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ミステリの祭典

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模造人格

作家 北川歩実
出版日1996年09月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 Tetchy
(2022/02/03 00:13登録)
本書の謎は1点に尽きる。それは木野杏菜と名乗る女性は本物なのか?

彼女に関わる人物が次から次へと登場し、色々な証言が出てくるが、そのどれもが信憑性があり、そしてそのどれもが疑わしい。
この1人の女性、木野杏菜の正体が本人なのか、それとも木野杏菜の記憶を刷り込まれて作られたコピー、即ち模造人格を植え付けられた別人なのかがはっきりしないのは渦中の人物である木野杏菜が記憶喪失であるからだ。
謎自体はシンプルながらデビュー作同様、とにかくこの北川歩実という作家はこの1つの謎をこねくり回す。

再び現れた木野杏菜、即ち外川杏菜は本人ではなく、木野茜が外川の遺産を横取りするため外川杏菜の記憶を刷り込ませた別人だ。
いや、4年前に殺された杏菜は別人で、彼女こそは交通事故で記憶喪失になった本当の外川杏菜だ。
この2つの選択肢を行ったり来たりする。

しかし我々の記憶というものは何とも薄弱なものだろうか。これは単に物語の上での話ではない。
例えば仕事でも自分のミスを認めようとしたくないがために、やっていないことをやったと記憶をすり替える。
また声の大きい人が語った根拠もない話を事実だと受け止めようとする。

それほど我々の記憶というのは薄くて弱くて脆いものなのだ。
では自我を形成する人格とはいったい何によって立脚しているのだろうか?
自分が自分であることの根拠はそれまで歩んできた人生という記憶ではないか。
しかしその記憶が薄くて弱くて脆いものであるならば、いとも簡単に人の人格は変えられてるのではないか。
これが本書の語りたかったことだろう。

もし貴方が貴方であると訴えても周囲が信じようとしなかったら、貴方は貴方であることを自分自身が信じていられるだろうか?
結局我々の現実というのは自分だけの確信だけで成り立っておらず、それを支持する他者の意見によって補強され、そして確立しているのだ。

どれだけ自分を信じてもそれを他人が受け入れなければ、そして他人が頑なに信じたことを押し付けれれば、そしてそれが多数を占めれば我々一己の存在などすぐにでも上書きされてしまう。
なんともまあ、恐ろしいことを見せつけてくれたものである、北川歩実氏は。

この作品を読んだ後、貴方は確かに貴方自身であると胸を張って証明できるだろうか。
正直私は自信が無くなってきた。

No.1 6点
(2010/12/28 11:09登録)
この作者はどんでん返し連続技が評判だということですが、本作に関する限り、個人的には普通に意外な真相の結末を用意した心理サスペンスという印象を受けました。
その意外な部分が明らかになるクライマックス部分は、後から考えてみると、ある人物の参加はどう見ても余計で不自然になっているだけです。その人物の狂気には辟易するぐらいなのですが、他の登場人物たちも大部分常軌を逸したところがあります。
タイトルでも暗示される基本的なアイディア自体には感心しましたし、文章も読みやすく、二人の視点を交互に配置している点もなかなか効果をあげていると思えます。そんなわけで全体的にはおもしろかったのですが、ちょっと長すぎるかなという感じはぬぐえません。上記某登場人物の異常さを抑えた設定にした方が、無駄を省いてきれいにまとまったのではないかとも感じられます。

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