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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1530件

プロフィール| 書評

No.630 6点 呪い!
アーロン・エルキンズ
(2013/07/15 22:24登録)
再読ですが、オリヴァー教授が襲われるシーンと銃創の問題が多少記憶に残っていた程度で、舞台がマヤの遺跡だということも、事件の真相も全く覚えていませんでした。全体の印象も薄かったわけですが、読んでいる間はなかなか楽しめました。まあ事件からくりは、ある程度想像がつくでしょうが、こういう渋めの構成は好きですね。
神秘主義信者の登場人物が語ることを聞けば、タイトルの「呪い」というよりむしろ予言と考えた方が筋が通るような気もします。吸血キンカジュー登場の冗談なんてどこが呪いなんだか。
最後に犯人を示す手がかり(証拠)については、不満がありました。勘違いを起こさせるにはきわめて都合の良い偶然が必要ですし、また、なぜ犯人はその二人だけで、他に該当者はいないという確信が持てたのかも納得できません。犯人がたまたま知ったのはその二人だったというだけなのですから。


No.629 6点 レディ・ハートブレイク
サラ・パレツキー
(2013/07/12 22:12登録)
内容とは関係ない邦題ですが、原題は"Bitter Medicine"で、まさにテーマそのものを示しています。さらに本編が始まる前、謝辞の中でも産婦人科のことが書かれているのですから、殺人が起こってすぐ、相当鈍い人でも方向性の見当はついてしまうでしょう。
途中、あまりに明らかな手がかりが出てきて、ヴィクも当然すぐに気づくので、かえってダミーではないかとさえ思ってしまいました。最後の尾行におけるある意外性もやっぱりという感じです。謎解きとしてはまあその程度なのですが、レギュラー・メンバーだけでなく最初に殺される人など、魅力的な人物の造形は(悪役も含め)なかなかいいですし、ヴィクの友人ロティの診療所での事件や、ヴィクの違法捜査など、ストーリー展開は最後まで楽しめました。
うっかり見過ごしていたのですが、『ダウンタウン・シスター』に出てくるあるキャラは本作で初登場だったんですね。


No.628 5点 白椿はなぜ散った
岸田るり子
(2013/07/07 20:28登録)
7章に分かれた作品ですが、全体の1/3ぐらいもある第1章は一人称形式による少々偏執的な片思い小説とも言えそうな感じで、全然ミステリではありません。まあこんな状態ではまともな結果になるはずがないとは想像できるのですが、第三者的な視点から見れば当然と思えることにも全く気づかない本人の偏った心理は、この作者らしくよく描けています。
ところが第2章からはその約10年後に飛び、小説の盗作問題から殺人へと話は発展していきます。奇数章は第1章と同一人物の一人称形式で、「私」はiPS細胞研究者になっているのですが、学生時代の妄執を抱えたままでマッド・サイエンティストぶりを見せてくれます。
殺人犯はよくあるパターンの手がかり(気づきませんでしたが)から論理的に指摘されます。ただ最終章におけるいい意味で後味の悪い結末と殺人事件との関連についてだけは、ちょっとがっかりしました。


No.627 6点 デイン家の呪い
ダシール・ハメット
(2013/07/03 22:11登録)
ハメットの長編中一般的に最も低評価な作品で、昔最初に読んだ時も、へんな小説だという印象を持ったのでした。しかし今回新訳版で再読してみると、意外に楽しめました。ハメットの長編ということで期待するものと実際の作品とのギャップがあり過ぎるのが、不満の原因かとも思われます。
まず、本作はむしろ3編の連作中編集と捉えた方がよい構成になっています。そして最後には3編全体をまとめる結末を用意しています。また、事件そのものもタイトルどおり一族の呪いがモチーフになっていて、ギャングの世界等とは無縁です。コンチネンタル・オプも、無名なわけですから別人ではないかという疑念さえ持ったのですが、これはポイズンヴィルでの事件(『赤い収穫』)のことが語られるので、思い過ごしでした。
ひねりのある3部構造に加え、カー並みの怪奇趣味や不可能犯罪まで出てくる本作は、むしろ最近の国内本格ファンに受けそうにも思えます。


No.626 5点 配当
ディック・フランシス
(2013/06/30 18:49登録)
フランシスの異色作で、前半と後半の2部に分かれ、兄と弟それぞれの一人称形式で書かれています。その2部の間に14年の歳月が流れているのですが、現在から見るとそのような間をあけるのが不向きなアイディアでした。的中確率1/3という競馬予想システムのプログラムを記録したカセット・テープを巡る話で、1981年作というと、確かにその頃はコンピュータ・ソフトをテープに記録していましたねえ、と懐かしく思い出すのですが、その後すぐに今でもまれに使われるフロッピー・ディスクに取って代わられますから。
まあコンピュータに関する知識と将来予測についてはさておき、他の面でも2部構成にしたことに不満はあります。本作の悪役はこの作者の中でも特に知性に欠けるのですが、14年後にも何の進歩も見られず、後半の話が単純すぎるのです。ラストは意外性があるとは言えるかもしれませんが。


No.625 6点 首切り坂
相原大輔
(2013/06/25 22:12登録)
トリックがバカミス系だとか、若竹七海によればお茶目だとか言われていますが、首無し地蔵の呪いの正体にはかなりまともに感心しました。まあ現実にはそんな極端なのは存在し得ませんが。それよりも、その後に加えられたひねりの方に、犯人が事前に知っておかなければならないはずのことについてちょっと無理があるように思われます。少なくとも作中ではその点については、憶測すら書かれていません。
明治44年の事件のはずが、第1章が江戸時代の怪談話なので、少々驚かされました。この冒頭部分もうまく本筋にからめてくれています。明治末の雰囲気もなかなかよく出ていて、新橋あたりの情景など事件とは関係ない部分で楽しめました。現場の道が街中でもないのに珍しく「アスハルト」舗装されているとか、言葉にも気を使っています。
読み終えた後で見なおすと、このカバーイラスト、なかなかいいですね。


No.624 5点 シカゴの事件記者
ジョナサン・ラティマー
(2013/06/21 22:43登録)
訳者によるノートには、ラティマーはハードボイルドに分類するのをためらわせるということが書かれていますが、それどころか本作はドタバタコメディ・ミステリと言った方がいい内容です。主人公がちょっと間抜けすぎたり、登場人物の整理が悪いところはありますが、なかなか楽しめました。特にエレベーター・ボーイが新聞社に来て証言しようとする部分の嘘っぽさなど、作者は映画脚本にも携わっていたためか、コメディ映画を見ているような感覚でした。
しかし、ラストにはがっかりさせられました。ラティマーは謎解き面がすぐれている作家という認識を持っていたのですが、明らかな論理的欠陥があるのです。問題は決め手となる証拠で、その証拠が存在し得るためにはある日常的な行為が必要なのですが、その行為を誰がなぜやったのか、また犯人がなぜそれに気づかなかったのか、全く説明されていないのです。


No.623 6点 メグレと老婦人の謎
ジョルジュ・シムノン
(2013/06/17 22:40登録)
何らかの事件でメグレに会いたいと司法警察にやってくる人は時々いますが、本作ではそれが表題にもなっている老婦人(原題を直訳すれば「狂女」でしょうが、フランス語の”folle”は熱烈なファンといった意味にもとれます)です。最初にたまたま老婦人の話を聞くことになったラポワントが、その後も主としてメグレに付き従うことになります。
その老婦人が殺されますが、犯人は老婦人の家で何を探し回っていたのか、というのがメインの謎です。しかしこういう解答はシムノンにしては珍しいですね。それが老婦人の棲んでいた、19世紀さえも思わせるような古いアパートの内装と対照的です。後で考えてみると、確かにそれで登場人物たちの行動理由が無理なく説明できるという真相になっています。
メグレが奥さんと一緒に散歩したり、公園のベンチに座ったり、といったシーンが多いのも、本作の特徴の一つでしょうか。


No.622 6点 虚妄の残影
大谷羊太郎
(2013/06/13 22:30登録)
森村誠一『高層の死角』と同年の乱歩賞応募作で、作者が翌年同賞を受賞した後に出版された作品です。出版に際して改稿されたとしても部分的でしょうし、『高層の死角』がなかったら乱歩賞を獲っていたかもしれないと思わせられました。
初期の大谷羊太郎は密室にこだわっていたようですが、本作では一応密室ではあるもののあまり不可能性は強調されていません。それよりも現在の毒殺事件と、その後に浮上してくる過去の2つの迷宮入り事件とがどうつながってくるかというところが見どころになっています。この全体構造が、偶然の使い方にも意外性があり、なかなかよくできているのです。本筋からはずれる部分で、筆跡発見に関する偶然は確率が低すぎるという意見もあるかとは思いますが、犯人または探偵にとって都合の良い偶然が続くというわけではないので、これはこれでいいでしょう。


No.621 7点 ラスコの死角
リチャード・ノース・パタースン
(2013/06/09 18:25登録)
訳者あとがきでは、チャンドラーやロス・マクの伝統を受け継ぐという評価が載せられていますが、共通点は主人公の一人称形式ということぐらいのもので、内容的には全然違うでしょう。タイプとしてはいかにもベスト・セラー系のポリティカル・スリラーです。
主人公のクリス・パジェットの性格設定もクールなマーロウやアーチャーとは正反対にあまりに直情的で、勤めている経済犯罪対策委員会の中で人に噛みついてばかりいます。事件が大変なことになってきて慎重さを要求されるに至って、さすがに自制してきていますが、前半は少々うんざりするぐらいです。だからと言って作品そのものを批判しているわけではありません。この主人公の性格も、読み終えてみるとストーリーにうまく利用されていたことがわかります。最終章で一気に事件全体に鮮やかな決着をつけてくれて、爽快感もなかなかのものでした。


No.620 6点 学校の殺人
ジェームズ・ヒルトン
(2013/06/06 22:36登録)
ジェイムズ・ヒルトンが『失われた地平線』(1933)でブレイクする前年に、グレン・トレヴァー名義で発表したミステリです。子供向け翻訳も複数出ていたりして、非専門作家が例外的に書いた古典作品としては、少なくとも日本ではミルンの『赤い館の秘密』に次ぐ人気作と言えるでしょう。
これも久しぶりの再読で、学生の2つの「事故死」状況についてだけは何となく記憶に残っている程度だなと思いながら読み進んでいったのです。ところが犯人が不用意に漏らす一言(英語では1語のみ)については、その部分で記憶がよみがえりました。犯人を示す根拠がそれだけというのはちょっと弱いかなとも思えますが、その時犯人の語る内容全体も重要なことなので、まあいいでしょう。おおよその真相は非常にわかりやすいですが、犯人の性格設定はさすがですし、最終章の意外なおまけもあり、全体的にはかなり楽しめました。


No.619 5点 肺魚楼の夜
谺健二
(2013/06/01 11:27登録)
谺健二を読むのは初めてですが、阪神淡路大震災が人々に残した心理的傷跡をテーマにしながらも、いかにも「本格」的な怪奇な謎を提示して見せる作家だそうで。本作も、完全にホラーな出来事が起こったという殺人未遂事件で幕を開けます。犯人逮捕直前シーンのホラーぶりはなかなかのものでした。それ以前の、探偵役の有希が肺魚の怪物に襲われる悪夢めいたシーンも含め、偶然だらけのご都合主義ですが、こんな現象を起こして見せるには、偶然に頼らないと無理です。
犯人の計画や行動の面から見れば、不満も多いでしょう。たとえば犯人による写真トリックは、有希が解説する方法では実際には不可能です(実現可能にする別法あり)。
事件解決後にあるサプライズは、読者にとっては事件最大の謎に対する解答にもなっていると思いますが、やはり心理的偶然の積み重ねが理由の説得力を減じている気がして、すっきり感動とまではいきませんでした。


No.618 6点 薄灰色に汚れた罪
ジョン・D・マクドナルド
(2013/05/27 23:14登録)
ジョン・Dのトラヴィス・マッギー・シリーズはハードボイルドに分類されることも多いようですが、本作を読んだ限りでは、いわゆる正統派だけでなくスピレイン等にもあったそれらしい香りはどうも感じられません。
殺された親友を経済的に追い詰めた連中をペテンにかけて痛い目に合わせるという筋立てですが、ひとつは完全に詐欺罪が成立する策略なので、だまされた悪役が泣き寝入りしたままとは限らないと思われるところが気になります。訳者あとがきなどで褒められているパスの最終的扱いも、スカッとする結末とは相容れない感じを与えていて、そういったミクスチャーな感覚がこの作家の特質なのかもしれませんが、気持ちよくきれいにまとめていないのも、日本では今一つ人気が出ない理由になっているのかもしれません。
それでも、個人的には同じマクドナルドでもフィリップよりは未訳作出版や絶版の再刊を望む作家です。


No.617 7点 フランチャイズ事件
ジョセフィン・テイ
(2013/05/24 23:53登録)
ずいぶん前に1度読んだことのある作品ですが、内容はすっかり忘れていました。覚えていたのは、なんとなくよかったなという印象のみ。
事件そのものは誘拐暴行事件、それもその嫌疑をかけられた人間の無罪を証明しようと事務弁護士が奮闘するというだけの話ですから、地味にならざるを得ませんし、意外性のある真相が明かされるというわけでもありません。途中に、誘拐されたという娘の証言の一部に矛盾点があることが指摘されるところだけは謎解き的な興味がありますが、それもフェアプレイが守られているわけではありません。この作家のレギュラー、グラント警部も今回は敵役で、出番もごくわずか。それにもかかわらず、読んでいてやはり、「なんとなく」おもしろいのです。
古風な訳文表現はそれほどひどいとまでは思いませんでしたが、「調らべる」「難ずかしい」等の妙な送り仮名だけは、ちょっとねえ…


No.616 7点 凍った太陽
高城高
(2013/05/19 09:05登録)
11の短編の後にエッセイを3編加えた構成になっています。このエッセイの1つ『われらの時代に』を読むと、高城高の考えるハードボイルドとは、ハメット以来のミステリと限らず、まずヘミングウェイであることがわかります。ロスマクに対する評価も、チャンドラーよりもヘミングウェイとの関係で語られています。
そんな作者ですから、ヘミングウェイが重要な意味を持つ作品もありますし、またミステリではない『火焔』、『廃坑』も収録されています。『ラ・クカラチャ』(スペイン語でゴキブリの意味だそうで)や『賭ける』も、最後にミステリ的なオチを用意してはいるものの、むしろそれ以外の要素が読みどころと言えるでしょう。『淋しい草原に』は作者の代表作の1つとされているそうですが、謎解き的な意味では本短編集の作品中でもむしろ平凡です。表題作は恐喝犯の設定に若干不自然さも感じますが、ラストの急展開にはなかなか驚かされました。


No.615 6点 メグレの退職旅行
ジョルジュ・シムノン
(2013/05/15 22:44登録)
『メグレ夫人の恋人』に続き『メグレの新捜査録』からの6編を収録した短編集です。その上巻とは逆に、かなり長い作品が4編あり、その前に短い2編が置かれています。
短い『月曜日の男』と『ピガール通り』は、たいしたことはないかな、といったところ。次の『バイユーの老婦人』はメグレものには珍しいハウダニットの佳作になっています。後の3編は本のタイトルにもあるメグレの退職がらみで、まず『ホテル”北極星”』は退職2日前の事件です。ホテルで起こった殺人事件で、司法警察に連行された若い女セリーヌがなかなか印象的。『マドモワゼル・ベルトとその恋人』は退職後田舎で暮らしているメグレに宛てられた手紙から始まります。なんとこの作品では、常連リュカ部長刑事が殉職したという設定になっています。最後が『メグレの退職旅行』で、英仏海峡に臨む港町で嵐の夜という、シムノンお得意の雰囲気がたっぷり楽しめる作品でした。


No.614 8点 グリーン・サークル事件
エリック・アンブラー
(2013/05/12 14:30登録)
スパイ小説の巨匠の手になる1972年英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞作ですが、翻訳が創元社から出たのはなぜか2008年になってからです。
スパイというより中東を舞台にした国際謀略小説という感じです。ある意味、主人公の同族企業社長がスパイ的な役割を担うことにはなるのですが。複数の登場人物の一人称形式を章ごとに組み合わせた形式をとっていて、全8章のうち4章がこの社長の視点です。
現在まで続くパレスチナ紛争を扱っているわけですが、パレスチナ過激派ゲリラが自社で密かに爆弾を作っていることに気づいた社長と過激派リーダーの心理的かけひきが興味の中心で、過激派がどんなテロ行為を目論んでいるのかを少しずつ明らかにしていく知的興味もじわじわとサスペンスを盛り上げていきます。決して派手な展開に持ち込まず、リアリティがあるからこその緊迫感に徹しているのは、さすがでした。


No.613 7点 石の下の記録
大下宇陀児
(2013/05/08 23:09登録)
昭和23~25年に雑誌に連載され、昭和26年の探偵作家クラブ賞を受賞した作品です。戦後の時代状況を捉えた風俗小説として評価が高く、木々髙太郎が絶賛したというのも納得できます。高木彬光『白昼の死角』のモデルにもなった光クラブ事件もいち早く取り入れられています。しかし今回久しぶりに読み直してみて、ただ当時の風俗というよりむしろ社会派の先駆的作品であるとの印象を強く持ちました。
謎解き的な興味から言えば、確かに弱いでしょう。トリックのための言い訳はやはり苦しく、誰でも怪しいと気づいてしまいます。またトリックと今書きましたが、実はそう呼べるほどのものでもありません。動機にもなった犯人のある誤解については、そのことが語られる場面での人物出入りを工夫すれば誤解に説得力が増したのに、とも思いました。そういった不満もありますが、全体的には楽しめました。


No.612 7点 探偵になりたい
パーネル・ホール
(2013/05/05 16:26登録)
民事専門弁護士の下で働いている気弱で平和主義者の私立探偵が主人公のお話第1作です。邦題では「なりたい」ですが、原題はシンプルにただ “Detective”。実際のところ、「わたし」ことスタンリー・ヘイスティングズは探偵になりたいわけではありません。むしろ「探偵」ってなんだろう、というところが、ある意味本作のテーマですから、やはり原題の方が意味が通ります。ここで言う探偵とは、ポアロみたいなのではなく、作中にも名前が出てくるサム・スペードやマイク・ハマーで、内容的にも実際ハードボイルドに近いところがあります。
この主人公のキャラクターがなんとも微笑ましいのが魅力で、1ページ目の初めての依頼人とのやり取りからして、すっとぼけていて笑わせてくれます。謎解きミステリ度はハメットやスピレインと比べるとずいぶん低いのですが、悪役をやっつける手立ては、なかなか工夫されています。


No.611 7点 海の秘密
F・W・クロフツ
(2013/05/01 22:19登録)
クロフツというとアリバイ崩しかと思われるかもしれませんが、それはこの作者から影響を受けた鮎川哲也の鬼貫警部シリーズがそうだからということからの思い込みにすぎないのではないでしょうか。意外に様々な事件のパターンを試みている作家だと思います。それでも変わらないのはフレンチ警部(とは限りませんが)の地道な捜査ぶりです。
本作では海中から発見された木箱に死体が入っていたということで、フレンチ警部は似た状況として、友人のバーンリー警部が扱った『樽』詰め死体事件のことを語っていますが、その後の展開は全く異なります。木箱がどこで海に捨てられたのかをフレンチ警部が検討していく初期捜査の段階からして、クロフツらしい緻密さですが、タイトルにもかかわらず、海に関係あるのはこの最初部分だけ。被害者の見当がついてからも二転三転する仮説を克明に検証していく構成は、充分楽しめました。

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