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ミステリの祭典

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ロニョン刑事とネズミ
リュカ、ロニョンほか(メグレシリーズと同じ世界)

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日2024年03月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2024/05/19 14:53登録)
(ネタバレなし)
 その年の6月下旬のパリ。68歳の浮浪者「ネズミ」ことユゴー・モーゼルバックは、たまたまある男の死体に遭遇。その男の携帯していた大金入りの財布を見つけた。ネズミは財布を単なる拾得物として警察に届け、一年後に落とし主不明のものとして、自分の財産にしようと考えるが……。

 1938年のフランス作品。
 メグレシリーズの番外編で、「無愛想な刑事」ジョゼフ・ロニョンが初デビューの作品がこれだそうである(シリーズの正編にロニョンが登場するのは、十年後の1947年の『メグレと無愛想な刑事』から)。
 なおロニョンに「無愛想な刑事」の綽名を授けたのも、この本作のネズミ老人であった。本作の時点から、貧乏くじをひく体質、奥さんがやや面倒な女性(単純に悪妻ではないが)……などのロニョンのキャラクターはほぼ固まっていた感じで、興味深い。

 本作ではおなじみリュカが警視になっているが、書誌データを検索すると1934~38年はちょうどメグレシリーズの刊行が休止期だったようだ。
 つまりはこの世界線ではメグレはすでに現場を(一度)去り、後継者的なポジションのリュカがかなりの地位まで昇進していた……という解釈でよいのだろうか?
(シリーズ全体を俯瞰すると、EQとか以上にパラレルワールド理論を導入しないと説明のつかない世界観である。)

 短いからあっという間に読み終わってしまう。後半の動きのある展開はシムノンの世界の枠組みギリギリ(?)という感じで面白かったが、捜査側の主人公? のはずのロニョンの扱いに、あれ!? となった。まあロニョンらしくはある。

 こういうメグレシリーズ番外編がいくつも書かれて、シリーズの世界観の裾野を広げたこと自体はとても良いと認めるのだが、なぜか今回に限っては、そのメグレの不在が相当に寂しく思えた。近くまた何か、シリーズの正編を読むことにしよう。

No.1 7点
(2023/10/06 20:29登録)
(原書 "Monsieur la Souris" を読んでのコメント)
原題のSourisは英語ではMouseに当ります。つまり本来ミッキーみたいなかわいい奴なのですが、この二十日鼠氏、年老いた浮浪者です。シムノンの非メグレものの常からすると、ほぼこの浮浪者の視点から描かれることになると思われそうですが、そうではありません。メグレこそ登場しませんが、「無愛想な刑事と消えたロエム氏」とサブタイトルを付けてもいいような、メグレもののスピンオフ警察小説になっているのです。
瀬名秀明氏の「シムノンを読む」で無愛想な刑事ことロニヨンの初登場作だと知り、気になっていた作品です。ロニヨン以外にも、リュカが警視として、またジャンヴィエ刑事も登場。後半はロニヨンが何者かに頭を殴られ、二十日鼠氏は誘拐されという展開を見せ、クライマックスはほとんど『メグレ罠を張る』あたりにも匹敵する緊迫感があります。謎解き要素もしっかりできた、楽しい作品です。

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