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ミステリの祭典

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風は故郷に向う
「風の四部作」

作家 三好徹
出版日1967年01月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2020/04/02 02:48登録)
(ネタバレなし~途中まで)
 1959年。「私」こと、極東自動車KKの社員で38歳の清川暁夫は、戦時中は海軍航空隊の戦闘機乗りとして鳴らした前身があった。清川は社命で、フィデル・カストロ率いる革命軍が国政に干渉するアメリカ勢力を一掃した直後のキューバに出向。アメ車を排斥した同国の市場に、自社の自動車を売りつけようとする。だが彼はキューバに向かう途中の航路で、大事な妹・紀子の新夫である青年、ビル・黒崎の姿を見かけた? 黒崎は紀子とともにちょうど今、新婚旅行で八丈島に向かっているはずである。自分の目を疑いながらキューバに着いた清川。そしてそこで彼を待っていたのは、思いもよらぬ数々の出来事だった。

 1963年に早川書房の新作書き下ろし叢書「日本ミステリ・シリーズ」の一冊として刊行された、和製エスピオナージュ。
 後続の三長編『風に消えた男』『風塵地帯』『風葬戦線』に連なる「風四部作」(主人公は全部別で、海外を舞台にした巻き込まれ型エスピオナージュという形質のみが共通するはず)の皮切りとなった作品でもある。

 以前にも堀田作品『スフィンクス』のレビューで触れたが、評者は1950~60年代の国際情勢的な現代史にはさほど詳しくないのだが、当時のキューバ情勢と国情は(作者の記述に誤謬がないことを前提に)おおむね分かりやすく明快に描かれている。
 その上で主人公・清川が現地キューバで遭遇する予期しない事態の数々、さらに日本にいるはずなのに現地にその影が見え隠れする義弟にして謎の男・黒崎の存在……といった興味で読者を小気味よく刺激し、テンポ良く頁をめくらせる。

 半世紀以上前に作者・三好徹が語ろうとした、当時の南米を舞台にした巻き込まれ型スリラーの緊張感を、21世紀の評者がダイレクトに体感できたということは多分ないのだろうが、それでも(舞台が外地であっても)主人公・清川を囲む日常の壁が少しずつ脆くなっていくサスペンスは十分に満喫できる。クライマックス、陰謀の実態が明らかになり始めてからの二転三転する展開も心地よい。個人的にはいま読んでも賞味要素の少なくない佳作~秀作であった。



(以下:ネタバレ?)
 10年前の空さんの本作のレビューは、黒幕の(中略)自身のさる資質ゆえ、主人公の清川を謀略に巻き込む必然性がないことを指摘。なるほどごもっとも、とも思わされる慧眼でご意見だが、個人的な解釈としては<あの男>は、表向きは(中略)を(中略)させる作戦を、成功させるべく演じながら、その実、主人公と(中略)の空中での、事故に見せかけた(中略)を狙っていたのではないか? とも思う。そう考えると、最後に主人公が掴まされたあの物騒な仕掛けが意味を持ってくる。
 この作品は陰謀の全容も、そもそも黒幕の(中略)の本意も結局は最後まで明かされず(もちろん、それはエスピオナージュとしてひとつのスタイルだが)、読者はとにもかくにも物語が終盤に迎えた決着を受け入れるだけだが、少なくとも断片的には、最後の展開のなかに、かのキーパーソンの思惑を想像することはできるような気がします。言うまでもなく、これはあくまで個人的で勝手な読解なのですが。

No.1 5点
(2010/11/27 20:41登録)
1959年、自動車(ジープやトラクター)販売のため、カストロ首相による革命から間もない時期のキューバに赴任した男の一人称で書かれた巻き込まれ型エスピオナージュです。
読んでいる間は、次々に起こる不可解な出来事や政治情勢のための日本との連絡困難が興味を盛り上げ、おもしろかったのですが、後で考えてみると、相当ご都合主義が目立つ作品でした。まずスパイのリーダーの技能を考えると、自分自身でそれを行わず民間人を脅迫してやらせるという危険な方法を採る理由が全くないこと。さらにその企画の性質上、実行の数ヶ月も前から民間人を巻き込む準備をしていたはずがないこと。以上2点は、本作品の謀略の根本的な部分に関する問題点です。
さらに、日本との連絡を阻止する理由がないこと、最後の方の場面で刑事が登場できた経緯など、論理的に考えれば問題点は山積みです。
また、ラストの少々感傷的な故国に対する思いはよかったのですが、ここまで何のためにスパイたちが様々な努力を重ねてきたのか、肩すかしの感は否めませんでした。

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