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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1535件

プロフィール| 書評

No.1395 5点 自殺の丘
ジェイムズ・エルロイ
(2022/10/06 21:23登録)
ロイド・ホプキンズ刑事シリーズの第3作です。ホプキンズに対する精神分析結果所見から始まりますが、精神科医は、ホプキンズは早期退職すべきだとの診断を下しています。第2作『ホプキンズの夜』は未読ですし、第1作『血まみれの月』もあまり覚えていないので、ロス市警察内部の人事関係やホプキンズの立場など、よくわからないところもあり、読み進んでいくのに苦労しました。なお本作は、犯人グループとホプキンズの視点を切り替えていく構成になっています。
それにしても本作、よくもこんな情緒的に不安定な登場人物ばかり集めたものだと思わせられました。感情・欲望をコントロールできないのは、ホプキンズと強盗主犯ライスだけではありません。特にガファニー監査内務課警部の行動と最後の「対決」部分など、ほとんど理解不可能で、ホプキンズより前に精神科医にかかる必要があったのではと思えました。


No.1394 5点 The Private Practice of Michael Shayne
ブレット・ハリデイ
(2022/10/01 10:17登録)
このマイケル・シェーン・シリーズ第2作は、2022年現在邦訳がありません。今回の事件は、友人のキンケイド弁護士からの依頼で、富豪が脅迫されているので、対処してもらいたいというものですが、シェーンは弁護士が仲介しているとこの手の事件は問題があるということで、依頼を断ります。しかし夜、キンケイドが面倒に巻き込まれているので、浜辺まで来いという電話がかかってきます。
この事件と、前作『死の配当』の依頼人であったフィリスとシェーンとの関係を絡み合わせた展開で、途中、ほとんどどたばたコメディー的なところもあります。そのコメディー的シーンで、シェーンはフィリスにプロポーズすることになり、最終章は事件解決後、レストランでの二人の仲睦まじい会話です。
ただし、殺人事件の真相の方はどうということもないもので、犯人を罠にかけるシェーンの策略も、ちょっと無茶すぎと思えました。


No.1393 5点 尾瀬殺人湿原
梓林太郎
(2022/09/27 23:28登録)
これまでに読んだ梓林太郎4冊の中では、最もオーソドックスな警察による捜査型謎解きミステリでした。
犯人の名前が出て来るのは半ばを過ぎてからですが、その人物にたどり着くまでが、なかなかおもしろくできています。荒竹刑事の殉職した同僚の弟からの相談で、彼の恋人が尾瀬で失踪したというのが発端ですが、その恋人とさらにもう一人女の死体が発見されます。この死体の状況が、チェスタトンの『秘密の庭』をも思わせるもので、どんな理由があったのかと期待させます。しかしその部分はどうということもありませんでした。まあ現実主義的立場からすれば、そのような発想になってもおかしくない状況ではあるのですが、もう一人の女の登場は作者が事件を派手にしてやろうと考えたからに過ぎないと言われても仕方ないでしょう。
山岳ミステリの作者らしいシンプルなアリバイトリックは悪くありません。


No.1392 6点 論理は右手に
フレッド・ヴァルガス
(2022/09/24 09:52登録)
nukkamさんのおっしゃるとおり、第3章まで(というより、犯人の独白である第2章以外の2章)はとっつきにくいです。事件の発端になる骨の件を除くと、ほとんど何が何だか。その第3章に、訳者あとがきにも解説されている、邦題の元になった「支配と方法と論理は右手に存在する。」という文も出てきます。右手のほうに少し進みすぎると「冷酷な愚か者」になってしまうという警告です。
この警告を発するのが、本作の主役、元内務省調査員ルイ・ケルヴェレール。ペットのヒキガエルをいつもポケットに入れて持ち歩いている(そんなことして死なないか?)変わり者です。三聖人のうちマルコは最初から彼を手助けしますし、マタイも途中から加わりますが、これじゃ二聖人です。
アリバイトリックなどフェアプレイが守られているとは言えませんが、それでもエキセントリックなパズラーとしか言いようがない作品です。


No.1391 6点 落ちる男
マーク・サドラー
(2022/09/21 21:07登録)
片腕探偵ダン・フォーチュン・シリーズのマイクル・コリンズが別名義で発表した作品です。本作の探偵ポール・ショウものは6冊あり、そのうち3冊が翻訳されているようです。ショウは平均的なハードボイルドの私立探偵らしいキャラクターで、首を締められたり、縛り付けられたりといった危機に見舞われもしますが、結婚していて、しかも奥さんは成功した舞台女優(結婚当時は駆け出しだったのですが)だというのが珍しいところです。ただ、本作ではその設定がそれほど活かされているとは思えませんでした。仕事で奥さんの舞台を見に行けないとか、最後の部分でちょっと気まずい思いをするとか、まあなくてもかまわないような気がします。
ショウが事務室に忍び込んだ銃を持つ男を、窓から突き落とすところから始まる事件そのものは、特に「なぜ」の部分が謎めいていて、結末の意外性もかなりのものです。


No.1390 6点 空蝉処女
横溝正史
(2022/09/15 20:23登録)
表題作等9編の短編を収めています。
最初の表題作と次の『玩具店の殺人』は戦後間もなくの作品ですが、表題作は1980年台になって原稿が発見された、それまで未発表だった作品です。耽美的な冒頭に人情的なオチをつけた雰囲気のいい作品で、巻末解説で中島河太郎は『鬼火』『かいやぐら物語』と比較しています。『玩具店の殺人』は殺人が起こるまでのユーモラスなところの方が楽しめます。
その後、宇津木俊助が登場する『菊花殺人事件』、由利・三津木の『三行広告事件』は戦時中の作品で、時局に合わせたスパイものです。『三行広告』の方がよくできています。
残り5編は『鬼火』などより前に発表された作品ばかりで、ほとんどは軽妙さが売り物という感じです。『帰れるお類』はミステリとは言いがたい作品。『路傍の人』はシリーズもの第1作めいた文で締めくくっていますが、続編はあるのでしょうか。


No.1389 6点 ロンリー・ハートの女
リザ・コディ
(2022/09/12 23:28登録)
興信所で働くアンナ・リーのシリーズ第5作です。と言ってもこのシリーズで邦訳があるのは他に第1、4作のみで、さらに読んだのとなると第1作『見習い女探偵』だけです。
デビューから6年も経って、アンナも探偵として経験豊富になってきたことが明らかな活躍ぶりです。今回請け負うのは、女性ロック歌手の警護。大きな警備会社からの依頼で、歌手の希望で女性の警備員が必要になり、彼女にお鉢が回ってきたのです。7割ぐらいまでは他社の連中の下での仕事なので、アンナには孤立感があり、さらに麻薬も日常的な芸能界底辺が描かれていて、それだけハードボイルドっぽい感じもします。
訳者あとがきでは、人生にはあいまいさがあるから、アンナの物語も「意図的にあいまいな部分を残したまま終わる」と書かれていますが、はっきりさせるべき点なのに決着をつけていないところもあります。でも、全体的には楽しめました。


No.1388 6点 内なる敵
マイクル・Z・リューイン
(2022/09/09 23:41登録)
アルバート・サムスンのシリーズ第3作は、事件としては非常に地味なものです。日常の謎とまで言うには、日常的に起こっては困る出来事ではあるのですが、死体が発見されてとか大金や宝石が消えてなどというタイプではありません。それでも最後には一人死ぬことになるのですが、その原因は明確にしていません。
今回の依頼は、ある人物に言付をしてもらいたいというものです。それがどんな意味を持っているのか等の説明はなんだか怪しいという状況。。で、サムスンがその相手に会ってみると、シカゴから来た同業者だとわかり、さらに彼から裏事情もある程度聞かされます。この男がなかなかいい奴で、しかもサムスンよりハードボイルドっぽく、もう少し彼にも活躍してもらいたかった気もします。一方本作のサムスンは悪戯をしたりいらついてバタバタしたり、なんだか子供っぽい感じがしました。


No.1387 5点 紫の恐怖
高木彬光
(2022/09/04 09:16登録)
収録された神頭恭介もの6編、ページ数を比較すると長い順番に並んでいます。
最初が、神津恭介一高時代に起こった事件の中編『輓歌』です。プロローグとエピローグは彼の理学博士称号祝賀会になっていますが、この構成にはなるほどと思わせられました。中間部分はたいしたことはないのですが。
『死せる者よみがえれ』のプロットは後に登場人物設定を変えて別の探偵役で長編化していますが、この短編の方は最初から秘密を明かしてしまっている上、表現が大げさすぎて、緻密に構成された長編版と比較するとがっかりです。『盲目の奇蹟』はタイトルがねえ。しかし放火事件のトリックはなかなかのもの。『蛇の環』は、似たアイディアを使った別の作家のかなり後の長編を2編思い出しました。『嘘つき娘』はごちゃごちゃした印象だけ。最後の『紫の恐怖』は集中最も古い作品で、おもしろい殺人方法が使われています。


No.1386 5点 負け犬のブルース
ポーラ・ゴズリング
(2022/08/31 20:03登録)
ハヤカワ・ミステリ文庫の帯キャッチ・フレーズは「ロンドン。裏町。ジャズの旋律。そして、強烈なサスペンス」となっていますが、ロンドンはともかく、という感じがする作品でした。主人公のジョニーは元クラシックのピアニストで、ジャズを演奏していますが、決して落ちぶれた「負け犬」ではなく、CM音楽を作曲したり、クラシックの伴奏もするなど、優れたミュージシャンであることは知られた存在です。作中で言及される実在の音楽家も、ジャズよりクラシックの著名な演奏家の方が多いのです。
そんな音楽談義もなかなかいいですし、本筋の殺人事件の方も、最後近くまでは楽しめます―サスペンスは「強烈」とまでは言えませんが。しかし、最後の方、ジョニーの努力は結局何だったんだ、単なるお騒がせ男かと思えるところがあって、そこは不満でした。意外な結末のつけ方も、唐突すぎる感じがします。


No.1385 6点 Le cri du sang
フォルチュネ・デュ・ボアゴベ
(2022/08/28 13:34登録)
ボアゴベは黒岩涙香等による翻案の後、戦後はほとんど無視され、忠実な翻訳はごくわずかです。確かに感覚的(特に道徳性)は時代を感じさせるものの、たぶん翻訳(案)されたことのない本作は、おもしろくできています。タイトルの意味は「血の叫び」。「血」とは血液ではなく血縁、血脈を意味しているようです。
パリの西方郊外にあるシャトゥーの線路沿いで、伯爵夫人が走っている汽車の窓から銃で撃ち殺される事件が起こります。数日経って、汽車乗務員が座席の陰から拳銃を発見したと警察に届け出てきて、その拳銃の持主、伯爵の娘の婚約者が逮捕されます。しかし彼の無実を信じる伯爵家の友人ロラン少佐は、伯爵の持家を買い取ろうとしている別の男に疑いの目を向けます。
後半完全に犯人の目星がついてから、少佐と伯爵家の家庭教師エレーヌの視点をカットバックさせて意外性を出していく構成はなかなかのものです。


No.1384 6点 転生の魔
笠井潔
(2022/08/22 23:20登録)
私立探偵飛鳥井のシリーズ、2017年出版の本作では飛鳥井も年齢が60歳後半になっています。長編としてはこれが2冊目ということですが、中短編に比べると、かなり注釈的な文章が多いと思いました。
その注釈的文章で、飛鳥井が依頼された人探しの元になった事件の起こった1972年の大学の状況が綴られていきます。探すべき人は、現代のネット動画に映っていた女で、依頼人が1972年当時知っていたジンと呼ばれる女と年頃からほくろまでそっくりだというのです。その女を見つけるのが無理なら、ジンを知っているはずの男。ジンは何度も転生を繰り返してきたと言う上、密室状態の大学のサークル棟から消えたというのですから、現象的にはほとんどカー(特に『火刑法廷』)です。ただホラー的な感じは全くしません。真相には、カーのような鮮やかさはありませんが、そもそもジャンルが違いますから、まあいいでしょう。


No.1383 7点 水の墓碑銘
パトリシア・ハイスミス
(2022/08/19 23:46登録)
浮気症(この字を当てた方がいいような)の妻に悩まされる男ヴィクの視点から描かれた小説です。ヴィクの気持ちはわかる(たぶん)のですが、特に後半、妻メリンダが何を考えているのか、理解しがたいところがありました。まあ途中に、ヴィクはメリンダを理解できないというのに対して、逆に彼女は、ヴィクのことを良く知っていると応酬するシーンもありますし、そこが本作の狙いとも言えるのでしょうか。でも、恋人の一人を夫が殺したのだと信じ(事実でもありますが)、騒ぎ立てたというのに、誰にも相手にされなかったその後の行動には納得しがたいものがあります、クライマックス部分でのヴィクのミスは、ちょっと軽率すぎると思えますが、最後部分での彼の心理は、さすがハイスミス。
原題は “Deep Water”、ヴィクによる二度の妻の恋人殺しは、どちらも水に関係しているのですが、それだけでない深い意味もありそうに思えます。


No.1382 5点 おれに恋した女スパイ
ロス・H・スペンサー
(2022/08/16 18:04登録)
この作家は初めて読んだのですが、シリーズ第1作邦題が『されば愛しきコールガールよ』ということでいかにもハードボイルドのパロディだったのに対して、本作邦題は明らかにフレミングの真似です。どちらも原題は全く違い、本作は “The Reggis Arms Caper”、少なくとも第5作までは最後の単語は “Caper”(「はね回り」ということでいいんでしょうね)です。
読み始めて、文そのものもやたら短いのですが、原則的に1文1段落であること、さらにセリフが「」でくくられていないことに、何だこれと思ったのでした。無論そんな文体ですから読みやすいことは確かです。気になって後から原文をKindleの試し読みでちょっと確認してみたところ、忠実な翻訳でした。
本作は邦題からも予想がつくように、ハードボイルドよりスパイ小説系と言った方がよさそうです。まあごく気楽に読めるということでは、悪くありません。


No.1381 7点 饗宴 ソクラテス最後の事件
柳広司
(2022/08/10 20:46登録)
ソクラテス「最後の」事件というのは、ちょっと違うのではないかと思えますが。
プラトンの『饗宴』を元にしている作品です。ソクラテスやアリストパネスといった有名どころ以外の登場人物、アガトン、パウサニアス、エリュクシマコスも、原典に登場しています。そういった実在の歴史的人物たちが事件の関係者になり、殺されたりもするのですから、歴史考証的な正確さなどは期待してはいけないタイプの作品です。原典はアリストデモスの視点から書かれていますが、本作にはアリストデモスは登場せず、代わりにソクラテスの友人だったクリトンがワトソン役になっています。
ピュタゴラス教団を本作では悪魔的な宗教結社と捉えていて、特にクリトンの意識ではそうなのですが、そもそも古代ギリシャの宗教において、悪魔の概念があったのか非常に疑問でもあります。
しかしミステリとしては、時代物だからこそのおもしろさは充分ありました。


No.1380 6点 シルヴァー・リングを残した女
リンダ・バーンズ
(2022/08/06 08:25登録)
赤毛のカーロッタ・シリーズ第3作は、中南米からの不法移民がテーマになっています。シンプルな原題 “Coyote”とは、不法移民を安い労働力を求める企業に斡旋する人間のことです。
それに、〈ビッグ・シスターズ協会〉で紹介されてカーロッタの「妹」になった10歳のパオリーナが、今回は重要な役割を担うことになります。パオリーナ自身南米系なわけで、彼女の抱える母親にさえ言えないと思い込んでいるある秘密が、事件の最終段階に関わってきます。
カーロッタを最初に訪ねてきた「マヌエーラ・エステファン」が、グリーン・カードを取り返してもらいたいと依頼しておきながら、依頼料?の500ドルを残したまま姿を消した理由は、結局はっきりしません。また、正体がばれたコヨーテが、証人さえいなければ裁判を切り抜けられる、いや、裁判にさえならないなんて考えるのはまともじゃないと思えましたが。


No.1379 6点 八一三号車室にて
アーサー・ポージス
(2022/08/03 20:36登録)
第一部ミステリ編、第二部パズラー編、それぞれ13編ずつ収められています。
表題作は第二部の最初に置かれていますが、このタイトル、しかも作者はステイトリー・ホームズのシリーズ等パロディ、パスティーシュを得意とする人であってみれば、オチは当然予測が付きます。全体的に見てちょっと残念なのが、パロディ系がこの1作だけということでしょうか。もう1編、『誕生日の殺人』もそう言えないことはないのでしょうが、むしろ意外性演出のための引用といった感じで、ミッシング・リンクのとんでもなさが印象的です。第二部は、『誕生日の殺人』以外、すべて不可能興味のハウダニットです。
第一部はサスペンスに分類されるものが多いですが、ハウダニット要素のない倒叙もの(犯行の証拠探しタイプ)もありますし、最後の方にはSF2編、ホラー2編も含まれています。


No.1378 7点 さよならの手口
若竹七海
(2022/07/31 14:46登録)
13年ぶりの葉村晶シリーズということで、その間に日本でも探偵業法(「探偵業の業務の適正化に関する法律」2007)なんてのが制定されていたんですね。知りませんでした。ミステリ専門店でのバイト中、押し入れの床が抜けて骸骨に頭をぶつけるなんて、運が悪いんだかいいんだかよくわからない葉村晶ですが、それで入院中、調査依頼を受けて、彼女は探偵業者として届出をしていないから、受けられないと一旦は断ります。
往年のスター女優から、20年前行方不明になった娘を探してほしいというのが依頼で、これがメインの事件になります。それに警察からある人物の監視を強要される別口事件が組み合わさってきます。警察がそんな無茶をするとは思えませんが、話としては楽しめます。
最後の1文、「…さよならを言う方法を発明してたんですよ。」については、日本より厳しい私立探偵免許制のアメリカでも、マーロウはその方法は見つかっていないって言ってるんですけど。


No.1377 5点 殺意の運河サンマルタン
レオ・マレ
(2022/07/27 23:52登録)
レオ・マレは私立探偵ネストール・ビュルマのシリーズを30冊ほど発表していますが、そのうち1954年から59年にかけての長編15作は、「新編パリの秘密」(中公文庫では「パリ・ミステリーガイド」)のサブタイトルをつけて、パリの各区(全区ではありませんが)を紹介する形をとっています。本作はその6冊目で、舞台は10区です。ちなみに元の「パリの秘密」はウジェーヌ・シューが1840年台に発表した大作で、デュマやユーゴーにも影響を与えたとか。
ビュルマの秘書エレーヌに、亡き父親の知り合いの老優が金を借りに来たものの、待ち合わせ場所に姿を見せなかったというところから始まる話で、そのせいでしょうか、途中にエレーヌの一人称形式で書かれた章が2つあります。その後ビュルマが依頼を受ける芸能界絡みの事件は、最初どうということもなさそうなのが殺人にまで発展していきます。偶然が過ぎるところはありますが、ラストは無難にまとめていました。


No.1376 5点 寂しい夜の出来事
ミッキー・スピレイン
(2022/07/24 23:56登録)
スピレインの共産主義嫌いが露骨に表明された作品で、マイク・ハマーは「奴らにくらべたら、ナチだって鼻たれ小僧みたいなもんだ。」とさえ考えています。そういった彼の思想が存分に地の文で書かれた作品です。
一方では、冒頭の霧の夜ハマーが橋の上にたたずむことになる理由は、判事から、人を殺すのを楽しんでいるおまえは平和な社会の中では存在理由が見つからないなどとののしられて、落ち込んだためで、自己否定的な気分も、かなりしつこく描かれます。判事の夢を見たことまで書かれているほどですが、やはり俺は暴力的方法で事件を解決するんだということにならなければ、スピレインになりません。そんな憎しみと暴力性に対するねじれた感情が延々書き連ねられているという点では、ハードボイルドらしくありません。
プロットは、最後の意外性部分で話をごちゃつかせてしまったように思います。

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