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ミステリの祭典

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殺人投影図
雷門京一郎シリーズ

作家 結城恭介
出版日1994年03月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 人並由真
(2020/11/15 04:54登録)
(ネタバレなし)
 1992年6月の吉日。東京ベイエリアのホテルで、大手電子機器会社「三響ダイナシック」の社長令嬢・原田萌子と、同社社員・高城遼の華燭の典が開かれる。そこに萌子の元彼氏の菊地トオルが乱入。菊地は列席者に取り押さえられ、一時的に監視付きの場に拘禁された。だがその菊地は密室的な状況の他殺死体で見つかり、殺人の容疑が萌子にかけられた。萌子の父で「三響」社長の信雄は、名探偵として高名な青年・雷門京一郎に捜査を依頼。しかしその京一郎はひそかに「<依頼人の望む犯人>を<見つけ出す>」ことで知られる人物だった。かねてより京一郎の素性を認めていた信雄は「自分が犯人として暴いてほしい人物」として、ひとりの名をあげる。
 
 結城恭介作品は、大昔に『ガンダム0080・ポケットの中の戦争』の公式ノベライズを読んだきり(当然ながら、知る人ぞ知るその仕上げぶりには、ぶっとんだ)。
 従って作者のミステリ分野の著作も、この雷門京一郎シリーズも初めて手にした。
<依頼人が提供する高額の報酬と引き換えに、お好みの犯人をあつらえる>という京一郎のキャラクター設定は、そのまま文字通りに受け取るのなら、正に悪漢探偵としか言いようがない。
 しかし本作はあくまでフーダニットのパズラーのようであり、さらに本文を読み進んでも、京一郎からはちっとも悪人の香りがしない、そんな気配も感じられない。
 それゆえ、この作品は謎解きミステリとして、あるいはミステリキャラクタードラマとして、どこにどう着地するのだろうかと、相応の求心力で読み手の興味をソソることにはなる。
(名探偵の噂を聞いて取材にやってきた、フリーの美人ライター兼編集者・日野さやかと京一郎とのラブコメ模様も、大筋の物語にフリカケるトッピングみたいな意味で、リーダビリティを促進させる。)

 結果、密室の謎の真相はそんなに大したことはないし、事件の奥に潜む錯綜した人間関係の綾も、ややこしいようでそうでもなく、ややこしくはないようでそうでもない……という印象。すんごい昭和臭の漂う1994年当時の新刊ミステリであった。
(なんというか、キャラクターの意外な配置がまず作者の頭にあること自体は、もちろん結構なのだが、それぞれの関係性の成立、あるいは暴かれるなりゆきが、かなり強引なものが多い感じで……。)

 しかしこの時代って、主人公のプロ探偵が携帯やポケベルが苦手、電子メールのことさえ知らないといってもまだ許されたのね(笑)。このあとの数年間で、いっきに世の中の電子化は進んだのだろうけれど。

 作者がブラック・ジャック(医者の方)のイメージを投影したとかいう主人公・京一郎、そしてその周辺のキャラ連中は、それなりに親しめる感じであった。ただし肝心の「お好みの犯人をあつらえる名探偵」という文芸は、この一作を読むかぎり、ちっとも効果的ではないねえ。

 とりあえずシリーズの二冊目もすでに購入してあるので、そのうち読むでしょう。

No.1 5点 nukkam
(2014/10/14 16:36登録)
(ネタバレなしです) 1980年代後半から花のジャンスカ同盟シリーズ(私は未読です)など軽妙な作品を発表していた結城恭介(1964年生まれ)が1994年に発表した雷門京一郎シリーズ 第1作です。生真面目で理系のイメージを与えるようなタイトルですが内容はユーモアに満ちた本格派推理小説で、理系要素はありません。構想に4年もかけたとは思えないほどリラックスした雰囲気が漂っています。粗野な会話が多いのがちょっと気になりますけど、複雑なプロットを軽妙かつ明快な文章でわかりやすく説明しています。ただ雷門の説明で「事実」と「真実」がどう違うのかは私にはわかりませんでした。密室トリックは古典的なトリックが使われています。なおノン・ノベル版の裏表紙粗筋で中盤の展開まで踏み込んで紹介しているのは少々行き過ぎに感じました。そこは読んでのお楽しみでよかったと思います。

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