空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1519件 |
No.359 | 7点 | 黒い白鳥 鮎川哲也 |
(2010/12/09 19:50登録) 読んだのは角川文庫版なので、有栖川有栖が創元版解説でどう書いているのかは知らないのですが。 どこで知ったのだか忘れたのですが、これって松本清張のあの作品と同時連載だったんですよね。作品のタイプは全く違いますが。いやあ…こりゃ確かに、書いてて困ったでしょうね。 このシリーズにしては、犯人がなかなかわからないのがちょっと珍しいところでしょうか。アリバイ崩しだけでなく犯人の目星をつけるのまで、途中参加の鬼貫警部がやってしまうのですから。そのアリバイ・トリックだけとり上げてみれば、二つともそれほどのものではありません。最初に読んだ時不満に思ったのもその点です。しかし再読してみると、写真を手がかりに容疑者を絞り込む足の捜査、視点の使い方の理由、そしてエピローグで明かされる伏線の妙などきめの細かさはさすがです。 ただし、前半のストライキや新興宗教の描き方については、社会派ではないという言い訳はあるでしょうが、ちょっともの足らないというか。 |
No.358 | 5点 | 宇宙気流 アイザック・アシモフ |
(2010/12/05 10:17登録) 「あなたの話は、まるで探偵小説ですよ」「そうです……現在のところ、私は探偵です」 こんな対話が出てくるのは、人類発祥の惑星は地球だということが伝説化している遠未来の話です。本作はアシモフが書き継いでいたファウンデーション(銀河帝国の興亡)シリーズの番外編で、そこにこんな台詞が出てくるのは、妙な感じがします。宇宙に散らばった人類は、どんなミステリを読んでいるのでしょうか? というわけで、『鋼鉄都市』ほど徹底はしていませんが、やはり同じような意味で、謎解きミステリになっています。謎は、惑星フロリナの壊滅を予想した空間分析家に神経衝撃療法を加えた犯人は誰かということで、完全にフーダニット。犯人の条件を並べてみれば、ちゃんと推測がつくようになっていますが、意外性を出すためのたくらみが少々無理っぽいのが難点でしょうか。 SFとしては、むしろミステリ仕立てにしない方が惑星の危機という壮大なテーマを明確にできたのではないかと思えるところが、気になりました。 |
No.357 | 7点 | 屠所の羊 A・A・フェア |
(2010/12/02 21:06登録) ガードナーをハードボイルドの系譜に入れるのは、ペリー・メイスンだけ見れば違和感があるでしょう。しかし、A・A・フェア名義で書かれたこのドナルド・ラム&バーサ・クール・シリーズを読めば、なるほどと思えます。と言ってもハメット等とは違い、軽ハードボイルドです。ユーモア・ミステリに分類されることもある軽いノリが持ち味です。 デブ所長の探偵事務所で働く若い男の一人称形式といえば、所長が名探偵というのが普通でしょう。スタウトがいい例です。しかし、本シリーズの事件解決頭脳は「ぼく」ことラム君の方であるところが特徴。この第1作は、彼がクール探偵事務所に採用されることになるところから始まります。 謎解きの要素もそれなりにあるのはこの作家ですから当然で、有名なタイプのトリックが大胆に使われています。しかし何といっても本作の見所は、終盤さすが弁護士作家と思えるとんでもない法律の抜け穴利用アイディアが飛び出してくるところでしょう。ラム君の経歴が伏線になっています。 |
No.356 | 6点 | メグレの拳銃 ジョルジュ・シムノン |
(2010/11/29 20:58登録) タイトルの拳銃は、メグレがアメリカに行った時に贈られたものだということです。その拳銃に刻印されたイニシャルに関連して、メグレの名前がジュール・ジョゼフだという説明もありますが、これは本作より前に書かれた『メグレの初捜査』とは矛盾しているところです。 一方『メグレ式捜査法』でフランスに研修に来ていたスコットランド・ヤードのパイク刑事が再登場するのは、作品相互間の整合性がとれています。今回はメグレの方がロンドンに行くのですが。 ロンドンのホテルのロビーでメグレがビール等を飲みながら張り込みを続けるところがかなり長々と書かれますが、その間のメグレの感情描写がおもしろいのは、この作者らしいところです。ただし謎解きとは無関係なので、全く評価しない人もいるでしょう。 これも殺人犯が誰かというのではなく、その殺人の裏にどんな事情が隠されていたのかを探っていくタイプの話で、そういうものとしての評価はこれくらいです。 |
No.355 | 5点 | 風は故郷に向う 三好徹 |
(2010/11/27 20:41登録) 1959年、自動車(ジープやトラクター)販売のため、カストロ首相による革命から間もない時期のキューバに赴任した男の一人称で書かれた巻き込まれ型エスピオナージュです。 読んでいる間は、次々に起こる不可解な出来事や政治情勢のための日本との連絡困難が興味を盛り上げ、おもしろかったのですが、後で考えてみると、相当ご都合主義が目立つ作品でした。まずスパイのリーダーの技能を考えると、自分自身でそれを行わず民間人を脅迫してやらせるという危険な方法を採る理由が全くないこと。さらにその企画の性質上、実行の数ヶ月も前から民間人を巻き込む準備をしていたはずがないこと。以上2点は、本作品の謀略の根本的な部分に関する問題点です。 さらに、日本との連絡を阻止する理由がないこと、最後の方の場面で刑事が登場できた経緯など、論理的に考えれば問題点は山積みです。 また、ラストの少々感傷的な故国に対する思いはよかったのですが、ここまで何のためにスパイたちが様々な努力を重ねてきたのか、肩すかしの感は否めませんでした。 |
No.354 | 6点 | バスカヴィル家の犬 アーサー・コナン・ドイル |
(2010/11/23 16:23登録) ホームズもの長編の中では最も長く、しかも他の作品と違って捜査過程と別に犯人の過去が延々と語られるわけでもない、ということは現在進行中の事件展開がそれだけ複雑ということになります。 事件依頼の背景の伝説が語られるところからして、超自然的な雰囲気で読者に期待を抱かせます。まあホームズは伝説を冷たくあしらってますけど。古代の住居跡や底無し沼の点在するデヴォンシャーの荒涼たる風景の中、事件の捜査自体かなり起伏があり、サスペンスもたっぷりです。 荒野に逃げ込んだ脱獄囚がいるということから、展開の予測をつけるのは現代では簡単でしょうが、筋立てはさすがにしっかりできています。准男爵の靴が二度も盗まれるロンドンでの小事件の理由も、納得できます。 ただ、犯人が誰であるかが明かされる部分は時代を考慮に入れてもあっさりしすぎですね。もう少しホームズが秘密めかしてワトソンをじらすところがあってもよかったでしょう。 |
No.353 | 7点 | 愛の探偵たち アガサ・クリスティー |
(2010/11/20 13:38登録) 最初に収められているのは、演劇有名作『ねずみとり』の原作『三匹の盲目のねずみ』です。短編集は1950年に出版されていて、戯曲化されたのは1952年だそうですから、小説が先であることは間違いないのですが、再読して感じたのが、最初から完全に舞台化を意識しているな、ということでした。特に真相が暴かれる部分など、マザー・グースの歌のピアノ演奏、多少無理してまでの舞台の固定など、いかにも演劇的です。真相は単純でむしろ平凡ですが、小説の文章や映画のカットバック映像等でていねいに説明しなければ理解できないような複雑なトリックや論理は、演劇には向きません。 ミス・マープルもの『管理人事件』は再読して、後期某長編の元ネタはこれだったのかと気づきました。 クィン氏の『愛の探偵たち』は30年代の某長編と同じアイディアです。道化亭に言及されていることから『謎のクィン氏』の第4作になるはずだったと思われます。雰囲気があまりクィン氏ものらしくないので、連作短編集としてまとめる時にはぶいて長編に仕立て直したのでしょうか。 |
No.352 | 6点 | 霧の罠 高木彬光 |
(2010/11/17 21:19登録) 近松茂道検事が活躍する長編第3作は、第1容疑者の設定が最大のポイントになっています。非常に疑わしい人物なのですが、本当に犯人なのかどうか。犯人であるにしてもないにしても、登場人物も非常に少ないですし、裏にどのような状況が隠されているのか、ミステリとしてどこにサプライズを持ってくるのかが問題になります。最後に明かされてみると、さすがに納得のできる筋書きになっています。 全体の流れを後から振り返ってみると、主役は検事であるにもかかわらず、むしろ弁護士的なところもあり、両方の役を兼任しているようなストーリーとも言えそうだと思いました。グズ茂の異名をとる慎重さが、このような役柄を可能にしているのでしょう。いや、本職の弁護士も登場するんですけどね、この弁護士も近松検事の非常にオープンな流儀には面食らっています。 山口警部の視点から書かれた部分がかなりありますが、近松検事に対する彼のぼやきがなかなかユーモラスです。 |
No.351 | 5点 | どもりの主教 E・S・ガードナー |
(2010/11/13 11:01登録) 説教に慣れた主教(Bishop:創元版では「僧正」。ヴァン・ダインの例のやつですね)という位の高い聖職者がどもるなんて変だ、メイスンを訪れたその主教は偽者ではないかというのが、まず興味をひく謎です。しかし、一番最後に明かされるその答は、なんだか拍子抜けでした。 銃を撃ったのが誰かという謎は、普通に考えればあまりに当然なところですが、動機がネックになって、根本的なからくりはすぐには思い浮かばないでしょう。しかし作者はそれだけでは弱いと考えたのか、さらに事件の経緯をやたら複雑化していますが、かえって不自然になってしまったように思えます。主教の行方は明らかに無理があります(もっと手っ取り早くて都合のいい方法が目の前にあったはず)。ホテルから消えた女の行方にも、被告人の黙秘理由にも、説得力はありません。 ご都合主義で万事めでたしの結末にするため相当無理をした筋立てなのですが、読んでいる間はメイスンが逮捕されそうになったり、罪体問題を論じたりして、それなりに楽しめました。 |
No.350 | 7点 | メグレと消えた死体 ジョルジュ・シムノン |
(2010/11/10 21:21登録) メグレものについては、例外はもちろんあるにしても、フーダニット系より最初からほとんど犯人がわかっているようなものの方が合うように思われます。で、本作も怪しい人物というか家族は決まってしまっていて、彼等をいかにして追い詰めていくかというところに、興味は絞られます。捜査、尋問を進めていく中で、容疑者たちの人物象が明確な形をとっていくところが、見所ということになります。 さらに、事件の通報をしてくる「のっぽの女」(原題直訳は「メグレとのっぽ」です)もなかなか魅力的に描かれています。彼女が最後の方でも再度十分な登場機会を与えられる構成もいいですね。 メグレが容疑者を拘引してしまうきっかけは、いくら何でも無茶じゃないかと思えますが、それで事件の核心を探り当てていく手際は、さすがです。その上ちょっとした意外性まであり、なかなかよくできた作品です。 |
No.349 | 5点 | 松風の記憶 戸板康二 |
(2010/11/08 21:11登録) 現在創元推理文庫からは『第三の演出者』と併せた分厚い形で出版されていますが、読んだのは以前の単独で出ていた版です。 新聞に連載された作品だそうで、同じ事実を後から再度説明しているところがあったりするのは、そのせいでしょうね。一気に読む場合にはどうもわずらわしい感じがします。 名探偵中村雅楽による謎解きということでは、見所は全くないと言っても過言ではないでしょう。途中に小納戸容(こなんどいる)なんて珍妙な作家の推理小説を持ち出してくるお遊びもあり、その部分ではホームズばりに知人がしてきたことをあててみせますが、本筋での推理は空振りしています。 その本筋は、最初に奇妙な状況の病死事件(本当に病死です)があった後は、歌舞伎や日本舞踊の世界を舞台に穏やかなタッチで繰り広げられる人間模様。そして最初の事件から3年後、小説では8割を超えてから起こる殺人へとつながっていきます。どういう方向に向かうのかは、半分ぐらい読んだところで予想はつきましたけど。主人公と言えるふみ子の描き方が、もう少しなんとかならなかったかな、と思えました。 |
No.348 | 6点 | トレント最後の事件 E・C・ベントリー |
(2010/11/05 21:14登録) 本格派黄金期の幕を開ける作品だとか、謎解きと恋愛の初融合だとかいう歴史的な評価が高い作品ですが、どうなんでしょう。だいたい余計な恋愛を否定したヴァン・ダインの20則は本作発表の10年以上後のことです。実際には創元版解説でも引用されている作者自身の「推理小説を皮肉ったもの」という言葉がぴったりくると思います。黄金期を迎える少し前に現れたひねりのきいた異色作という歴史的位置づけの方がいいのではないでしょうか。 要するに構成がかなり変なのです。恋愛要素もこの風変わりな構成にはうまくはまっています。また最後は一応伏線があるとは言え、おいおいと言いたくなるようなどんでん返しです。 名探偵トレント「最後の」事件というのも、なんだかこじつけめいています。この点ではクイーン中期の作品も思わせるところがあったりして(全然深刻ではないですけど)。 |
No.347 | 6点 | 遠い砂 アンドリュウ・ガーヴ |
(2010/11/01 22:11登録) 事件が起こって警部が説明するのを読んですぐ、そんなバカなことはあり得ないと思いました。ハンドバッグがヨットに置かれた経緯の問題で、これは誰でも気づくでしょう。その後その点について疑問を提示され、さらに説明を思いついた後でさえ、その自分自身の思いつきを主人公が信じず不安を感じているのには、少々あきれながらも読み進めることになったのですが。そんなわけで、サスペンスは渚での対決シーンを除いて全く感じませんでした。 フーダニットの原則からは大きく外れたところがありますが、写真についてのアイディアや犯人を絞り込んでいくところなど、意外に謎解きの捜査小説的な面も感じられる作品でした。そうは言っても、犯行方法にはやはりかなり無理があります。 なお真犯人の設定は、ホームズ(『生還』)の某作品の登場人物を思わせます。ガーヴ自身それは意識していたのかもしれません。 |
No.346 | 7点 | 七十五羽の烏 都筑道夫 |
(2010/10/29 22:08登録) 解決の論理を主軸にした初期クイーン式発想への共感から生まれた本作。ただし松田氏の角川文庫版解説にも書かれているように、カーがやったお遊びミスディレクションも取り入れられています。 名探偵の職業(?)がゴーストハンターで、伝説にのっとった事件が起こるという、それこそカーや横溝正史みたいなおどろおどろしい話にもできたような題材ですが、第1章の小見出しに「ここは…飛ばして先へすすんでも推理に支障はきたさない」なんて書いているマニアックなユーモアが、全体の雰囲気を表しています。物部太郎と片岡直次郎コンビの漫才的な会話も、なかなか楽しめます。 「糸や針金をつかって閉りをしたものでもない」と小見出しで宣言してしまっている密室について、糸を使って鍵をかける実験をやっているところは無駄だと思いましたが。 |
No.345 | 5点 | メグレ夫人のいない夜 ジョルジュ・シムノン |
(2010/10/26 20:57登録) 奥さんが妹の看病のため留守の間、メグレ警視が家に帰ることに居心地の悪さを感じるのが、微笑ましいような冒頭です。さて、それでも帰宅したとたん呼び出し。お気に入りの部下の一人ジャンヴィエ刑事が路上で撃たれて重傷を負うという事件です。奥さんがいないのをいいことに、警視はジャンヴィエが張り込んでいた家具つきアパートに数日住み込んで、捜査を行うことになります。 二つの別個の事件が偶然重なっているところ、否定意見もありそうですし、個人的にもこういうタイプはあまり好きではないのですが、本作に限って言えば、かなりうまくまとまっていると思えます。このシリーズの中でも謎解き要素は少ない方であるのも、構成のバランスとして悪くありません。 各章に長ったらしい見出しというか内容説明がついているのが、変な作品でもあります。 |
No.344 | 7点 | 殺す風 マーガレット・ミラー |
(2010/10/24 12:10登録) これも久々の再読(早川文庫版)ですが、完全に内容を忘れてしまっていました。 作者等に対する前知識なしで読めば、ミステリだとは全く気づかず、最後で驚愕することになるかもしれません。ほとんど9割ぐらいは不倫を題材にした普通の小説を読んでいるような気分にさせられる作品です。愛と願望と後悔と不安とがていねいに描かれた小説としておもしろいのです。ただ、最後の方になってばたばたと軽い後日談めいた展開になるのが、ちょっと気になるところでしょうか。その段階でまだ30ページぐらいは残っているわけですから。 で、その後突如として純然たるミステリと化すことになります。気になって前の方を確認してみたのですが、やはりアンフェアな記述が少なくとも2箇所ありますね。そこはパズラー作家ではないので、最初から気にせず執筆していたのかもしれませんが、インチキだという気はします。そのかわり、ラスト・シーンはまた登場人物の複雑な心理を巧みに見せてくれて、なんとも言えない余韻があります。 |
No.343 | 6点 | 死墓島の殺人 大村友貴美 |
(2010/10/20 21:39登録) 最初に、これはいわゆる「本格派」ミステリではないと断言しておきましょう。フェアプレイが守られているとは言い難いですし、鮮やかな論理や大胆なトリックがあるわけでもありません。 では何かといえば、人情派ミステリです。ラストである中心的な登場人物の性格が掘り下げられていくところが、最大の魅力になっています。「死墓島」が本来の漢字の「思慕島」の意味を取り戻すようなエピローグも味がありますし、いじけたところのある藤田警部補も、このような小説の探偵役にはふさわしいと言えるでしょう。 そんなわけで、横溝正史との比較については、優劣の問題以前に、目指すところが全く違うわけです。 ではタイトルの不気味さはどうなのかというと、これが内容にどうも合っていないのです。流刑の島としての歴史にしても、まさに歴史的興味があるだけで、現代までつながる怪しげな雰囲気が感じられません。 過疎の問題を抱えた島が舞台というだけにした方がよかったと思える作品でした。 |
No.342 | 7点 | スリーピング・マーダー アガサ・クリスティー |
(2010/10/17 12:11登録) 同じように死後発表を予定して書かれた作品でも、いかにもという感じの『カーテン』と異なり、最後だからといって他のミス・マープルものと特に異なる点はありません。 ほぼ同時期に書かれたらしい『五匹の子豚』と対比してみた方がいいでしょう。どちらも十数年昔の殺人を調査する話ですが、ポアロの登場する『五匹の子豚』がひたすら地味な作品でそこがよかったのに対して、こちらは怪談めいた冒頭、新たに起こる殺人など変化をつけてストーリーの盛り上げにも気を配っています。特に最後の「猿の前肢」の意味がわかるところは、サスペンス映画をも髣髴とさせて印象的。ただ結末の意外性という点では、本作はちょっとパターン化にはまりすぎているかなとも思えます。 作者の長編の中でミス・マープルものの割合が増えるのは、本作執筆後であることを考えると、シリーズの中ではむしろ初期に属すると位置づけられそうです。 |
No.341 | 7点 | インターコムの陰謀 エリック・アンブラー |
(2010/10/15 20:48登録) 『ディミトリオスの棺』では主役を演じたミステリ作家チャールズ・ラティマーが再登場するといっても、彼の出番はほとんどありません。まずプロローグで、ラティマーが失踪したことが明かされますが、その後は彼の短い手紙が途中にはさまれるだけです。 今回の主役は、ごく小規模な雑誌「インターコム」の編集長カーターで、彼がその雑誌を利用したスパイの謀略に巻き込まれる話です。カーターからラティマーへの手紙や、ラティマーが執筆した断片、様々な人物のインタビュー回答などを継ぎ合わせた構成は、確かに異色作と言えるでしょう。 最初からネタをほぼ明かしているので、真相の意外性はありません。何人かの謎の接触者たちについては、たぶんKGBだろうとかCIAだろうという予想の域を出ないまま、小説は終ってしまいます。そういう意味では、ミステリとしては欠陥があると言えるのかもしれませんが、作者の狙いは別のところにあります。本当にドキュメンタリーを読んでいるような気分にさせられる奇妙なリアリティが魅力となっている作品です。 |
No.340 | 6点 | メグレ夫人と公園の女 ジョルジュ・シムノン |
(2010/10/14 21:51登録) メグレ夫人が事件の捜査をする、なんていうところが楽しい作品です。 彼女が公園で出会った女に関連してちょっとした災難に会うのが発端です。そのことが、警視が担当していた事件とどうやら繋がりがあるらしいということがわかってきて、メグレ夫人も一人で聞きこみ調査を行って、夫をびっくりさせます。そんなに高齢ではありませんが、なんとなくミス・マープルをも思わせるセリフも口にしたりして。 死体のない殺人事件とメグレ夫人の災難との結びつきは最後に明かされますが、それなりに意外性もありうまく考えられています。 全体的に軽快な感じがする作品になっています。殺人事件捜査のきっかけとなった匿名の手紙の筆者は、最後の1文で明かされますが、この書き方もなかなか気がきいています。 |