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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.965 4点 放浪処女事件
E・S・ガードナー
(2017/07/14 22:31登録)
『義眼殺人事件』と並び、ペリー・メイスン・シリーズには珍しいタイトルは、ポケミスに入ったガードナーとしてはまだ『奇妙な花嫁』に続く2作目ということもあるのでしょうか。
せっかちな依頼人からの電話に始まる、殺人にまで至る事件展開は意外性があり、おもしろいのですが、その後どうも切れ味がなくなってきます。小出しにしてくる疑問点に対する解決が、どうもありきたりなのです。特に後半予備審問が始まってある証拠品が持ち出されてくる部分は、その質問からしてメイスンはもう殺人事件の重大ポイントを押さえているのだろうなと思っていたら、そうではなく、かなり後になってその点に気づくのには、がっかりです。放浪する処女の役割にしても、もっとひねってくるのかと期待していたのですが。さらにこの真犯人の設定、ヴァン・ダイン20則中現在でも通用する条項に違反の疑い濃厚ですしねえ。


No.964 5点 失投
ロバート・B・パーカー
(2017/07/10 21:53登録)
スペンサー・シリーズは今のところ発表順に読んで、これが3冊目です。
巻末解説の中に、パーカー自身の「どちらかというと、冒険小説と呼んでほしい」という言葉が引用されていますが、確かに後半はそんな感じです。さらに「スペンサーは探偵だが、シャーロック・ホームズとか、エラリイ・クイーンみたいな探偵じゃない」という作者の言葉については、だったらダイイング・メッセージを鮮やかに読み解くコンチネンタル・オプや、もつれた人間関係を解きほぐしていくリュウ・アーチャーみたいな探偵でもないことになります。作者の小説構成がハメットやロス・マクとは異なる点です。ミステリ的には、悪党たちはスペンサーが八百長試合捜査を始めるとすぐに彼を脅しに現れることで正体を明かしてしまうという安易さ。銃撃戦だって、マイク・ハマーなら正当防衛で通るようにうまく仕組みそうです。でも、この単純さはこれでそれなりにいいか…


No.963 5点 柩の花嫁 聖なる血の城
黒崎緑
(2017/07/06 22:12登録)
6割ぐらいまでは、フランスの小さな城を改造したホテルに滞在する日本人たちの間で起こった事件を描く作品です。その後舞台は日本に移ります。それにしても長い作品です。ここまで長くする必要があったのか…
開幕早々、第1章でさりげなく出てくる動機の伏線には、あっさり気づいてしまいました。たぶんこの行の意味はこうじゃないかと思っていたら、案の定。だいたい、このような事件なら、犯人に必要な基本条件は最初から明らかで、犯人は2人のうちどちらかしか考えられません。フランスで事件を終わらせてしまわなかったのは、中心となる2つの殺人事件の他に、過去のその城での落馬死事件と、さらに別の人間の思惑とを入れているからです。クライマックスではそれらの要素をうまく組み合わせてはいるのですが、この別の人間の計画が明らかになる最後の部分は、おいおい西村京太郎かよ、と思ってしまいました。


No.962 6点 少年の荒野
ジェレマイア・ヒーリイ
(2017/06/30 23:09登録)
ヒーリイという作家は次作『つながれた山羊』がシェイマス賞を受賞していますし、その他にも何冊も翻訳されている作家ですが、現在のところ英語版のWikipediaにさえ登録がありません。2014年8月に亡くなったことだけは調べがつきましたけど。
本作はそんなあまり知られていない作家の1984年のデビュー作です。同じハードボイルド系では、翌年にアンドリュー・ヴァクスがデビューしています。ヴァクスは過激なハードさが特徴でしたが、ヒーリイの方は非常にオーソドックスな私立探偵小説。一人称形式で語られ、主役のジョン・フランシス・カディも渋めの私立探偵です。本拠地がボストンということで、どうしてもスペンサーと比較されてしまうということが巻末解説には書かれていましたが、同じ都市であることがそんなに気になるものかなとも思えます。
安心してストーリー展開を楽しめ、結末も納得のいくものという感じでした。


No.961 8点 赤く微笑む春
ヨハン・テオリン
(2017/06/11 09:22登録)
いやあ、読んだあ。
なんのこっちゃと言われそうですが、このスウェーデン作家の作品は、ただ長い(本作はポケミス約450ページ)だけでなく、本当に大作感があります。スケールの大きい話というのではなく、じっくり文学型の極致。読んでいるのがミステリであることをほとんど忘れそうなぐらいです。なかなか事件は起こりませんし、放火殺人が起こってからも、警察による捜査は、今回の主役ペールが時たま警察と連絡をとる場合を除き、読者には知らされません。ただし『黄昏に眠る秋』でもそうでしたが、最後にはサスペンスフルなクライマックスが用意されています。
中心となるペールの父親の過去に根差す殺人の他に、北欧のエルフとトロール伝説にまつわる「日常の謎」といってもよい出来事とが並行して描かれる構成です。この二つの謎はミステリ的に相関関係があるわけではありませんが、ブレンドの味わいが絶妙です。


No.960 6点 萩・津和野殺人ライン
深谷忠記
(2017/06/05 22:54登録)
荘&美緒シリーズの1冊ですが、今回は意外な設定を見せてくれ、さらに結末も謎解き的な意味でではなく、この作者としては意外なものでした。
光文社文庫版の巻末解説では、「本書で初めて荘の素顔が読者の前に晒され」、「荘と美緒の「婚約」が正式なものとして確認される」という意味でシリーズ中の異色作であるとしています。しかし異色ぶりはむしろ事件の内容でしょう。荘の実家がある萩で事件は起き、彼の親戚が事件に巻き込まれるのです。身内の人たちが、単に容疑者になるなんて程度ではなく、間違いなく事件と何らかの係わりを持っていることは明らかなので、いつもは明晰な「考える人」の荘も、推理の結果に苦慮することになります。
真相の大まかなところは早い段階で見当がついてしまったのですが、話の骨格はロス・マクドナルドにも近いと思えるような深刻なものでした。


No.959 7点 フローテ公園の殺人
F・W・クロフツ
(2017/05/31 22:50登録)
南アフリカで起こった最初の殺人事件の顛末が印象に残っていた作品です。容疑者が逮捕されて裁判になるものの、証拠不十分で無罪になる、という展開で、無罪にはなっても結局容疑が完全に晴れたというわけではないので、容疑者は疑惑の目を向けられて居づらくなり、各地を転々とした後スコットランドに落ち着くことになります。で、第2の事件がそこで起こるのですが、この後半部分はさっぱり記憶に残っていませんでした。それもみなさん称賛されている最後の意外性さえも覚えていないというのは、我ながらなさけない。
今回の再読でも、最初の部分でこれはと思ったものの、この作者ならではのゆったりリズムに乗せられ、その疑念をいつの間にか忘れていました。その意味ではクロフツだからこその意外性と言えるかもしれません。後半の殺人未遂事件のアリバイ・トリックはあっけないものですが、まあいいでしょう。


No.958 6点 野獣の血
ジョー・ゴアズ
(2017/05/28 23:29登録)
このMWA新人賞を受賞したゴアズのデビュー作は、私立探偵小説ではありません。主役の大学教授に雇われる私立探偵も登場はするのですが、プロらしい聞き込みテクニックをちょっと見せるだけの役にとどまります。妻を自殺に追い込んだ4人組の若者たちへの大学教授の復讐物語ではあるのですが、その若者たちの視点から描かれた部分もかなりあります。最後の対決部分で、若者たちの一人が「あたかも、遊園地のぐるぐる回転するマシーンに乗っかっているようなものだった。そいつは回るたびにぐんぐんスピードをまし」ていくと考えるシーンがあり、エスカレートしていく犯罪行為の渦に彼等自身が翻弄されていく様もしっかり描かれているのです。
原題は “A Time of Predators”、1985年の翻訳作中では「捕食獣」と訳されていますが、翻訳が数年遅ければ、そのままプレデターとされていたかもしれませんね。


No.957 5点 確信犯
大門剛明
(2017/05/19 22:30登録)
現代司法の問題点をからめた基本的なプロットはなかなかよかったですし、プロローグの意味を明かすエピローグもなるほどと思わせられます。途中で思いがけない展開を見せて登場人物の役割を急変させてくれる部分は、『雪冤』ほど効果的ではありませんが、この作者らしい発想だと思います。また、ある登場人物の成長物語として読んでもおもしろいかもしれません。
しかしこの作者、証拠不十分だけれども心証はクロで、実際10年以上経って有罪の証拠が出てくる被告人に無罪の判決を下した場合、その判事は判事失格であり、また一般人も当然そう感じるはずだ、と本当に思っているのでしょうか? 証拠不十分のまま起訴したりしたら、それは明らかに検察の失態でしょう。逆に証拠不十分だが心証はクロだという理由だけで有罪との判決をすれば、それこそ文句なしに判事失格だと思うのですが。


No.956 6点 動く標的
ロス・マクドナルド
(2017/05/13 17:56登録)
リュウ・アーチャー(本作ほか創元版では「リュー」表記です)初登場作のタイトルは、セリフの中に出てきます。抽象的に「むき出しの光り輝いている、路上の動く標的」という言葉を他の人物が語った後、リュウ自身が「あいつこそ……わたしの動く標的なんだ」と言うのです。シリーズ第3作『人の死にいく道』あたりから既に、リュウはそんな言葉を口に出す探偵ではなくなってきます。
ストーリー自体かなり暴力的で、これもリュウのセリフを引用すれば「二日に三回も殴られれば、大てい頭も悪くなるさ」といった誘拐事件です。そのワイルドさは、チャンドラーよりハメットの亜流でしょう。ただやはりプロットのひねりはあり、あと80ページも残っているのに、誘拐犯の一人の正体に気づき、対決することになるので、この後どう展開するのかと思わせてくれます。で、結末だけは未熟ながら、後期にもつながる悲劇性を帯びることになっていました。


No.955 7点 ドアは語る
M・R・ラインハート
(2017/05/09 23:07登録)
HIBK (Had-I-but- known) 派の代表作家と言われるメアリ・ロバーツ・ラインハートですが、少なくとも本作に関する限り、事件関係者の一人称形式によるフーダニットと言ってもいいのではないかと思えました。読んだのはポケミス1961年の初版で、訳者あとがきでも、「アメリカのクリスティーだなどと評されることがある」とか「伏線の張り方が用意周到である点は、特にクリスティーを思わせる」、ただしラインハートの方が先輩だといったことが書かれています。
雰囲気的には、確かにクリスティーなら『牧師館の殺人』のようなイギリスの地方を舞台にしたミステリっぽい感じがしますし、ハリスン警部の人柄もフレンチ警部あたりを思わせる穏やかさです。ただし伏線と言っても、読者への挑戦を挿入できるようなタイプの作品ではありません。また最後の銃撃事件については、動機がはっきりせず、不要だったのではと思えました。


No.954 6点 スタバトマーテル
近藤史恵
(2017/05/05 22:33登録)
通常はスターバト・マーテルと表記されるラテン語の "Stabat Mater"(嘆きの聖母)。キリスト教聖歌のひとつで多くの作曲家が曲を付けていることは、プロローグの後第1章が始まってすぐに説明されています。芸術大学の副手であるりり子の一人称形式で書かれた作品で、彼女がその部分で歌うのが、ペルゴレージ作曲のものなのです。また各章の頭には、この聖歌の一節が引用されていて、本作のテーマとなっていることが示されます。
しかし…この作品で描かれるのは、聖歌のわが子の崇高な死を嘆く母親の姿とは似ても似つかないおぞましい独占欲でした。サスペンスとしてのプロットと、その異様な話を軽快な文章で描きあげている点はよかったのですが、一方でりり子がオペラ歌手になることをあきらめた副手であるという特殊な設定は、聖歌と作品内容のギャップから見ても特に必要なかったかなと思えてしまいました。


No.953 4点 桃色の悪夢
ジョン・D・マクドナルド
(2017/05/01 23:23登録)
このトラヴィス・マッギーのシリーズ第2作は、タイトルの意味が明確です。実際にマッギーが桃色の悪夢を見る羽目に陥るという話ですから。
巻末解説では、A・バウチャーのシリーズに対する「プロットがずば抜けていいし、充分にサスペンスフルであって、しかも現代社会やそのほか諸々のことをわれわれの心に描いてみせてくれるし、批判もしている」という言葉を引用していますが、今までに読んだ後年の2作や、本作以前のシリーズ外作品と比べると、少々がっかりな出来栄えでした。もちろん作品によって出来不出来はあるでしょうし、実際本作のプロットは長編としてはちょっと単純すぎるでしょうが、それだけではないような気もします。マッギーの一人称形式で、接した様々な人物や物に対する寸評が書かれているのですが、一貫したテーマ性が感じられず鬱陶しいのです。会話の調子も、多少翻訳のせいもあるかもしれませんが、独りよがりに思えます。


No.952 5点 魔女が笑う夜
カーター・ディクスン
(2017/04/19 23:34登録)
久しぶりの再読で、覚えていたのは有名なバカミス・トリック以外には、中傷の手紙が本作の中心主題であることとH・M卿が「後家」の正体を見破る手掛かり、H・M卿が女の子にカード奇術を見せたりするくだりぐらいでした。7割を過ぎてからやっと殺人も起こるのに、それに関する記憶は全く残っていませんでした。
現象だけ見れば『黄色い部屋の謎』をも連想させる密室(殺人ではない!)トリックは、特にひどいわけでもないと思います。それよりも気になったのが、Tetchyさんも指摘されている、中傷の手紙の再開と密室の演出について動機の説明に説得力がないことでした。また、村に大探偵が来るという噂の出所が全く説明されていないこと、さらにカーにはよく出てくる無鉄砲な恋と冒険を演じる若者らしき人物が本作では2人もいることが、むしろストーリーの求心性を損なっていると思われる点が不満でした。


No.951 5点 中村美与子探偵小説選
中村美与子
(2017/04/15 11:51登録)
12編の短編に、たぶん中村美与子の作品と思われる2編、それにごく短いエッセイ1編を収録しています。
巻末の解題で横井司氏は1935年の中村美与名義作品『火祭』について、同一作者かどうか不明だが、「放火犯が科学に長けている点などに、中村美与子作品に通ずるものがある」としています。しかしアイディアよりも場面展開が飛躍して説明不足なところがある点、視覚的な描写が巧みな点等の表現の持ち味に、後の作品と共通するものがあると思いました。一方1927年の『獅子の爪』(中村美代子名義)は、後年の作品群との共通性が感じられません。
1939年7月の『火の女神(セ・カカムイ)』から1940年5月の『鴟梟の家』までの4編は、北海道や中国等を舞台にした、本格派とは言えないにしても謎解き度の高い作品。その後の軍事的国策に沿ったスパイ・冒険小説4編の中では『聖汗山(ウルゲ)の悲歌』がおもしろくできています。


No.950 7点 黒の殺人鬼
チェスター・ハイムズ
(2017/04/09 23:34登録)
棺桶&墓掘りコンビシリーズを読むのはこれが2冊目。前回読んだシリーズ第2作の『狂った殺し』では意外にまともに警察小説っぽい感じだった2人でしたが、この第5作では派手に暴れまくってくれます。と言うか、相手がとんでもないことをしでかすので、彼等も普通に対応をしてはいられないようなところもあります。事件の重要関係者を逮捕する場面の乱闘も相当なものですが、雪の街でのカーチェイスには驚かされました。映画『オーメン』の有名ショッキング・シーンにさらに途方もない状況を加えた出来事が起こり、しかも本作の方が10年以上早い! 2人の荒くれ刑事も、これには愕然としています。
終盤近くなるまで、こんな事件をどうまとめるのだろうと心配しいたのですが、突っ込みどころはいろいろあるものの、とりあえずまとまった説明をつけてくれていました。片岡義男の訳文(セリフ)は自然とは言えないのですが、味があります。


No.949 6点 絶叫
リンダ・フェアスタイン
(2017/04/02 22:50登録)
アレクサンドラ・クーパー検事補シリーズの第2作。通常はアレックスと呼ばれていて(仲の良いマイク・チャップマン刑事は「クープ」なんて呼んだりもしていますけど)、それだと巻末解説にも書かれているように、性別がはっきりしません。原題の "Likely to Die" は、たぶん作中で「"まず助からない" という状態」と訳されているものなのでしょう。
この作家、コーンウェルに絶賛されたそうですし、解説でもアレックスはケイ・スカーペッタ検屍官と比較されていますけれど、本作を読んだ限りでは、それは表面的な設定上の共通点に過ぎないと思えました。コーンウェルみたいないかにもなエンタテインメント小説ではなく、リアルなモジュラー型警察小説タイプで、じっくり型、そして文章も緻密です。
ただ犯人判明シーンだけは、唐突なご都合主義偶然(犯人がその日時まで待った理由が全く不明)なのががっかりでしたが。


No.948 5点 密室の訪問者
中町信
(2017/03/29 23:28登録)
惜しい作品だなあ、というのが読み終わっての第一印象でした。
タイトルの密室―というより密閉された庭でしょうか―での殺人のアイディアは、プロローグの明らかな叙述トリックをうまく生かして(この叙述トリックは誰でも気づきそうですが、さらにひねりを加えています)、切れ味があります。現実には時間的に問題がありそうですが、犬が鳴いた、また鳴かなかった理由もうまく説明されていて、発想には感心させられます。またその前に起こる「事故」の真相も意外で、関係者が事実を隠していた理由も納得できます。さらにダイイング・メッセージについては引き出しに関する推理が鮮やか。
と、アイディアについては褒めるところも多いのです。しかし「事故」のあまりの偶然、メッセージの不自然さ、密室殺人後に起こる連続殺人の安易さ、小説としての薄っぺらさなど、不満もまた満載なのです。


No.947 6点 ピアノ・ソナタ
S・J・ローザン
(2017/03/25 10:19登録)
邦題のピアノ・ソナタは、シューベルト最晩年の変ロ長調(第21番)で、本作の語り手であり中心探偵役のビル・スミスが練習している曲です。個人的にはピアノ曲ならむしろショパンなどの小曲を聴きたいところなのですが。そのショパンの演奏をビルは、殺人事件の捜査で表向き警備員としてもぐり込んだ老人ホームで聴くことになります。弾き手の老婦人アイダは、ビルの聴き方で彼がピアノを弾くことを見抜きます。邦題に加えそんなこともあり、音楽が何らかの伏線になっているのかと思っていたら、そうではありませんでした。ただアイダはなかなか魅力的な人物で、ビルが事件の背景を知るきっかけを作ることにもなります。
ハードさも穏やかさも兼ね備えた作品で、おもしろいことは間違いないのですが、真犯人を指摘するビルの「推理」が実際には根拠不足なのと、悪人たちが最初から悪人らしすぎるのは気になりました。


No.946 6点 守銭奴の遺産
イーデン・フィルポッツ
(2017/03/21 22:12登録)
「別冊宝石」に『密室の守銭奴』のタイトルで収録された抄訳(1953年3月)を読んだことはあるのですが、こんなストーリーだったっけ…
その旧題の密室トリック、巻末解説では、「この作の弱点ともいえる」とし、密室ミステリ研究科ロバート・エイディが酷評していることも述べていますが、原理的にはそんなにひどいとは思いません。最近本格黄金時代の某巨匠1930年代後半の大作を読んだ時にも、本作のトリックとの類似性を感じたものです。その某作品(密室ではない)では蓋然性と伏線に充分気を配っていたのに対し、本作では細部がおろそかで図版もなく説明不足のため、ほとんど実現不可能に思えてしまうのでしょう。
一方犯人の人格造形と動機は、非常に印象的です。ただ犯人の二面性ということについては、チャンドラーの『プレイバック』の名セリフだって、そう言えるのではないかとも思ってしまうのですが。

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