home

ミステリの祭典

login
nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2900件

プロフィール| 書評

No.2240 6点 最悪の館
ローリー・レーダー=デイ
(2020/05/28 20:17登録)
(ネタバレなしです) 米国のローリー・レーダー=デイが2020年に発表した本格派推理小説です。主人公で語り手でもあるイーデンは亡き夫が結婚記念日を指定して生前に予約した天体鑑賞ツアーに参加します。もっとも彼女は暗闇恐怖症を抱えており、感傷に浸るどころではありませんが。ハヤカワポケットブック版の巻末解説で「万華鏡の如く移り変わる人間像を描く」ことに主眼を置いたプロットのため物語のテンポは非常に遅く、しかも丁寧過ぎで複雑過ぎる人物描写のおかげか誰が誰だかなかなか把握できません。後半になって色々な事件が起きたり人物関係の歪みが大きくなったり、更にはイーデンの夫のとんでもない秘密が明かされたりと重厚な語り口ながらサスペンスも盛り上がります。犯人を特定する具体的な物証がほとんどない推理は謎解きとして物足りないですがドラマとしてはなかなかの読み物です。


No.2239 6点 詩人の恋 信州殺人事件
深谷忠記
(2020/05/27 22:10登録)
(ネタバレなしです) 1989年発表の荘&美緒シリーズ第13作の本格派推理小説です。アマチュア探偵の荘をいかにして捜査に加入させるかはちょっとした難題だと思うのですが、本書の第3章でのきっかけは珍しいですね。タイトル通り信州での事件を扱っており、地味なプロットの中で終盤での八方尾根の自然描写がキラリと光ります。犯人当てとしては読者が推理する余地なく明らかになりアリバイ崩しの謎解きになる展開はこのシリーズの得意パターンですが、本当にこんなにうまくできるのかという疑問は残るものの大変ユニークで印象的なトリックが使われています。


No.2238 5点 ヴァイオリン職人と消えた北欧楽器
ポール・アダム
(2020/05/27 22:00登録)
(ネタバレなしです) (理由は明確ではありませんが)アダムが日本の読者向けに書いた2018年発表のジャンニ・カスティリョーネイシリーズ第3作の本格派推理小説です。このシリーズ、トラベルミステリー要素も濃いですが本書の舞台は(残念ながら日本ではなく)ノルウェーです。20年ぶりに再会したかつての教え子リカルド(ノルウェー人)が殺され、彼が所持していたノルウェーの民族楽器が消えています。ジャンニは(グァスタフェステ刑事と恋人マルゲリータも)クレモナからノルウェーへ行き、リカルドを取り巻く人々と会っていきます。ベルゲンやトロルドハウゲン、アウラルン・フィヨルドなどの地域描写やイタリア人のジャンニたちが雨天続きの天候や物価の高さに辟易するなどトラベルミステリーらしさがたっぷり。ノルウェーの作曲家としてはグリーグが国際的に有名ですが、本書ではヴァイオリニストとして高名なオーレ・ブルに焦点を当てているのもこのシリーズらしいです。ジャンニの謎解き貢献度は限定的でミステリーとしては弱いですが、その分人情物語としての読み応えで補っています。


No.2237 4点 双面獣事件
二階堂黎人
(2020/05/27 21:42登録)
(ネタバレなしです) 2007年発表の二階堂蘭子シリーズ第8作で、講談社文庫版で上下巻合わせて1000ページを超す巨編です。作者は「名探偵と魔物が戦う話を書きたいと思っていた」とコメントしていますが、シリーズ初期作品では手掛かり脚注を挿入するなど王道的本格派推理小説路線を貫いていたのですからこの路線変更を歓迎できた読者はどれぐらいいたのでしょうね?私は本書がSF的に生み出された怪物の登場するスリラー小説であることをたまたま読む前に知っていましたけど、そうでなかったら裏切られた感でもっと低い点数にしたかもしれません(わがままな期待であることは自認してますけど)。蘭子はアクション探偵ではありませんので本書でも次から次へと推理を披露してはいますが、一部のトリックは人間のトリックだと説明されても本書を本格派好き読者にもお勧めですと言い切る勇気はないです。


No.2236 5点 修道士カドフェルの出現
エリス・ピーターズ
(2020/05/27 21:24登録)
(ネタバレなしです) 「光の価値」(1979年)、「目撃者」(1981年)、「ウッドストックへの道」(1985年)とぽつりぽつりと発表された修道士カドフェルシリーズの中短編3作を集めて1988年に出版された唯一の短編集です。英国オリジナル版ではカラー印刷されたイラストが現代教養文庫版ではモノクロ印刷なのは残念。でもその出版社(社会思想社)は2002年に倒産しているのですから今思えば頑張ってイラスト掲載してくれただけでも感謝すべきでしょうね。このイラストのカドフェルの丸みを帯びた顔立ちと英国のTVドラマ版でカドフェルを演じたデレク・ジャコビ(1938年生まれ)のゴツゴツした風貌はあまり似てませんけどね(笑)。「ウッドストックへの道」はミステリーらしさが弱くてすっきり感もありませんが修道士になる前のカドフェル(つまり兵士時代)の物語としてファンには貴重な作品。「光の価値」が謎解きとドラマの両立ができていて最もシリーズの特徴が出ています。「目撃者」は一番本格派推理小説らしい作品なのはいいのですが、「シュルーズベリ人なら誰でも知っている」と説明されてもねえ。余談ですが巻末解説のクイズは私には全く歯が立ちません。正解も載せてほしかった。


No.2235 5点 人牛殺人伝説
宗田理
(2020/05/27 21:08登録)
(ネタバレなしです) 「ぼくらの七日間戦争」(1985年)を始めとする「ぼくらの」シリーズで有名なためか子供向け小説家のイメージが強い宗田理(そうだおさむ)(1928-2024)ですが、初期には社会派推理小説なども書いていました。1986年発表の本書ですが角川文庫版では「フーダニットの本格推理小説」と紹介してあったので本格派好きの私は読んでみましたが、何かが違う...。前半は中国残留孤児の母親探しとその情報提供者が次々と殺される事件を絡めた社会派風な展開ですが本格派らしさもあるプロットです。ところが後半になると企業脅迫と重役誘拐事件を前面に出した警察小説要素が濃くなって前半で活躍を期待されたアマチュア探偵はほとんど出番がなくなります。ジャンルミックス型としてこれはこれでありだと思いますが、読者が自力で犯人当てに挑戦できる作品を期待してはいけません。


No.2234 5点 洞窟の骨
アーロン・エルキンズ
(2020/05/27 20:53登録)
(ネタバレなしです) 2000年発表のギデオン・オリヴァーシリーズ第9作の本格派推理小説です。舞台がフランスということで「古い骨」(1987年)を連想する読者もいるでしょうが、容疑者に学者を揃えたプロットはむしろ「遺骨」(1991年)の方に親和性があるかも。ギデオンのお約束の骨鑑定が第9章で思わぬ形で実行不可能になり、その後に続く容疑者たちとの事情聴取が文字通り「骨抜き」の生ぬるい捜査になるのが珍しい展開です。面白いかと問われるとあまり面白くないんですが(笑)。24章のギデオンの「論理的な流れに沿って説明」も切れ味鈍く、26章で後出し証拠が出てしまうのでは謎解き挑戦好きの読者はため息しか出ないのでは。これなら24章でのトリック(前例はありますが珍しいし、手掛かりが印象的です)解明をもっと前面に押し出した方がよかったように思います。


No.2233 7点 葉桜の季節に君を想うということ
歌野晶午
(2020/05/27 20:37登録)
(ネタバレなしです) おそらく歌野の作品中最も有名であろう2003年発表の本書は実によく考え抜かれた作品です。本格派推理小説として高い評価がある一方で「これは本格派ではない」という意見も少なからずあります。それはあの衝撃的な真相が読者に対して「解くべき謎」として提示されていないことにあるのでしょう。私も本格派好き読者の端くれとして共感します。久隆降一郎殺しなんか犯行の直接描写があって犯人丸わかりですし。でもハードボイルド要素(やくざ登場)や社会派推理小説要素(インチキ商品の高額押し売り組織登場)を織り込みつつも縦横無尽に張られた伏線が回収されるプロットは異色ながらも本格派を感じさせます。文春文庫版の裏表紙の粗筋紹介にあるように、(三度読みは微妙だけど)二度読みして見落とした伏線をたどってみたい作品です。


No.2232 5点 レディーズ・メイドは見逃さない
マライア・フレデリクス
(2020/05/27 20:24登録)
(ネタバレなしです) ヤングアダルト向け小説を書いていた米国のマライア・フレデリクスが2018年に初の大人向けミステリーとして発表したのがジェイン・プレスコットシリーズ第1作の本書です。日本にはコージー派ミステリーとして紹介されていますが、作中時代である1910年代の米国社会の暗部描写はおよそコージー派のイメージとは程遠く、人物描写も会話も明るいところはほとんどありません。過度に重苦しくはありませんが気楽に読める作品でもありません。20章の終わりでジェインが「誰がノリー・ニューサムを殺したのかがわかっただけでなく、それを証明する方法もいくつか思いついた」と述懐しているのでこれは意外な本格派推理小説の掘り出し物かと期待しましたがその後に続く推理説明は物足りず、結構自白に助けられてました。


No.2231 6点 幽霊たちの不在証明
朝永理人
(2020/04/06 23:00登録)
(ネタバレなしです) 2019年に「君が幽霊になった時間」というタイトルで発表された朝永理人(ともながりと)のデビュー作です。私の読んだ宝島社文庫版はライトノベル風なイラストで確かにそういう要素もありますが、謎解きは実に堅固で「読者への挑戦状」まで付いた堂々たる正統派の本格派推理小説です。学園祭のお化け屋敷で起きた殺人事件の謎解きで、探偵役も被害者も容疑者も全員学生です。ひたすらアリバイ調査に捜査は費やされており、やや一本調子のプロットですが程よいユーモアとテンポのいい会話で退屈にはなりません。人物描写があっさり過ぎて動機の説得力が弱く、トリックにも安易かつリスクの高い手段が使われているのも問題と思いますが、その不満を吹き飛ばすのが推理の素晴らしさです。この論理性は一級品と言ってもよく、純然たる謎解きを大いに楽しめました。⇒(後記)本書の発表経緯説明が不正確とのご指摘をいただきました(そのご指摘をあいにく直接読めてはいないのですが)。原型は2017年にミステリー賞に応募した「幽霊は時計仕掛け」です。受賞を逃して発表には至っていなかったので紹介を端折っておりました。説明不十分な点、申し訳ありません。


No.2230 5点 名探偵の密室
クリス・マクジョージ
(2020/04/06 22:46登録)
(ネタバレなしです) 英国のクリス・マクジョージの2018年発表のデビュー作の本書は本格派推理小説ですが王道的な本格派というよりはスリラー小説やハードボイルドとのジャンルミックス型です。主人公のモーガン・シェパードは11歳の時に殺人事件を解決し、今では名探偵「役」のタレントで活躍している身分ですが何者かに5人の容疑者と1人の死体とと共に監禁され、殺人犯を探せと誘拐犯に要求されます。この設定は西村京太郎の「七人の証人」(1977年)を連想するかもしれませんが、特異な舞台設定はむしろ石持浅海の作品の方に親和性があるように思います。タイムリミット、脱出の試み、誰が味方で誰が敵なのかとスリラー要素たっぷりに加えて後半には11歳の少年探偵物語が回想されたりと起伏に富む展開です。アルコールと薬物に依存して結構駄目っぷりも目立つ主人公に共感できるかどうかが好き嫌いの分かれ目かもしれませんが。


No.2229 6点 エンデンジャード・トリック
門前典之
(2020/04/06 22:29登録)
(ネタバレなしです) 「王道の本格派なのに奇想の本格派」という評価にふさわしい2020年発表の蜘蛛出啓司シリーズ第5作です。好き嫌いは分かれると思います。本書を気に召さない読者は、「読者への挑戦状」まで挿入しながら「犯人名を指摘するのは無理だろうが犯人を特定できる」というメッセージに悩まされ、どうすればこの挑戦に勝てるのかはっきり説明してくれと不満を抱いたかもしれません。トリックに専門的知識を要求しているのも気に入らないかもしれません。「最後の殺人計画」で途方もない悪意が明らかになりますが、そもそも人物の心理描写が上手くないから悪意のインパクトが弱いという指摘もごもっとも。そしてアレ(ネタバレになるので不詳)を集めたことが「ありえない」としか思えないのに更に「もう一度集めるか」には呆れてしまうかも。しかし本格派推理小説に心酔している私としては弱点、問題点を多数抱えながらもこういう作品を嫌いになれないんですよねえ。


No.2228 5点 黄金の煉瓦
A・A・フェア
(2020/04/06 22:10登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第3作での本格派推理小説で何と日本人の柔道家が登場して(肉体派とは到底言えない)ドナルドを鍛えるという仰天場面で開始します。この日本人、後半にも顔を出して活躍していますが1941年に太平洋戦争が日米間で勃発することを考えるとタイミング悪ければ本書は出版禁止(良くても大幅修正)になったかもしれませんね。これまでのシリーズ作品では目立たなかったエルシーにも脚光が当たるようになります(バーサの秘書ですが優秀な秘書2人分の仕事ができると評価されてます)。急迫されている娘の秘密を探ろうとするドナルドですが、脅迫者らしき男と接触した直後にその男が殺されます。探偵活動をする一方で警察からは逃げなくてはという難しい立場にたたされたドナルドの周囲には依頼人の敵対的な家族や悪徳弁護士といった怪しい面々が入れ替わり立ち替わりです。前作の「ラム君、奮闘す」(1940年)に比べると物語のテンポがよくて読みやすく、金鉱採掘への投資(詐欺かも?)といった難しそうな問題もリーダビリティーの妨げになってません。解決はもう少し丁寧に説明してほしい気もしますが。


No.2227 6点 東海道新幹線殺人事件
葵瞬一郎
(2020/04/06 21:52登録)
(ネタバレなしです) 葵瞬一郎の2017年発表のデビュー作で朝倉聡太シリーズ第1作の本書は京料理の丁寧な紹介など観光要素もありますが謎解きに力を入れている本格派推理小説で、mediocrityさんのご講評でコメントされているようにタイトルで損した印象は否めません。すれ違う新幹線でほぼ同時に首を切られた死体が発見されるのですが何と上り線の首と下り線の胴体が、そして下り線の首と上り線の胴体が同一人物という奇怪な事件で、島田荘司の「出雲伝説7/8の殺人」(1984年)や阿井渉介の「終列車連殺行」(1990年)を思い出す読者がいるかもしれません。最後まで残った容疑者数が少ないので犯人当てとしては容易過ぎに感じられるかもしれませんが、首(または胴体)の移動トリックは大変よく考えられており、推理説明が図解入りでわかりやすいのも好ましいです。それにしても西村京太郎の「寝台列車殺人事件」(1978年)以降、膨大な数のトラベルミステリーが書かれてますが日本最初の新幹線を使ったこのタイトルが本書の登場まで出版されていなかったのは意外ですね。


No.2226 5点 ポンコツ競走馬の秘密
フランク・グルーバー
(2020/03/25 21:26登録)
(ネタバレなしです) 1942年発表のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズ第6作のユーモア・ハードボイルドです。「はらぺこ犬の秘密」(1941年)と同じく2人が遺産相続に巻き込まれますが、今回の相続遺産は勝てない競走馬。売却したりはできない仕組みになっており、現金が欲しくばこの馬がレースで勝つしかないのです。ミステリーと競馬というと八百長試合がよくつきまといますが、有力馬がわざと負けることというのが相場なのに本書の場合は期待薄の馬が勝つことという話になり、この馬の本当の実力はどうなんだろうと気になります。最後に明かされる真相はかなり唖然とするもので、回りくどい犯行計画にしか感じられず推理説明がきちんとされていないのも残念です。「はらぺこ犬の秘密」と比べると謎解きの粗さが目立ちます。


No.2225 4点 妖奇切断譜
貫井徳郎
(2020/03/25 20:48登録)
(ネタバレなしです) 1999年発表の本書は明治ならぬ明詞という架空の時代を舞台にした本格派推理小説の「鬼流殺生祭」(1998年)の続編にあたります。「鬼流殺生祭」のネタバレはありませんし、あちらを読んでいなくても大きな問題はありません。錦絵のモデルになった女性ばかりが次々と猟奇的殺人の犠牲となります。しかも身体の一部を持ち去られるという設定が島田荘司の「占星術殺人事件」(1981年)を髣髴させますが、「読者への挑戦状」まで挿入したガチガチの本格派推理小説の島田作品と比べると本書はスリラー、いやホラー傾向が強い作品です。特に中盤あたりの描写のきつさは個人的には合いませんでした。探偵役の朱芳が容疑者を個人的に知っていたというのは(そして読者は知りようもない)推理でも何でもなく、最後に明かされる真相も説明不十分で本格派の謎解きとしては残念レベルです。中盤まではグロテスクな直接描写で、終盤では人間の醜い内面を強調とあの手この手で読者を不快な気分にさせます。


No.2224 5点 ビッグ・マネー
ハロルド・Q・マスル
(2020/03/16 22:34登録)
(ネタバレなしです) いかにもハードボイルドを予感させるタイトルの本書は1954年発表のスカット・ジョーダンシリーズ第5作です。ジョーダンが事務所へ電話するとジョーダンを名乗る男が応答するという驚きの幕開けです。ジョーダンを訪れた依頼人は大事な証拠を偽のジョーダンに渡してしまっただけでなく本物のジョーダンを警戒する始末です。おまけにジョーダンが手がけている投資詐欺事件の関係者でもありました。投資詐欺というと話が難しそうだと敬遠したくなる読者もいるでしょうが本書は全く心配なし、実に要領よく説明されて明快です。ジョーダンの捜査は時にはったり時に脅かし、アクションシーンもありとハードボイルドの私立探偵風ですが過度なエログロや痛々しい暴力は描かれません。ハヤカワポケットブック版の巻末解説で誉めている「清潔」かどうかはともかく、不快な読後感はありません。解決はかなり唐突感がありますがちゃんと推理説明していますので本格派推理小説好き読者の鑑賞にも堪えられます。


No.2223 5点 「新説邪馬台国の謎」殺人事件
荒巻義雄
(2020/03/16 22:17登録)
(ネタバレなしです) 1989年発表の埋宝伝説シリーズ第4作の本格派推理小説で、当初のタイトルは「「マ」の邪馬台国殺紀行」でした。本書からは新しいシリーズ探偵役として荒尾十郎が登場します。もっとも次作の「「能登モーゼ伝説」殺人事件」(1990年)でシリーズは終焉なのですが。北海道で発見された画家の死体がどこか別の場所で殺されたらしいこと、彼が生前に邪馬台国を調べていたらしいことから彼の足取りを追うことが邪馬台国の謎解きにつながるプロットです。二本立ての謎解きは往々にして片寄ることが多いのですが本書の場合も歴史の謎解きには力が入っていて、高木彬光の「邪馬台国の秘密」(1972年)にまで触れている一方で安易にネタバレしない配慮を見せているのは先人作品のネタバレがマナー違反を感じさせた「黄河遺宝の謎を追え!」(1986年)からの進歩を感じさせます。しかしそれに比べて現実の殺人の謎解きは粗過ぎで、真相自体も魅力に欠けてしまっています。


No.2222 5点 ギャンビット
レックス・スタウト
(2020/03/10 20:22登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表のネロ・ウルフシリーズ第25作で、国内では雑誌「EQ」の87号(1992年5月号)と88号(1992年7月号)に連載されました。タイトルに使われている「ギャンビット」とはチェスの戦術だそうで、エラリー・クイーンの「盤面の敵」(1963年)の章のタイトルに使われていましたね。動機がスタウトの作品では珍しく(といっても私はスタウト作品に精通しているとはとても言えませんけど)、どちらかといえばアガサ・クリスティーの作品でよくありそうだったのが印象的でした。それはいいのですがプロットもスタウトらしくなかったのが気になります。このシリーズはウルフの助手のアーチーが手掛かりや証言をかき集め、最後にウルフが犯人を突き止めるというのが定番パターンですが、本書ではアーチーが先に真相にたどり着いたという印象が強くてウルフが精彩を欠いているように感じました。


No.2221 5点 学園街の<幽霊>殺人事件
司凍季
(2020/03/10 20:06登録)
(ネタバレなしです) 1998年の一尺屋遥シリーズ第6作の本格派推理小説です。高校生時代の一尺屋が登場し、友人の今御堂蘭と一緒に山道で立て続けに起きた3件の交通事故(3人死亡、1人重傷)の謎解きに挑みます。不思議な交通事故というと高田崇史の「QED 竹取伝説」(2003年)が思い浮かびますが、本書でも事故当時に爆発音を聞いたとか人魂を見たとかの不思議な証言が相次いでなかなか魅力的な謎です。しかしこの謎でプロットを支える自信がなかったのか(まあトリックはユニークですがあれを何度も実行したというのが無茶苦茶です)、13年前に起きた少年の怪死と生き返り(?)、各章(8章まであります)のタイトルは「なぜ」で始まる謎、登場人物たちの複雑な関係や秘密と謎の乱れ打ちで、まとまりを無視して突き進みます。一尺屋の推理は論理的でないだけでなく、間違いを犯人に訂正してもらっている始末ですっきり感がありません。作者は本書以降はあまり目立った活動をしていないようですが、それもやむなしかなと思います。それにしてもハル(遥)やラン(蘭)という人物名で男性、美聖学園という校名で男子校って...いやあまり考えないようにしましょう(笑)。

2900中の書評を表示しています 661 - 680