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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1405 6点 探偵三影潤全集2 青の巻
仁木悦子
(2022/12/17 20:31登録)
相棒の桐崎(きりざき)秀哉と探偵社をやっている三影潤の一人称形式シリーズ7編が収められています。
最初の『沈丁花の家』は本書中唯一桐崎が出て来ない作品。依頼人が家族にも隠していた秘密が意外で、しかも伏線がたっぷりあります。ただ犯人の動機がちょっと取って付けたような感じがしました。長めの『青い風景画』は、大胆すぎるトリックが使われていて、その現実性も気になったのですが、それよりダイイング・メッセージがわざとらしく、省いた方が良かったように思えました。やはり長めの『夏の終る日』は、2か月ほど前浮気調査を依頼されたことのある女から、すぐ家に来てほしいという電話がかかってくるところから始まります。これにもあまりに不自然なメッセージが(明らかに犯人の細工です)からんでくるところが不満でした。他の4編も手放しで誉めるほどではありませんが、それぞれ見どころはあります。


No.1404 5点 殺人アイス・リンク
ウィリアム・L・デアンドリア
(2022/12/13 22:48登録)
〈ネットワーク〉テレビ局の特別企画部(トラブル処理)担当副社長マット・コブのシリーズ第4作。
最初のページ、殺された精神科医の死体がアイス・リンクの上に転がっているのを「私」ことマットが見つけたところから、話は始まります。この被害者が残したダイイング・メッセージについては、早い段階でマットが刑事に「エラリイ・クイーンを読んだことはないのか?」と聞いていて、何回か議論され、最後にその意味が分かったところで殺人犯も判明することになります。巻末解説では、「日本人には馴染みのない」「淡白にすぎる」と貶していますが、それだけの作品でもありませんし、そんなに悪くないと思います。ただ、リンクの上をかなりの距離這って行ったのはさすがに無理で、旗が手近にあった設定にした方がよかったとは思いますが。
それより、第2、第3の殺人の動機が無茶なのが気になりました。


No.1403 6点 歪んだ旋律
アーサー・ライアンズ
(2022/12/07 21:18登録)
ジェイコブ・アッシュのシリーズ第8作だそうで。ちなみに全部でおそらく11冊のうち邦訳があるのは他に第5、6、9の3作。原題の “Three with a Bullet” とは音楽業界の用語で、p.13に「〝ブリット〟というのは、歌がチャートを急上昇中なのを示す赤丸のことだ」と説明されています。チャート第3位ということです。
プロモーターからの依頼を受けたアッシュですが、パーティーで依頼内容を聞いた直後コカインがヘロインにすり替えられて病人が出る事件が起こり、調査を進めていくと、さらに殺人だか自殺だかわからないような事件が続きます。全体的には真犯人の正体など意外性がなくはないのですが、あまり効果的に感じられませんでした。むしろ、アッシュとつきあっている女優だとか、ぐちゃぐちゃなパンクのライブや、その女性ヴォーカルの意外な素顔など、事件に直接関係ないことが印象に残ります。


No.1402 5点 詐欺師は天使の顔をして
斜線堂有紀
(2022/12/03 18:24登録)
異世界を舞台にしたミステリ。カリスマ性のある「霊能力者」子規冴昼(しきさえひる)が、誰でも念力を使えたり(『第一話 超能力者の街』)、死んだらすぐに幽霊として戻って来る(『第二話 死者が蘇る街』)世界にとばされ、彼を追いかけて行ったマネージャーであり超能力ショーの脚本家でもある呉塚要がその世界で起こった殺人事件を解決するという作品です。タイトルの詐欺師とは子規のこと。
第一話は犯人がなぜエレベーターを使わなかったのかとか、階段を上り下りした痕跡が本物なのかどうかが明確になっていないため、釈然としませんでした。第二話は動機はすぐ見当がついたものの、もう一つの事件と組み合わせて複雑化しています。エピローグの異世界は、人間の設定関係ではなくなってしまっていました。
「単なる手品」という言葉が繰り返されたり、超能力ショーで鮮やかな視覚的手品をやったりしているところは、気になりました。


No.1401 7点 ランナウェイ
ハーラン・コーベン
(2022/11/29 21:48登録)
1995年からスポーツ・エイジェントのマイロン・ボライターを主役としたミステリを発表して評判になった作者の、2019年発表シリーズ外作品です。文庫本で600ページを超える大作ですが、人間関係の説明なども明確に書かれ、読みやすくできています。
カバー解説では「著者のフェアな目線」と書かれていますが、これについて巻末解説では「これは最先端の物語だ」という見解の下、現代の情報社会に対するコーベンの眼差しは「限りなく″公正(フェア)だ」〟と説明されています。コーベンを読んだのは初めてなので、他の作品についてはわかりませんが、本作はむしろネット世界の一部である遺伝子情報サイトからの知識で何が起こり得るかという点を基にして構成された作品という気がしました。
2人の殺し屋とその依頼人が最後あまりに間抜けな情報不足をさらけ出すなど、ご都合主義も見受けられますが、充分楽しめる内容になっています。


No.1400 8点 密造人の娘
マーガレット・マロン
(2022/11/25 00:01登録)
エドガー賞等アメリカのミステリ関係4賞を受賞したというのも納得のいく、コクのある作品です。作者のじっくり型の文章とプロットのテーマ性との調和がうまくいったということでしょう。意外性はないと言う人も多いようですが、個人的にはその点全く期待していなかっただけに、真相の明かし方には少々驚かされました。シンプルなミステリとしておさまりのいい結末にしてあると思います。「私」こと密造人(酒のということですから古い話です)の娘でもある弁護士のデボラ・ノットが判事に立候補する件が、メインになる殺人事件とは無関係なのですが、事件関係者の一人の思惑とも絡んできたり、投票結果にも反映するなど、小説としてまとまっています。
ただし、最初のうちはかなり読みづらさを感じました。登場人物表(それだけでも25人も挙げられていますが)に載っていない登場人物が多すぎて、誰が誰だかわからなくなるのです。


No.1399 5点 狂い咲く薔薇を君に 牧場智久の雑役
竹本健治
(2022/11/11 23:23登録)
竹本健治を読むのはこれが初めて。2006年に出版された中編3編を収録したものです。探偵役の牧場智久は、1980年の『囲碁殺人事件』当時Tetchyさんの書評を拝見すると12歳だったそうですが、そうすると? まあ、エラリー等を始めとして、名探偵の年齢はあまり厳密に考えない方がいいのでしょう。作者あとがきによると、元々マンガの脚本として作られたものの、企画が流れたため、小説として再構成したものだそうです。
最初の『騒がしい密室』の密室トリックは、よくあるパターンにちょっと工夫を加えたもので、悪くありません。しかし傘の文字の意味には無理があるでしょう。山本ヤマトによる挿絵でなんとか説得力を出してもらいたかったですね。表題作の犯人のミスは、いくらなんでもと思えます。『遅れてきた屍体』の第2の殺人は余計な気もしますが、内臓をえぐり取った理由には感心しました。


No.1398 5点 暴発
ビル・プロンジーニ
(2022/11/06 11:09登録)
今回読んでみようかと意識する前には、字をちらっと見ただけで何となく「爆発」だと思い込んでいました。タイトルの出来事は、本作最後の事件として起こります。
名無しの探偵(オプ)シリーズの中でも作者のお気に入りらしい『殺意』に続く第4作ですが、シリーズとしてはその前作との間が4年も空いています。オプは医者から肺に腫瘍らしきものが認められると診断され、禁煙を始めています。癌なのか、良性のものなのか、不安な日々を送るオプが、友人に頼まれてキャンプ場でのもめごと解決にでかけていくと、予想外の殺人事件が起こり、という展開です。検査の結果を医者に電話で聞こうとして電話ボックスに入りながら、結局電話をかけることもできずに出てきてしまうという優柔不断さ。それでも事件の方は、危ない目にあいながらも、きっちり解決してくれます。最後の一ひねりは、どうなんだろうという感じでした。


No.1397 6点 死の匂い
カトリーヌ・アルレー
(2022/10/23 16:46登録)
まだ死んではいないし頭もはっきりしているけれど、動くことが全くできない状態になったステラの一人称形式で回想されるサスペンス。ただ、謎の要素はほとんどなく、あまりミステリ的な感じはしませんでした。ラスト近くになって、冒頭部分とほとんど同じ文章が、2ページ以上出てきます。夫のスペンサーが、彼女はもうすぐ死ぬけれど、自分は生きながらえて行かなければならないという意味のことを語るのですが、その中に原題の "Tu vas mourir!"(You are going to die)という言葉が出て来るのかどうかは、よくわかりません。
登場人物表では、この主人公はステラ・フォールディングとなっていますが、実際にはすぐにスペンサーと結婚してブリッグスに改姓します。彼女は、享楽的なところの全くない真面目な医者と結婚したからこそ、悪女にならざるを得なかったのではないかという感じがしました。


No.1396 6点 観覧車
柴田よしき
(2022/10/09 19:34登録)
失踪してしまった私立探偵の夫を継いで探偵業を営むことになった下澤唯を主人公とした連作短編小説集で、7編が収められています。と言っても、5編目と部分的に関係した6編目から7編目については一貫した流れで、特に7編目は『終章、そして序章』となっていることからもわかるとおり、エピローグ的なものです。
カバーの内容紹介では「恋愛ミステリー」とされていますが、恋愛とは限らず、もっと広い愛がテーマとなっている作品もあります。主役が私立探偵ではあっても、煙草に関して「チャンドラーを読んだことないんか」という友人の刑事からの問いに「ない。ハードボイルドなんか嫌いやわ」と答える(第3編『送り火の告発』)ような作品です。まあ、多少ハードボイルドっぽい『砂の夢』もありますが、むしろ殺人事件のアリバイトリックなどを使ったりした謎解きタイプと言えるでしょうか。


No.1395 5点 自殺の丘
ジェイムズ・エルロイ
(2022/10/06 21:23登録)
ロイド・ホプキンズ刑事シリーズの第3作です。ホプキンズに対する精神分析結果所見から始まりますが、精神科医は、ホプキンズは早期退職すべきだとの診断を下しています。第2作『ホプキンズの夜』は未読ですし、第1作『血まみれの月』もあまり覚えていないので、ロス市警察内部の人事関係やホプキンズの立場など、よくわからないところもあり、読み進んでいくのに苦労しました。なお本作は、犯人グループとホプキンズの視点を切り替えていく構成になっています。
それにしても本作、よくもこんな情緒的に不安定な登場人物ばかり集めたものだと思わせられました。感情・欲望をコントロールできないのは、ホプキンズと強盗主犯ライスだけではありません。特にガファニー監査内務課警部の行動と最後の「対決」部分など、ほとんど理解不可能で、ホプキンズより前に精神科医にかかる必要があったのではと思えました。


No.1394 5点 The Private Practice of Michael Shayne
ブレット・ハリデイ
(2022/10/01 10:17登録)
このマイケル・シェーン・シリーズ第2作は、2022年現在邦訳がありません。今回の事件は、友人のキンケイド弁護士からの依頼で、富豪が脅迫されているので、対処してもらいたいというものですが、シェーンは弁護士が仲介しているとこの手の事件は問題があるということで、依頼を断ります。しかし夜、キンケイドが面倒に巻き込まれているので、浜辺まで来いという電話がかかってきます。
この事件と、前作『死の配当』の依頼人であったフィリスとシェーンとの関係を絡み合わせた展開で、途中、ほとんどどたばたコメディー的なところもあります。そのコメディー的シーンで、シェーンはフィリスにプロポーズすることになり、最終章は事件解決後、レストランでの二人の仲睦まじい会話です。
ただし、殺人事件の真相の方はどうということもないもので、犯人を罠にかけるシェーンの策略も、ちょっと無茶すぎと思えました。


No.1393 5点 尾瀬殺人湿原
梓林太郎
(2022/09/27 23:28登録)
これまでに読んだ梓林太郎4冊の中では、最もオーソドックスな警察による捜査型謎解きミステリでした。
犯人の名前が出て来るのは半ばを過ぎてからですが、その人物にたどり着くまでが、なかなかおもしろくできています。荒竹刑事の殉職した同僚の弟からの相談で、彼の恋人が尾瀬で失踪したというのが発端ですが、その恋人とさらにもう一人女の死体が発見されます。この死体の状況が、チェスタトンの『秘密の庭』をも思わせるもので、どんな理由があったのかと期待させます。しかしその部分はどうということもありませんでした。まあ現実主義的立場からすれば、そのような発想になってもおかしくない状況ではあるのですが、もう一人の女の登場は作者が事件を派手にしてやろうと考えたからに過ぎないと言われても仕方ないでしょう。
山岳ミステリの作者らしいシンプルなアリバイトリックは悪くありません。


No.1392 6点 論理は右手に
フレッド・ヴァルガス
(2022/09/24 09:52登録)
nukkamさんのおっしゃるとおり、第3章まで(というより、犯人の独白である第2章以外の2章)はとっつきにくいです。事件の発端になる骨の件を除くと、ほとんど何が何だか。その第3章に、訳者あとがきにも解説されている、邦題の元になった「支配と方法と論理は右手に存在する。」という文も出てきます。右手のほうに少し進みすぎると「冷酷な愚か者」になってしまうという警告です。
この警告を発するのが、本作の主役、元内務省調査員ルイ・ケルヴェレール。ペットのヒキガエルをいつもポケットに入れて持ち歩いている(そんなことして死なないか?)変わり者です。三聖人のうちマルコは最初から彼を手助けしますし、マタイも途中から加わりますが、これじゃ二聖人です。
アリバイトリックなどフェアプレイが守られているとは言えませんが、それでもエキセントリックなパズラーとしか言いようがない作品です。


No.1391 6点 落ちる男
マーク・サドラー
(2022/09/21 21:07登録)
片腕探偵ダン・フォーチュン・シリーズのマイクル・コリンズが別名義で発表した作品です。本作の探偵ポール・ショウものは6冊あり、そのうち3冊が翻訳されているようです。ショウは平均的なハードボイルドの私立探偵らしいキャラクターで、首を締められたり、縛り付けられたりといった危機に見舞われもしますが、結婚していて、しかも奥さんは成功した舞台女優(結婚当時は駆け出しだったのですが)だというのが珍しいところです。ただ、本作ではその設定がそれほど活かされているとは思えませんでした。仕事で奥さんの舞台を見に行けないとか、最後の部分でちょっと気まずい思いをするとか、まあなくてもかまわないような気がします。
ショウが事務室に忍び込んだ銃を持つ男を、窓から突き落とすところから始まる事件そのものは、特に「なぜ」の部分が謎めいていて、結末の意外性もかなりのものです。


No.1390 6点 空蝉処女
横溝正史
(2022/09/15 20:23登録)
表題作等9編の短編を収めています。
最初の表題作と次の『玩具店の殺人』は戦後間もなくの作品ですが、表題作は1980年台になって原稿が発見された、それまで未発表だった作品です。耽美的な冒頭に人情的なオチをつけた雰囲気のいい作品で、巻末解説で中島河太郎は『鬼火』『かいやぐら物語』と比較しています。『玩具店の殺人』は殺人が起こるまでのユーモラスなところの方が楽しめます。
その後、宇津木俊助が登場する『菊花殺人事件』、由利・三津木の『三行広告事件』は戦時中の作品で、時局に合わせたスパイものです。『三行広告』の方がよくできています。
残り5編は『鬼火』などより前に発表された作品ばかりで、ほとんどは軽妙さが売り物という感じです。『帰れるお類』はミステリとは言いがたい作品。『路傍の人』はシリーズもの第1作めいた文で締めくくっていますが、続編はあるのでしょうか。


No.1389 6点 ロンリー・ハートの女
リザ・コディ
(2022/09/12 23:28登録)
興信所で働くアンナ・リーのシリーズ第5作です。と言ってもこのシリーズで邦訳があるのは他に第1、4作のみで、さらに読んだのとなると第1作『見習い女探偵』だけです。
デビューから6年も経って、アンナも探偵として経験豊富になってきたことが明らかな活躍ぶりです。今回請け負うのは、女性ロック歌手の警護。大きな警備会社からの依頼で、歌手の希望で女性の警備員が必要になり、彼女にお鉢が回ってきたのです。7割ぐらいまでは他社の連中の下での仕事なので、アンナには孤立感があり、さらに麻薬も日常的な芸能界底辺が描かれていて、それだけハードボイルドっぽい感じもします。
訳者あとがきでは、人生にはあいまいさがあるから、アンナの物語も「意図的にあいまいな部分を残したまま終わる」と書かれていますが、はっきりさせるべき点なのに決着をつけていないところもあります。でも、全体的には楽しめました。


No.1388 6点 内なる敵
マイクル・Z・リューイン
(2022/09/09 23:41登録)
アルバート・サムスンのシリーズ第3作は、事件としては非常に地味なものです。日常の謎とまで言うには、日常的に起こっては困る出来事ではあるのですが、死体が発見されてとか大金や宝石が消えてなどというタイプではありません。それでも最後には一人死ぬことになるのですが、その原因は明確にしていません。
今回の依頼は、ある人物に言付をしてもらいたいというものです。それがどんな意味を持っているのか等の説明はなんだか怪しいという状況。。で、サムスンがその相手に会ってみると、シカゴから来た同業者だとわかり、さらに彼から裏事情もある程度聞かされます。この男がなかなかいい奴で、しかもサムスンよりハードボイルドっぽく、もう少し彼にも活躍してもらいたかった気もします。一方本作のサムスンは悪戯をしたりいらついてバタバタしたり、なんだか子供っぽい感じがしました。


No.1387 5点 紫の恐怖
高木彬光
(2022/09/04 09:16登録)
収録された神頭恭介もの6編、ページ数を比較すると長い順番に並んでいます。
最初が、神津恭介一高時代に起こった事件の中編『輓歌』です。プロローグとエピローグは彼の理学博士称号祝賀会になっていますが、この構成にはなるほどと思わせられました。中間部分はたいしたことはないのですが。
『死せる者よみがえれ』のプロットは後に登場人物設定を変えて別の探偵役で長編化していますが、この短編の方は最初から秘密を明かしてしまっている上、表現が大げさすぎて、緻密に構成された長編版と比較するとがっかりです。『盲目の奇蹟』はタイトルがねえ。しかし放火事件のトリックはなかなかのもの。『蛇の環』は、似たアイディアを使った別の作家のかなり後の長編を2編思い出しました。『嘘つき娘』はごちゃごちゃした印象だけ。最後の『紫の恐怖』は集中最も古い作品で、おもしろい殺人方法が使われています。


No.1386 5点 負け犬のブルース
ポーラ・ゴズリング
(2022/08/31 20:03登録)
ハヤカワ・ミステリ文庫の帯キャッチ・フレーズは「ロンドン。裏町。ジャズの旋律。そして、強烈なサスペンス」となっていますが、ロンドンはともかく、という感じがする作品でした。主人公のジョニーは元クラシックのピアニストで、ジャズを演奏していますが、決して落ちぶれた「負け犬」ではなく、CM音楽を作曲したり、クラシックの伴奏もするなど、優れたミュージシャンであることは知られた存在です。作中で言及される実在の音楽家も、ジャズよりクラシックの著名な演奏家の方が多いのです。
そんな音楽談義もなかなかいいですし、本筋の殺人事件の方も、最後近くまでは楽しめます―サスペンスは「強烈」とまでは言えませんが。しかし、最後の方、ジョニーの努力は結局何だったんだ、単なるお騒がせ男かと思えるところがあって、そこは不満でした。意外な結末のつけ方も、唐突すぎる感じがします。

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