home

ミステリの祭典

login
死の会議録
ヘンリ・ティベット

作家 パトリシア・モイーズ
出版日1964年01月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 8点 人並由真
(2020/07/07 04:11登録)
(ネタバレなし)
 ジュネーブで、西洋主要国の警察組織の代表による、国際麻薬犯罪対策会議が開催される。ヘンリ・ティベット警部はスコットランドヤードの代表として会議に列席。愛妻エミーもこの出張に同伴する。ティベットを議長に据えて、イタリア・スペイン・フランス・アメリカ・ドイツ各国の実力派捜査官との会議が進行するが、そのさなか、この会議の参加者のなかに国際麻薬シンジケートに情報を流しているスパイがいるらしい、という知らせが飛び込んでくる。予期せぬ事態に緊張が走るなか、ティベット夫妻とも親しい、会議のとある関係者が殺害された。状況から、被害者はくだんの犯罪組織のスパイに関する情報を何か携えており、それを開陳する前に口封じされた? との見方が強まる。しかもその殺人容疑の疑惑度の高い人物とは、種々の状況から見て他ならぬティベット警部だった! 地元警察から、犯罪組織のスパイかつ殺人者ではないか? との疑念を向けられながら、ティベットは真犯人をあげて身の潔白を晴らそうとするが。

 1962年の英国作品。ヘンリ・ティベット警部シリーズ第三作。

<シリーズ名探偵、当人が殺人事件の被疑者にされて大ピンチ!>という王道パターンは、私立探偵ものや広義のハードボイルド作品(グルーバーのジョニー&サムものとか)なら結構あるはずだが、正統派パズラー系ではこれ、というのが、意外にぱっと思い浮かばない(たぶん、評者がド忘れしてるだけだろうが~汗~)。
 わかりやすいところでは、獄門島で清水さんに怪しまれて留置場に入れられる耕助あたりか(あれは単に不審者として捕まったんだっけ?)。

 ということで、これはガチで、主人公探偵の一大クライシス。
 今回のティベットは、地元スイス警察のコリエ警部(なんとなく、ベルギーで現職警察官だった時期のポアロを想起させるキャラクター)から「つきつめるとあなたしか犯人はいないんです」「とはいえ心情的にはあなたを捕まえたくないので、二日間の猶予のうちに自分で身の潔白を晴らしてください」とかとんでもない物言いをされ、同格の各国の捜査官たち(の一部)からも疑いの目で見られる。ガクガクブルブル(……)。
 いやこちらは、このあともまだまだシリーズが継続することはわかっているし、そういうメタ的な視点からもティベットが犯人ということは120%ありえない(?)と確信しているのだけれど、しかしそんな安心も油断も許さない、という感じで、さらにこともあろうか、クロフツのフレンチ夫妻、シムノンのメグレ夫妻なみのおしどり夫婦だと思っていたティベット夫妻にも思わぬ愛情の亀裂の危機が襲い来る!(この辺の事情はここではナイショだが)

・関係者の証言を信じるかぎり成立してしまう広義の不可能犯罪(殺人ができる機会があったのは主人公探偵のみ!?)
・その状況を起点にスパイと殺人者の二重嫌疑をかけられる主人公探偵
・さらにはそんな主人公探偵夫妻に迫る愛の絆の危機!
 ……と、いやー実に盛りだくさんの趣向の作品で、本当に堪能した。

 薄皮を剥ぐように進行する捜査の流れも、それに連れて様相を変えていく事件の輪郭も、そして終盤のマメに伏線を拾いまくる謎解きもどれも読み応え十分(まあメイントリックだけは、ああ、アレをやっているな、と割と早めに見当がついたけれど)。
 フーダニットとホワイダニットの興味を核に、終盤の事件全体の決着の仕方もサービス満点。
 一部、登場人物の思考で、ここはこうした方が自然だったんじゃないかな、と思える箇所はあるが、まあその辺は例によって「そのキャラがとにもかくにもそうしたのもまちがってない」というロジックで納得はできる。
 
 評者はモイーズは『ア・ラ・モード』『第三の犬』『サイモン』ぐらいしかまだ読んでいないから、あまり大きなことは言えないんだけれど、少なくとも現状では間違いなく、この作品が一番面白かった。
 この作者の未読の作品をこれから少しずつ消化していくのが、とても楽しみである。
(考えてみれば、長編作品を全部、同一のシリーズもののみで一貫させたモイーズって、地味にスゴイ作家かもしれんな。)

No.2 6点 ボナンザ
(2017/02/26 19:02登録)
中々の良作ではなかろうか。ヘンリが犯人と疑われる展開、妻との危機、そして悲しい結末とストーリー自体は申し分ない。
トリック自体はチープだが、それを構成する手がかりの提示等々、本格作家ならではのものである。

No.1 6点 nukkam
(2014/10/17 12:23登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表のヘンリ・ティベットシリーズ第3作です。国際犯罪組織がらみのスリラー小説としての色合いが濃い作品ですが、最終章でのヘンリによる手掛かりに基づく推理の積み重ねはまさしく本格派推理小説ならではのものです。当時としても非常に古典的なトリックが使われているのも却って新鮮な印象を与えます。なお「死人はスキーをしない」(1959年)で容疑者だった人物が再登場(今回は脇役)していますので、未読の方は注意下さい。

3レコード表示中です 書評