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ミステリの祭典

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狂人館の惨劇 大立目家の崩壊

作家 左右田謙
出版日1988年12月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 nukkam
(2018/08/04 16:21登録)
(ネタバレなしです) 1988年発表の本書は左右田謙(1922-2005)の最後の作品で狂人(えっ)が建てた館に起こる連続殺人事件の謎を解く、綾辻行人の館シリーズを意識したかのような本格派推理小説でした。相当に凝った造りの舞台(見取り図がほしかった)に登場人物もかなりエキセントリックなのですが、この作者らしく描写があっさり目で案外と雰囲気が淡白なのは評価が分かれるかもしれません。それでも密室トリックに使われたまさかの小道具や脱力感を伴うダイイングメッセージの真相など怪作要素はたっぷりです。

No.1 6点 人並由真
(2018/04/01 17:50登録)
(ネタバレなし)
 紀伊半島の山中に建つ、とある館。そこはかつて病的なまでに外敵を恐れた人物が建造した、非常識なほど奇異な構造の建築物で、周囲の人は「狂人館」と呼んでいた。現在の当主は数十の企業を参加に納める財閥の盟主なれども、なぜか15年前、働き盛りの内から隠棲生活に入った、大立目(おおたちめ)健蔵(当年65歳)。知人の実業家・兵藤寛は、自分がオーナーを務める球団「三洋セネターズ」の売却を持ちかけようと健蔵を訪ねるが、折しもそこには別球団「東都エレファンツ」の新鋭エース・村山洋をふくむ複数の来客があった。そんな中で、密室での殺人事件が発生。その場に居合わせた一同は、現場から逃げ去る怪しい男を目撃するが……。

 当時の文庫書下ろしミステリ。80年代末の作品ながら、Amazonで現時点の古書価1万円(!)という事実に興味を惹かれて借りて読んでみた。古書価のこの高騰ぶりはアレな題名のせいもあるんだろうが、なんか一時期、その書名だけでバカ高い稀覯本になったポケミスの『古書殺人事件』を思い出す。
(まあマーケットプレイスの値段なんてノリとハッタリでつける例も多いんだから、複数の出品者が出してないと、相場としての古書価の信用はおけないんだけれど。)

 でもって内容の方は、草野唯雄の『蔵王山荘皆殺し』あたりを思わせる登場人物が出たり入ったりする限定空間での連続殺人事件もので、しかも最初の密室状況の殺人現場から謎の怪人が飛びでてくる(ただし彼がそのまま犯人かどうかには疑問が生じる)というちょっと外連味のあるもの。以降もダイイングメッセージや、大設定である狂人屋敷の隠しギミックを用いた二転三転する展開など、それっぽい犯人捜しパズラーとしての興味には事欠かない。
 ただまあ解決は、事件の構造にちょっと唸らさせるものがある一方、密室での銃殺トリックはいかにも(良くも悪くも)「宝石」系のマイナー作家っぽい印象。あと最後の犯人特定の伏線で、「そーゆーこと」はアリなのかな…とも思ったが、たしかに現実にもそういう例は実在するね。「これ」は認めなきゃいけない。
 生煮えの印象の部分も多いけど、隠れた佳作ではあるでしょう。借りられるか安く入手できるなら、読んで損はない?
 
 ちなみにこういう作品だから館の見取り図は欲しいんだけど、用意されてないのは残念。まあ表紙折り返しのあらすじ紹介部分でも誤記がある(本当は「東都エレファンツ」所属の若手投手の村山を、「三洋セネターズ」の選手と記載している)ので、編集はあまり身を入れて仕事をしなかったのかもしれんけど。

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