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ミステリの祭典

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死体をどうぞ

作家 シャルル・エクスブライヤ
出版日1966年01月
平均点6.00点
書評数5人

No.5 6点 tider-tiger
(2023/02/13 23:19登録)
~第二次大戦のさなか。貧乏な寒村ストラモレットではファシスト派と反ファシスト派が半ば馴れ合いつつも、ゆるーく反目していた。そんな微妙な空気のなか、ファシスト派の金持ちルチアーノが殺害された。だが、村人はルチアーノの遺体をあちこちに移動させて事件の隠蔽を図り、町からやって来た警部は捜査どころか遺体を目にすることすらできず途方に暮れるのであった。

1961年フランス。ユーモアミステリにして「犯人なんか誰でもいい」を通り越して「事件が解決しようがしまいがどうでもいい」の境地に達してしまった作品です。広義のミステリとしてもちょっとどうなんだろうかといったところ。

およそあり得ないような状況を描きながら、絶妙なバランスでリアリティを保っています。構成もよく考えられています。さらにいままで読んだエクスブライヤ作品のすべてに共通した美点があります。必要なキャラを的確に配置しつつ、それぞれをとても上手に機能させていることです。シムノンとはまた違ったキャラづくりのうまさがあります。
村人が一堂に会して『フリクニ フリクラ』を演奏しようとしている導入部。この導入部からして傑作を予感させます。
赤い服を着た老人が演奏に参加しているのですが、こんな一文があります。
~彼の役目は、楽士たちが暗記できなかった楽譜を、みんなに見せてやることにあった。~
このシンプルな一文だけで、この村のありよう、この老人の人柄が察せられようというものです。

本作の原題はイタリア語で『Avanti La Musica』イタリア語はわかりませんが、少なくとも死体がどうこうという意味ではなさそうです。原題の『Musica』は作中ではなにかを仄めかすように存在しています。本作は導入と終幕が対になっていて、そこにも『Musica』はあるのです。ぜひ邦題に『Musica』を取り入れて欲しかったなと思います。
この作品にはエクスブライヤのプロフェッショナルな緻密さ、普遍的なテーマ、さらには優しく寛容な愛があります。ラストもいいんです。
ミステリとしてあまりにも弱いので6点としますが、大好きな作品です。

シャルル・エクスブライヤという人はシムノン同様にかなり多作らしいのですが、日本では絶版以前にほとんど訳されておりません。
未訳の良作がかなりあるのではないかと期待しているのですが。

No.4 6点 クリスティ再読
(2021/11/27 08:58登録)
ドタバタだけど、なかなか手際の良さが目立つ佳作。一つの村と闖入者を描くから、かなりの大人数の登場人物なんだけども、キャラの色付けや出し入れが達者なので、メリハリが効いていて読みやすい。で、そのキャラたちが作中でちょっと「意外な面」を見せるのが、「意外にミステリ」という感覚になる。
司祭は意外なくらいに短気だし、昼行燈な憲兵も、実は...があるし、ファシストの警部も任務はどーでもよくなって似合いの女教師と一緒に村に腰をすえよう....で、その昔のガリバルディの赤シャツ隊に参加した老人は歳のせいでボケて....なんだけども、

わしはナポリ軍の話をしておれば、ドイツ軍やファシストどもについての考えを自由に口にできるってわけさ、わかったかい?

こんなリアルな庶民の知恵がギラッと光る面白さ。でも「イタリア人たちの怒りをやわらげるには、彼らに愛の話をすればいい」。だからこれは寓話、なんである。エクスブライヤというと「フランス人なのに外国の話が得意」という妙な評判があるけども、おなじみなエスノジョーク調のプロトタイプを利用して組み立てた、普遍な寓話なのだと思うんだ。
イヤな奴らにはキッチリ因果応報。でも善人たちはアオくなりアカくなりしながらも、落ち着くところに落ち着く。イタリア舞台、というのもあって、シェイクスピアの喜劇をミステリに書き換えたようなテイスト。「癒されたい人にお薦め」は同感!

No.3 5点 nukkam
(2020/02/14 21:58登録)
(ネタバレなしです) 1961年発表の本書はミステリー要素がとても希薄です。殺人が起きて犯人の正体は終盤まで伏せられていて、強いて言うなら本格派推理小説なのでしょうが犯人探しのプロット展開にならないのです。作中時代は第二次世界大戦下のイタリアの小さな村で、時々砲声が響き渡ります。ファシスト派と反ファシスト派に分かれて対立する村人たちが描かれていますが、政治思想などほとんど持ち合わせていませんのでそれほど深刻な雰囲気にはなりません。ファシスト派の人間も嫌われ者として描かれているのはほんのわずかで、ある人物が「貧乏なのにのん気で、不幸なのに笑いや叫びや歌声が絶えないイタリア」を再発見していくドラマが印象的です。村人たちが死体を隠し、死体を探す人間がそれを見つけると村人たちがまた別の場所へ隠すという展開が繰り返され、クレイグ・ライスほどの派手などたばた感はないもののユーモアにあふれています。犯人を示す手掛かりが読者に対してほとんど提示されず、これでは誰が犯人でもよかったようにしか思えないのは不満ですが。

No.2 7点
(2018/12/02 08:04登録)
 連合軍対ドイツ軍の決着が迫る第二次大戦末期。イタリアの寒村ストラモレット村の住民たちは、現政府派とファシスト派に分かれて争っていた。現在の村長アチリオ・カペラーロの派閥と、前村長マリオ・ヴェニチオが率いる一派。だがアチリオの長男ジャンニと、マリオの娘オーロラは村中が認める恋人同士。おまけに両家は縁続きで、争いといってもたわいのないものでしかなかった。
 そんな村にも砲火の響きが聞こえるようになると話は違ってくる。おまけに村の嫌われ者、金貸しでファシスト派のルチアーノ・クリッパが、村に一台しかないラジオでドイツ軍優勢の報を伝え、両者の対立に火を点けたのだ。
 得意げに笑うルチアーノだったが、その翌朝彼は頭をぶち割られた死体となって発見される。殺人の報告を受け、フォジアの町から派遣されるダンテ・ブタフォキ警部と二人の部下たち。戦火の迫る山奥の貧乏村で大騒ぎが始まろうとしていた。
 1961年発表。本作の被害者は村でほぼ唯一の悪人なので、読んでいくと犯人なんか正直どうでもよくなります。神父も憲兵も村の争いに心を痛めるだけでハナから捜査なんぞやる気無し。村人たちも右に同じで、ムキになった約一名以外は党派を問わず「事件なんか無かった」とばかり、被害者ルチアーノの死体を右に左に動かしまくって混乱させます。
 やってきたダンテ警部も一応ファシスト派なんですが、半分成り行きで今の地位に就いた上に元はと言えば善人。長閑な住人たちに感化されて「もうどうでもええわ」と職務放棄。最後は村に居着いてしまいます。
 まあアレですね。そういうコメディ作品です。齢九十二歳の村の名物男のお爺ちゃんが、ガリバルディ戦争と第二次大戦をゴッチャにして昂ったりします。この人がいい感じですね。愛すべきキャラクター揃い。基本善人ばかりのほのぼの風味で、笑わせて泣かせて、最後にちょっと意外性もあります。癒されたい人にお薦め。

No.1 6点 kanamori
(2013/06/14 12:57登録)
第二次大戦下、ファシスト派と反ファシスト派が対立するイタリアの小村を舞台にしたユーモラスな軽本格ミステリ。

村の周りで戦争が行われていて、村では派閥争いに加えて殺人事件が発生しているにもかかわらず、村人たちのなんとも長閑な雰囲気がいいですw
被害者の死体が消えては現れる繰り返しギャグや、戦況の変化によってファシスト派と反ファシスト派の立場・態度がコロコロ逆転する可笑しさなど、派手なドタバタ劇ではなく、エスプリの利いたユーモアで楽しめました。
フーダニットのほうはどうでもいい感じですがw、ある人物の意外な働きには意表をつかれました。

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