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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1493件

プロフィール| 書評

No.1453 7点 執念
黒岩涙香
(2023/07/13 00:06登録)
従来ボアゴベの『囚徒大佐』("Le Forçat colonel")の翻案と信じられてきた作品ですが、"Le Forçat colonel" はそう呼ばれた実在の人物Pierre Coignard (1774-1834)をモデルとした時代小説で、本作とは無関係です。実際の原作は、娘の結婚式から帰ってきた眞川(Maugars)伯爵を待っていたのは、新婿を窃盗容疑で逮捕しに来た警察官だったという出だしがそっくりな、ボアゴベの "L'Équipage du diable"(悪魔の一団)です。
原作英語版を所々ざっと読んだところ、事件の骨格は原作どおりですが、過去の窃盗事件犯人設定も含めストーリー展開はかなり変更されています。基本的には登場人物を整理し、話を単純化してメロドラマ的に仕上げています。後半の意外な展開は充分楽しめますが、ご都合主義的偶然が多いのが欠点でしょうか。最後の一文は「譯し終りて涙香も筆を投じて嘆息之を久ふす」となっていますが、決着のつけ方も涙香独自のものです。


No.1452 6点 フレッチ/呪われた大統領選
グレゴリー・マクドナルド
(2023/07/09 21:17登録)
フレッチのシリーズ第6作ですが、発表順が作中設定年代順とは一致しないことを本書の訳者あとがきで知りました。なんだかややこしい…
新聞記者であるフレッチ(I・M・フレッチャー)が、軍隊時代の上官であった、大統領候補の息子ウォルシュからの依頼で、大統領選の報道担当秘書になったところ、キャンペーンの途中で女性殺害事件が連続して起こり、という筋書きです。しかし、殺人事件の解明捜査よりもむしろ、候補のホイーラー市長が「大統領職なんてドア・ノブにすぎん。そして、官僚組織がドアだ。…(中略)…だが、ドアはしょせんドアだ。」と言ったりするところがおもしろい、大統領選の内幕を描いた作品になっています。
一応「本格派」とはしておきましたが、謎解きとしては、論理的整合性に問題があるわけではないものの、物足らず、それ以外の要素を評価して、この点数としました。


No.1451 6点 人形 (デュ・モーリア傑作集)
ダフネ・デュ・モーリア
(2023/07/06 21:33登録)
『レベッカ』『鳥』だけでなく、ニコラス・ローグ監督の『赤い影』(Don't Look Now)の原作者でもあることは、本書を手にして初めて知った作家です。実は『レベッカ』はDVDを持っていながら未見のまま。デビュー数年前に書かれていたらしい表題作は、イギリスでも単行本に初収録されたのは2011年のようです。
全14編中、最後の『笠貝』を除くと、ほぼ30ページ以内の作品ばかりです。最初の『東風』、表題作と、サスペンスないしホラーな話が続いた後、はっきりミステリ系と断言できる作品はありません。まあ『ピカデリー』は犯罪小説的と言えるかな、とか『幸福の谷』は幻想的だなとかぐらいのものです。しかし、だいたい読んでいて居心地の悪くなるような、「ミステリ」要素のほとんどないイヤミスと言ってよいような作品が大部分です。2作で主役を演じるホラウェイ牧師は、要するに人種差別主義者と同じ感覚ですね。


No.1450 5点 復讐の白き荒野
笠井潔
(2023/07/02 14:06登録)
読んだのは2000年4月に原書房から出版された版で、講談社文庫版(1991年9月)をもとに加筆・修正されたものだという注記がついています。最初に発表されたのは1988年、ソ連の謀略を背景にした、知床半島でのシーンから始まる作品です。どのように変更されたのかわかりませんが、ソ連崩壊後10年近くたってからの加筆・修正ということになります。
作者はあとがきで、「ル・カレ作品に代表的である「本格的な」スパイ小説をめざしている。」としていますが、読んでいてル・カレ、あるいはアンブラーのようなシリアス・スパイ小説という感じはしませんでした。むしろスピレインあたりをより劇画的にしたような作品になっています。意外性のあるスリリングな展開は確かにおもしろいのですが、話の裏が大げさすぎて、次々に黒幕のそのまた黒幕の、と明らかになっていく重層的構造は、かえって馬鹿馬鹿しく思えてしまいました。


No.1449 7点 殺意の夏
セバスチアン・ジャプリゾ
(2023/06/26 22:46登録)
フランスの「独創的な小説」に贈られるドゥ・マゴ賞の1978年度受賞作です。作者自身の脚色によるイザベル・アジャーニ主演の映画(1983)もヒットしました。視覚的な悲しいショッキング・シーンで終わる映画に対し、原作はていねいな真相解説の後、しみじみとした味わいを残します。
ただ初版本翻訳には問題があります。フロリモンの愛称はピーポーとされていますが、Wikiフランス語版等では Pin-Pon(パンポン)、まあこれは擬音語を翻訳したのでしょうが。「ドラアエ」は、ドライエで検索できる自動車メーカーDelahaye。「手回し風琴」は自動ピアノで、映画ではタイトル・シーンから出てきます。また、エリアーヌは「エルとか、あれと呼ばれていた」と書かれていますが、フランス語の "elle"(エル) は英語のsheの意味、つまり「彼女」です。他にも原文はどうなっているのだろうと疑問に思った所がいくもありました。


No.1448 4点 誰もが怖れた男
ジョゼフ・ハンセン
(2023/06/22 21:36登録)
デイヴ・ブランドステッター・シリーズの第4作。この後の作品は読んでいませんが、本作は同性愛テーマの集大成的なプロットだと思いました。殺されるのはタイトルどおりの警察署長で、ホモセクシャルな連中が「精神的に異常なだけじゃない。細菌をまき散らす」と公言するベン・オートンです。容疑者としてすぐ逮捕されたのが同じニュースの中でオートンについて「おごった豚め! 殺してやる」と言ったゲイ運動家ケアリー。
訳者あとがきによれば、1975年に公務員人事委員会が同性愛者の雇用を認めたといった事実を基にしているということで、実際、同性愛者に対する差別を撤廃する法律のことも作中に出てきます。
ただ、事件に対する様々な可能性をデイヴが探っていくところはおもしろかったのですが、最後のまとめ段階になってからが、偶然を多用しすぎ、また真犯人設定も印象に残らず、がっかりでした。


No.1447 5点 ハルカな花
天祢涼
(2023/06/19 21:09登録)
5編の連作短編集で、4編目の後に1つの話としてまとまっていない「間章」が入っています。5編はそれぞれ2月、5月、8月、11月、12月の月がタイトルの最初についています。12月が、それまで独立した作品だった各短編をつながりのあるものとしてまとめる構成です。日常の謎系ファンタジーとでもいうか、ファンタジー的要素があることは、第2作の段階ではっきりします。
最終作で、結局植物の成長速度を画期的に上げる「カグヤ」に関する問題点が明確にされていないのは不満でした。榊竜の計画にも、その理由でそんなことするのが納得できません。
それにしても、第1作目の終り頃には、ある別作品とのキャラクター的共通点、さらに雰囲気の類似が気になりだしました。その作品は小説ではなく、北条司の某マンガ。人物関係設定は全く違うのですが。その発表時期からしても、影響はあるのではないでしょうか。


No.1446 6点 コニャックの味
ブレット・ハリデイ
(2023/06/15 23:34登録)
表題作と『死人の日記』の中編2作が収録されています。
表題作は調べてみると1951年発表という情報がありましたが、そんなものでしょうか、おなじみジェントリイ課長も登場します。一方ルーシイ・ハミルトンが名前さえ出て来ないのは、どうなっているんでしょう。シェーンがコニャックに詳しいところを発揮する事件です。アクションは豊富で読ませますが、真相は今ひとつ。
『死人の日記』は1945年3月の事件だと最初に書かれていて、舞台も当時シェーンがいたニュー・オーリンズです。本作の方が少し長く、原書のタイトルはこちら(”Dead Man’s Diary”)が採られています。ルーシイの隣人からの依頼に始まるかなり複雑な話で、登場人物も多く、話のつながりがわかりにくいところがあります。殺人犯以外の人物によるあるトリックが事件を難解にしている、パズラーと言った方がいいような作品でした。


No.1445 7点 ふくろうの叫び
パトリシア・ハイスミス
(2023/06/12 21:17登録)
クロード・シャブロル監督によって映画化されたこともある作品で、粗筋を読む限り原作に忠実な映画も、評価が高かったようです。
この事件は普通だとロバート、ジェニファー、グレッグの要するに三角関係だけで話が進んでいくものでしょうが、そこにロバートの前妻ニッキーが加わることによって、事態は異常さを増していくことになります。なにしろニッキーは他の3人をあわせたよりもまともじゃないのです。なお、否応なく事件に巻き込まれ迷惑顔のニッキーの現夫はごく常識的な人間として描かれています。衝撃のラスト・シーンもニッキーがいるからこそで、彼女抜きでは、いくらグレッグの気持ちがおさまらなくても、穏やかな結末にならざるを得なかったでしょう。
ただロバートを窮地に追い込むある出来事は、偶然が過ぎます。ルパンが有名短編で使った手は無理ですしね。この出来事はなくてもよかったのではないでしょうか。


No.1444 7点 枯れ蔵
永井するみ
(2023/06/08 21:37登録)
1996年の第1回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した作品で、巻末の選評を見ると、審査員全員一致で推されたようです。確かに小説としてのきめ細かさは相当なものです。審査員たちが不満をもらしていた自殺理由については、投稿後に改訂されたのではないでしょうか、なるほどと納得させられました。
不可能犯罪や、派手なアクションがあるわけではありません。過去の自殺事件(実は殺人だったなどというひねりはありません)と、現在の富山県での稲作に対する害虫であるウンカの異常発生とを組み合わせた、地味な事件です。また真相に奇抜なアイディアがあるわけでもありません。しかしストーリー展開には説得力があり、文章も新人作家とは思えない巧みさです。ただ犯行については、たぶんこの罪状になるんだろうなとは思えますが、むしろ民事的な問題の方が重大で、ここまでやるかという気はしました。


No.1443 7点 鮮血色の夢
マイクル・コリンズ
(2023/06/02 20:50登録)
ダン・フォーチューン・シリーズの長編は、本作まではすべて翻訳されています。その後は2作とばして評判が良かったのであろう『フリークス』がやはり創元推理文庫から出ているだけ。
本作は、2/3を過ぎるあたりまでは凡作ではないかと思っていました。フォーチューンが依頼されるのは祖父を探してもらいたいということなのですが、冒頭に教会でその祖父を簡単に見つけたにもかかわらず、すぐ見失ってしまうシーンを持ってきています。で、その後はなんだかねえという展開で、移民とその子孫たちの祖国に対する思いも、わからなくはありませんが、それほど響いてこなかったのです。フォーチューンが不意を突かれてやたらノックアウトされるのも、ハードボイルドとしてはどうなの、という感じです。
しかし最後に至って説得力のある意外性をたたみかけられ、うならされたので、この点数になりました。


No.1442 6点 修道士の頭巾
エリス・ピーターズ
(2023/05/30 22:42登録)
原題 "Monk's-Hood"、直訳すれば確かに修道士の頭巾なのですが、トリカブト(鳥兜)のこと。英語でも日本語でも、似たような発想の名前のついた植物なんですね。もちろん猛毒として知られていますが、塗り薬としては効果的なのだとカドフェル修道士は説明して治療に使っています。取り扱いには気をつけろと注意されてはいても、西暦1138年のことですから、現代のような厳重管理というわけにはいきません。
この作者を読むのは初めてなので、他作品と比べてどうなのかはわかりませんが、謎解き的興味はそれほど高くありません。文学的な味わい以外では、むしろカドフェルが容疑者にされた少年をかくまった後、少年が見つかり、馬に乗って逃げ出して、というサスペンス系的な顛末が楽しめました。
意外性は、殺人動機に関するものだけと言っていいでしょう。単純ですが、中世の地理的条件を利用していて、なるほどと思わせられました。


No.1441 6点 ひまつぶしの殺人
赤川次郎
(2023/05/27 00:07登録)
1978年、『三毛猫ホームズの推理』と同じ年に発表された、早川家シリーズの第1作です。シリーズと言っても、ホームズみたいにいくらでも書けるような単純な設定ではありませんから、全部で3冊だけですけれど。本作は何と言っても登場人物設定のとんでもなさが売りです。弁護士である早川圭介(一応彼が主役と言っていいのでしょうか)の母が大泥棒、兄が殺し屋、妹が詐欺師(違法かどうか微妙と圭介は思っているようです)、弟が真面目過ぎる警察官、そして家族の犯罪を知っているのは冒頭段階では圭介だけ。
圭介がそれを知ったいきさつから始まり、偶然をこれでもかというぐらい詰め込んで、ダイヤ・コレクションを持つ富豪をめぐり話は展開していきます。この作者だからこそ軽くしみじみさせる最後の意外性は、横溝正史が扱えば(実際正史が好みそう)どろどろの悲劇になりそうな気もしますが。


No.1440 8点 Le pouce crochu
フォルチュネ・デュ・ボアゴベ
(2023/05/22 21:30登録)
原題の意味は「曲った親指」、1885年に発表された作品で、快楽亭ブラックにより『かる業武太郎』(別題『剣の刃渡』)の邦題で1/3以下に短縮翻案されています。翻案には改良になっていないと思われる改変がかなりあり、また原作のトリックや意外性演出を全く無視しています。これは語り聞かせる講談だからでしょう。話を単純化しなければ聴衆は付いて行けません。
タイトルに関するトリックはごく単純ですし、犯人の正体は3/4ぐらいの時点でどんなに鈍い人でも気づくように書かれています。しかし、その直後、読者が気づくからこそのサスペンスを演出し、さらに前に出てきた獰猛な犬を再登場させることでスリリングなシーンを持ってくるなど、たたみかけのうまさには感心させられます。その直前の章の地下蔵爆発シーンも、100年後のハリウッド映画を思わせる危機一髪連続です。書かれた時代を考慮すれば、少しおまけしてこの点数で。


No.1439 6点 被告側の証人
A・E・W・メイスン
(2023/05/17 23:19登録)
『矢の家』が有名なメイスンの作品だからというので(初期)本格派の作品として読むと、1点しかつけられないでしょう。伏線と言えるほどのものはありませんし、殺人事件の真相はあまりにあっけないのです。巻末解説では、ミステリではあっても「探偵小説でもない」とされています。「探偵小説」の定義を、玄人、素人を問わず事件を捜査する探偵役が主人公の話とするなら、確かに探偵小説ではありません。中盤、インドでの裁判が終わった後の展開が意外で、被告人だったステラがどうなるのかのサスペンスはあるので、ジャンルはサスペンスにしたのですが、その他でもよかったかなと思えるほどです。
最後の方「第二十六章 見知らぬ二人」(お互いの気持ちを知らなかったという意味)に、「そのことを知ってさえいれば!」という文が出てきます。つまり、HIBK (Had-I-but- known) 派の作品とも言えると思います。


No.1438 5点 第六の大罪 伊集院大介の飽食
栗本薫
(2023/05/14 15:42登録)
Wikipediaによると「日本のカトリック教会では七つの罪源」と訳されている罪のうち6番目は、現代のカトリックでは、暴食(貪食)だそうで、本書に収められた4編に共通するテーマは一応グルメです。書下ろしなので、最初からそのテーマを様々な角度から捉えようという構想で書かれたのでしょう。
伊集院大介が本当に名探偵として活躍するのは、最後の『地上最凶の御馳走』だけで、100ページぐらいの中編です。最凶なのはワニで、グルメ番組で料理しようとしていたワニが逃げ出したという事件の依頼を、「中華の神様」とされる料理人から伊集院大介が受けるのです。真相は納得できないわけではないのですが、それでも無茶な話。最初の『グルメ恐怖症』で伊集院大介が受ける相談内容も、ばかばかしいような話。『食べたい貴方』は伊集院大介が登場する必要はありません。『芥子沢平吉の情熱』は彼の学生時代のラーメン屋台おやじの思い出話です。


No.1437 6点 のぞき屋のトマス
ロバート・リーヴズ
(2023/05/09 20:59登録)
トマス・セロン教授の第1作『疑り屋のトマス』のタイトルは聖書の使徒トマスのことだそうですが、この第2作は普通名詞的に使われる、手元の辞書では「観淫者」と訳されている Peeping Tom を基にした “Peeping Thomas”。なんだか最初から第2作を予定していたみたいにも思えますが、2作の間は5年も空いています。女性学部学部長からの電話で叩き起こされた二日酔いのセロン教授は、ポルノ・ビデオ業界の裏を探っていくことになるという話ですし、彼が書きあげた小説の方にもセックスがからんでくることになり、なるほどと思えるタイトルです。
ジャンルとしては、一応ユーモアに入れました。ポケミスの訳者あとがきでは「ソフトボイルド探偵」なんて書かれていて、確かにユーモラスな文章で綴られてはいますが、テーマ的には実はかなりシビアで苦い後味、クライマックス部分などかなり緊迫感もあります。


No.1436 7点 誰の死体?
ドロシー・L・セイヤーズ
(2023/05/05 23:22登録)
1993年初版の創元推理文庫訳者あとがきは、「ミステリの世界において、名のみ高く、実物にお目にかかれないというのでは、ドロシー・L・セイヤーズ作品に勝るものはないでしょう」という文から始まります。そんな時代だったんですね。その70年前、つまり現在からだと100年前に発表された、ピーター・ウィムジイ卿第一作です。
クリスティーや、特にクイーンなどのような意味での「本格派」ではないと思います。小説構成的に連想したのが、アリンガムの『幽霊の死』で、本作を参考にしたのかもしれません。後100ページ近くも残っている時点で、ピーター卿は真相に気づき、以後作者は犯人の正体も、殺人計画の基本構想も読者に隠していません。ピーター卿と犯人との心理的対決シーンは、緊迫感満点でしたし、その後の犯行裏付け処置もいい雰囲気です。ただ、殺人計画で不要物の後始末が面倒すぎるのは間違いありません。


No.1435 5点 代理処罰
嶋中潤
(2023/05/02 23:44登録)
タイトルは、「国外に逃亡した犯罪容疑者について、捜査資料を提供し母国や逃亡先の国の法律に基づいて裁いてもらう手続き」と作中で説明されています。「ブラジルでは自国民の他国への引き渡しを憲法で禁じている」そうで、本作の中でも、その憲法規定が冒頭で起こる事件のその後の展開の基本要件となっています。ただ代理処罰制度の方は、あまり重要視されておらず、その意味ではタイトルとして適切だとは思えません。
また、プロローグの後、章分けが「0(ゼロ) 手紙」から始まっているのには特別な意味があるのかと身構えてしまったのですが、そんなことはありませんでした。
と、細部にはいくつかケチをつけたいですし、前半主役岡田亨の心理、記憶の描写は少々うるさい感じがしたのですが、彼がブラジルに着いてからのサスペンスはなかなかのもので、真相には多少拍子抜けのところはあるものの、事件構造はきっちりできていました。


No.1434 7点 死を選ぶ権利
ジェレマイア・ヒーリイ
(2023/04/27 00:09登録)
ボストンの私立探偵ジョン・フランシス・カディのシリーズ第6作は、彼がボストン・マラソンに出ようという「いわばひとつの挑戦」を決意するところから始まります。彼の恋人である地方検事補のナンシーから反対されながらも、元ランニングのコーチだった男と偶然知り合い、大会を目指して練習に励んでいくことになります。
…なんて、全然ミステリじゃないじゃないかと文句をつけられそうですが、一方でタイトル(原題 "Right to Die")からも想像できる、安楽死を推進する女性法学教授に対する脅迫状の差出人調査があり、もちろんこれがメインです。可能性のありそうな人物を洗い上げ、一人一人聞き込みを続けていくという調査がほとんどなので、ずいぶん地味な展開です。事件らしい事件が起こるのはほとんど終盤になってから。マラソンの話は事件とは無関係なのですが、うまく調和している感じですし、結末の意外性もあり、楽しめました。

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