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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2812件

プロフィール| 書評

No.1992 5点 盗まれたフェルメール
マイケル・イネス
(2018/04/04 08:59登録)
(ネタバレなしです) 1952年発表のアプルビイシリーズ第13作で、「ハムレット復讐せよ」(1937年)の登場人物が再登場しています。死んだ画家の遺作展示会での絵画盗難に端を発し、その画家は殺されたらしいこと、問題の絵画には思わぬ秘密が隠されていたことがわかる展開には本格派推理小説らしさもありますが、事件が組織犯罪であることが確実視される後半はアクションシーンも挿入されるスリラー小説に変貌します。本書のアプルビイは警視監という地位にあり、本来なら捜査指揮をとる立場だと思いますが何と単身で敵地に乗り込むような展開になってサスペンスが盛り上がります。アプルビイの妻ジュディスも巻き込まれてスリル感はさらに加速します。最後にはアプルビイによる真相説明があって驚くべき秘密が明かされますが、本格派のように謎解き伏線を回収しての推理説明ではないのがちょっと残念。


No.1991 4点 QED 出雲神伝説
高田崇史
(2018/04/01 05:24登録)
(ネタバレなしです) 2008年発表の桑原崇シリーズ第15作の本格派推理小説です。現代の謎解きと歴史や宗教の謎解きが組み合わされ、後者の方に力が入っているのはこのシリーズならではの特徴です。もう10作以上このシリーズを読んだので自分は学問的な謎解きは肌に合わないなどという不平は今さら表明しませんけど(してるじゃん)、それにしたって現代の謎解きで事件現場に残された紋章の真相がご都合主義的というかいくらでも他の解釈も可能ではという程度の説得力しかないのは何とかならなかったのでしょうか。


No.1990 6点 湖畔の殺人
フランセス&リチャード・ロックリッジ
(2018/03/31 22:57登録)
(ネタバレなしです) 劇評論家として有名な米国のリチャード・ロックリッジ(1898-1982)とその妻フランセス・ロックリッジ(1890-1963)はコンビ作家としてノース夫妻シリーズやヘイムリッチ警部シリーズなど50作近いミステリーを書きました。フランセスの死後もリチャードは単独で更に20作以上発表しています。特に人気が高かったのが出版社社長のジェラルドとその妻パメラのノース夫妻シリーズです。デビュー作は「ノース夫妻」(1936年)という非ミステリーのコメディー短編集でしたが1940年発表の長編第1作からはミステリーシリーズになりました。1941年発表の本書はシリーズ第2作長編です。ノース夫妻以上に活躍しているのがウエイガンド警部で、真相を突き止めるのはウエイガンド、ノース夫人のパム、そしてリチャード・ノースの順番でした。しかもウエイガンドには謎解きとは別に重要な出来事が待っています。16章の終わりには「読者への挑戦状」風なメッセージがあって本格派推理小説として予想以上にしっかりしています。終盤の活劇がサスペンス豊かなのも嬉しい誤算でした。惜しまれるのは六興推理小説選書版の登場人物リストで、何人かの容疑者が掲載されておらず犯人が(私でも当てられたぐらい)わかり易くなってしまっています。


No.1989 6点 青鷺はなぜ羽搏くか
岡村雄輔
(2018/03/31 16:39登録)
(ネタバレなしです) 1952年発表の長編第2作である本格派推理小説です。「加里岬の踊子」(1950年)で活躍した秋水魚太郎はほんの数ページしか登場せず、本書の名探偵役は熊座警部補です(続く「幻女殺人事件」(1954年)では完全に熊座しか登場しなくなります)。東京の下町である佃島で起こった殺人事件の謎解きですが捜査描写は非常に地味で派手な展開もありません。しかし風景描写や人物描写には力が入っており、独特の叙情性があります。中でもある人物の特異な性格描写は実に強力な個性となっています。殺人現場近くで謎の女性が目撃されて一見単純そうな事件ながら容疑は二転三転、熊座を悩ませます。ミスディレクションの巧さも光ります。


No.1988 7点 オリエント急行はお嬢さまの出番
ロビン・スティーヴンス
(2018/03/29 08:14登録)
(ネタバレなしです) アガサ・クリスティーの名作本格派推理小説「オリエント急行の殺人」(1934年)を意識して2016年に発表された英国少女探偵の事件簿シリーズ第3作で作中時代は1935年、クリスティー作品が発表された翌年という設定です。オリエント急行での旅行という贅沢な夏のバカンスを過ごすことになったデイジーとヘイゼルが列車内の殺人事件に巻き込まれます。この舞台だけでも謎解き好き読者ならわくわくしますが、事件は密室殺人だし容疑者はマジシャン、霊媒師、犯罪小説家、外国の貴族と実に多彩な顔ぶれ、更にはライバル的な探偵役まで登場します(デイジーたちは無能と見下しますが)。そして旅行に同伴したヘイゼルの父親が女の子が探偵活動なんかまかりならんと目を光らせるという設定もサスペンスを盛り上げます。クリスティー作品のような大仕掛けはさすがにありませんが充実のプロットを楽しめました。


No.1987 5点 呪い殺しの村
小島正樹
(2018/03/28 08:45登録)
(ネタバレなしです) 2015年発表の海老原浩一シリーズ第6作の本格派推理小説です(島田荘司との共著「天に還る舟」(2005年)はカウントしていません)。不思議な謎を次から次へと提供するサービス精神は相変わらずでそこは大いに賞賛できるのですが、HORNETさんのご講評で指摘されているように「風呂敷を広げたはいいが上手く畳み切れていない」感覚が残る作品でもあります。その中でメインの謎はトリック説明に最もページを割いていることから「千里眼」「予知」「呪殺」の超能力トリックになるのでしょうが、私には類例を思いつけない独創的なトリックではありますが斬新というより珍奇という印象のトリックでした。個性的な探偵とは言えない海老原の痛ましい過去を序盤で紹介しているので物語の中で何か重要な役割を果たすのかと期待しましたが、結局活かされないまま終わってしまいました。


No.1986 5点 アリバイ
ハリー・カーマイケル
(2018/03/27 20:50登録)
(ネタバレなしです) 実にシンプルなタイトルが印象的な1961年発表のジョン・バイパー&クインシリーズ第19作の本格派推理小説です。もっとも強固なアリバイとそのアリバイ崩しに徹した作品かというとさに非ず。まず前半はパイパーが失踪した女性の足どりを追跡するという何とも緩い展開です。ようやく凶悪な事件が起き、有力容疑者にはアリバイがあることもわかるのですがパイパーも警察も早々とアリバイは鉄壁だと認めてしまい、崩そうとする気合が感じられません(笑)。それでいて容疑が晴れたと割り切るわけでもなくつかず離れずの捜査が続きます。別の容疑者も何人かいますがこちらの容疑も弱く、実にじれったいプロットです。終盤は一気にサスペンスが濃くなり、そして真相はというとクロフツの某作品、クリスティーの某作品、ルース・レンデルの某作品が頭に浮かびました(最後のは本書より後発の作品ですけど)。ネタバレになるので詳しくは書けませんがアリバイのことだけ考えればよいという作品ではなかったです。


No.1985 5点 寝台特急出雲 殺意の山陰路
草川隆
(2018/03/21 22:08登録)
(ネタバレなしです) 1987年の発表時は「寝台特急出雲殺人事件」 というタイトルだった本格派推理小説です。これまでに発表されたトラベル・ミステリーでは(無理矢理感はありますけど)密室の謎を絡めることで作品個性を出そうとしていましたが、本書では密室は登場せずアリバイ崩しというオーソドックスな謎解きになっています。登場人物も多くなくプロットも単純で犯人は比較的簡単に絞り込まれるし、アリバイトリックもそれほど凝ったものではありません。謎解きの底が浅いといえば浅いのですが、クロフツや鮎川哲也などのアリバイ崩し本格派と比べるとテンポ良く読める作品ではあります。


No.1984 6点 ピカデリー・パズル
ファーガス・ヒューム
(2018/03/18 22:36登録)
(ネタバレなしです) 1889年に発表された意欲作ながら「二輪馬車の秘密」(1886年)の成功には遠く及びませんでした。論創社版の巻末解説では本書を「純度の高い推理小説」として評価しています。なるほどロマンスやメロドラマの要素もありますが「二輪馬車の秘密」やウィルキー・コリンズの「月長石」(1868年)やアンナ・キャサリン・グリーンの「リーヴェンワース事件」(1878年)に比べるとその要素は抑えられ、謎解きの比重が増えたように感じられるところは当時のミステリーとしては進歩的と言えるかもしれません。新たな証言によって事件の様相が二転三転するプロットはなかなかの読み応えです。とはいえ結末が謎解き伏線を回収する推理による解決でないところは本格派推理小説としてまだまだ発展途上のレベルだと思います。


No.1983 5点 まだらの蛇の殺人
阿井渉介
(2018/03/17 05:37登録)
(ネタバレなしです) 10作から成る列車シリーズを終了させた作者が新たに発表したのは6作の本格派推理小説から成る警視庁捜査一課事件簿シリーズです。随分と堅苦しいシリーズ名ですが活躍しているのは堀刑事と菱谷刑事のコンビで、組織としての警察描写はほとんどありません。1994年発表の本書がシリーズ第1作で、列車シリーズのスケールの大きさはありませんがコナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの某名作を連想させる「まだらの蛇」というダイイングメッセージ、毒蛇の毒による連続殺人、人間消失など謎を沢山盛り込んでいるのはこの作者らしいです。事件の中心には大地主の一族がいるのですが、やたら大人数の上に個々の性格描写が弱いので誰が誰だか頭の整理が大変でした。そのため動機の謎解きにも配慮はしているのですが人間ドラマとして訴えるものが少なく感じました。


No.1982 5点 クイーン警視自身の事件
エラリイ・クイーン
(2018/03/11 06:52登録)
(ネタバレなしです) 息子のエラリー・クイーンの名推理の影で無実の人間を犯人と疑ったり全く犯人の見当がつかなかったりといいところのほとんどなかった父親のリチャード・クイーンに活躍の場を与えた1956年発表のシリーズ番外編で、エラリー・クイーンは全く活躍しません。内容的にもかなりの異色作で、殺される被害者が赤ん坊というのは私がこれまで読んだミステリーの中でもちょっと記憶にありません。タイトルに警視を使っていますがリチャードは警察を引退した身です。経験はあってもアマチュア探偵の立場のリチャードは赤ん坊の世話をしていた看護婦のジェシイ・シャーウッドとコンビを組んでの捜査になります。探偵役がエラリーなら自然とホームズ&ワトソンスタイルに落ち着くのですが、本書での2人はそれぞれ持ち味を発揮してほぼ対等の立場です。推理や情報を互いに隠すことなく共有していて非常にわかりやすいプロットですが、そのためか真相を最後まで隠すために決め手の証拠を最後の瞬間まで隠すという手段をとったため本格派推理小説としては読者に対してフェアと言い難いのがちょっと残念です。


No.1981 6点 ハンサムな狙撃兵
シャルル・エクスブライヤ
(2018/03/08 11:05登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表のロメオ・タルキニーニシリーズ第2作のユーモア本格派推理小説です。前作の「チューインガムとスパゲッティ」(1960年)ではアメリカ人の目を通してイタリア人(タルキニーニ)のエキセントリックぶりを強調していましたが、本書では同じイタリア人ながらトリノ人(ツァンポール刑事)にとってヴェローナ人(タルキニーニ)がいかに変人に見えるかを面白おかしく描いています。tider-tigerさんがご講評で「ミステリを枠としたユーモア小説にして愛の賛歌」と評価されていますがなるほどと納得です。犯罪の謎解きはやってはいますがほとんど感覚的にこの容疑者は犯人ではないと決めつけていたりして、まともな捜査を期待する読者はあきれてしまうかも。タルキニーニは探偵役ではありますが愛の伝道師の方で目立ってます。ツァンポールは結構辟易してますが、タルキニーニは堂々と愛を語りまくります。


No.1980 4点 雪の上の血
ヒルダ・ローレンス
(2018/03/03 22:18登録)
(ネタバレなしです) ミステリー作品は1940年代の短い期間に4つの長編と1つの中編集を発表しただけの米国の女性作家ヒルダ・ローレンス(1906-1976)。その作風はサスペンス濃厚な本格派推理小説のようです。1944年発表のマーク・イーストシリーズ第1作の本書がデビュー作です。降り積もった雪のことを「母なる自然の毛布」と表現するなど光る描写もあるのですが、世界推理小説全集版が半世紀以上前の古い翻訳のためか非常に読みにくく感じました。私立探偵であるマークが秘書として雇われた家では人々が何かを恐れている様子で、やがて1人が謎の死を遂げます。その後も色々な事件が起きるプロットですが、時に誰が話しているのかわからないほど読みにくくてサスペンスが盛り上がりません。最後は容疑者全員を集めてのマークの謎解きがありますが複雑な人間関係の説明が中心で、犯人にたどり着く推理としては物足りませんでした。


No.1979 6点 死者の贈物
中町信
(2018/02/26 08:34登録)
(ネタバレなしです) 1999年発表の和南城夫妻シリーズ第3作の本格派推理小説です。殺されそうになった女性は一命を取りとめ、殺そうとした男性は自殺するという無理心中未遂らしき事件が発生します。どこか不自然感もあるものの他に有力な意見が出るわけでもなく一応解決したかと思われますが、その後も事件関係者たちが次々と殺されたり自殺のような死を遂げます。残った容疑者ももちろんですが死者も怪しい行動をとったりしているので謎は複雑化します。密室ありアリバイ崩しありダイイングメッセージありとこの作者らしいサービスぶりで、(ネタバレ防止のため詳細を書きませんが)珍しい手掛かりが印象に残りました。犯人当てとしては不満を抱く読者もいそうな設定ですが、その不満をできるだけ解消するような配慮をしているプロットです。犯人が証拠に気づきながらそれを隠滅せずに証拠に小細工を施すなどはいささかやり過ぎにも感じますが、まあそれも作者の過剰サービスでしょうか(笑)。タイトルの由来が終盤で明かされるのも効果的です。


No.1978 4点 フードワゴン・ミステリー 死を呼ぶカニグラタン
ペニー・パイク
(2018/02/24 02:33登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ペニー・ワーナー(1947年生まれ)がペニー・パイク名義で2014年に発表したフードフェスティバル・ミステリーシリーズ第1作のコージー派ミステリーです。主人公は新聞社から解雇されたグルメ記事担当(但し自身は料理が苦手の模様)のダーシー・バーネットで、フードワゴンを経営する叔母の手伝いをすることになりますが叔母の同業者が殺される事件に巻き込まれます。自分に不利な言動でどんどん容疑を深めてしまう家族に頭の痛いダーシーですがそういうご本人も決してしっかり者ではなく、ひやひやシーンには事欠きません。犯人から「素人とはいえつくづく無能な探偵」と馬鹿にされる始末ですが、その犯人もダーシー言うところの「いくつかのミス」を犯している模様。そのミスをちゃんと読者に説明してくれれば謎解き本格派推理小説として一本芯が通ったのですけど。


No.1977 5点 黒影の館
篠田真由美
(2018/02/21 09:59登録)
(ネタバレなしです) 2009年発表の桜井京介シリーズ第14作です。過去のシリーズ作品でもシリーズキャラクターである蒼や深春と桜井京介の出会いを描いた作品がありましたけど、全15作のシリーズの大詰めとなる本書でまさか神代教授と桜井京介の出会いの物語を読むことになろうとは意表を突かれました。シリーズ前作の「一角獣の繭」(2007年)の思わせぶりの幕切れがどのように本書で進展するのかを期待していた読者は待ちぼうけを食わされます(笑)。作中時代は1980年、まだ教授でなかった神代が殺人容疑者になってしまい、かくまわれた(軟禁された?)館で浮世離れした体験をします。「あとがき」で作者はこのシリーズは本格派推理小説のシリーズとしてスタートしたがやがて本格派離れするようになったとコメントしていますけど、本書もいくつかの謎が最後に解かれるプロットではありますが巻き込まれ型サスペンス小説だと思います。本格派好きの私には好みの作風ではありませんが、講談社文庫版で600ページを超す大作ながら巧妙なストーリーテリングで退屈せずに読めました。


No.1976 5点 リトモア少年誘拐
ヘンリー・ウエイド
(2018/02/17 22:47登録)
(ネタバレなしです) ヘンリー・ウエイド(1887-1969)最後の作品となった1957年発表の本書は誘拐事件を扱った珍しい本格派推理小説です。少年が誘拐され、家族の不安や慎重に行動せざるを得ない警察を丁寧に描いていますが、この作者の手堅い文章だと誘拐ミステリーとしてはややサスペンスが不足気味に感じます。少年が無事戻るのか最悪の結果になるかはここでは紹介しませんが中盤で一応の決着を見せます。もっともその後の警察の捜査も依然として石橋を叩くように慎重です。まあ容疑者たちを片っ端からぎゅうぎゅう締め上げるなんてこの作者の作風では想像も出来ませんけど。登場人物リストに警察官が7人もいて何を考えているかも読者に対してかなりの部分をオープンにしているので意外性はありません。犯罪の謎解きと関係のない最後のオチが1番意外だったかも(笑)。


No.1975 5点 夜間病棟
ミニオン・G・エバハート
(2018/02/15 08:53登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ミニオン・G・エバハート(1899-1996)はメアリー・ロバーツ・ラインハートと共にHIBK(「もしも知ってさえいれば」)派のサスペンス小説の巨匠として名高く、作品数も60作近くあります。1929年発表の本書がデビュー作で、7作書かれたサラ・キート(本書ではセント・アン病院の看護婦長)シリーズ第1作です。本格派推理小説としての謎解きも意識している作品で、盗まれたラジウム、エーテルのかおり、注射器、カフスボタンなど様々な小道具を謎づくりに使っています。しかし論創社版の巻末解説で評価されているようにプロットがぎこちなくて読みづらいです。サスペンス小説としての怖さや不気味さといった雰囲気よりも読みにくさの方が上回ってしまった感があります。謎解き説明も回りくどくてわかりにくいです。


No.1974 6点 霧の島のかがり火
メアリー・スチュアート
(2018/02/12 22:14登録)
(ネタバレなしです) 英国の女性作家メアリー・スチュアート(1916-2014)は1955年に作家デビューして約40年間活躍しましたが書かれた作品は約20作と多くはありません。しかしロマンチック・サスペンスと歴史ファンタジーの2つのジャンルにおいて重要作家と評価されているようです。ミステリーに絞れば前者ということになりますが1990年にCWA(英国推理作家協会)が人気投票した際にはロマンチック・サスペンス部門の上位10作でスチュアート作品が3作も選ばれました。さて本書は1956年発表の長編第2作であり、舞台はスコットランドのスカイ島です(トラベルミステリー要素もスチュアートの特徴です)。既に地元の少女が何者かに殺されている設定ではありますが、主人公がスカイ島に上陸してからの序盤の展開は少しもたつき気味です。しかし旅行客が登山に出かけたまま戻らない事件が起きてからサスペンスが増していきます。暴雨風、夜の暗闇、霧といった自然現象の使い分けも巧妙です。犯人を示す手掛かりもちゃんと用意されていてユニークな動機(単なる殺人願望ではない)が印象的ですが、やはり本格派推理小説よりはサスペンス小説として評価されるべき作品でしょう。


No.1973 5点 過去、現在、そして殺人
ヒュー・ペンティコースト
(2018/02/12 21:45登録)
(ネタバレなしです) 16の長編が書かれたジュリアン・クィストシリーズの1982年発表の第12作です。夜中にクィストに電話をかけてきたのは友人のダンで、彼の恋人ジェリが殺され、犯人を探して殺してやると告げて電話を切ります。ダンが見当違いの人間を殺しかねないと心配するクィストはダンと犯人探しに乗り出します。生々しい描写はありませんがジェリは殴られ、性的暴行を加えられ、刺され、そして頭部に銃弾を撃ち込まれるという残虐極まりない仕打ちを受けています。事件関係者の1人が同じ拳銃の銃弾で瀕死の重傷を負わされ、さらには6年前にジェリの故郷でジェリの両親も同じ凶器で襲われていたことがわかり(母親は死亡、父親は身体障害者になります)、事件は混迷の度合いが深まります。サスペンス豊かな展開で読ませる作品ですがハヤカワポケットブック版の裏表紙の粗筋紹介で「本格推理」とあるのは首肯できません(ハードボイルドに分類できると思います)。凶悪性がエスカレートする犯行の前にクィストが犯人の心当たりが全くつかないまま終盤を迎えたかと思うとあまりに突然の解決が待っています(読者は当てやすいかも)。そこには推理による謎解き要素はありません。

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