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ミステリの祭典

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メグレの拳銃
メグレ警視

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1979年06月
平均点6.25点
書評数4人

No.4 7点 クリスティ再読
(2022/10/06 09:26登録)
中期メグレらしい「良さ」がある作品。いやこれ「奇妙な女中の謎」とちょっと似ている気もして、評者とかイカれやすいタイプの作品のようだ。メグレの父性っぽい魅力がキラキラしている作品。

しかも、問題の青年の父親のキャラというのが、よく描けていて、だからこそメグレが父性を発揮せざるを得ない、というのが何か納得する。空想的にいろいろな商売を思いついては失敗し、金銭的にルーズで悪い意味で「夢を追ってる」男、でしかも度胸のない臆病者だったら、そりゃ「負け組」もいいところ。そんなダメオヤジでも、3人の子供を自分の手で育てるんだが、上の二人の子供はダメな父親に幻滅して....だったらさ、末っ子の問題の青年というのもなかなか気の毒じゃないか。メグレは迷惑をかけられたわけだが、「人情警視」とか呼ばれるのは遠慮しつつも、それでも青年のことを気にし続ける。ロンドンでも有数の高級ホテル、サヴォイのグリルで二人が食事するシーンなんて、シムノンならではの味わいを評者は満喫。

さいごまですばらしい一日だった。まだ夕陽は沈みきらないで、人々の顔をこの世のものとも思われないような色に染めていた。

ロンドンといえばいつでも天気が悪いのが相場。でもたまには「日本晴れ」とでも言いたい「いい日」があるようだ。そんな作品。

No.3 6点 人並由真
(2021/06/23 02:32登録)
(ネタバレなし)
 おや、お久しぶり、パイク刑事。『メグレ式捜査法』読んだのは、絶対に20世紀だったよ(しかし同作は今さらながらに、邦訳タイトルを「わが友メグレ」にしてほしかったな~)。

 全体としてはいつものメグレシリーズの世界ながら、主体の殺人事件の解決にメグレがさほど傾注せず、ゲスト主人公の若者の去就ばかり気にかけるのがなんか味わい深い。

 ……しかしこれは言うのもヤボであろうが、パリ警視庁の警視が自宅から拳銃を盗まれたという事態なのに、管理不備を問いただす叱責がなさすぎるよね。フランスも、アメリカあたりと同程度の法規の枠のなかで拳銃は自由売買だとは思うけれど。

 ネタ的には変化球な要素をいくつも盛り込んでいる感触があるが、妙にまとまりの良さを認めはする一作。
 いろいろと勝手な思い込みができそうな余地があるのは、好ましいかも。

No.2 6点
(2018/10/01 02:26登録)
 メグレ警視のオフィスに、夫人から若い男の来客があるという電話が掛かってきます。面会人を片付けて家に戻ると男は既に立ち去った後で、自室からはアメリカ滞在中に送られたS&W45口径のピストルが紛失していました。その後の調査で、男が武器販売店から実包を入手している事が判明します。
 その日の晩、メグレは友人パルドン医師宅の夕食会で「気になる患者がいる」との相談を受けます。フランソワ・ラグランジュという名で、メグレに会いたがっているというのです。メグレは彼のアパートを訪れますが、話とは裏腹に病身のラグランジュに会話を拒否されます。そして彼の息子のアランこそ、メグレの拳銃を盗んだ男でした。
 さらに門番の女の話から、ラグランジュが北駅に怪しげなトランクを預けた事が分かります。そしてその中からは、遣り手の代議士アンドレ・デルテイユの射殺死体が発見されるのでした・・・。
 1952年発表のシリーズ第68作。メグレの友人パルドン医師の初登場作品。シリーズ後半は殆ど出ずっぱりな印象ですが、意外に交友の始まりは遅いですね。パルドンの登場は前半部分で、後半はアランを追ってイギリスに飛んだメグレを、「メグレ式捜査法」で知り合ったスコットランド・ヤードのパイク刑事が出迎えます。
 と言っても、デルテイユ殺害はほぼそっちのけ。勿論二つの事件は関連している訳ですが、物語の大半はアランと拳銃の行方の捜査に費やされます。
 作中メグレが「人情警視」という呼び名に顔を顰めるシーンがありますが、基本的に彼は司法警察に誇りを持ってますので、情に流されて犯人を見逃しはしません。フリーとか管轄外で告発しない方が良い場合には稀にお目こぼししますが。マメに面倒を見るのは無実の者の運命が狂ってしまう場合に限ります。本件はそういう例。
 フランスが舞台だと、ごく一部の地方を除いてたいがい空気が辛気臭いので、たまにメグレが遠出した時の風景描写は良いですね。イギリス編はゆったりとした筆致で、本編の内容もなかなか味わい深いです。メグレがアランに罪を犯させまいと、怯えた猫の話を聞かせる件りがありますが、ラストに再登場する猫の描写はかなり暗示的です。

No.1 6点
(2010/11/29 20:58登録)
タイトルの拳銃は、メグレがアメリカに行った時に贈られたものだということです。その拳銃に刻印されたイニシャルに関連して、メグレの名前がジュール・ジョゼフだという説明もありますが、これは本作より前に書かれた『メグレの初捜査』とは矛盾しているところです。
一方『メグレ式捜査法』でフランスに研修に来ていたスコットランド・ヤードのパイク刑事が再登場するのは、作品相互間の整合性がとれています。今回はメグレの方がロンドンに行くのですが。
ロンドンのホテルのロビーでメグレがビール等を飲みながら張り込みを続けるところがかなり長々と書かれますが、その間のメグレの感情描写がおもしろいのは、この作者らしいところです。ただし謎解きとは無関係なので、全く評価しない人もいるでしょう。
これも殺人犯が誰かというのではなく、その殺人の裏にどんな事情が隠されていたのかを探っていくタイプの話で、そういうものとしての評価はこれくらいです。

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