると宣言をする・・・すなわち、「疑わしき状況」だけでは無罪、があくまでも大原則だ、と。が、そんな裁判の大原則では話にならず、主役「貴族探偵」は、被告以外の真犯人の有罪を明晰判明にする事(できたか?)で、被告の無罪を証明せざるを得ない、そりゃ、ミステリ小説だからね。

No.11 7点 クリスティ再読
(2023/03/11 13:19登録)
今回は手に入りやすい創元ではなくて、幻戯書房「ストロング・ポイズン」で。
なんでわざわざ新訳?というと、

本書を翻訳した動機は、英語圏で盛り上がりを見せるセイヤーズ研究が国内においてはまったく見当たらないからに他ならない。

と訳者解題で書いているように、セイヤーズのミステリを「フェミ小説」で読んでやろう、という狙いがあるからなんだね。確かに本作の面白さというのは、ピーター卿が陰のオーナーの「タイピスト会社」、実は女性探偵社の大活躍を描いたシスターフッドなスリラーと見るのがいいし、また Akeru さんがご指摘のような、なぜピーター卿が無実の罪を着せられたハリエットに一目惚れするか?が「最大の謎」だったりするあたりでもある。そういうトピックが海外で取り上げられている、のは確かにセイヤーズという作家の、ミステリ外での影響力の高さとも相俟って、ごく当然のアプローチでもあるわけだ。

社会的に期待される探偵のイメージと男性性の不安の間で引き裂かれながらも、ウィムジィはヴェインを救うために男らしい探偵であり続けなければならない。

とまあ、訳者(男性)はフェミ視点を活用してこういう結論を出してくるわけである。「男性性の毒」をピーター卿が自ら飲み干して....とかね。見当外れでもなかろうが、ハリエットがヴァーニア・ウルフやフォースターやストレイチーなどのブルームズベリー・グループの周辺にいたらしいなど、第一次大戦後の女性の社会進出と経済的に男性から独立した「働く女性第一世代」のセイヤーズ自身の自画像としてのあたりを追及してもいいんじゃないかな。

でなんだが、あともう一つ。本作のトリックって大変有名なもので、本作がそのオリジナルとされているのだが、評者が発見したことを書いておこう。本作は1930年の出版だが、ハメットの1929年の「ブラックマスク」掲載の短編に、このトリックが使われている。パズラー的な使い方じゃないが、シニカルでリアルな話になっているので、これもなかなか優れた使い方だと思うよ。でも評者は「トリック先願主義」みたいなものには懐疑的だな。セイヤーズが「ブラックマスク」を読んでいたとは思わないから、この短い間に同一トリックで出ている、というのは、現実の事件か事故で話題になったことがあったのだろうか?なんて勘繰る。どうだろう?
(いやごめん、セイヤーズって「不自然な死」の中で「ブラックマスク」を小道具に使っている...じゃあ、やっぱオリジネイターはハメットじゃん)

No.10 6点 斎藤警部
(2022/02/04 15:23登録)
「じっと目を見つめる人間を信用してはいけない。彼は相手の視線を何かからそらしておきたいのだ。その何かをさがせ」

何事も、やり過ぎては賢者の目を引いてしまうのでした。。。。  読者を包むのはふんわりとした、やさしいユーモア。 謎多き毒殺事件、まずは「動機の追究~絞り込み」に労力を傾け、容疑者決め打ちとなって漸く「毒殺機会~トリック」の検証に入るというスタイル、その頃は既に話も終盤でスリルが急に熱を帯びだす読みどころ。 ユーモア基調は絶やさず、ライトな冒険シーンや軽ドタバタの一幕も魅力あり。淡い恋愛要素は綺麗な装飾(か?)。 しかし、このメイントリックを安易に推理クイズへ適用するのは良くないな。何気にクイズ化しやすいのは分かるが、長篇小説の中でこそ映える、味わいの深さだと思うのですよ。 それはつまり、Tetchyさんご指摘の「先入観を与える事を見越して」というのがポイントでしょうかね。

"ウィムゼイはもう一度礼を云って別れた。一マイルばかり道路を走らせて、彼は後悔しだした。そこで彼はくるりと愛用車マードル夫人をまわすと、教会にすれすれに走らせて、一つかみの紙幣をやっとの思いで「教会維持費」というラベルの貼ってある箱の口に押しこみ、町への道へとって返した。"

No.9 6点 青い車
(2020/03/15 07:50登録)
 セイヤーズのミステリはいわゆる「本格」的なトリックやロジックを好む人間からするとちょっと食い足りない作品が多いイメージがあります。それを補って余りある情緒というか味わいがあるのも確かですが、読んで時間が経つと記憶が薄らいでしまうというのが私見です。この『毒を食らわば』もネタが長編を支えるには些か弱いことが否めず、純粋にミステリとしての魅力でいえば5点が妥当、ピーター卿の魅力でプラス1点、というのが妥当だと思います。

No.8 5点 ボナンザ
(2018/07/02 21:41登録)
ピーター卿が恋に落ちる5作目。トリックは中々意表をついているが、これ一つで最後までもたせるのは厳しい、というかほぼ動機探しがメイン。

No.7 4点 Akeru
(2017/10/21 03:41登録)
以下ネタバレ有(少し)。



今更このトリックについて文句をつけるのは見当違いではないだろうか。 勿論、ぱっと思いつくだけでも鮎哲のリラ荘(これは傑作だった)やテレビドラマTRICKなどが同様のトリックを使う作品として挙げられるが、比べるまでもなくセイヤーズのほうが先だ。 我々は後代に生きた人間なのだからその辺りを勘案し、「どこかで見たような」などという批評はさておき非難は控えるに限る。セイヤーズが初出かは知らぬ。

さて、内容に関してだがセイヤーズは聖書やテニスンやディケンズ、果てはルイスキャロルなどからの多彩な引用を楽しむための書物だと再確認させられる一冊だ。 トリックは後代の人間が散々濫用した結果、今更読んでどうこう言えるものはほぼ無いし、そもそもセイヤーズ自身、トリックに重きを置いてもない。
要するにピーター卿と使用人やパーカー警部が喋ってる文章が目に心地いいと思えれば読み続ければいいし、そうでなければセイヤーズからは離れればいい。本作はセイヤーズ品質保証のマークを授かるに足る一冊なのは間違いない。

しかし謎なのは… 何故ピーター卿はハリエットヴェインに恋をしたのだろうか? 喋ってからならまだしも、喋る前から謎の天啓を持って無実だと決めつけ、恋に落ち、喋ろうとする。これは読者を完全に突き放している。 しかも彼女は作中で"美人でもない"との批評も受けているわけだ。
わざわざ指摘するまでもないだろうが、この"身持ちの悪い""不器量な"ヒロイン、ハリエットヴェインは作者自身を投影しているという声が強い。 白馬の王子様願望を書面に託したのは別に良い。 良くないのは主人公がヒロインに恋するというのを納得させる展開の欠如である。 この本はそれを欠いたまま進み、欠いたまま終わる。
更にヒロインは被疑者である。 この被疑者を擁護する最大の理由が"主人公の天啓"なのだから、要するに超能力で謎を解いたのと大差がない。

この一冊がセイヤーズの中でも指折りに数えられるのは全く残念だと言わざるを得ない。 セイヤーズの水準には乗るが、白眉ではないというのが個人的な意見である。

No.6 6点 nukkam
(2016/08/19 14:04登録)
(ネタバレなしです) 1930年発表のピーター・ウィムジー卿シリーズ第5作はハリエット・ヴェイン初登場にピーター卿の妹メアリのロマンスまで描かれるシリーズ重要作の本格派推理小説です。ハリエットと元恋人のフィリップが同棲関係にあったという設定は当時の作品としてはなかなか大胆、アガサ・クリスティーの作品世界では絶対にこんな不健全なことありえない(笑)。ミステリーとしては専門的知識の必要なトリックが難点かな。ピーター卿が犯人を追い詰める場面はなかなかの緊迫感、でもどこかユーモラスですね。「不自然な死」(1927年)に登場したクリンプスン嬢が本書でも活躍していますがこれまたユーモアに満ち溢れた描写です。

No.5 4点 了然和尚
(2015/07/06 16:14登録)
このヒ素に関するメイントリックは印象には残りますね(単純だけに)。まったくありえない話なら専門家のクリスティーから一言ありそうなので、科学的なのかもしれません。と言って、みんなが知ってる常識であればミステリーにならないですね。ストーリー展開は平凡で、注釈が多く読みにくいのですが、描写される生活感や文化には雰囲気を感じることもあります。私にはセイヤーズは面白さのポイントが掴みにくい作家ですね。

No.4 5点 蟷螂の斧
(2013/09/19 18:04登録)
英米ベストランクイン作品。やや納得性に欠ける点は、主人公の直感で、被告が犯人でないことと、犯人の目星をすぐつけてしまったことです。よって、メインは、動機探しと、ハウダニットに絞られてきます。ハウダニットについては、伏線があまりにもアカラサマすぎましたね。これがミスリードであれば、やられた感があるのですが・・・。犯人の努力?は面白いアイデアでした。サブストーリーとして、主人公が被告人(女性推理作家)に恋をするのですが、この行方が気になるところです。

No.3 4点 あびびび
(2011/08/31 12:58登録)
メイントリックの手段は途中で気づき、「まさか?もうひとひねりあるはず」と読み続けていくと、確かにその手段を用いる背景は予想できなかったものの、考えた通りだった。

おそらく、70%以上の読者が気づくのではないだろうか?英国ではクリスティと人気を二分とあるが、意外さ、どんでん返しとも切れ味がなかった。

さらに引用の多さに辟易した。しかしこれは英国のミステリであり、それは仕方ないが…。でももう一冊なにか読んでみて、この作家との相性を見たい。

No.2 4点 toyotama
(2010/10/10 12:57登録)
それでも私は毒を飲みたくない。

「ナイン・テイラーズ」にはすんなり入って行けましたが、入って行けないと門前払いを喰らった気になる。

No.1 8点 Tetchy
(2009/02/24 23:06登録)
本書がピーター卿シリーズのもう1人の主人公ともいうべき、ハリエット・ヴェインの初登場作。

しかし今回の毒殺のトリックは現在に於いても画期的ではなかろうか?正に発想の大転換である。
通常ならば“如何に被害者に毒を飲ませたか?”という命題は実はもっと正確に云えば“如何に被害者のみに毒を飲ませたか?”とかなり限定されることになる。そういった先入観を与える事を見越してのこの真相。

いやあ、この発想のすごさには改めて畏れ入る。

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