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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.765 6点 冬を怖れた女
ローレンス・ブロック
(2015/01/24 21:58登録)
マット・スカダーは簡単に「アル中」と分類されてしまうことが多いようですし、本作の作品紹介にもそう書いてありますが、実際に読んでみると、こんなセリフが出てきます。「あなたはアル中なの?」と聞かれ、スカダーは「私はアル中といってもおかしくないくらい飲んでる。でもそのせいで何もできなくなるということはない」と答えているのです。さらに飲むのをやめるか量を減らすことについても、「できると思うよ。理由があれば」と言っています。で、本作の中ではまさにその理由も発生するのです、それがTetchyさんも書かれている依頼人の奥さんとの事情。それにもかかわらず、最後には…
嫌われ者の警察官が容疑者となった娼婦殺しの事件については、犯人は見破れなかったのですが、たいして意外とも思いませんでしたし、動機的に今ひとつすっきりできませんでした。しかし事件解決後の出来事には驚かされ、また考えさせられました。


No.764 6点 紐と十字架
イアン・ランキン
(2015/01/19 21:58登録)
シリーズ名はリーバス警部となっていますが、このシリーズ第1作ではリーバスは部長刑事です。
巻末解説に載っているランキン自身が語った2点は、どちらもなるほどと納得できるものでした。1つ目は本作を発表した時、シリーズ化するつもりは全くなかったことです。確かに事件の内容はリーバス個人の過去と密接に結び付いたものであり、シリーズで毎回この手を使うわけにはいきませんから、当然と言えるでしょう。もう1つはJ・エルロイから影響を受けたということで、解説では『黒と青』をエルロイの『ブラック・ダリア』と比較していますが、本作は最近読んだエルロイの第1作『血まみれの月』(本作の3年前、1984年発表)に、事件内容や主人公と犯罪者との関係(ジキルとハイドを別の人物とする)など、かなり似ているのです。
最後があっさりし過ぎかなとも思うのですが、とりあえずこの点数で。


No.763 5点
水上勉
(2015/01/15 20:54登録)
ずいぶん以前に読んだ時には、つまらないと思った作品でした。
今回再読してみても、作者の代表作と比べるとやはり平凡な印象はぬぐえません。初読当時に感じた空手の扱いに対する不満は、けなすほどでもなかったと思い直したのですが、この作者にしては意外に謎解き的な骨格になっているだけに、かえってアイディアの平凡さ、蓋然性の弱さが気になってくるのです。最終章の表題でもある「耳はなぜ落ちていたか」については、誰でもすぐある仮説を思いつくでしょうし、またその答に、蓋然性の面で弱点があることにも気づくでしょう。
しかし一方で、昭和30年代の安保反対も含めた労働争議状況の描写については、さすがに迫力を感じました。水上勉というと社会派ではあっても、松本清張と異なり政治的な要素を持ったものは珍しいのですが、その意味での異色テーマも、うまく描いています。


No.762 5点 バートラム・ホテルにて
アガサ・クリスティー
(2015/01/12 12:06登録)
ミス・マープルものなのに、ジャンルとしては本格ではなく警察小説としてしまいました。
実際のところ、本作で中心となる事件は謎のグループによる多発する強盗事件で、途中には列車強盗の顛末が、強奪後の犯罪グループの動きまで含めて描かれているのです。そしてその事件を追っているのは、もちろんセント・メアリー・ミードに住む老婦人ではなく警視庁。上司からもおやじさんと呼ばれているデイビー主任警部が中心となって活躍します。
全体の7割ぐらいでやっと殺人が発生するのですが、どう見てもこの殺人、強盗団とは直接の関係はないのです。つまり2つの事件を並行して描くパターン、しかも強盗団事件だけでなくその殺人事件の真相も、ミス・マープルだけでなくデイビー主任警部も見破ってしまっているのです。というわけで、採点も警察小説としての点数です。


No.761 5点 閉じた本
ギルバート・アデア
(2015/01/06 22:06登録)
本サイトではクリスティーへのオマージュ作品『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』(未読)しか批評されていなかったので、本作も謎解き系だと思って手に取ったのですが、内容紹介からしても明らかにサスペンス小説でした。まあ謎解き的にも完全に会話と内面描写のみで書かれた、いわゆる地の文がない作品なので、すぐに何か仕掛けてくるなとは予想できますし、実際「マーガトロイド」の元ネタとは全く違う仕掛けはあります。しかしそれも、なるほどな程度でした。ではサスペンスはと言うと、中盤になってやっと怖い疑惑が出てくるのはちょっと遅すぎる感じです。動機に不満を述べている人もいるようですが、これは一応伏線もあり、そんなに悪くないと思いました。
実は本作で一番感心したのは、ミステリ的な部分ではなく、目が見えない人の立場を別の場合と重ね合せた考察でした。これはミステリとしてはクライマックスに向かう部分に現れます。


No.760 4点 もういちど
矢口敦子
(2015/01/03 00:22登録)
心臓移植手術を受けた19歳の慎一は、自分の中に「銀色の影」-ドナーの魂が棲みついたことに気づく。
という発端だけなら、これはファンタジーですが、そのドナーの魂と語り合ってみると、死の状況に疑問があって…とミステリな話になってきます。一方でドナーの魂は結局どうなるのだろう、という疑問も持ちながら読み進んでいったのですが、これが結局釈然としませんでした。最終章で作者が何を語ろうとしているのか、伝わってこなかったのです。魂の意思が明確ではありませんし、心臓移植をしたら必ず魂がついてくるという小説設定とも思えません。心臓病の慎一の心情はなかなかよく描けていると思うのですが。
ミステリとしてはそれなりに意外性のある展開と結末をつけていますが、ミスディレクションがかえって全体的なまとまりを悪くしてしまっているとしか思えないのが不満でした。


No.759 5点 消された時間
ビル・S・バリンジャー
(2014/12/28 22:13登録)
『歯と爪』の後に発表された作品で、同じように章ごとにカットバックしていく手法を使っています。ただ、前作が全く関係なさそうに思える2つの話を交互に配していたのに対して、今回は明らかに関係がある話で、しかもカットバックによって不可解な状況を生み出しているというところが、新たな工夫と言えるでしょう。ただしその2つの話には分量的に、miniさんも指摘されているとおり(1:9というほどではありませんが)大差があります。なお、その不可解な状況は話が進むにつれて次第に見えてくる構成なので、作品紹介で何が不可解なのかを明かしてしまっているのはネタばらしとも言えます。
で、奇数章のメインとなる記憶喪失の男の話なのですが、これが今ひとつ物足らない感じで、しかも偶数章の死体遺棄の必然性が弱いという点、どうしても『歯と爪』に比べると点数は低くなってしまいます。


No.758 6点 血まみれの月
ジェイムズ・エルロイ
(2014/12/24 23:39登録)
ロイド・ホプキンズ・シリーズ第1作で、ケネス・ミラー(ロス・マク)に捧げられています。訳者あとがきによると、エルロイはチャンドラーやロス・マクを読んで文章表現を勉強したそうですが、それにしてはこれら2巨匠とは、文章がかなり違います。本来ハードボイルド文章は気取っていても、ストイックなところがあるものですが、エルロイには抑制よりもむしろ誇張されたような表現が多いのです。
抑制がきかない、自制心がないのは、主役のホプキンズ部長刑事にも言えることです。作品紹介には「上司からも部下からも見放され、〈静かな狂気〉と化した…」と書かれていますが、静かとは言えませんし、最初からかなり非常識な人物です。対する連続殺人犯「詩人」は〈激しい狂気〉とされていますが、これも疑問。むしろ同じ狂気でも根底にあるのが「善」と「悪」の違いというだけのように思えます。そんな善悪の戦いのサイコ・サスペンスとして、この評価。


No.757 6点 誰がための刃 レゾンデートル
知念実希人
(2014/12/21 22:21登録)
サブタイトルの「レゾンデートル」(raison d’être)とは存在理由のこと。主人公の医師は末期癌で、自分が生きる理由についての意識変遷が一つの軸になっているとは言えますが、深刻さよりもアクション・エンタメとして楽しめる作品です。
それにもかかわらず、本作が本格派系ミステリ賞であるばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞したのは、結局はこの賞でも謎解きの意外性より小説としての完成度の方が優先されたということでしょう。島田荘司は選評で、本作の「本格」性についてかなり無理やりなことを書いていますが、そこまでこだわらなくても面白ければ、という気はします。実際のところ、謎解き的には誰でも早い段階で切り裂きジャックがどんな人物かは気づくでしょうし、ペンダントの秘密もどうということはありません。
ギャル曽根をも思わせる(作者も意識はしたのかな)ほどの大食いヒロイン設定には、苦笑させられました。


No.756 6点 殺人稼業
ブレット・ハリデイ
(2014/12/16 22:03登録)
1945年に発表されたマイケル・シェーン・シリーズ第11作の舞台は、彼の地元マイアミではなく、メキシコにごく近いエル・パソです。本拠地から2000キロ以上も離れたそんな町でも、シェーンの名前は地元警察に知られているほど有名な私立探偵ということになっているんですねえ。
シリーズの中でも、白眉と言われると作品紹介には書かれている作品です。実際、これはなかなかよくできています。実はシェーンが事件を調査し始めてすぐ、なぜはっきり確認しておかないのだろうと思った点が一つあったのですが、それが真相に直結していました。その意味では確かに作者の都合で話を進めるためにごまかしているとは言えるのですが、犯人の側からすればまさかそんなことが起こるとは予想できないでしょうから、犯罪計画としては安易な妥協はありません。
そのご都合主義を除けば、市長選挙戦をめぐるハードボイルドらしい展開も、最後の謎解きも楽しめました。


No.755 7点 迷宮課事件簿Ⅰ
ロイ・ヴィカーズ
(2014/12/12 22:07登録)
miniさんや、『百万に一つの偶然』でkanamoriさんもご指摘のとおり、倒叙とは呼ぶには微妙な連作短編集です。倒叙とは何を倒して、つまりひっくり返しているのかと言えば、「本格派」だからで、もう一度ひっくり返し直しても、本書に収められた短編は本格派にならない、と言うか、つまらないものにしかならないのです。なぜなら基本的には殺人者を描いた犯罪小説だからで、それに謎解き的な要素も加味されているというだけでしょう。
シリーズ第1作『ゴムのラッパ』については、序でクイーンは絶賛していますが、そのヴィカーズの持ち味が完全に達成できているとはあまり思えません。犯人があまりに無計画な自己中心主義者だからというところもあるのでしょうが。しかし次作『笑った夫人』からは犯罪者の側からと言っても、実際の殺人を明確にしなかったり先に死体発見を描いたり、と様々な手法を凝らして楽しませてくれます。


No.754 6点 日本探偵小説全集(6)小栗虫太郎集
小栗虫太郎
(2014/12/07 12:42登録)
『黒死館殺人事件』と中短編4編が発表順に収録されています。この長編を現在紙の書籍で読もうとしたら、本書が最も手に入れやすいんでしょうね。『黒死館』は単体で書評済みなので、他の作品について。
「新青年」に発表されて評判になった『完全犯罪』は80ページほどの中編。中国で起こった密室殺人事件で、日本人は一人も登場しないというのが、当時としてはまず驚くべきことだったでしょう。オルガンで演奏されるのがバッハ等でなくマーラーの「子供の死の歌」(「亡き子をしのぶ歌」)というのがまたペダンチックです。
『後光殺人事件』からは『黒死館』の法水麟太郎が登場します。この作品までは、一般のミステリに比べれば飛躍はあるものの、まだ通常の論理枠内として許容できます。しかし、『聖アレキセイ寺院の惨劇』になるともう現実味を放棄したトリック。さらに『黒死館』後の『オフェリヤ殺し』に至っては、何が何だかの小栗ワールドでした。


No.753 6点 灰色のためらい
エド・マクベイン
(2014/12/04 22:38登録)
マクベイン2作目にして、妙な小説を読んでしまいました。87分署シリーズ中の異色作と作品紹介には書かれていますが、むしろスピンオフ作品と言った方がいいでしょう。
正直なところ、ジャンル分けには迷いました。まずシリーズ本来の警察小説では全然ありません。なにしろレギュラーの刑事たちはちょい役でしか出てこないのです。まあスティーヴだけは(本作では姓は書かれていません)、ある役割を果たすのですが、それも小説構成上の問題であり、ストーリーを進める上で絶対必要なわけではありません。ミステリとさえ呼びにくい内容ですので、その他にしようかとも思ったのですが、警察署に行くことをためらう主人公の行動と心理を追った心理小説風ということで、とりあえずサスペンスとしてみました。もう一つ考えられるジャンルには入れない方がいいと思うので。
主人公とデートするアメリアがなかなか魅力的です。


No.752 5点 剣の八
ジョン・ディクスン・カー
(2014/11/30 14:12登録)
カーを原書で初めて読みました。結果感じたのは、文章表現が凝りすぎているということ。「馬から落馬」的な不要な形容が多く、また、「家庭的シーンが進行中であった(was in progress)」(第9章)とか、「彼女は…肖像画に指を突き刺した(stabbed a finger)」(第11章)とか、原文に忠実に翻訳すれば、批判をあびそうな言い回しも見受けられます。さらに英和辞書に「格式語」なる註が附される単語が高頻度にて使用され…といったわけで、かなりうんざりさせられました。
内容的には、皆さんのご指摘どおり、探偵役(もどき)が多すぎるとは思いますが、それほど悪いとは思いませんでした。個人的にはカーを必ずしも不可能犯罪だけの作家とは思わない(『皇帝の嗅ぎ煙草入れ』等も不可能性を前面には出していません)ので、謎の訪問者の正体や犯人指摘の根拠には、普通に感心しました。ただし、タロット・カードを犯人があえて残した理由が不明なのはいただけません。


No.751 5点 モーニングショー殺人事件
大谷羊太郎
(2014/11/26 22:22登録)
タイトルどおり、生中継のモーニングショーで殺人が起こるという事件です。
大谷羊太郎らしくハウダニットが中心、というより他の謎解き要素をほとんど切り捨てた作品です。途中に犯人が動機を電話で語っているシーンがあるのですが、そこでは犯人の名前は隠されているにもかかわらず、あまりに明白で、犯人の意外性を作者が全く度外視していることは明らかです。ただ、動機のある部分だけは最終章で初めて明らかにされ、それはあまりミステリ的とは言えないかもしれませんが、悪くないと思いました。しかしその動機で読者を感心させることができる小説構成ではありません。
焦点になる毒殺トリックはかなり地味ですが、なかなか念入りに考えられています。また途中で起きる密室殺人のトリックは意外性はさほどありませんが、現実的と言えるでしょう。ただ、他にも方法はありそうですが。


No.750 8点 笑う警官
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
(2014/11/23 17:56登録)
この警察小説の傑作に昨年新訳が出たことは、miniさんの書評で知ったのですが、読んだのは高見浩による旧訳版です。
そのことを念頭に置いて読んでみると、途中疑問に思ったところがありました。渋い警察小説という印象のあったこの夫婦作家にしては、バスの中でのマシンガンによる大量殺人という衝撃的な事件以上に意外だったのが、ダイイング・メッセージが出てくるところでした。で、これが英語からの翻訳であることを考えると、原文とは違うのではないかと気になったのです。実際、後から新訳版を立ち読みして確認したところ、やはり2つのセリフのうち1つは変えてありました。ただ、英語版でも納得いく設定にはしています。
また、高見訳ではラストをマルティン・ベックが「…笑いだした。」の文で締めくくっていて、その後の説明的な2行がないのですが、確かにこれは省いた方が余韻があっていいのではないかと思えました。


No.749 7点 裏切りの朝
ジョー・ゴアズ
(2014/11/19 22:22登録)
ゴアズはDKAよりもノン・シリーズ作品の方が気に入っていたのですが、本作もやはり楽しめました。
ハードボイルドと言っても、今回は私立探偵小説系ではありません。泥棒を主人公にした犯罪小説であるとともに、ラブ・ストーリーでもあり、山岳小説要素もあり、フーダニット要素あり、と様々な要素をミックスしてうまくまとめあげています。個人的には出獄した泥棒のラニアンと、その彼にリポーターと称して接触するルイーズとのラブ・ストーリーとしての側面が、最も印象に残りました。ラスト近く、その二人の心情をカットバックで見せていき、最後に事件の全貌を明らかにすると同時にラブ・ストーリーとしても完結するところ、こういうセンチメンタリズムは好きですね。
謎解き面では、途中で小説構造から結末は予測できたのですが、それだけにかえって、この点はこうだったのか、と意外に思った部分もありました。


No.748 5点 こぼれおちる刻の汀
西澤保彦
(2014/11/16 16:09登録)
カデンツァ、オブリガート、コーダのそれぞれA、B、C、全9章からなる作品。それぞれ即興演奏、助奏、終結部等と訳されるそんな音楽用語が章見出しになっているにもかかわらず、音楽とは一切関係ない内容です。カデンツァが遠未来、オブリガートが近未来、コーダが現代を舞台にしています。SFとミステリの融合と謳われていますが、むしろ章立てによる並列と言った方がいいように思われます。
並列といえば、本作のSF部分でも時空のあり方に対するいわゆる並行宇宙の発想がメインになっています。元々ハードSFには謎解き要素を含んだものが多く、ホーガンの『星を継ぐもの』は現在の物理法則の延長上だけで構成された純粋なミステリと言えますが、本作にはむしろ小松左京の『果てしなき流れの果に』等にも通じるところがあります。
コーダのホワイダニット・ミステリには違和感があり、むしろ純粋なSFにしてもらいたかったですね。


No.747 6点 黒いカーテン
ウィリアム・アイリッシュ
(2014/11/09 13:16登録)
最初に読んだアイリッシュ(原書はBLACKシリーズなのでウールリッチ名義)作品で、最後まではらはらさせられっぱなしだったという印象だけは残っていたものの、話の内容については、ほとんど忘れていたのです。ところが、短編『じっと見ている目』を読んだ時、確かこのアイディアは、と思ったのでした。
今回再読してみると、話すこともできない寝たきり老人との意思疎通という共通点はあるものの、その点については本作に先行する短編の方が意思疎通過程にサスペンスがあり、よくできていると思いました。また犯人の使ったトリックは全く異なっていて、本作の方には古典名作短編の先例があります。
冒頭の設定からすれば、ルスの扱いはこうせざるを得ないのでしょう。しかし、殺人の罪を着せられた男自身が事件の記憶を失ったまま捜査するというストーリーを成立させるためとはいえ、ご都合主義が過ぎるのは間違いないでしょうね。


No.746 6点 逃亡者のF
スー・グラフトン
(2014/11/05 21:59登録)
今まで読んだグラフトンの中では、最も率直に楽しめました。恋人殺しの罪を認めて服役したものの、1年ほどで脱獄して逃亡生活を送っていた男が、16年後に偶然の成り行きで逮捕され、その父親からの依頼でキンジーがその男の無実を証明するために調査を開始する、という設定自体もおもしろいのですが、その後の思いがけない展開には驚かされました。ただし、その展開を引き起こすタップの行動と、その行動を起こさせた人物の要求には、さすがに無理があります。それで話に緊迫感が出ることは確かですが、もっと地味にやってもよかったのではないかと思えました。
その無理な部分を除けば、本作ではミスディレクションや動機の意外性など、フーダニットとしてもロス・マク並になかなかうまくまとまっていました。個人的にはハードボイルド系の作品には、謎解き的要素はそんなに求めないのですが、これはこれでよかったと思います。

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