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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2941件

プロフィール| 書評

No.561 6点 死はあまりにも早く
ヘンリー・ウエイド
(2014/10/20 18:11登録)
(ネタバレなしです) 1953年発表のプール警部シリーズ第6作ですが、彼が活躍するのは中盤以降です。非シリーズ作品の「塩沢地の霧」(1933年)と同じく、犯行場面を直接的には描写してはいませんが事件に至るまでの経緯はあらかじめ読者に対してオープンにしてある「半倒叙」スタイルを採っています。犯人当てとしての面白さは放棄した作品ですが、脇役に至るまで人物造型がしっかりしているためか地味な展開ながら退屈することなく読めました。結末の劇的で印象的な締めくくり方もこの作者ならではの巧さが光ります。


No.560 5点 ストップ・プレス
マイケル・イネス
(2014/10/20 16:40登録)
(ネタバレなしです) 私はそれほどイネス作品を読んでいないのですが、まじめな作風なのか陽気で楽しい作風なのか迷うことしばしばです。1939年発表のアプルビイシリーズ第4作の本書はイネスのファルス本格派らしさが発揮された最初の作品と評価されているようですがよくわかりませんでした。悪ふざけみたいな事件が次々に起こるのですが、例えばジョン・ディクスン・カーやクレイグ・ライスなら関係者があたふたする場面を面白おかしく描写して盛り上げるのでしょうけど、本書の登場人物はどこかさめたような反応です。笑い話を大真面目な口調で語っているような感じとでもいうのでしょうか。なるほどと感心できる謎解きがあるのですが、微妙に読みにくい作品でした(単に私がユーモアを解さないだけなのかもしれませんけど)。


No.559 5点 密室の死重奏
藤原宰太郎
(2014/10/20 14:00登録)
(ネタバレなしです) 藤原宰太郎(1932-2019)はミステリー研究家として知られ、1960年代後半から次々に推理クイズ本やトリック紹介本を発表してミステリーの面白さを読者に伝えてファンを開拓するのに大いに貢献しました。但しトリックはともかく犯人の正体までばらしてしまったことについては「やり過ぎ」との批判も少なくないようですが。そんな彼が自作ミステリーとして初めて発表したのが1986年発表の久我京介シリーズ第1作の本書で、トリック重視の本格派推理小説です。小手先系ながらわかりやすいトリックは印象的ですが、犯人当てとしてはダイイングメッセージ頼りの推理なのが苦しいです。


No.558 5点 京都大文字送り火殺人事件
草野唯雄
(2014/10/20 13:32登録)
(ネタバレなしです) 1985年発表の尾高一幸シリーズ第3作です。爆弾殺人というのが珍しく、ハウダニットに力を注いだプロットです。単独犯か複数犯か両構えで推理しているところは「支笏湖殺人事件」(1980年)にも通じるところがありますが、本書は犯人の正体がやや早く割れているので犯人当てとしてはあまり楽しめませんでした。また小説として謎解きと関係ない日常場面があるのは構わないのですが、唐突なロマンス場面や刑事同士の猥談場面は通俗に走り過ぎのような気がします。


No.557 7点 死を招く料理店
ベルンハルト・ヤウマン
(2014/10/20 12:28登録)
(ネタバレなしです) ドイツの作家ベルンハルト・ヤウマン(1957年生まれ)による2002年発表の本書は人間の五感(聴覚、視覚、触覚、嗅覚、味覚)をテーマにし、世界の五都市(ベルリン、メキシコ・シティー、シドニー、東京、ローマ)を舞台にしたミステリー五部作の最終作にあたる本格派推理小説です。設定も半端でなければプロットも半端ではありません。推理小説家である「わたし」の物語と、その作品の探偵である「ブルネッティ」の物語が交互に描かれる構成をとっています(いわゆる作中作です)。しかし一部の登場人物が両方の物語に出現したり、誰が死んだのかさえもどんでん返しがあったりとひねりにひねった展開に読者は最後まで振り回されます。複雑難解ですが魅力も十分にあり、第3章での迷宮を思わせる地下教会での追跡劇と逃亡劇が入り混じった冒険談、第6章での「パスタ食ってみろ」騒動のちょっと狂気じみたユーモア、第8章での推理小説の読者の視点に立ったユニークな犯人当て推理など、読ませどころが一杯あります。そして美味しそうな料理やローマの観光地描写もたっぷり。詰め込み過ぎてごった煮風になっているので万人向けではありませんが結構な力作です。


No.556 6点 陸軍士官学校の死
ルイス・ベイヤード
(2014/10/20 12:04登録)
(ネタバレなしです) 米国のルイス・ベイヤードは1999年に非ミステリー作品で作家デビューし、2003年から歴史ミステリーを書くようになりました。2006年発表のミステリー第2作で、舞台を1830年代の米国にしてあのエドガー・アラン・ポオを登場させた本格派推理小説です。この時代のポオはまだ若く(作家でもない)、主人公(語り手のガス・ランダー)の助手という位置づけで物語は進行します。前半は探偵コンビの捜査という、よくある展開ですが後半はロマンスや主従関係の微妙な変化などが加わって面白さが倍増します。終盤ややスリラー系に流れますが最後はちゃんと推理が披露されます(ネタバレ防止のため詳しく書けませんが翻訳者の苦労は並大抵ではなかったでしょう)。上下巻合わせて700ページを超す大作の割には読みやすいですがグロテスクな描写があるのが玉に瑕でしょうか(ほんのちょっとですけど)。


No.555 4点 死者の靴
H・C・ベイリー
(2014/10/20 11:54登録)
(ネタバレなしです) 全部で11作の長編で活躍する弁護士ジョシュア・クランクのシリーズ第7作である1942年発表の作品です。本格派推理小説では真相解明を最後に持ってくるためにどうしても名探偵の意見や説明は後回しになりがちなのですが、それにしても本書のクランクは何をしようとしているのか何を考えているのかが全然わからず、最終章に至っても他人の推理に対して「証拠が明確に語っています」とか「結果はおのずと明らかです」とか言うばかりで自分ではほとんど説明しないのでどうにもすっきりしないまま終わってしまいました。ワトソン役のホプリーは彼なりに頑張っているのに、クランクから「わたしは何もしていない。きみだってそうだ」なんて言われて、そりゃあんまりでしょ。


No.554 6点 ねじれた家
アガサ・クリスティー
(2014/10/20 10:00登録)
(ネタバレなしです) 1949年発表の、シリーズ探偵が登場しない本格派推理小説です。クリスティーのミステリーでは常に会話が重要な役割を果たしていますが特に本書では会話場面の占める割合が非常に高く、行動場面は少なくなっています。そのためか捜査が進展しない前半はサスペンスに乏しいですが、後半の劇的な盛り上げ方は(派手ではないけど)重い余韻を残します。このプロットなら人物描写をもっと深堀りして重厚な心理ドラマ路線を追求することも可能だったでしょうけど、作者としても読みやすさとの両立に苦心したのではないでしょうか。


No.553 6点 黒い蘭―ネロ・ウルフの事件簿
レックス・スタウト
(2014/10/20 09:06登録)
(ネタバレなしです) スタウトのネロ・ウルフシリーズは長編33作が書かれていますが中短編も結構あり、生前に13もの中短編集が出版されています。収められた作品は最少で2作、最多でも4作ですからほとんどが中編かと思われます。1942年発表の第一中編集「黒い蘭」は表題作と「ようこそ、死のパーティーへ」の2作品を収めたのが米国オリジナル版ですが、論創社版は後者を除外して代わりに第4中編集(1950年)から1作、第12中編集(1961年)から1作を選んで独自編集したものです。国内初の単行本化は読者として大いに感謝しますし独自編集を否定するつもりもありませんが、本書のアーチー・グッドウインによる作品紹介を読むと「ようこそ、死のパーティーへ」も黒い蘭絡みの事件のようで、米国オリジナル版をそのまま翻訳してもよかったのではという気もします。とはいえ論創社版に収められた3作品はどれも面白く、特にウルフやアーチーに臆することのない(容疑者でもあるのですが)依頼人が痛快な「ニセモノは殺人のはじまり」は私の1番のお気に入りです。


No.552 6点 かぼちゃケーキを切る前に
リヴィア・J・ウォッシュバーン
(2014/10/17 15:45登録)
(ネタバレなしです) 2007年発表のフィリス・ニューサムシリーズ第2作です。コージー派の本格派推理小説としての読みやすさはもちろんですがアマチュアのフィリスが探偵活動に取り組む流れがスムースで、特に第24章で謎解き議論に加わるところに不自然さを感じさせません。読者が推理するのに手掛かりが十分とは言えませんが、コージー派としてはしっかりした謎解きプロットです。


No.551 6点 死の会議録
パトリシア・モイーズ
(2014/10/17 12:23登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表のヘンリ・ティベットシリーズ第3作です。国際犯罪組織がらみのスリラー小説としての色合いが濃い作品ですが、最終章でのヘンリによる手掛かりに基づく推理の積み重ねはまさしく本格派推理小説ならではのものです。当時としても非常に古典的なトリックが使われているのも却って新鮮な印象を与えます。なお「死人はスキーをしない」(1959年)で容疑者だった人物が再登場(今回は脇役)していますので、未読の方は注意下さい。


No.550 7点 四人の女
パット・マガー
(2014/10/17 11:43登録)
(ネタバレなしです) 誤解を恐れずに書きますがマガーは緻密な謎解きとか読者を欺くテクニックは決して上手くないと思います。ミスディレクションなんか不自然なまでに強引なことがあり、却って真相が見破られやすい時もあります。しかしその弱点を補って余りあるのが、卓越したストーリーテリングと多彩な人物描写です。1950年発表の第5長編の本書は「被害者探し」の本格派推理小説ですが、主要登場人物をわずか5人に絞ったためか人間ドラマとして一段と深彫りされたような感じがします。本書以降のマガー作品は犯人探しになったためか翻訳が止まってしまったようですがこれは非常にもったいないですね。マガーの本質は謎解きの形式とは別の次元だと思うのですが。


No.549 5点 濡れた心
多岐川恭
(2014/10/17 11:22登録)
(ネタバレなしです) 1958年発表の長編第2作で女子高生の同性愛を扱った作品と紹介されており、それだけでも読者を選びそうですね。男の私は気にしませんでしたが仮に男同士の同性愛だったら読むのをためらったと思います(笑)。官能小説風ではありませんが、かといってプラトニック・ラブでもない微妙な描写です。また片方の女性は男からのアプローチに嫌悪感を示しながらもはっきり拒否するわけでもなく、なかなか複雑な人間関係になっています。登場人物の手記(日記やメモ)で構成されたプロットがユニークで、多彩で繊細な心理描写が光ります。ちゃんと動機、機会、手段を推理する本格派推理小説になっていますが、謎解きの興味以上に犯罪が登場人物たちの人生に与えた影響の方が気になります。登場人物の1人がもう未解決でもいいじゃないかというようなことを言っているのも納得できます(もちろん未解決にはならず、ちゃんと真相は明らかになります)。


No.548 6点 下北の殺人者
中町信
(2014/10/17 11:05登録)
(ネタバレなしです) 1989年、出版社勤務と兼業だった作者がついに専業作家となって最初に発表した本格派推理小説です(通算16作目)。講談社文庫版の巻末解説の通り、登場人物は決して多くありませんがこの複雑な真相を読者が解決前に完全に見破るのは不可能ではないでしょうか。二転三転、どんでん返しの連続が半端でなく、まさに論理のアクロバットです。当時の国内は新本格派推理小説の黄金時代を迎えていましたが、トリック重視の作品が多い新進作家とは異なる、プロット勝負の謎解きで個性を発揮しています。


No.547 6点 ルイザの不穏な休暇
アンナ・マクリーン
(2014/10/14 16:46登録)
(ネタバレなしです) 2005年発表のルイザ・メイ・オルコットシリーズ第2作の本格派推理小説で、シリーズ前作よりもルイザの家族描写に力が入っており、「若草物語」の登場人物ローリーのモデルとなる青年を登場させたりとオルコットのファン読者にもアピールしています。有力な手掛かりがやや少ないですが謎解きはしっかりしており、私はミスディレクションに引っかかってしまいました。


No.546 5点 殺人投影図
結城恭介
(2014/10/14 16:36登録)
(ネタバレなしです) 1980年代後半から花のジャンスカ同盟シリーズ(私は未読です)など軽妙な作品を発表していた結城恭介(1964年生まれ)が1994年に発表した雷門京一郎シリーズ 第1作です。生真面目で理系のイメージを与えるようなタイトルですが内容はユーモアに満ちた本格派推理小説で、理系要素はありません。構想に4年もかけたとは思えないほどリラックスした雰囲気が漂っています。粗野な会話が多いのがちょっと気になりますけど、複雑なプロットを軽妙かつ明快な文章でわかりやすく説明しています。ただ雷門の説明で「事実」と「真実」がどう違うのかは私にはわかりませんでした。密室トリックは古典的なトリックが使われています。なおノン・ノベル版の裏表紙粗筋で中盤の展開まで踏み込んで紹介しているのは少々行き過ぎに感じました。そこは読んでのお楽しみでよかったと思います。


No.545 5点 バトラー弁護に立つ
ジョン・ディクスン・カー
(2014/10/14 10:10登録)
(ネタバレなしです) フェル博士シリーズの「疑惑の影」(1949年)で主役級の活躍をした弁護士バトラーを再登場させた1956年発表の本格派推理小説です。本書ではフェル博士は登場せず、バトラーはフェル博士の後ろ盾なしで謎を解きたいとこだわっています。ところがこのバトラーが主役かというとそうではなく、準主役に留まっており(主役はやはり弁護士のヒュー・ブランティス)、しかも法廷場面がないのですからどうしてこのタイトルになったのか不思議です。ハヤカワポケットブック版は手袋を「手套」と表記するほど古い翻訳ですが、それでも巻き込まれ型冒険スリラーとしては文句なく面白かったです(ヒューが結構火に油を注いでいます!)。日本人読者には辛い言語絡みの手掛かりなど謎解きとして粗い面もありますが、どたばた劇の中に忍ばせた伏線はカーならではの巧妙さが光ります。なお作中に「疑惑の影」のネタバレがありますので未読の読者は注意下さい。


No.544 4点 メッキした百合
E・S・ガードナー
(2014/10/13 21:59登録)
(ネタバレなしです) 1956年発表のペリー・メイスンシリーズ第51作です。どうも本書のメイスンは法廷で精彩を欠いているように感じられます。いつもなら自分の流儀を押し通すはずなのに今回は被告人からああしろこうしろと注文つけられているし、反対尋問では検察から「異議あり」を次々に決められています。まあ後者に関してはメイスンも検察の尋問に対して「異議あり」を返していますけど。最後はちゃんとどんでん返しが鮮やかに決まるのですが、メイスンの推理説明が一見論理的でいるようでいてその決め手が「人の性格を正しく判断すること」というのでは説得力のある論理とは思えませんでした。


No.543 3点 大会を知らず
ジル・チャーチル
(2014/10/13 21:32登録)
(ネタバレなしです) 2003年発表のジェーン・ジェフリイシリーズ第14作です。これまでのシリーズ作品中(創元推理部文庫版の巻末解説の表現を借りるなら)最も「地味」ではないでしょうか。小さな犯罪はいくつか起きますが、解くべく謎が何なのかはっきり提示されないまま物語が進行します。一応はジェーンがある秘密を探り出すのに成功していますがそれほど印象に残りませんでした。いつクライマックスが訪れるのかと待ちながら読みましたが、とうとう盛り上がらないまま終わってしまったような読後感です。


No.542 6点 ミンコット荘に死す
レオ・ブルース
(2014/10/07 16:39登録)
(ネタバレなしです) 1956年発表のキャロラス・ディーンシリーズ第3作の本格派推理小説です。私はこの作者はアイデアが優秀でも謎解きプロットが雑になって損しているというイメージを持っているのですが、本書は結構緻密なプロットになっていると思います(とはいえ扶桑社文庫版巻末の訳者付記では謎解き伏線の問題点がいくつか指摘されていますが)。どことなくのどかな雰囲気が漂っていますが真相は結構大胆で衝撃的です。この仕掛けは某海外作家Cの1930年代発表作品や別の海外作家Cの1940年代発表作品に似たような前例があるし、好き嫌いも分かれそうな仕掛けではあるのですが印象的であることは間違いありません。

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