名探偵の密室 |
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作家 | クリス・マクジョージ |
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出版日 | 2019年08月 |
平均点 | 5.67点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | ROM大臣 | |
(2022/07/25 14:26登録) かつて少年時代に実際に殺人事件を解決し、今は探偵役としてリアリティ番組で司会を務めるモーガンは、気づくとホテルの一室で拘束されていた。その部屋には見知らぬ五人の男女と、一体の死体。三時間以内に殺人犯を見つけなければホテルを爆破する、というアナウンスが流れるというフーダニット兼脱出ゲームの作品。 物語の主眼は犯人探しよりも、なぜ主人公たちがクローズドサークルに集められたのかというホワイダニットのほうである。物語の中盤、主人公が信頼できない語り手と化し始めてからの気持ち悪さが、そのホワイダニットと結びつく時の驚きが本作の真骨頂でしょう。 |
No.2 | 5点 | nukkam | |
(2020/04/06 22:46登録) (ネタバレなしです) 英国のクリス・マクジョージの2018年発表のデビュー作の本書は本格派推理小説ですが王道的な本格派というよりはスリラー小説やハードボイルドとのジャンルミックス型です。主人公のモーガン・シェパードは11歳の時に殺人事件を解決し、今では名探偵「役」のタレントで活躍している身分ですが何者かに5人の容疑者と1人の死体とと共に監禁され、殺人犯を探せと誘拐犯に要求されます。この設定は西村京太郎の「七人の証人」(1977年)を連想するかもしれませんが、特異な舞台設定はむしろ石持浅海の作品の方に親和性があるように思います。タイムリミット、脱出の試み、誰が味方で誰が敵なのかとスリラー要素たっぷりに加えて後半には11歳の少年探偵物語が回想されたりと起伏に富む展開です。アルコールと薬物に依存して結構駄目っぷりも目立つ主人公に共感できるかどうかが好き嫌いの分かれ目かもしれませんが。 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2020/03/03 03:03登録) (ネタバレなし)「少年探偵」として世間の注目を集めたモーガン・シェパード。36歳になった現在の彼は通俗的なテレビのショー番組で売れっ子の「名探偵」タレントとなっていたが、陰では酒と薬物に耽溺する毎日だった。シェパードはパリで行きずりの女性と一夜をともにするが、気がつくと高級ホテル風のベッドに手錠で繋がれ、その周囲には5人の男女が横たわっていた。ついで彼らは現在いる場が脱出不能の密室と認め、しかも屋内には何者かに殺されたシェパードの知人の死体があった。やがて馬のマスクをかぶった謎の人物がテレビモニターを通じて、3時間以内に屋内の誰が殺人犯人かを当てろ、期限の時刻を過ぎた場合はホテルをほかの宿泊客もろとも爆破すると通告してきた。 2018年の英国作品。 いかにもそれっぽい題名だが、密室ネタの不可能犯罪ものではないことは予めネットの噂で聞かされていた。密室とは主人公たちが監禁された脱出不可の空間のこと。 それでも一応はフーダニットで、目的の見えない事件というか物語そのものにも仕掛けがある。これは、まんまイギリスの新世代作家(1992年生まれ)によって書かれた、海の向こうの「新本格作品」。 中盤から語られるシェパードの11歳の時の事件の経緯と真相も、良い感じでストーリー上の立体感を築いている。 一方で、真相が判明したのちに明かされる真犯人の設定とその作中での扱いについては、正直あれこれ言いたいことばかり。その辺は若さの勢いで書いた作品という印象も大だが、それでも破天荒なパワフルさは確かに全編にみなぎっており、個人的には結構楽しめた。 (とはいえ読者を選ぶ作品という感触も強いね。引っかかる人は本編の描写のあちこちで、何かしら嫌ってしまうかもしれない。) ああそうそう、大事な事として、本作はもともと大学の小説創作学科のスリラー分野の実作論文として、原型が完成。それを商業出版用にまとめ直したものらしい。そんな異色の経緯の一冊ではあるが、訳者あとがきによると、本国ではまさかのシリーズ化? もされるそうな。ちょっと楽しみな感じで、また翻訳されたらたぶん読むでしょう。 |