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ミステリの祭典

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罪人のおののき
ウェクスフォード警部

作家 ルース・レンデル
出版日1988年08月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 5点 nukkam
(2022/02/16 09:22登録)
(ネタバレなしです) 1970年発表のウェクスフォード首席警部シリーズ第5作の本格派推理小説です。人物の心理描写に長けた作者ですが本書では大勢の使用人についてもきっちり描き分けています。地道な捜査で嘘や隠し事が少しずつ暴かれますがそこで一気にお前が犯人かにはならず、嘘や隠し事の背景をじっくり調べていきます。そこがいいと思う読者も多いと思いますが、個人的には丁寧過ぎて物語のテンポが盛り上がるどころか沈降してしまったように感じました。人並由真さんのご講評で指摘されているように犯人逮捕後の謎解き説明をウェクスフォードでなく(犯人でもない)別人の手記にしているのも本書の個性ではありますが効果的だったか微妙です(これが後年の「乙女の悲劇」(1978年)になるとウェクスフォードに説明させて、さすが名探偵で締め括るエンディングになります)。但し当時としては結構斬新だったと思う事件背景が語られて印象的ではあります。余談ですが創元推理文庫版でチーズで有名なオランダのゴーダをオランダ語読みのハウダと翻訳していたのには感心しました(作中で語っているのがオランダ人なので英語読みのゴーダでは不自然です)。

No.2 7点 人並由真
(2020/06/30 05:36登録)
(ネタバレなし)
 その年の9月初旬のロンドン近辺。文学に造詣の深い大富豪クェンティン(クェン)・ナイチーンゲールの屋敷「マイフリート館」から、ある夜、クェンティン夫人のエリザベスが近所の森に散歩に出た。だが翌朝、彼女は何回も頭部を殴打された惨殺死体となって発見される。レジナルド・ウェクスフォード主任警部は、相棒のマイケル・バーディン警部とともに事件の捜査に当たるが。

 1970年の英国作品。ウェクスフォード主任警部ものの第五作。

 後半で注目される某アイテムについての推理など手堅い感じだが、つきつめていくと必ずしも仮説通りの状況になるとも限らないような……?
 ただしさすがはレンデル、例によって英国ミステリ系の60~70年代捜査小説としては、フツーに面白い。

 かたや、犯人が明らかになったあと、掲示される長々とした手記で事件の真相の多くが語られるのは良し悪しではあるが、それでもそこで晒される、当の告白者のみが実感しえたであろう心の動き。今風に悪く言うなら「めんどくさい」心理という部分もあるんだけれど、一方で、どうしようもない魂の呪縛にからめとられた人間のあがきぶりが、強烈な印象を残す。
 本作のキモはフーダニットとホワイダニットもさながら、最後に切々と語られるこの心情吐露の迫真さだよね。

 犯人のキャラクターもかぎりなく(中略)で、そこらへんもしばらく心に残りそう。

 佳作~秀作で、多分に後者寄り。

No.1 8点 Tetchy
(2009/09/07 23:37登録)
この感想は完全にネタバレ!


最後の手記で全てが裏返る。
それまでの彼は、何者よりも強く、倣岸で不遜だった。高みから見下ろしているかの如くだった。
しかしそれは人生に対する諦観から来る捨鉢な言動に過ぎなかった。
私はプライドの高さゆえの犯行だと推量したが、全くの逆で何も持たない男の現実逃避だったという落差が切なかった。
事件自体は派手さはなく、寧ろ凡百のそれだろうが、彼の放つ言葉一つ一つが哀切で、特に「私は死にたい」の一言が強く印象に残った。

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