学校の殺人 原書元版はグレン・トレヴァー名義/別邦題『学校殺人事件』 |
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作家 | ジェームズ・ヒルトン |
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出版日 | 1956年01月 |
平均点 | 5.40点 |
書評数 | 5人 |
No.5 | 8点 | 人並由真 | |
(2019/10/10 17:54登録) (ネタバレなし~途中まで) 1927年の12月。天涯孤独の売れない詩人だが、親族の遺した不動産の収入で有閑の日々を送る28歳の独身青年コリン・レヴェルは、以前に母校オックスフォード大学で失せ物の行方を推理し、素人名探偵と評された事があった。そんなレヴェルのもとに、彼のハイスクールの母校オーキングトン校の現在の校長ロバート・ローズヴィアから、アマチュア探偵の実績を聞いたので相談したいことがあると連絡が来る。ローズヴィアが校長に就任したのは1922年。レヴェルは初対面だったが、興味を抱いて招待に応じた。およそ10年振りに母校に着いたレヴェルは、つい先日、この学校の寄宿舎で一人の学生が頭上に落ちてきたガス式の暖房器具で事故死、だがそこに殺人の疑いがあるとローズヴィアから聞かされる。やがて事件は落ち着きと進展を繰り返しながら、連続殺人劇にと……。 1932年のイギリス作品。ヒルトン原作の映画『心の旅路』は大好きなので、原作もいつか読みたいと思っている。ただまあミステリが主食のこちらからすればまず本作から……ということになるのだが、大昔に買った創元推理文庫版が見つからない。Amazonでまた買うのもアレだし、図書館にもないし、と思っていたら、今年たまたま出かけた古書市で世界推理小説全集版を300円で入手。今回ようやくこれで読んだ。 (なおごく個人的な話題でナンではあるが、今年の半ばからちょっと考えがあって、本サイトで誰もレビューしてない作品ばっかを選んで読んで、感想&コメントを投稿してきた。そこで今日本当に、気まぐれで思いついて、ためしにどのくらいその趣旨のレビューを投稿したかとカウントしたらきっちり100冊(笑)。いやードラマチックだね? と言うわけで一区切り着いたということで、今日からまた、先に皆さんがレビューされている作品も読んで感想&コメントを書かせていただきます~笑~) で、本作『学校の殺人』だけど、いや、個人的にはとても面白かった。 翻訳がおおむね古びてないこともあるが、非常に読みやすい文章で、特に見開き2ページほぼ会話ばかりという、まるでラノベか、ロス・H・スペンサーか、という箇所まである。 第二次大戦前の英国の田舎のハイソな人々? いやいや、今の21世紀日本人にも通じる庶民感覚ですよ、という感じの登場人物たちの描写も小気味よい。ハイテンポに展開するストーリーには、始終英国風のドライユーモアがそこかしこに漂い、ああよき時代のイギリスミステリを読んでいるという心地よい気分になる。 あと私的にニヤリとしたのは、こちらの読書欲を良い感じに煽ってくれた、各章の見出しタイトル。 本文の各章に見出しをつけること自体はよしとして、巻頭の目次にその見出しを並べるのは先の展開を割ってしまうという意味で良し悪しの面もあるんだけど(近年の論創のクラシック翻訳なんか、たぶんその配慮から目次を割愛している)、本書の場合は自分のようなタイプの読み手の背中をグイグイ押してくれた。ちなみに後半のある章の見出しなんか、いかにもダブルミーニングで、ふっふっふ、である。 自分としては真犯人もかなり意外であった。ただまあこれについては、以下のネタバレで言いたいことがあるけれど。 【以下ネタバレ・ ①すでに本作を読了の方 ②乱歩の海外作品「類聚ベスト・テン」(初出「ぷろふぃる」1947年4月号) に挙げられた名作10作品を全部読んでいる方 のみ、お読みください】 ************************************ ************************************ ※とにかく本作は、①アマチュア(あるいは若手)探偵からベテランのプロ探偵への引き継ぎ②そのアマチュア(若手)探偵の恋愛ドラマ③でもって犯人の設定……と、主要なプロットのコンセプトが、全部10年前の「あの作品」のパクリだよね? この『学校の殺人』も結構メジャーなクラシックだと思うんだけど、今までその事実を誰も言ってない? のはかなり意外であり、同時にこちらには有り難かった。 当時のリアルタイムの英国の反応はどうだったのであろう。もちろん差分的な違いも相応にあるので、みんな往事の読者は「お約束の枠の中で新しい妙味を見せた」という感じで好意的に受け取ったのであろうか。 【以上・ネタバレ解除】 なお評者本人としては、その点を踏まえてなお、この作品が結構スキになりました。冒頭、売れない詩人というクリエィティブな職業にしがみつく主人公が、詩の引用を掲げ、最後にまた別の詩を引いて物語が終る、そんな情感ある余韻なんかとてもいい。 評価は0.5点くらいオマケかな。本サイトとかでの評価の低さを裏切って、あくまで個人的にながら楽しめたので、ということで。 【2019年10月23日追記】 ※上に100冊、ノンストップで、どなたもレビューしてない作品を……と、書いたが、見直すと途中で一冊、例外がありました(汗)。まあ、またそのうち、向いたら気がトライします(笑)。 |
No.4 | 4点 | クリスティ再読 | |
(2017/03/23 23:16登録) メモによると昔読んだはずだが...今回読んでみて、全然思い出せない。まあミステリとしては地味なものだし、戦前の大ベストセラー作家ヒルトンにしても、小説としてキャッチーなところはほとんどない。全体的にはそう悪くはないが凡作、という感じ。後半の恋愛&スリラー風描写とか、冒険小説風のセンスかなぁ。それにしても1930年代にしては、小説的内容が古めかしいようにも感じるな。 たとえばクラシック音楽の歴史とか見ても、ジャンル立ち上がりの時点での大人の事情とか関係者の人間関係が、古典レパートリーのかたちで化石化して定着してる..なんてことに遭遇することがあるが、本作もそういうところがあるように感じる。「鎧なき騎士」「心の旅路」「チップス先生さようなら」の大ベストセラー作家ヒルトンが書いたミステリ!、って戦前ならジャンルの宣伝にもなったわけだしね.... |
No.3 | 4点 | nukkam | |
(2016/06/13 01:52登録) (ネタバレなしです) 英国のジェームズ・ヒルトン(1900-1954)は純文学畑の作家ですが作家人生の最初の10年間は鳴かず飛ばず状態が続いていて、その時期の1931年に収入を得るために書いた唯一のミステリーが本書です。手っ取り早く成功する手段がミステリーを書くことというのはいかに当時のミステリーの需要が大きかったか、なぜ第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時期がミステリー黄金時代と呼ばれるかを示すエピソードの一つですね。ただ同時代のミステリー作家の本格派推理小説と比べると犯人の正体を隠すテクニックが未熟で犯人当てとしては容易過ぎると思います。A・A・ミルンの「赤い館の秘密」(1923年)も同様の弱点を抱えていますが発表時期を考えると本書は厳しく評価せざるを得ません。 |
No.2 | 6点 | 空 | |
(2013/06/06 22:36登録) ジェイムズ・ヒルトンが『失われた地平線』(1933)でブレイクする前年に、グレン・トレヴァー名義で発表したミステリです。子供向け翻訳も複数出ていたりして、非専門作家が例外的に書いた古典作品としては、少なくとも日本ではミルンの『赤い館の秘密』に次ぐ人気作と言えるでしょう。 これも久しぶりの再読で、学生の2つの「事故死」状況についてだけは何となく記憶に残っている程度だなと思いながら読み進んでいったのです。ところが犯人が不用意に漏らす一言(英語では1語のみ)については、その部分で記憶がよみがえりました。犯人を示す根拠がそれだけというのはちょっと弱いかなとも思えますが、その時犯人の語る内容全体も重要なことなので、まあいいでしょう。おおよその真相は非常にわかりやすいですが、犯人の性格設定はさすがですし、最終章の意外なおまけもあり、全体的にはかなり楽しめました。 |
No.1 | 5点 | Tetchy | |
(2008/10/25 20:52登録) 『チップス先生さようなら』のヒルトンが唯一著した推理小説。 学校を舞台にしているのがこの作者らしく、どうせ文豪の手遊びで書いたミステリだろうと思いきや、意外にも読める内容だった。 でもやはりこの作家の本質は謎解きにあるのではなく、やはり物語の部分にあり、学校の中での捜査につきものの、青春臭さがこの作品に彩りを与えている。 でも学園物のミステリではやはりセイヤーズの『学寮祭の夜』がベストだなぁ。 |