さよならの手口 葉村晶シリーズ |
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作家 | 若竹七海 |
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出版日 | 2014年11月 |
平均点 | 6.29点 |
書評数 | 7人 |
No.7 | 7点 | 猫サーカス | |
(2023/03/20 19:09登録) 物語は、女性探偵葉村晶が、元女優に頼まれて二十年前に失踪した娘の行方を追ううちに、関係者が次々と闇に消えていることに気づく内容である。巧緻なプロットが素晴らしい。冒頭の白骨死体発見からラストの別の事件の解決まで、メインとなる女優の娘の失踪事件にいくつもの小事件を絡ませて飽きさせない。複数の事件が多発的に起きて、私生活も賑やかになりやがて暗転する。何よりも魅力的なのは探偵像だ。四十過ぎて人生に迷っている葉村は、様々な人々を訪ね歩き、人生の辛苦を垣間見、皮肉を言い、権力者の脅しにあいながらも事件追求を止めない。人生を熟達している良き観察者であり、同時に臆せずひるまず敵に向かう行動者でもある。葉村がバイトする古書店でのミステリに関する蘊蓄も愉しく、ミステリファンにはたまらない。多くの人が共感できる等身大のヒロインであり、満足できる小説だろう。 |
No.6 | 7点 | 空 | |
(2022/07/31 14:46登録) 13年ぶりの葉村晶シリーズということで、その間に日本でも探偵業法(「探偵業の業務の適正化に関する法律」2007)なんてのが制定されていたんですね。知りませんでした。ミステリ専門店でのバイト中、押し入れの床が抜けて骸骨に頭をぶつけるなんて、運が悪いんだかいいんだかよくわからない葉村晶ですが、それで入院中、調査依頼を受けて、彼女は探偵業者として届出をしていないから、受けられないと一旦は断ります。 往年のスター女優から、20年前行方不明になった娘を探してほしいというのが依頼で、これがメインの事件になります。それに警察からある人物の監視を強要される別口事件が組み合わさってきます。警察がそんな無茶をするとは思えませんが、話としては楽しめます。 最後の1文、「…さよならを言う方法を発明してたんですよ。」については、日本より厳しい私立探偵免許制のアメリカでも、マーロウはその方法は見つかっていないって言ってるんですけど。 |
No.5 | 6点 | まさむね | |
(2020/09/12 21:40登録) 葉村晶シリーズの長編。前作「悪いうさぎ」から13年ぶりで、彼女も40代という設定。何か親近感が湧きます。 ミステリ専門古書店でのバイト生活の中、白骨死体を発見。そして負傷のため入院。退院後に探偵稼業を復活することに。探偵小説の定番である「失踪人捜し」がメインの流れとはいえ、これと並走するストーリーや謎も次々に絡んで、なかなかに贅沢。結果的には、暗澹とした内容なのですが、軽快かつユーモラスな葉村の語り口もあって、グイグイ引っ張られましたね。葉村は今回もたくさん怪我をして、可哀想だけど。 |
No.4 | 7点 | E-BANKER | |
(2018/07/13 22:16登録) 前作「悪いうさぎ」以来、十三年振りに“葉村晶”シリーズ新作として発表された本作。 作者あとがきでは、出版社や読者からせっつかれたけどどうしても書けなくて・・・というような嘆きの台詞が書かれてたりします。 2014年に文庫書き下ろしとして発表。 ~探偵を休業し、ミステリー専門書店でバイト中の葉村晶は、古本引取りの際に白骨死体を発見して負傷。入院した病院で同室の元大女優・芦原吹雪から、二十年前に家出した娘の安否についての調査を依頼される。だが、かつて娘の行方を捜した探偵は失踪していた・・・。有能だが不運な女探偵・葉村晶が帰ってきた!~ やっぱいいわ! 葉村晶シリーズは。 前にも書いた気がするけど、作者の筆が乗っている様子が窺えてきて、読んでいる方もグイグイ頁をめくってしまう。 (本当は艱難辛苦しながら書いてるんだろうけど・・・) 晶をはじめ、シリーズキャラクターもそれぞれの役割(?)を全うして、とにかく作中で生き生きと活躍してくれてる。 そんな感覚なのだ。 で、本筋はというと・・・ メインテーマは「失踪人捜し」という、私立探偵小説の定番中の定番。(確かにロス・マク風プロット) 失踪人を捜している途中にも、彼女を困らせる数々の困難やら脇筋やらが待ち受けていて、特に今回は不運と不幸の連続。何回怪我するんだ?と心配になるほどの障壁が立ち塞がる。 「家族の悲劇」という、これまたロス・マク作品定番の背景が明らかになる終盤。 大方の謎にも道筋が付いたかと思いきや・・・ここから更なる闇と困難と怪我(!)が彼女に襲いかかる・・・ そして、ラストは怒涛の展開。ばら撒いてきたあらゆる謎や伏線をバッタバッタと回収していく! 前作ではまだ三十代前半の若さだった彼女も、はや四十路の独身女性。(十三年経ってるんだから・・・) 体力も気力も低下するなか、それでも地に足付けて踏ん張ってる姿は、性別の枠を超えてシンパシーを感じてしまう。 年代の進行とともに作中の登場人物も年齢を重ねていく本シリーズ。 平成の世も終りを告げようとするなか、次は何歳の彼女と会えるのだろうか? とにかく、今後も大切に続けてくださいと切に願う。 (巻末の「富山店長のミステリ紹介」も実に楽しい・・・) |
No.3 | 6点 | makomako | |
(2016/12/30 14:03登録) なかなかの力作だと思います。いろんなアイデアを盛り込んでのハードボイルドであり推理小説でもあり。これを書くのは大変だったのでは。 女性でなければ絶対書けない女たちの描写がまた興味深い。男にとっては女は永遠の謎があるのですが、女同士だと謎でも何でもない。結構素敵な葉村晶やその周囲の女性たちなのですが、女から見ると男に全然もてる要素がないように描かれてしまっている。女は女に厳しいねえ。 そういった内容ならもっと評価が上がってもよいのですが、いろいろなアイデアむしろがごちゃごちゃした感じになってしまっているからではないでしょうか。 作るのに大変な作品が必ず素晴らしいというわけにいかない。良い要素が詰まっているのにちょっと残念です。 |
No.2 | 5点 | 蟷螂の斧 | |
(2016/09/11 22:38登録) ハードボイルド風の展開が、あまり肌には合いませんでした。本題とは関係ありませんが、主人公のバイト先がミステリ専門書店であるところより、巻末に「おまけ」として店長のミステリ紹介が載っています。「オリエントの塔」(水上勉氏)「赤い殺意」(藤原審爾氏)「キルトとお茶と殺人と」(サンドラ・ダラス氏)は読んでみたいと思います。 |
No.1 | 6点 | kanamori | |
(2015/01/08 18:52登録) 古本の引取り作業中の事故で入院した「わたし」は、病院で同部屋になった末期癌の元女優から、20年前に行方不明になった一人娘を探してほしいと依頼される。しかし調査を進めるうちに、当時雇われた私立探偵をはじめ元女優の身辺の人々が次々と失踪しており、殺人事件までが関係していることが分かってくる----------。 「悪いうさぎ」以来、13年ぶりの私立探偵・葉村晶シリーズの長編。ですが、契約先の探偵事務所が廃業したため、葉村はミステリー専門古書店のアルバイト店員という中年おばさんになっていましたw 私立探偵に復帰した葉村が多くの関係者のもとを訪ね歩き、満身創痍になりながら徐々に過去の事件の輪郭が浮き彫りになっていくストーリーなので、ジャンル投票は一応ハードボイルドにしましたが、「わたし」の語りはハードボイルドぽくなく、あくまでも若竹テイスト。自虐的で時にはユーモアもある語りは読み心地がよく、古いミステリ小説の話題が随所に出てくるところはコージー風でもあります。ただ真相はかなり暗鬱なものでしたが。 なお、私立探偵の失踪人探しをきっかけに大金持ちの家庭の秘密が明らかになる...というプロット自体はロス・マク直系ですが、タイトルはチャンドラー「長いお別れ」の有名なラストの一文からの引用。さて葉村は、"警官にさよならをいう方法"を見つけたのでしょうか------それは読んでのお楽しみ。 |