死者の靴 クランク弁護士 |
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作家 | H・C・ベイリー |
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出版日 | 2000年08月 |
平均点 | 5.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | |
(2020/05/12 18:46登録) (ネタバレなし) 英国の田舎の海沿いの街キュルベイ。その近海で、貧民街出身の孤児で居酒屋「三羽の雄鳥亭」の下働きをしていた16歳の少年ガセージの変死死体が見つかる。他殺、事故死、両方の可能性が取りざたされ、疑惑は酒の密輸の嫌疑がある「三羽の雄鳥亭」の主人ボブ・プライオニーにも及んだ。少年が主人の悪事を知って官憲に密告しようとしたため、口封じされたというのだ。だがガセージを可愛がっていた、自分は無実だと主張するプライオニーは、友人である骨董屋アイザック・コウドの助言を受けて、ロンドンの辣腕弁護士ジョシュア・クランクに救いを求めた。クランクのおかげで無罪放免となるプライオニーだがガセージの死の真相はいまだ未明で、キュルベイの町に何か不審なものを感じたクランクは助手の青年弁護士ヴィクター・ポプリーとその愛妻ポリーを静養・休暇の名目で見張り番に残した。やがてヴィクター夫妻が土地の人々と親交を深めていくなか、没落した名門の令嬢キャロライン・ブルーンと根なし草の成り上がり者の青年実業家トム・クラヴェルの身分違いの恋模様が人々を賑わす。だがこれはキュルベイの街で生じる新たな事件の前哨だった。 1942年の英国作品。 いやnukkamさんのレビューがあまりにきびしいので、おそるおそる手に取ったが、個人的にはメチャクチャ面白かった! 先輩と意見を違えて恐縮ですが、これはまあ作品との相性もあるっていうことで(汗)。 大した儲けにも功績にもならないだろうに、未解決の田舎の少年変死事件に執着して、自分の会社の経費で(はっきりは書かれていないけれどそういうことになるんだろう)ヴィクター夫妻をキュルベイに数か月にわたって住まわせるクランク弁護士って何様や、という思いは生じたが、文句をつけるのはそれくらい。 作中ではヴィクター夫妻とさらにもう一組の若いカップル、市議会秘書のアレクサンドラ(アレックス)・リンドと新聞記者のランドルフ・ハウが物語の狂言回しに近い役回りを務めるが、後者の焦れったいラブコメ模様も良い雰囲気で楽しく読めた。 なによりミステリとしては少年ガセージの変死事件以来、およそ一年におよぶ長丁場でストーリーが語られるが、そのなかで大小の事件(一部は事故?)が5~6件。地方都市のなかで何が起きているのか、誰が黒幕もしくは各事件の真犯人なのか? その動機は? という興味でテンションが鎮まる間がない。地方都市を舞台にした一年単位の事件の謎という趣向は、あのクイーンのライツヴィルものでさえそう無かったと思うが(あえて言うならエラリーが出戻りしてくる『十日間の不思議』あたりか)、これはそういった大技っぽい筋立ての構成が見事に功を奏した印象。 まあ終盤、語られ切らない事件の謎の分量に比して「これはいくらなんでも残りのページ数がなあ……」と思っていたら、案の定、いささか破格なクロージングになってしまったけれど、フーダニットの謎解きミステリとしてはまあギリギリ。のちのちの世代の英国パズラー大家の初期作品とかにもこういう作りのものはあったし、個人的にはごくタマになら、こーゆー変化球的な作品もアリでしょう、という感じです(ま、怒る人がいても止めはしないが~笑~)。 少なくとも、作者が事件の流れを最後には一応は(おぼろげな物言いで)説明したことは認められるし。 100%手放しでホメられないけれど、このレベルの長編がいくつかあるっていうんならベイリーの今後の発掘にも期待できるね。 (ちなみに自分は大昔に『フォーチュン氏の事件簿』読んであまりピンとこなかったけれど、本サイトの雪さんのレビューを拝見するとかなり面白そうで、そっちも再読してみたら、また評価が変わるかもしれない。) 論創からも近々、新刊(フォーチュン氏の初めての翻訳長編)がひとつ出るとかいう噂もあるから、楽しみにしていよう。 |
No.1 | 4点 | nukkam | |
(2014/10/20 11:54登録) (ネタバレなしです) 全部で11作の長編で活躍する弁護士ジョシュア・クランクのシリーズ第7作である1942年発表の作品です。本格派推理小説では真相解明を最後に持ってくるためにどうしても名探偵の意見や説明は後回しになりがちなのですが、それにしても本書のクランクは何をしようとしているのか何を考えているのかが全然わからず、最終章に至っても他人の推理に対して「証拠が明確に語っています」とか「結果はおのずと明らかです」とか言うばかりで自分ではほとんど説明しないのでどうにもすっきりしないまま終わってしまいました。ワトソン役のホプリーは彼なりに頑張っているのに、クランクから「わたしは何もしていない。きみだってそうだ」なんて言われて、そりゃあんまりでしょ。 |