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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2811件

プロフィール| 書評

No.2131 5点 裁くのは誰か?
ビル・プロンジーニ
(2019/06/03 22:33登録)
(ネタバレなしです) SF作家のバリー・N・マルツバーグ(1939年生まれ)との共作第2作で1977年に発表されました。何と登場人物はアメリカ大統領夫妻とその側近たちで、反対陣営に寝返っている裏切り者を殺そうとする人物(「われわれ」と称しながら単独描写です)の正体は誰かという風変わりな本格派推理小説です。大統領を取り巻く不穏な空気はそれなりに描かれていますが、政治問題や社会問題に関する会話はほとんどありません。まあ本書にリアリティーを求めるのは筋違いなのでしょう。創元推理文庫版の巻末解説で「結末の大胆さに、髪を振り乱して怒り心頭となるか、感極まって本書を神棚に供えるか、とにかくも、しばし忘れられぬ読書体験を得られることは保証しよう」と読者を選びそうな怪作であることが紹介されてますが、確かに奇抜過ぎるアイデアが用意されていてショックで反発する読者続出かも(笑)。個人的には怒り心頭にこそなりませんでしたが「読んで損はないよ」と擁護する気持にもなれません。


No.2130 5点 一心館の殺人剣
鳥羽亮
(2019/05/19 20:21登録)
(ネタバレなしです) 時代小説作家として高名な作者ですので何の予備知識もなく本書のタイトルを読んだ人は時代小説と勘違いするかもしれません。しかし本書はミステリー作家時代の1991年に発表された、現代を舞台にした本格派推理小説です。剣道家と不可能犯罪の組み合わせがデビュー作の「剣の道殺人事件」(1990年)を連想させますが、残念ながら出来栄えは劣るように感じました。衆人環視状態の剣道の試合最中の不可能犯罪という「剣の道殺人事件」の魅力的な謎と比べると本書は普通の密室殺人事件に過ぎません。まあそれはまだ大きな問題点ではないのですけど、主人公を偽の犯人に仕立てるために主人公のアリバイをなくすための犯人の仕掛けがあまりにも強引、ご都合主義かつ失敗リスクが高くて馬鹿馬鹿しささえ感じます。早い段階で読者にオープンにしているのがせめてもの救いでしょうか。


No.2129 6点 殺されたのは誰だ
E・C・R・ロラック
(2019/05/11 22:32登録)
(ネタバレなしです) 1945年発表のマクドナルド警部シリーズ第26作の本格派推理小説です。風詠社版の日本語タイトルも悪くありませんが英語原題の「Murder by Matchlight」も捨てがたい魅力があります。暗闇で被害者がマッチに火をつけた時にその明りの後ろの暗闇に浮かびあがる顔(犯人?)の描写にはぞくっとしました。被害者の素性がなかなか判明せず、第7章でマクドナルドが「このように混乱された状況下では、身元を偽ることはさほど難しくありません」と述べているように戦時下の雰囲気が漂っており、それは後半になって空襲警報と爆撃の中での捜査場面でピークを迎えます。登場人物の1人がマクドナルドの推理説明を補足して動機を整理してくれたのが個人的にはありがたい読者サービスでした(笑)。


No.2128 4点 法水麟太郎全短篇
小栗虫太郎
(2019/05/11 22:10登録)
(ネタバレなしです) 法水麟太郎シリーズの中短編は1933年から1937年にかけて全部で8作書かれており何度も単行本に載っていますが分冊掲載がほとんで、意外にも全作を短編集1冊にまとめたのは河出文庫版(2019年)の本書が初かも知れません(正確に調べたわけではないので間違っていたらすみません)。奇書と評価されている「黒死館殺人事件」(1934年)に挑戦する前の入門編として読むのもよしでしょう。ページ数が少ない分「黒死館殺人事件」より早く読み終えれるのは間違いなし、しかも筋を追うのも大変な難解さは中短編であっても超弩級ですので本書でうんざりされた方は「黒死館殺人事件」には手を出さないことを勧めます。読んで疲れた上にほとんど内容を理解できませんでしたが、その中では1番読みやすかった「国なき人々」が個性を感じられず「後光殺人事件」や「失楽園殺人事件」の方があまりの奇想に印象に残っているのですから私の感性も(もともとアブノーマル気味ですが)かなり麻痺してしまったようです。


No.2127 6点 謎解きのスケッチ
ドロシー・ボワーズ
(2019/05/06 18:11登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のダン・パードウ警部(本書の風詠社版ではパルドー警部と表記されてます)シリーズ第3作の本格派推理小説です。控え目な描写ながら第二次世界大戦の影響が滲み出ています。謎解きが好きな若者が登場するのでパードウ警部とアマチュア探偵の推理競演になるかと思っていたらこの若者は早々と殺されてしまいます。既に何度か生命の危機を潜り抜けていた被害者は用心したのでしょう、残された言動や手掛かりは非常に謎めいていて容易に真相が掴めません。鳥のスケッチが手掛かりの一つというのもユニークで(残念ながらイラスト紹介はなし)、この謎解きはマニアックな知識が必要なので一般読者には難易度が高過ぎると思いますが決してダイイングメッセージ一発の謎解きではなく、それ以外の手掛かりもちゃんとパードウ警部が説明してくれます。


No.2126 5点 繭の密室
今邑彩
(2019/05/06 17:53登録)
(ネタバレなしです) 1995年発表の貴島刑事シリーズ第4作です。このシリーズは3作で終了予定だったのを翻意して本書を書いたそうですが、特にシリーズ最終作らしい仕掛けはありません。怪異に満ちた本格派推理小説として始められたシリーズのようですけど本書に至っては醜い人間心理描写はあるものの怪異要素は皆無に近く、普通の本格派推理小説です。私はホラー系が苦手なので普通であることは全く問題ないのですが、肝心の謎解きの出来栄えがいまひとつです。貴島による密室トリックの推理はかなりの部分を憶測で補っているように感じます。まあそれでも辻褄は合っているのでまだいいのですが、犯人当てについては犯人が致命的な証拠を落として発覚してしまうという棚ぼた式展開に不満を覚えます。


No.2125 5点 墜ちる人形
ヒルダ・ローレンス
(2019/04/26 22:47登録)
(ネタバレなしです) 1947年発表のマーク・イーストシリーズ第3作の本格派推理小説で、ハワード・ヘイクラフトやアントニー・バウチャーが絶賛したそうですが本書がヒルダ・ローレンス(1906-1976)の最後の長編作品で、この後は中短編をいくつか発表したのみです。小学館文庫版の裏表紙で「彼女は何者かに殴打され、庭で死体となって発見される。自殺か他殺か?」と粗筋紹介されているのには困惑です。殴打されて自殺かよって突っ込みたくなりました(笑)。表現描写はかなり抑制されていて、せっかくの仮装パーティー場面は盛り上がらないし人物も誰が誰だかわかりにくかったです(しかも登場人物リストに載ってないのに結構登場場面の多い人物が何人もいます)。人並由真実さんのご講評で本書の重厚さをP・D・ジェイムズの先駆的に位置づけているのはなるほどと共感しました。前半はぐだぐだ感が強くて読みにくかったですが、マークの捜査が軌道に乗ってくる9章あたりからミステリーらしくなってサスペンスもじわじわと効いてきます。


No.2124 5点 捕虜収容所の死
マイケル・ギルバート
(2019/04/26 22:30登録)
(ネタバレなしです) マイケル・ギルバートは第二次世界大戦で捕虜となってイタリアの収容所に投獄されたそうですが、その経験を活かしたと思われるのが初期代表作として評価されている1952年発表の本書です。創元推理文庫版の巻末解説で森英俊が「スリラーと本格ミステリの要素が渾然一体となった、奇蹟のような作品」と大絶賛していますが、確かに1943年のイタリア捕虜収容所を舞台にしてイギリス人捕虜たちの脱走計画と囚人の怪死事件の謎解きを両軸にした複雑なプロットはユニークで、読み応えもたっぷりです。しかしながら登場人物リストに載っているだけでも35人の人数はさすがに多過ぎで、例えばあるイタリア人大尉の冷酷非道ぶりが十分描けていないのは残念です。舞台描写もわかりにくくて不可能犯罪(準密室状態らしい)の謎の魅力が伝わりにくく、肝心の脱走場面のサスペンスもいまひとつに感じました。殺人犯探し、スパイ探し、脱走の成否など様々な課題が入り乱れ、珍しい手掛かりによる推理など光る部分もあるのですが私のような単純思考の読者には面白さよりも混乱の方が勝ってしまいました。


No.2123 5点 クロイドン発12時30分
F・W・クロフツ
(2019/04/16 22:14登録)
(ネタバレなしです) 1934年発表のフレンチシリーズ第11作で、犯人の正体を最初から明かしている倒叙本格派推理小説です。倒叙本格派の創始者であるオースティン・フリーマンのスタイルに最も忠実な作品と評価されているようですが、少し違うようなところもあります。倒叙本格派と言うと犯人と名探偵の推理バトルが読みどころの1つだと思いますが、本書はフレンチの捜査描写や犯人との対決場面が意外と少ないのです。それにはちゃんと理由があり、代わりに予期せぬ展開を用意したり犯人の逮捕で終わらせず法廷場面に突入するなどプロットの工夫をしていますが本書が典型的な倒叙本格派かと言うと微妙な気もします。地味過ぎて退屈になりかねないクロフツですが、本書は主人公(犯人)の心理描写を増やすことでそこからの脱却を図っています。それでも地味な作品ではあるのですが。謎解きとは関係ありませんが過去のシリーズ作品で昇進を期待してはお預けをくらっていたフレンチは本書でついに悲願成就、警部時代の最後の事件となりました。


No.2122 5点 丹後鳴き砂殺人事件
草野唯雄
(2019/04/16 21:18登録)
(ネタバレなしです) 1990年発表の尾高一幸シリーズ第8作の本格派推理小説です。マンションの一室で男性が女性(素性は明かされません)に毒殺される場面で幕開けしますが、これは何と感想したらよいのか...。犯人が立ち去った後、現場に男性が忍び込み、さらに女性(犯人とは別人)がやってきて(男性は隠れます)何と既に死んでいる被害者を撲殺、続いて新たな男性が侵入して今度は被害者をベランダから放り投げます(三者三様ならぬ三者三殺)。短時間に何人もの人間が犯行に及びしかも互いに全く顔を合わせない、偶然と言うにはあまりにもとてつもなく計画的と言うにはあまりにも綱渡りです。これを見破る尾高は「合理的な解釈」と主張していますが、いやいやこんな途方もない出来事は合理的に推理できるわけないでしょと突っ込みたくなるような怪作でした。


No.2121 5点 重婚した夫
E・S・ガードナー
(2019/04/11 20:46登録)
(ネタバレなしです) 1961年発表のペリー・メイスンシリーズ第65作の本格派推理小説です。タイトル通り重婚した夫が登場して殺されるのですが2人の妻の登場場面があまりにも少なく、いくら家族ドラマを深く掘り下げる作風でないにしてもこれでは盛り上がりに欠けますね。子供もいるのですがこちらは登場人物リストにさえ載りません。13章に至っても依頼人がなぜ不利なのかがメイスンにもわかっていないなど謎の魅力も足りません。そのためどんでん返しのインパクトも弱く、このシリーズとしては淡々と進み淡々と終わってしまったような印象です(というか印象に残りにくい作品です)。


No.2120 5点 能面の秘密 安吾傑作推理小説選
坂口安吾
(2019/04/11 20:33登録)
(ネタバレなしです) 犯人当て懸賞小説として出版された「不連続殺人事件」(1948年)で自信を得たのか、晩年の坂口安吾(1906-1955)はミステリーを積極的に書いています。ミステリー短編集は死の年に出版された「投手殺人事件」(東方社版)(全9作)(1955年)がおそらく最初で、その後もタイトルを変えながら「能面の秘密」(角川文庫版)(全8作)(1976年)、「心霊殺人事件」(河出文庫版)(全10作)(2019年)と再版されています。ガチの本格派推理小説にこだわったとされる作者ですが、確かに半分はそういう作品ですが残り半分は犯罪小説だったりミステリーとは言いにくい作品だったりと意外と多彩です。「心霊殺人事件」のみに収められた「アンゴウ」は暗号が解読され、誰がこの暗号を作ったのかという謎はありますが謎解き経緯はほとんど説明されません。真相を知って感慨にふける主人公描写は大変印象的ですが個人的にはミステリーではないように思います。推理は確かにありますが意図的に腰砕けに終わらせたような「影のない犯人」も読者の好き嫌いが分かれそうな怪作です。突出する長所がないとはいえ「読者への挑戦状」付きの中編「投手殺人事件」のような安心して読める作品がやはり個人的には好みです。


No.2119 5点 死者の心臓
アーロン・エルキンズ
(2019/04/11 20:11登録)
(ネタバレなしです) 1994年発表のギデオン・オリヴァーシリーズ第8作の本格派推理小説です。このシリーズはトラベルミステリーとしても楽しめますが、エジプトを舞台にした本書はその中でも最も異国情緒に溢れていると思います。但しピラミッドもスフィンクスもミイラも登場しません(骨は当然登場します)。動物と糞と料理油の臭いが立ち込める、外国人旅行者がまず行かないような地域が描かれたりしており、それもエジプトの一面かもしれませんがトラベルミステリーとは言えても観光ミステリーとは言えません。なかなか事件が起きない展開に加えてギデオンと容疑者たちとのやり取りも意外と少なく、地味を通り越して退屈に近い謎解きプロットです。終盤は一気にサスペンスが高まって劇的な結末が用意されていますが、ギデオンの(後出し気味の)推理は犯人を特定する決め手としては弱いように思います。


No.2118 5点 陸奥こけし殺人事件
山村正夫
(2019/04/02 14:19登録)
(ネタバレなしです) 短編集「振飛車殺人事件」(1977年)がシリーズデビュー作である女流棋士小柳カオリシリーズの長編第1作が1982年の本書です。ちなみにタイトルの「陸奥」は「むつ」でなく「みちのく」と読ませてます。10年前に解決済みの殺人事件を再調査していた私立探偵が殺される事件を扱い、小柳カオリと花巻警察の両者の捜査を地味に描いた本格派推理小説です。舞台が東京、花巻、北見と転々とするので(10年前の事件は鶴岡です)トラベル・ミステリーでもあります。犯人はまあこの人物しかありえないだろうと早々と絞り込まれ、アリバイ崩しの様相を呈してきますがトリックは大したことありません(というかトリックは評価するに値しないと思います)。むしろ真相の裏にある複雑な人間模様が印象に残ります。特にある人物の、初登場の時と終盤時で態度や性格があまりにも豹変したのには驚かされました。


No.2117 5点 セイロン・ティーは港町の事件
ローラ・チャイルズ
(2019/03/30 17:16登録)
(ネタバレなしです) お茶と探偵シリーズはどの作品もお茶やお茶菓子の描写がたっぷりですが英語タイトルは必ずしもお茶が使われているわけではありません。しかし日本の出版社はお茶タイトルにこだわったようで、日本語タイトルは全てお茶を使っています。そして2018年発表のシリーズ第19作の本書ですが英語原題はセイロン・ティーは使われておらず、「Plum Tea Crazy」です。だけど英語原題が「Steeped In Evil」(2014年)のシリーズ第15作を国内で「プラム・ティーは偽りの乾杯」というタイトルにしたもんだから本書の日本語タイトルにはさすがにプラム・ティーは使えなくなってしまいましたね。内容の方は序盤からセオドシアが犯人と思われる人物を追跡し、その後も次々と事件が起きる展開でサスペンスは十分です。過去の恋人たちは物語の添え物程度でしたが、今の恋人のライリー刑事からはちゃっかり捜査情報を入手して探偵活動もますます充実、逃げる容疑者もいれば押しかけてくる容疑者もいたりとにぎやかです。それだけに決着が残念レベルなのが惜しいです。終盤になって新証人が登場して都合よく犯人の嘘を暴き、まだ証拠として十分と思えないのに犯人が馬脚を現して強引に解決されてしまいます。いくつかの小事件も同じ犯人の仕業なのかはっきりしません。


No.2116 5点 白夜の警官
ラグナル・ヨナソン
(2019/03/28 08:37登録)
(ネタバレなしです) 2011年発表のアリ=ソウルシリーズ第2作ですが前作のような本格派推理小説の要素はありませんでした。警察小説ですが第2の主人公として女性ジャーナリストを配しているのが特徴です。謎解きよりも人間ドラマの方が充実しており、登場人物たちの心の傷や苦悩そして触れられたくない秘密の描写が印象に残ります。アリ=ソウルに至っては最後の最後でまさかの行動に走り、一体次作ではどうなるのだろうと気になります。タイトル通り(もっとも英語タイトルは「Blackout」ですけど)夜中でも太陽の沈まない白夜の季節での出来事を描いていますが、明るい雰囲気は全くありません。


No.2115 4点 横浜港殺人事件
谷恒生
(2019/03/25 13:17登録)
(ネタバレなしです) 谷恒生(たにこうせい)(1945-2003)は初期は冒険小説(特に海洋系)の名手として評価が高く、その後ハードボイルド、戦記小説、時代小説、伝奇小説などに分野を広げた作家ですが1981年発表の本書は彼には珍しい本格派推理小説です。発表当初は「船に消えた女」だったのをトラベル・ミステリー風なタイトルに改題しましたが、個人的には当初のタイトルの方が作品内容にふさわしいと思います。舞台が横浜、神戸、若松と港町を転々とするのでトラベル・ミステリー要素も確かにありますが。「どぶ泥の臭気」と海を描写している場面がありますが、それは海だけでなく人間描写や社会描写にも通じるところがあり、粗野で退廃的で重苦しい雰囲気が全編に漂っています。謎解きは予想以上に複雑で巧妙なミスリーディングによるどんでん返しもありますが、濃厚な通俗色(ベッドシーンもあります)は読者を選びそうです。


No.2114 6点 ブレッシントン海岸の死
レオ・ブルース
(2019/03/23 16:42登録)
(ネタバレなしです) 1959年発表のキャロラス・ディーンシリーズ第6作の本格派推理小説で、国内では「AUNT AURORA」Vol.5(1991年)に掲載されました。キャロラスのいとこで女優のフェイ・ディーンが海岸で首まで砂に埋められた死体を発見するところから始まります。被害者がどれだけの嫌われ者なのかがどんどん明らかになって容疑者が次々と増え、しかも嘘や隠し事を連発するので謎がどんどん深まるという展開は若干単調ではありますが充実しています。そしてアガサ・クリスティーの某有名作を連想させる仕掛けのアイデアも印象的です。ただこの仕掛けは成功させる難易度が非常に高く、どうやって成立させたかについてのキャロラスの説明が不十分なので好都合かつ安直なアイデアにしか感じられないのが惜しいです。


No.2113 5点 朝刊暮死
結城恭介
(2019/03/21 20:00登録)
(ネタバレなしです) 1997年発表の雷門京一郎シリーズ第3作の本格派推理小説です。ノン・ノベル版の作者あとがきで「『犯人をつくる』探偵というコンセプト」についてコメントされていますが、過去の2作での京一郎は普通の名探偵の印象しかありませんでしたが本書においてはなるほど『犯人をつくる』工夫が感じられました(単純なでっちあげなどではありません)。挑発的で大胆な犯人にトリックへのこだわりという点は前作の「コール」(1995年)を連想させますがそこにプロット全体にまたがる仕掛けが加わり(それが『犯人をつくる』につながるのですが)、「殺人投影図」(1994年)でのユーモアまで復活して作者が自信満々なのも何となく理解はできます。ただやりたいことを色々とやった結果、力作にはなったもののひねり過ぎて(個人的に)感心できない謎解きも少々混ざってしまったように感じます。ストレートど真ん中の謎解きだった「コール」の方が好みです。とはいえ作者としてはやり尽くした感があったのでしょうか(それとも出版不況の時代にあって作品発表の機会を与えてもらえなかったのでしょうか)、本書以降はミステリー作品を発表していないようなのは惜しまれます。


No.2112 4点 そのお鍋、押収します!
ジュリア・バックレイ
(2019/03/15 22:48登録)
(ネタバレなしです) 28年に渡る教職を引退した米国のジュリア・バックレイは2006年にコージー派ミステリー作家として新たな道を歩み始めていくつかのシリーズ作品を世に出していますが、日本に初めて翻訳紹介されたのは2015年に新たなシリーズとして出版された秘密のお料理代行シリーズ(本国でも「Undercover Dish Mystery」として知られています)のデビュー作である本書です。ゴーストライターならぬゴーストケータラーとして依頼人のために料理を作る(公式には依頼人が料理したことになっています)ライラ・ドレイクを主人公にしたミステリーですがライラが重大容疑者になるわけでもなく、かといってそれほど積極的に犯人探しをしているわけでもなく、いくらコージー派といっても緩すぎるプロットに感じました。それでも12章での楽しく華やかな雰囲気の前半と突然緊張感が高まる後半の対照はなかなか読ませますが。謎解きとしてはほとんど動機だけで犯人を決め付けている推理があまりにも弱く、コージー派によくあるパターンですが犯人の自滅的な行動で解決してしまうのが物足りません。それにしても「秘密のお料理代行」が次作でも継続できるのか気になる締めくくりですね。コージーブックス版の登場人物リストには載ってませんがライラの両親がなかなかいい味を出しています。

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