(2022/02/05 22:34登録)
(ネタバレなしです) 海外本格派推理小説のガイドブックとしては私にとっての聖書である、森英俊編著による「海外ミステリ作家事典[本格派篇]」(1998年)で「戦後紹介された本格物のなかでも最悪の出来ばえである」とケチョンケチョンに酷評された1993年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第12作です。まあ酷評の理由にはごもっともと賛同できるところもあり、ジュリーが米国で起こった殺人事件の謎解きのためにフィラデルフィアへ飛ぶことになるのですが、(文春文庫版で)渡米前の100ページは過去作品の登場人物たちの同窓会風な場面が延々と続きます。謎解きにほとんど無関係の人たちがぞろぞろなので(登場人物リストにも載ってません)、シリーズに馴染みのない読者だとこれはとても辛いでしょう。ミステリーの始祖のポーの(偽作の疑いありの)原稿、メルローズ・プラントが執筆中の原稿、エレン・テイラーが執筆中の原稿と作中作が入り乱れますがどれも断片的のため非常に読みにくいプロットになっています。ということで問題点の多い作品ではあるのですが面白いアイデアもあります。私はシリル・ヘアーの「英国風の殺人」(1951年)を連想しましたが、英国の事件ならありそうな動機を米国の事件にぶちこんできたのに驚きました。個人的に傑作とまでは思いませんけど最悪級のレッテル貼りは免除かな。
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