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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2814件

プロフィール| 書評

No.2354 6点 改訂・受験殺人事件
辻真先
(2021/03/24 21:52登録)
(ネタバレなしです) 1977年発表のスーパー&ポテトシリーズの青春三部作の最期を飾る本格派推理小説です。創元推理文庫版で300ページに満たないですが仕掛けは一杯です。今回はキリコ(スーパー)の視点と薩次(ポテト)の視点で交互に物語を語らせる構成を採用し、両者が何を考えているかも読者に明示しながら真相は最後まで伏せる芸当をやってのけています。この青春三部作は実験的手法を取り入れていることでも有名ですが、最後に紹介されている海外古典ミステリーの引用で何を狙っていたかをきちんと説明しています。とはいえ引用が抜粋形式ということもあってこの古典ミステリー(ややマニアックな作品です)を読んでいないと何が実験的なのかわかりくいと感じる読者がいるかもしれませんが。


No.2353 5点 紀ノ国殺人迷路
草野唯雄
(2021/03/24 21:19登録)
(ネタバレなしです) 草野唯雄(そうのただお)(1915-2008?)のおそらく最後の作品と思われる、1995年発表の尾高一幸シリーズ第12作の本格派推理小説です。非常にシンプルな謎解きで、犬を轢き殺してしまったという運転者の証言と人を轢き殺したという目撃者の証言が真っ向対立です。どちらかを真とすればもう一方が犯人であろうことは明々白々で、意外性を生み出しようがありません。推理要素も少なく、捜査による証拠・証言探しが主体となっています。読みやすい作品ですし、トラベルミステリー要素もありますが読み終えた後に記憶に残るとしたら尾高の激怒シーンが珍しいことぐらいでしょう。


No.2352 4点 令嬢探偵ミス・フィッシャー 華麗なる最初の事件
ケリー・グリーンウッド
(2021/03/24 21:10登録)
(ネタバレなしです) オーストラリアの女性作家ケリー・グリーンウッド(1954年生まれ)が1920年代のオーストラリアを舞台にしたフライニー・フィッシャーシリーズはテレビドラマ化され、さらには映画化されるほどの大ヒット作です。1989年発表の本書がシリーズ第1作ですがハヤカワ文庫版の日本語タイトルから連想されるような華麗さは感じられません。英語原題が「Cocaine Blues」とあるように麻薬組織との対決を描いたスリラー小説で、サイドストーリーでは違法中絶手術をする医者とその被害者が描かれるなどハードボイルドの暗黒世界の雰囲気が漂います。フライニー自身も武器を忍ばせて時にアクションヒロインになったり男性とベッドインしたりしています。メリハリあるプロットで読みやすいし、やや誇張気味ながらも人物の描きわけもしっかりしていますが個人的には好みの作風ではありませんでした。


No.2351 5点 退職刑事3
都筑道夫
(2021/03/24 20:55登録)
(ネタバレなしです) 1978年から1982年にかけて発表された退職刑事シリーズの7作の本格派推理小説を収めて1982年に出版された第3短編集です。前半の4作品が楽しめました。現代では珍しくなったガラス張りの電話ボックスの中でガラスに傷も穴もないのに射殺された死体、人形に殺されたかのような死体、殺人犯人は自白して事件は解決したはずなのに被害者の顔に仮面をかぶせたのは誰、死後に歩き回ったとしか思えない死体と、トリックはそれほどのインパクトはありませんが魅力的な謎と論理的推理による解決を堪能できました。しかし後半の3作品は論理的推理とは相性の悪そうなダイイング・メッセージ系です。「乾いた死体」で「ひとつの解釈をしてみただけなんだ」と言い訳させてますが、唯一の真相だという説得力がありません。しかし作者はこの種の謎解きに挑戦意欲が湧いたのでしょうか、第4短編集の「退職刑事4」(別題「退職刑事健在なり」)(1986年)ではメッセージの謎解き路線を更に推し進めることになります。


No.2350 6点 憐れみをなす者
ピーター・トレメイン
(2021/03/11 21:48登録)
(ネタバレなしです) 1999年発表の修道女フィデルマシリーズ第8作の本格派推理小説で、創元推理文庫版で上下巻合わせて550ページを超します。このシリーズはフィデルマがアイルランド国外で活躍することも珍しくないのでトラベル・ミステリーでもあるのですが本書は船上ミステリーということもあって一層旅行の雰囲気は濃厚です。冷静沈着なキャラクターのイメージが強いフィデルマですが作者もマンネリ打破を狙ったのか本書ではかなり意外な一面が見られます。何とかつての恋人が登場するのです。軽薄なプレイボーイタイプですが、フィデルマの方が熱を上げていて挙句の果てに捨てられたというのですからこれは結構イメージ変わりますね。捜査に私情が挟まって苦労しています。また容疑者の大半が巡礼中の修道士や修道女なのですが彼らから修道女としての資質を批判されてフィデルマが反論できない場面もあるなど弱みを見せているのが新鮮です。謎解き伏線はちゃんと用意されていますが証拠としての決定力は少し弱いように思います。しかし海洋冒険小説要素を織り込むなど起伏のある展開で厚さを気にせず一気に読み通しました。


No.2349 6点 三色の家
陳舜臣
(2021/03/11 21:29登録)
(ネタバレなしです) デビュー作の「枯草の根」(1961年)で手応えを感じたのでしょう。1962年の陳舜臣の創作意欲は燃え上がり、陶展文シリーズ第2作の本書、非シリーズの「弓の部屋」、陶展文シリーズ第3作の「割れる」、非シリーズの「怒りの菩薩」、そして短編集「方壺園」が矢継ぎ早に発表されました。本書の作中時代は1933年、留学生だった陶展文は大学を卒業して帰国の準備中という設定です。青春小説要素はあまりありませんが陶展文が自分のことを「ぼく」と呼んだりして若さは十分に感じられます。殺人現場から誰にも目撃されずに消えた犯人という不可能犯罪要素はありますがプロット展開は非常に地味です。日本人や中国人が多数入り乱れますので登場人物リストを作って整理することを勧めます。トリックは小手先感が強いですが陶展文の推理はなかなか理詰めです。


No.2348 6点 ロンドン謎解き結婚相談所
アリソン・モントクレア
(2021/03/11 21:15登録)
(ネタバレなしです) 米国の男性作家アラン・ゴードン(1969年生まれ)がアリソン・モントクレア名義で2014年に発表した本格派推理小説で、アイリス・スパークスとグウェンドリン(グウェン)・ベイブリッジシリーズ第1作です。1946年のロンドンを舞台にして2人が共同経営しているライト・ソート結婚相談所に登録した女性客の殺人事件の謎解きに乗り出すプロットです。ちなみに英語原題は「The Right Sort of Man」です。主役の2人はどちらも20歳代の女性ですがそれぞれに重い過去を持っています。アイリスはスパイ組織の一員だったと思わせる描写があり、手荒な手段をとることも厭わず、男性経歴も豊富なご様子。グウェンは名門貴族に嫁ぎますが愛する夫は戦死、義理の両親に息子の監護権を握られています。デビュー作ということもあってか対照的な2人の描写には力が入っており、それぞれの個性を活かしての捜査はぐいぐいと読ませます。テンポが良すぎて推理はもっとじっくり説明してほしいと思いましたが、シリーズ第1作としては上々の出来栄えでしょう。


No.2347 5点 探偵の冬あるいはシャーロック・ホームズの絶望
岩崎正吾
(2021/03/02 22:22登録)
(ネタバレなしです) 金田一耕助シリーズのパロディ、ドルリー・レーンシリーズのパロディと続いた「探偵の四季」シリーズの2000年発表の第3作となる本格派推理小説です。今度はシャーロック・ホームズシリーズのパロディーとなっています。日本人なのに記憶を失った上に自分をシャーロック・ホームズと思い込んでいる男と、やはり日本人なのに「ホームズ」に合わせてワトソン博士を演じる精神科医の「わたし」を中心に物語が進みます。長編というより連作短編的であり、「光頭倶楽部」「イヌの事件」そして「まだらのひもの」と物語が進むにつれ、ある悪の存在(実は探偵コンビとはプライヴェートの関りがある)が全ての事件の背後にいるのではと疑惑は膨れ上がります。「まだらのひもの」では馬鹿トリックに近い密室トリックに驚きましたが、謎解き以上に印象に残ったのは人間ドラマの行く末のような気がします。なるほどこれはタイトルに「絶望」を使っただけのことはありますね。ところで「作者あとがき」で「残りは春」と意識はしていたみたいですがその後20年以上経ってもシリーズ第4作が発表されていないのが心残りです。


No.2346 5点 怒りっぽい女
E・S・ガードナー
(2021/03/02 21:28登録)
(ネタバレなしです) 1933年発表のペリー・メイスンシリーズ第2作の本格派推理小説で初めて法廷場面が描かれた作品でもあります(シリーズ前作の「ビロードの爪」(1933年)には法廷場面はありません)。メイスンは全82作品を通じて年をとらないキャラクターとして認識されていますが、本書では説得の通じない相手に怒りを隠せないなど若さを感じさせますね。単に真相を見破るだけでは成功とは言えず、いかに法廷で証明できるかがこのシリーズでのハイライトですが本書では実に深遠な法廷戦略をとっていて印象的でした。もっともそれはメイスンが説明して初めて私はわかったのであって、それまでは実に地味に立ち回っており盛り上がりに欠ける展開という気もします。なお「ビロードの爪」の締め括りで次回作(つまり本書)を予告した演出がありましたがそれは本書でも採用されており、シリーズ第3作の「幸運の脚の娘」(1934年)へ続くようになっています。しかしそれが読めるのは創元推理文庫版のみで、角川文庫版とハヤカワ・ミステリ文庫版では(本筋には影響ないとはいえ)この演出部分が削除されているのは残念です。


No.2345 5点 飛車角歩殺人事件
本岡類
(2021/03/02 21:11登録)
(ネタバレなしです) トリック重視の本格派推理小説の書き手として登場し、後には社会派推理小説や非ミステリー作品へと幅を広げましたが2007年を最後に小説を長期間断筆して2023年に復活した本岡類(1951年生まれ)のデビュー作が1984年発表のプロ棋士・神永英介七段シリーズ第1作の本格派推理小説である本書です。作中で神永を1943年生まれで、1969年には26歳の若さで七段に昇段する才覚を見せながらその後は足踏みして将棋タイトルにも縁がないと紹介しています。「どこまで冗談でどこから本気かわからない」と評される飄々とした性格が災いしているのでしょうね。将棋界のビッグ・タイトルである名王戦の第一局の最中に舞台の近くで轢き逃げ殺人があり、次の悲劇を予告するような脅迫状が送られてくるプロットです。「棋士ほど探偵に向いている人種はいない」と豪語する神永が結構早い段階で容疑者を絞り込みますが、思わぬ展開でアリバイ崩しの謎解きに移行します。そのアリバイ崩しに意外な人物が貢献して驚かされ、さらにどんでん返しも用意されていますが神永の説明はもしやと思いついた仮説が当たったにすぎず、謎解き伏線が十分でないように思えます。まずトリック(失火、爆殺、アリバイなど色々)ありきで、プロットはつぎはぎだらけの印象です。


No.2344 4点 やみつきチョコレートはアーモンドの香り
キャシー・アーロン
(2021/03/02 20:54登録)
(ネタバレなしです) 米国のキャシー・アーロンが2014年に発表したデビュー作となるコージー派ミステリーで、1つの建物をチョコレート・ショップと書店でシェアしているミシェル・セラーノとエリカ・ラッセルの親友同士が、ミシェルのチョコレートを食べて死亡する事件の解決に取り組むプロットです。コージー派におけるコンビ探偵というとシャーロット・マクラウドのケリング夫妻やジル・ジャーチルのブルースター兄妹ぐらいしか私は知らないのですが、2人が互いを評するところによればミシェルは意思が強く、エリカは頭がいいとなっています。ただ本書におけるミシェルは涙ぐむシーンが結構あって、事件の悪影響がいかに深刻だったかがよく伝わっています。ミシェルの1人称形式にしたのでやむを得ないのですがエリカの出番は控えめに感じました。あまり探偵らしい活躍を披露することもなく、推理によらない解決になってしまったし真相自体も魅力あるものとは言えずで本格派推理小説好きの読者には受けにくいと思います。


No.2343 8点 蒼海館の殺人
阿津川辰海
(2021/02/25 21:27登録)
(ネタバレなしです) 2021年発表の館四重奏第2作となる本格派推理小説です。「紅蓮館の殺人」(2019年)の続編というべき作品で、葛城輝義は心に傷を負った状態で登場します。名探偵どころか一般人としても無気力になっており、事件が起きてもやる気を見せず一体いつになったらどうすれば復活するのか読者をやきもきさせます。「紅蓮館の殺人」では迫りくる山火事がサスペンスを盛り上げましたが本書では台風が引き起こした濁流が迫ります。それ以上に緊張感を演出するのが容疑者の大半が曲者揃いの葛城一族であることで、異様な家族ドラマが待ち受けます。古今のミステリーを意識した仕掛けは前作以上で、第一部の4章では「アガサ・クリスティーかよっ!」、第五部の3章では「レックス・スタウトかよっ!」、第六部の2章では「エラリー・クイーンかよっ!」と何度内心で突っ込んだことか。私よりもミステリー通である多くの読者ならもっと突っ込みネタを見つけられたでしょう。怒涛の推理に柄刀一の「密室キングダム」(2007年)に匹敵するような犯人の深遠謀慮が凄い。講談社タイガ版で600ページを超す大作ですがこの厚さは必然だったと思います。


No.2342 5点 ロンリーハート・4122
コリン・ワトスン
(2021/02/25 21:04登録)
(ネタバレなしです)1967年発表のパーブライト警部シリーズ第4作の本格派推理小説です。2人の女性の失踪事件を手掛けることになり、調べていくと2人の共通点が同じ結婚相談所の登録メンバーであることがわかり「青ひげ」の犠牲になったのではと疑います。一方でティータイムなる不思議な名前の女性が登場して新たな登録メンバーになり、次の犠牲者になるのではと心配することになるのですがここからの展開が変わっています。登録ナンバー4122を名乗る男が彼女の前に現れ、もちろん十分に容疑者なのですが彼女の挙動も結構怪しいのです。どこかアントニー・ギルバートの「薪小屋の秘密」(1942年)を私は連想しました。謎めいた男、謎めいた女、そして警察の三つ巴的な展開は派手ではないけど退屈しません。しかし結末があっけないのが残念で、推理説明をきちんとしてくれないのは大いに不満でした。


No.2341 6点 船中の殺人
林熊生
(2021/02/25 20:50登録)
(ネタバレなしです) 林熊生(りんゆうせい)は人類学者の金関丈夫(かなせきたけお)(1897-1983)が日本の植民地時代の台湾でミステリーを発表した時のペンネームです。第二次世界大戦後は日本に戻りますが二度とミステリーの筆を執ることはありませんでした。本書は1943年発表の本格派推理小説で、日本では2001年出版の「日本植民地文学精選集」で復刻されました。台湾の基隆から神戸へと向かう船中を舞台にしたためか(台湾人は何人か登場しますが)台湾の異国情緒は感じられません。次々に増える容疑者のアリバイを丹念にチェックするプロットはやや単調で、文章の古さもあいまってちょっと読みにくいです。しかしながらどんでん返しが連続する終盤の謎解き推理は圧巻で、戦前戦中の本格派推理小説としては立派な出来栄えではないでしょうか。


No.2340 6点 ビーフ巡査部長のための事件
レオ・ブルース
(2021/02/25 20:34登録)
(ネタバレなしです) ブルースは第二次世界大戦中の従軍のため作家業を中断していたらしく、1947年出版のウィリアム・ビーフシリーズ第6作の本書が「ロープとリングの事件」(1940年)以来の新作です。ビーフはシリーズ第3作の「結末のない事件」(1939年)で警察を辞職して私立探偵になっているのでタイトルに「巡査部長(Sergeant)」が使われているのが気になりましたがビーフが警察官のふりをするわけでもなく、それでいて作中で時々「ビーフ巡査部長」と特別な理由もなく表記されており、あまり深い意味はないようです。前半はある人物が完全殺人を計画する場面が手記形式で描かれ、扶桑社文庫版の巻末解説ではニコラス・ブレイクの「野獣死すべし」(1939年)との親和性を主張していますが、個人的には半倒叙本格派推理小説と評価されるヘンリー・ウエイドの「塩沢地の霧」(1933年)を思い出しました。このシリーズらしく技巧を凝らした謎解きですがビーフが「全探偵小説を通じて、こんなことは前代未聞だ」と自慢しているのには異議ありと感じる読者もいるでしょう。巻末解説ではアントニー・バークリーに前例ありと説明しています。ネタバレにならないように書くのは難しいのですがバークリーは逆転勝ち(或いは逆転負け)を狙ったようなところがあり、一方で本書では同点優勝を狙ったように感じられ、そこがユニークではありますけど「前代未聞」と誇張するほどのインパクトはないように思います。


No.2339 6点 怨み籠の密室
小島正樹
(2021/02/17 19:34登録)
(ネタバレなしです) 2021年発表の海老原浩一シリーズ(島田荘司との共著「天に還る舟」(2005年)もカウントして)第8作の本格派推理小説です。「呪い殺しの村」(2015年)で海老原自身の悲劇が中途半端に紹介されていましたがあれは本書への伏線だったのでしょうか。父親を病気で亡くした主人公が久しぶりに帰郷して父が村八分にされて村を出奔したことを知り、過去に何があったのかと苦悩します。そんな彼を支える海老原が実に頼もしいです。過去作品では警官をからかったりとどこか軽薄な面もありましたが本書では真摯に主人公に寄り添っており、読者の共感度も高いのでは。謎とトリックを詰め込んだ「やりすぎ」を期待する読者はがっかりするかもしれませんが(それでも密室や人間消失の謎が用意されています)、本書のような人間ドラマと悲劇性を描くのに重きを置いたプロットも悪くないと思います。


No.2338 5点 サイモン・アークの事件簿〈Ⅱ〉
エドワード・D・ホック
(2021/02/17 18:43登録)
(ネタバレなしです) ホックが日本読者のために26作のサイモン・アークシリーズ中短編を選んだ日本独自編集版の2011年出版の第2短編集に当たり、「過去のない男」(1956年)から「死を招く喇叭」(2005年)までの8作を収めています。100ページを超す中編の「真鍮の家」(1960年)は本国アメリカでの第2短編集のタイトルに使われていることからも期待して読んだのですが、サイモンに相談したいと言いながら何が問題なのかはっきり説明しない依頼人(理由はあるのですけど)など霞がかったようなプロットがどうにも読みにくく、結末のすっきり感も弱くて個人的には不満が残ります。「宇宙からの復讐者」(1979年)も雷に打たれたかのような連続怪死事件の謎の魅力に対してトリック説明が雑過ぎなのが残念です。好き嫌いは分かれると思いますが突拍子もない真相の「吸血鬼に向かない血」(1995年)とチェスタトンのブラウン神父シリーズ作品を彷彿させる「死を招く喇叭」が個人的には印象に残りました。


No.2337 5点 400年の遺言―龍遠寺庭園の死
柄刀一
(2021/02/12 22:00登録)
(ネタバレなしです) 2000年発表の本格派推理小説です。「3000年の密室」(1998年)や「4000年のアリバイ回廊」(1999年)を連想させるタイトルですが登場人物の共通はありません。殺人犯の脱出が不可能としか思えない庭園の謎、衣服を後ろ前にして手首を切り落とされた死体の謎、そして400年の歴史を持つ寺院が秘めた謎といった大型の謎から主人公がなぜ私立探偵に尾行をされたのかといった小さな謎まで実に多くの謎がひしめきます。感情描写が上手くないので損をしていますが終盤には思わぬ人間ドラマまで用意されています。特殊な状況下でしか成立しないトリックですが凝ったアリバイトリックも印象的です。庭園の事件の描写を読んで横溝正史の「本陣殺人事件」(1946年)を連想しましたが、真相を知ると(細部はもちろん違いますけど)改めて「本陣殺人事件」を思い起こしました。ただ全体としては詰め込み過ぎで読みにくかったです。力作であることは間違いありませんが。


No.2336 5点 寄宿学校の天才探偵②
モーリーン・ジョンソン
(2021/02/12 21:11登録)
(ネタバレなしです) 2019年発表のステイヴィ・ベル三部作の第2作の本格派推理小説です。第1作の「寄宿学校の天才探偵」(2018年)があまりにも消化不良で、最後に「続く......」で終わったのには唖然としましたが本書は1936年の事件についてほとんどの部分が謎解きされます。もっとも第24章で「わたし、わかったの」と宣言したステイヴィはどうしてわかったかについてまるで説明しないので、読者が天才探偵らしさを味わうのはまたもお預けです。そして現代の事件の謎解きもお預けです。前作のように「続く......」で締め括られはしませんけど。これは三部作にせず一冊にまとめてほしかったですね。


No.2335 4点 天狼星Ⅲ 蝶の墓
栗本薫
(2021/02/12 20:42登録)
(ネタバレなしです) 「天狼星Ⅱ」(1987年)から長い空白を経て1993年に発表された「天狼星」三部作の最終作となるスリラー小説です。「天狼星Ⅱ」が色々な意味で未解決要素を残していたので本書を待ってましたと期待した読者もいるかもしれませんが、読み始めると「あれれ」と感じたのではないでしょうか。シリーズ探偵の伊集院大介やシリウスを含む「天狼星Ⅱ」の登場人物がまるで登場せず、竜崎昌という少年の視点で彼と彼を取り巻く環境が地味に語られるのです。少しずつ悪の存在がほのめかされるとはいえミステリーらしささえ希薄な前半です。一人称形式のためか竜崎昌の外見については描かれていませんが、やがて彼が美少年であることが説明されるとこれまでの「天狼星」シリーズを読んだ読者は「ははん」と予想がつくかもしれませんね。はい、この作者独特の耽美趣味が炸裂します(そして個人的には好みではありませんでした)。「天狼星Ⅱ」の後日談もやっと語られるのですが、あれだけ盛り上げておいて本書でのあっさり説明に終わってしまう演出はもう少し何とかならなかったのでしょうか。まあ終盤の劇的な展開はすさまじいほど力が入っていてここはなかなかよくできています。なお本書の講談社文庫版の巻末解説では三部作のどれから読んでも大丈夫のように紹介してますが、確かに本書は前作の後日談としては構成に難ありとは思いますけど作中で「天狼星」(1986年)や「天狼星Ⅱ」のネタバレをやっていますし、やはり最後に読むべきだと思います。「天狼星」シリーズもこれで終了、伊集院大介シリーズの次作は傑作と評価の高い「仮面舞踏会」(1995年)で、私の好きな本格派推理小説の世界に戻ったのでほっとしました。と思いきや作者は「天狼星」にまだまだ思い入れがあったのでしょう、後年に新たな「天狼星」シリーズが発表されるのです。

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