| nukkamさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.44点 | 書評数:2900件 |
| No.2800 | 7点 | 方舟 夕木春央 |
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(2024/09/16 05:54登録) (ネタバレなしです) 作者にとって第3長編作品となる2022年発表の本書を私は講談社文庫版(2024年)で読みましたが、「各方面から激賞を受ける」と評価されているのも納得の本格派推理小説です。フィナーレでこれほど劇的効果を上げた作品は某国内作家の(やはり第3長編の)1967年発表の本格派推理小説が匹敵するぐらいではないでしょうか。極限状況下という舞台と論理性豊かな謎解きを巧妙に組み合わせています。巻末解説を書いた有栖川有栖でなくとも色々と感想を語りたくなるような作品です。 |
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| No.2799 | 7点 | 死はすぐそばに アンソニー・ホロヴィッツ |
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(2024/09/10 16:59登録) (ネタバレなしです) 2024年発表のダニエル・ホーソーンシリーズ第5作の本格派推理小説です。これまでのシリーズ作品はホーソーンとワトソン役のホロヴィッツ(トニー)の探偵コンビによる(時に対立しながらも)捜査と推理を描いていましたが本書は大きく前提条件を変更しました。作中時代は2019年、ホーソーンとトニーが出会う前の殺人事件の謎解きです。トニーに代えてジョン・ダドリーという男がホーソーンの探偵パートナーです。明らかにトニーより優秀なのですが、名探偵の引き立て役としては物足りません(単なるワトソン役でない、ある重要な役割が与えられているのですが)。第八部「真相」でのホーソーンの推理説明が実に素晴らしく、様々な手掛かりを組み立てて事件を再構築する場面は謎解きのスリルに溢れています。しかしここからの捻り方が非常に独創的で、知的バトルが思わぬ決着になります。印象的な締め括りではありますがどこかすっきり感を欠いたようなところがあり、読者の評価が分かれるかもしれません。 |
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| No.2798 | 6点 | アリバイ崩し承ります 大山誠一郎 |
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(2024/09/09 02:16登録) (ネタバレなしです) 2018年発表の美谷時乃シリーズ第1短編集で、7作のアリバイ崩し本格派推理小説を収めています。「アリバイ崩し承ります」という貼り紙のある時計店の女性主人がアリバイを崩せずに困っている刑事から話を聞いて事件を解決するという安楽椅子探偵ものです。アリバイ崩しは難解で読みにくいという印象がありますが本書の作品はどれも読み易いです。トリックは大掛かりなものはなく、「時計屋探偵とダウンロードのアリバイ」の珍しいアリバイもトリックは結構アナログです。ちょっとした不自然な言動が手掛かりになる「時計屋探偵と死者のアリバイ」と犯人当て要素もある「時計屋探偵と山荘のアリバイ」が個人的には印象に残りましたが、犯罪のない「時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ」のゲーム的な雰囲気も悪くありません。 |
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| No.2797 | 6点 | 真っ暗な夜明け 氷川透 |
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(2024/09/08 13:46登録) (ネタバレなしです) 覆面作家の氷川透のデビュー作である2000年発表の本格派推理小説です。作者名と同じ名前の主人公を使っていること、「読者への挑戦状」が挿入され、論理を重視した謎解きであることはエラリー・クイーンを連想させます。活躍時期は大変短く、2006年以降は作品を発表していません。エラリー・クイーンがバーナビー・ロス名義を使ったように別名義で活動しているかもしれませんが。論理を重視し過ぎて説明が回りくどかったり屁理屈に感じられる時もありますが全般的には読み易いです。人物描写や物語性はほとんど配慮されず、典型的なパスル・ミステリーですが最終章では人間ドラマを描いています。あらゆる可能性を丁寧に検証するあまり(直接描写でないとはいえ)エロネタやトイレネタにまで踏み込んでいるのは読者の好き嫌いが分かれそうですが。キワモノ系が有利とされる某ミステリー賞をガチ本格派の本書が受賞していたのは意外でした。 |
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| No.2796 | 5点 | 白薔薇殺人事件 クリスティン・ペリン |
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(2024/09/07 01:51登録) (ネタバレなしです) アメリカ出身で英国に移住した女性作家クリスティン・ペリンが2024年に発表した本格派推理小説です。英語原題は「How To Solve Your Own Murder」で、こちらの方が創元推理文庫版の日本語タイトルよりも内容に合っているとは思いますが魅力的なタイトルとは言い難いですね。約60年前に殺されると予言された大叔母のフランシスが怪死します。主人公のアナベルがこの事件を調べていくことになる一方で、予言を信じていたフランシスが殺された場合に備えて周囲の人間の言動を記録した日記を読むことになるという展開になります。児童書の書き手として活躍していた作者の初めての大人向け作品だからでしょうか、人物描写と複雑な人間関係の構築に随分と力を入れています。巻末解説での「人間模様の丁寧な描写の中に伏線を張り巡らせる」という評価はその通りであるとは思いますが重厚な人間ドラマの中に謎解きの面白さが埋没気味で、せっかく手掛かりを説明されてもそんなのどこにあったかなと微妙にすっきりできませんでした。 |
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| No.2795 | 4点 | 悪魔の見習い修道士 エリス・ピーターズ |
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(2024/09/04 23:36登録) (ネタバレなしです) 1983年発表の修道士カドフェルシリーズ第8作の本格派推理小説です。作中時代は1140年9月、荘園主の息子メリエットをシュルーズベリ修道院で見習い修道士と預かるところから物語が始まります。このメリエットが一刻も早く修道士になりたいと焦りにも似た態度を示すこと、そして就寝中にうなされてうめき声を発して周囲から恐れられるようになることが前半の謎と言えるのですが、個人的にはどうでもいい謎にしか感じられませんでした。中盤になって死体が登場してからようやくミステリーらしくなり、終盤には劇的な展開もあって人間ドラマも盛り上がりますが前半を抑えすぎですね。カドフェルも探偵役としては物足りず、証言頼りでの解決です。 |
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| No.2794 | 6点 | 殺人連結のささやき 長井彬 |
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(2024/08/31 20:27登録) (ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説です。離婚調停中の妻が殺され、最有力容疑者の夫にはアリバイが成立します。しかしこれでアリバイ崩しには安易に走らず、ユニークな謎解きプロットが用意されています。事件前にも事件後にも事件関係者が不思議な行動をとっていてこれが探偵役を大いに悩ませ、ややもすると殺人事件のことを忘れてしまいそうです。最終章の1つ前の第9章で13の謎がまだ残っていますが、かなりの謎がなぜそんな行動をとったのかです。最終章で事件解決後に「せつないか、こわいか」についての議論がありますけど、うかつに答えると炎上しかねない議論なのでこれは結論を曖昧にしたままにしたのは正解でしょう(笑)。 |
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| No.2793 | 6点 | 病院殺人事件 ナイオ・マーシュ |
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(2024/08/31 17:01登録) (ネタバレなしです) 1935年発表のロデリック・アレンシリーズ第3作の本格派推理小説で、国内では別冊宝石68号(1957年)に掲載されました(ロダリック・アリーンと表記されています)。江戸川乱歩による小伝でヘンリイ・ジェレット(1872-1948)との共作であることが紹介されており、英語表記の作者名は「Ngaio marsh & Henry Jellett」(mが小文字なのはご愛敬)となっているのですが日本語表記はなぜかナイオ・マーシュのみでした。ジェレットはマーシュの父親の友人の医師で、病気になったマーシュの治療を担当しマーシュから「Papa Jellett」と呼ばれるほどの交流があったそうです。本書での手術中の医者や看護師たちの動きの描写や薬品の知識に関する助言を与えたのではと思われます。議会で倒れた内務大臣が病院で手術を受けますが術後に死んでしまいます。他殺を主張する未亡人の求めで検視審問が開かれ、過量に使用すると危険な薬品が過量に投与されていることがわかります。派手な展開はありませんが、第14章でどのように殺害したのか様々な可能性を丁寧に検証されるなど謎解きは充実しており、古い翻訳ながらそれほど読みにくくありませんでした。解決の説得力はやや微妙な出来栄えで、特に動機に関する「狂人の論理」は話が唐突過ぎて唖然としました。余談になりますが本国でも再版時に作者名がマーシュのみ表記になってジェレットが不遇な扱いを受けることがあったらしいです(笑)。 |
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| No.2792 | 5点 | 殺人名画 西東登 |
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(2024/08/28 11:23登録) (ネタバレなしです) 1975年発表の毛呂周平シリーズ第4作です(シリーズ最終作)。この作者については私は本書以前に2作品しか読んでおらず、その2作とも私の好きな本格派推理小説ではなかったのでますます敬遠していたのですが本書の青樹社版は「書き下し本格推理」と宣伝されていたので読んでみました。失踪事件の調査に始まり殺人事件に発展するという、いかにも私立探偵ものらしいプロットです。犯人当てとしては他愛もなく(有力容疑者数も少ない)、全17章の第11章で毛呂は犯人の見当がついています。謎解きとして特別なものは感じませんでしたが、関係なさそうな事件と殺人事件を有機的に組み合わせる手法は手堅く、解決はすっきりできました。犬がちょっとだけ登場しているものの、この程度では作者のトレードマークである動物ミステリーとは言えないと思います。 |
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| No.2791 | 5点 | 楽園の骨 アーロン・エルキンズ |
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(2024/08/28 11:09登録) (ネタバレなしです) 1997年発表のギデオン・オリヴァーシリーズ第9作の本格派推理小説で、英語原題は「Twenty Blue Devils」ですが別にオカルト要素はありません。「Blue Devlis」はコーヒーのブランド名です。今回の舞台はタヒチで、ギデオンの友人であるジョン・ロウの親族の怪死事件を調べることになります。とはいえ外国なのでジョン・ロウがFBI捜査官であっても地元警察に捜査を強要するのは無理があり、ギデオンも及び腰で前半はなかなか謎解きが進みません。後半になってやっとスケルトン探偵ならではの活躍が見られて殺人事件の捜査に切り替わりますが、他にも色々な小事件や秘密が見え隠れしています。最後は全ての真相が明らかになりますが、推理説明で解決しているものと結果報告のみとが混在しているので本格派としてはどこか中途半端な印象が残りました。 |
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| No.2790 | 6点 | 疑惑の渦 左右田謙 |
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(2024/08/25 06:07登録) (ネタバレなしです) 1978年発表の本格派推理小説で、後年には「一本の万年筆」に改題されました。県立高等学校の女性教師が殺され、現場には「M・K」という頭文字が彫られた万年筆が落ちていました。しかし所有者には鉄壁のアリバイがあり、万年筆は紛失したと主張されるというプロットです。登場人物が少なくて犯人は予想しやすいと思いますしトリックも大したものではありませんが、容疑者であることを自認してびくつく教頭、アマチュア探偵として事件を調査する生徒、刑事など登場人物の視点が次々に替わる展開が効果的ですらすらと読めました。最後の刑事の質問に対する犯人の回答がどれだけ読者の共感を得れるかは微妙ですね。 |
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| No.2789 | 6点 | カレンダー・ガール E・S・ガードナー |
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(2024/08/25 05:52登録) (ネタバレなしです) 1958年発表のぺりー・メイスンシリーズ第57作の本格派推理小説です。殺人事件があった(と思われる)時にメイスンの依頼人が殺人現場を訪問していたというパターン自体はありきたりですが、そこにちょっとした出来事(今回は車の接触事故)を絡ませて謎を複雑化させているのが本書の工夫です。法廷での逆転劇もいつものパターンかと思わせて更にもうひとひねりしているのも効果的でした。 |
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| No.2788 | 6点 | 鏡面堂の殺人~Theory of Relativity~ 周木律 |
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(2024/08/22 05:03登録) (ネタバレなしです) 本格派推理小説のシリーズとして「眼球堂の殺人」(2013年)から快調なペースで発表されてきた堂シリーズですが、シリーズ第5作にして本格派の定型から逸脱した問題作の「教会堂の殺人」(2015年)を出版して3年後の2018年にようやくシリーズ第6作の本書が出版されました。このシリーズは連作長編的な趣向があって、初めて読んだシリーズ作品が本書だったり「眼球堂の殺人」の次に読んだのが本書だったりすると作品世界の変遷になじむのに苦労するでしょう。本書はこのシリーズに登場する異様な「堂」を建築した異能の建築家・沼四郎が初めて完成させた建物である鏡面堂で26年前の1975年に起きた殺人事件を当時に書かれた手記を読んで解決するプロットです。現場で手掛かりを確認しているので安楽椅子探偵ものではありませんが。密室や消えた凶器などトリックにこだわっているのもこのシリーズならでは。人間関係の謎解きは後出し説明感が強いし、一部の人物描写には不自然感がありますがとにかくも本格派推理小説のスタイルに戻ったのが個人的には嬉しいです。でも最終章で次回作の予告があり、犯人がネタバレされているような記述があるのは気になりましたが。 |
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| No.2787 | 5点 | 風に散る煙 ピーター・トレメイン |
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(2024/08/20 21:58登録) (ネタバレなしです) 2001年発表の修道女フィデルマシリーズ第10作で、上下巻で出版された創元推理文庫版で「歴史的背景」や「訳注」も含めると550ページほどの厚さです。船でカンタベリーへ向かうフィデルマとエイダルフが嵐のためにウェールズ南西部のダヴェド王国に寄港して2つの事件に巻き込まれます。1つは少女殺し、もう1つは修道院から修道士たちが一人残らず消えてしまうという事件です。このシリーズは本格派推理小説と冒険スリラーのジャンルミックス型が多いですが、本書の場合は修道士失踪事件の解決を最後にしていて冒険スリラー要素の方が強い印象を受けました。登場人物リストに載っていない重要人物が何人もいるのはちょっと不満ですが、複雑で劇的な真相(というかたくらみ)が用意されています。殺人の謎解きの方はやや平凡ですが悲劇的な運命が重い余韻を残します。終章の「迷信」はE・S・ガードナーの「嘲笑うゴリラ」(1952年)の最終章を連想させますね。 |
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| No.2786 | 6点 | 死者と栄光への挽歌 結城昌治 |
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(2024/08/17 08:55登録) (ネタバレなしです) 非ミステリーの「軍旗はためく下に」(1970年)や「虫たちの墓」(1972年)で戦争とは何だったのかを読者に考えさせた作者は、1980年出版の本書の文春文庫版あとがきで「本篇を推理小説にしたのも、若いひとたちに読んでもらいたいという願いをひそめた結果にほかならない」とコメントしています。30年以上前に太平洋戦争で戦死したと思っていた父親が交通事故で死んだと連絡を受けた主人公が父親は戦死したのか復員したのかを調べていくプロットです。手掛かりを求めて父親の戦友たちを訪問していきますが、そこで戦中戦後の悲惨なエピソードが色々と語られます。戦争体験の風化を危惧して書かれたことがよく伝わってくる社会派推理小説であり、推理による(自供も多いですが)謎解きのある本格派推理小説でもあります。 |
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| No.2785 | 5点 | クイーンのフルハウス エラリイ・クイーン |
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(2024/08/14 11:31登録) (ネタバレなしです) 1954年から1962年にかけて書かれたエラリー・クイーンシリーズの中編2作、短編1作、ショート・ショート2作を収めて1965年に単行本化された第5短編集です。ショート・ショートはどちらもダイイングメッセージの謎解きというこの作者ならではの内容ですがほとんど印象に残りません。中短編はさすがに手掛かりを増やしてもう少し複雑な謎解きの本格派推理小説にしていますが普通の出来栄えに思います。但し「キャロル事件」(1958年)は異彩を放っています。重苦しい人間ドラマ要素が事件の悲劇性を増すのに効果的で、これ単独なら個人的には7点評価に値します。 |
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| No.2784 | 5点 | 浅間山麓殺人推理 梶龍雄 |
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(2024/08/14 01:02登録) (ネタバレなしです) 1984年に「殺人への勧誘」というタイトルで出版された本書を私は改題された徳間文庫版で読みました。殺し屋から呼び出されて狙われた5人の男女がそれぞれが過去に殺し屋を使って殺人を犯していたことを自供して殺し屋の手がかりを探ろうという設定は、ユニークではあるけどあまりにも作り物めいていて読者の好き嫌いが大きく分かれそうな気がします。最後は推理によって謎解きされて本格派推理小説として着地してはいるものの、全8章の物語の第7章の最後になって解くべき謎がようやくはっきりする展開のため本格派らしさをあまり感じられませんでした。推理の決め手となった手掛かりも今では時代の古さが目立ってしまい、現代の若手読者にはぴんと来にくいと思います。 |
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| No.2783 | 5点 | 泥棒は選べない ローレンス・ブロック |
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(2024/08/13 11:46登録) (ネタバレなしです) 本格派推理小説以外のミステリー作品に関心の極めて低い偏屈読者の私にとって米国のローレンス・ブロック(1938年生まれ)はマット・スカダーシリーズのハードボイルドやエヴァン・タナーシリーズのスパイ・スリラーのイメージが強くてほとんど読んでおりません。バーニィ・ローデンバーシリーズについても主人公が泥棒ということで冒険スリラー系か犯罪小説系かと思っていましたが、本格派として評価している感想投稿がありましたので1977年発表のシリーズ第1作である本書を読んでみました。本書ではもうすぐ35歳を迎えるバーニィの1人称形式で語られています。謎の依頼人に頼まれてブルーの箱を盗みにアパートメントの一室に侵入しますが、そこへ警官が現れた上に死体まで発見され、慌てたバーニィは警官に体当たりして逃亡するという巻き込まれ型サスペンス風な展開になります。犯人当て本格派としては登場人物の人数が少な過ぎる感がありますが、依頼人の正体やブルーの箱はどこにあるのかという謎解きを絡めています。内容は全く異なりますがレックス・スタウトの「赤い箱」(1937年)の向こうを張って「青い箱」というタイトルでもよいように感じました。主人公が泥棒である設定を謎解き推理に絡めている点は巧妙だと思います。逃亡犯としての危機感描写が物足りないのと通俗スリラー色の濃い文章は読者評価が分かれるかもしれません。 |
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| No.2782 | 6点 | 五月はピンクと水色の恋のアリバイ崩し 霧舎巧 |
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(2024/08/08 18:11登録) (ネタバレなしです) 2000年発表の私立霧舎学園ミステリ白書シリーズ第2作の本格派推理小説です。アリバイ崩しに挑戦していますが「あとがき」で作者は「『アリバイ崩し』もののミステリはあまり好きではありません」とコメントしており、その理由についても記述していますが私も大いに賛同します。魅力的な謎と論理的な謎解きで読者を最後まで引っ張って行こうとする作者の主張とアリバイ崩しを両立させることに成功していると思います。第8章の3でのイニシャルに関する推理はどう考えても「間違っていない?」と気になってしまいましたが、犯人とトリックの真相にたどり着く推理は丁寧です。余談になりますが前作と同様、本書でも《あかずの扉》研究会シリーズに関する言及があるのが何となく嬉しかったです。 |
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| No.2781 | 5点 | ソングライターの秘密 フランク・グルーバー |
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(2024/08/06 18:23登録) (ネタバレなしです) フランク・グルーバー(1904-1969)のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズは第1作の「フレンス鍵の秘密」(1940年」から第12作の「レザー・デュークの秘密」(1949年)までは快調なペースで書かれましたが、第13作の「一本足のガチョウの秘密」(1954年)は5年の空白後、そしてさらに10年を経ての1964年に第14作の本書がようやく出版され、これが結果的にシリーズ最終作となりました。執筆ペースがスローダウンした理由はわかりませんが、本書も他のシリーズ作品と同じく軽快なテンポで書かれたユーモア・ハードボイルドで特に衰えは感じません。シリーズ集大成のつもりで書いたのかは判断できませんけど、何度もシリーズ作品に登場した「四十五丁目ホテル」でのジョニーと支配人のやり取り、ボディービル本の行商、ジョニーの機転、サムの怪力無双などがお約束のごとく楽しめます。賭けに負けた代償に自作の楽譜をサムに譲渡したソングライターがジョニーとサムの前で毒死しますが、殺人犯捜しよりも楽譜を巡ってのコン・ゲーム的な展開を重視しているのが本書の特徴です。本格派推理小説好きの私としては第21章の最後の説明は好みの真相ではないし、第2の殺人についてはほとんど謎解き説明されていないのも不満です。とはいえ終盤のたたみかけるような勢いはこの作者ならではで、第27章でのジョニーの粋なはからいも印象的でした。 |
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