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ミステリの祭典

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凍った太陽

作家 高城高
出版日2008年05月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 7点 斎藤警部
(2020/09/06 13:39登録)
X橋付近/火焔/冷たい雨/廃坑/淋しい草原に/ラ・クカラチャ/黒いエース/賭ける/凍った太陽/父と子/異郷にて 遠き日々 *以下エッセイ われらの時代に/親不孝の弁/Martini. Veddy, veddy dry.  (創元推理文庫)

エッセイ篇で告白されている通り文体、表現へのこだわりが結集し、書かずしてシーンを描く力、焼き付ける技が半端でない。ラストシーンの進む方向に開きを持たせて、且つ曖昧な詰めの甘さは感じさせない。文章は達者だし、すっとぼけは上手いし、北国の都市に田舎を舞台にリアリティというか本物っぽさが充満。 オッと思う独特な表現が、しつこくない絶妙の頻度で現れる。 被殺者、被害者の意外性、そのショックの強さを特筆すべき作品も目を引く。 時系列のうまいシャッフルも自然で、それこそリアリティを盤石にする役割まで果たす。 ただ、本格ミステリ色を備える一部作品では、様々な美点が終盤で急に損なわれてしまう傾向が感知される。

昭和30年代(主に前半)の殺伐感でムンムンの一冊ですが、その感覚を剥き出しの粗さで提示したデビュー作「X橋付近」、研磨を重ねて鋭さと丸みを兼ね備えた名作感ある「ラ・クカラチャ」の二作がその極致で息苦しいほど。 「火焔」「廃坑」の二つは、舞台は全く違うが”その後どうなっちゃうの?”って他人事でなく危惧してしまうサドゥンエンドに引き擦られるのが共通。映画化も納得の「淋しい草原に」はノスタルジックなS30年代を味わうのに最適。ユーモア溢れてちょっと異色の「冷たい雨」も映画っぽい。本格ミステリ性がいちばん強い「黒いエース」は、ハードボイルド展開部の本物感は素晴らしいが、前述した様に謎解きの所で急に作り物くさくなるのは、まあ愛嬌だ。

大学のフェンシング部を舞台とした硬質の物語「賭ける」以降の四作には’志賀由利’なる女性が登場するが、著者はシリーズ物とは考えていなかったとの事。よりハードに引き締まり謎解きも渋く決まった「凍った太陽」は流石の表題作、アクションも見せ場たっぷりでやはり映画の匂いがする。他の作品では翳の深いミステリアスな存在だった由利さんが、ユーモア強く狂言の様な「父と子」では峰不二子みたいな立ち回り(笑)。 最後の「異郷にて 遠き日々」だけは何と平成19年に発表された、全く衰えの見えない涙のカムバック作。。。。’志賀由利’四篇を敢えて連作と捉えれば、、連作だとするとかなり独特で意外性あるその構成も手伝い、また大いなるブランクが熟成の味と芳薫を放ちまくった恩恵も相まって、単に血沸き肉躍るとも、深い溜息をつかされるだけとも違う、複雑に心を揺さぶられてぼうっとしちゃううれしさを堪能できます。

エッセイも小説同様、昭和30年代と平成19年のものを並列。 小説同様、ヘミングウェイがキーワードになる所が多いです。 著者のハードボイルド文体論には頷ける所が多いが “動詞も力強い四段活用のものが適当だ” って・・・古文かと(笑)。 五段活用の事なんでしょうが、これはなかなか目から鱗が落ちました。

No.2 6点 まさむね
(2013/09/24 23:24登録)
 国内ハードボイルド作品の黎明期を支えた作家の短編集。
 個人的には,作者が弱冠20歳の時(昭和30年)に新人懸賞で一席を獲得したデビュー作「X橋付近」を目当てに手に本書を手にしたのですが,その他の作品も十分に楽しめました。 特に,氏が東北大学を卒業し,北海道の地方紙記者となってから江戸川乱歩の奨めで書いたという,「賭ける」「淋しい草原に」「ラ・クカラチャ」「黒いエース」には,氏の力量を再確認させられる思いでした。(ミステリ的な側面は弱いかもしれませんが・・・)
 また,「賭ける」から始まる一連の由利シリーズ(表題作もこのシリーズ)や付属されているエッセイも興味深かったですね。
 ちなみに,舞台は一貫して仙台か北海道。この舞台がまたしっくりくるんですよねぇ。

No.1 7点
(2013/05/19 09:05登録)
11の短編の後にエッセイを3編加えた構成になっています。このエッセイの1つ『われらの時代に』を読むと、高城高の考えるハードボイルドとは、ハメット以来のミステリと限らず、まずヘミングウェイであることがわかります。ロスマクに対する評価も、チャンドラーよりもヘミングウェイとの関係で語られています。
そんな作者ですから、ヘミングウェイが重要な意味を持つ作品もありますし、またミステリではない『火焔』、『廃坑』も収録されています。『ラ・クカラチャ』(スペイン語でゴキブリの意味だそうで)や『賭ける』も、最後にミステリ的なオチを用意してはいるものの、むしろそれ以外の要素が読みどころと言えるでしょう。『淋しい草原に』は作者の代表作の1つとされているそうですが、謎解き的な意味では本短編集の作品中でもむしろ平凡です。表題作は恐喝犯の設定に若干不自然さも感じますが、ラストの急展開にはなかなか驚かされました。

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