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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1515件

プロフィール| 書評

No.975 6点 奇譚を売る店
芦辺拓
(2017/09/03 18:28登録)
6編からなる連作短編集です。すべて「―また買ってしまった。」の1文から始まる一人称形式作品で、古本屋で買った本や資料綴をめぐって異常な出来事が起こるという内容です。ミステリ的な謎解き要素もありますが、どの作も幻想ないしホラーな結末となります。また最初の『帝都脳病院入院案内』からして、メタっぽいところがありますが、最後の表題作は、それまでの収録作について「妙に既視感があった」とか「とりとめがない」とか作中の「私」を通して自己批評までしてくれて、このあたりはさすがに苦笑もの。
 既視感と言うより懐かしいレトロ感のある文章や全体的雰囲気は、けっこう気に入りましたが、後半はちょっと無理筋も目立ちます。
 なお、『青髭城殺人事件 映画化関係綴』では、この作中ミステリ、『堂廻目眩』と並ぶ戦前二大奇書の片割れと説明されているのですから、『黒死館殺人事件』を念頭に置いたものでしょう。


No.974 5点 虹の彼方の殺人
スチュアート・カミンスキー
(2017/08/29 22:46登録)
カミンスキーを読むのはこれが2冊目ですが、最初に読んだリーバーマン刑事もの『裏切りの銃弾』の渋めのハードな警察小説とは全く違う、ハードボイルドのパロディと言ってもよさそうな作品でした。
原題直訳は「黄色い煉瓦道の殺人」、日本では意味がわからない人が多いだろうから、この邦題になったのでしょうか。”Over the Rainbow” だったら、映画『オズの魔法使』の中でジュディ・ガーランドが歌う曲であることは知っている人も多いでしょう。本作は1977年発表ですが、時代設定は1940年で、ジュディや、ヴィクター・フレミング監督、さらにクラーク・ゲイブル等が証人として登場するという作品です。もう1人、ミステリ・ファンにとっては当時のスター俳優以上におなじみの実在有名人は、ピータース探偵の捜査を手伝うことまでします。オチはありきたりなのにちょっと唐突感がありますが、全体的にはそこそこ楽しめました。


No.973 6点 安楽死病棟殺人事件
マーシャ・マラー
(2017/08/25 21:57登録)
マーシャ・マラー(たぶん本当の発音はミュラー)のシャロン・マコーン・シリーズ第4作。この作家、作を追うごとに手慣れてきているように思います。手慣れるという言葉は妥協的な悪い意味にもなりかねませんが、彼女の持ち味にはうまく適合していい感じになってきていて、本作ではミスディレクションや結末の意外性がなかなか冴えています。重要な手がかりについては、読者に隠しているものもありますが。
今回シャロンの鳥恐怖症のことが出てくるのは、自分にもそんなことがあるから、他人も不合理な恐怖症を持っているかもしれないと考えるところだけです。またどこかでストーリーに絡めてもらいたい気もするのですが。
第1作を読んだ時に心配した通り、シャロンとグレッグ・マーカス警部補の間は結局うまくいかなくなって、本作では別れていますが、DJをやっている男と仲よくなり、さて、二人の関係はいかがなりますやら。


No.972 6点 変若水
吉田恭教
(2017/08/21 18:54登録)
タイトルの読みは「をちみづ」、島根県の村の名前で、まあ八つ墓村みたいなものだと思えばいいでしょう。昭和22年の出来事を描くプロローグが、平成23年の事件とどう絡んでくるのかは、早い段階で明かされます。
現代的な医療ミステリと古めかしい小村の旧家の秘密を組み合わせた作品で、ミステリ的には、フーダニット系の意外性もなくはないのですが、それより医療技術を駆使した、脳梗塞や心室細動に見せかける殺人方法のハウダニットが中心です。医学知識がないと解けない方法で、説明されても本当にそれでうまくいくのかどうかさえわからないのですが、こういったタイプはそれでいいでしょう。ただ、心室細動に見せかけるトリックは、手順をややこしくし過ぎていると思います。
文章もなかなか読ませてくれるのですが、メールやセリフの中に、地の文並みの情景描写が出てくるのだけは不自然さを感じました。


No.971 5点 トラブルはわが影法師
ロス・マクドナルド
(2017/08/17 10:42登録)
ケネス・ミラー名義で発表された第2作は、デビュー作と同じくスパイ小説で、一人称形式という点も同じです。1945年2月、ハワイで起こった事件は自殺として処理されますが、今回の語り手ドレイク少尉はスパイ活動絡みの殺人ではないかと疑います。さらにデトロイトでも自殺とみなされる事件が起こり、という展開で、大陸横断鉄道でのサスペンスなどは、アンブラーの『恐怖への旅』等とも通じるところがあります。
タイトルについては、途中で「トラブルのほうが、ぼくを摑まえて放さないんだ」「まるで、トラブルはきみの影法師だ」というセリフが出てきます。しかしドレイク、かなり自分の方から事件に首を突っ込んでいってます。
全体的にはおもしろいのですが、クライマックスに向かう部分が偶然に頼りすぎている点、最後のどんでん返し部分が何となく安っぽくなっている点等、不満もあり、これくらいの評価です。


No.970 7点 唾棄すべき男
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
(2017/08/13 23:14登録)
タイトルの唾棄すべき男とは、冒頭銃剣でめった切りにされて殺された被害者のスティーグ・ニーマン主任警部のことです。スウェーデン語は全く分かりませんが、高見洽訳に載っている英題では “the abominable man”、 普通「いやな」とか「不愉快な」と訳される言葉です。ただ、ニーマンは賄賂を要求するようないわゆる悪徳警官ではありません。日本でも戦前には多かったと思われる、拷問等も法的にはともかく当然必要で有効な手段だと考えるような、悪い意味での軍隊式考え方の持ち主です。
警察小説というと、何週間も、時には1年以上もの期間の捜査を描く作品が多いですが、本作はたった1日の出来事です。深夜に起こった事件で、マルティン・ベックとルンは全然眠らないまま、特にルンは前日の仕事の疲労が溜まっている状態で、事件解決までなだれ込みます。また大いに楽しめるクライマックスのやたらな派手さも、警察小説には珍しいでしょう。


No.969 7点 花嫁は二度眠る
泡坂妻夫
(2017/08/10 00:14登録)
Kanamoriさんも書かれているように、泡坂妻夫の場合、このようなオーソドックスなフーダニットはむしろ異色作かもしれません。今回の趣向は真相にも直接関係する「迷信」と言えそうですが、地味な印象です。
しかし、再読してみると4か月前の殺人事件と現在10月の出来事をうまく組み合わせていく手際はさすがだと思いました。この第2の殺人が起こる現在の方は、2日間のみ、それで一気に4か月前の事件も解決してしまいます。この第2の殺人については、早朝幹夫にかかってきた電話の意味を除き、ほとんど記憶に残っていませんでした。
最終的な真相説明の根拠は必ずしもすべて「見る」ことのできない読者にも明確にあらかじめ提示されているわけではありません。たとえばダミー解決(明らかに説明不足で、ダミーだとすぐわかります)を否定する根拠もそうです。しかし多少はそんなところがあってもいいでしょう。そのダミー解決の犯人も相当意外です。


No.968 5点 死の演出者
マイクル・Z・リューイン
(2017/08/06 19:14登録)
アルバート・サムスン・シリーズの第2作は、原題 “The Way We Die Now”。ローレンス・ブロックの『八百万の死にざま』もそうでしたが、ロス・マクの『人の死に行く道』を踏まえているんでしょうね。それ以前にもこのような言い回しの作品はあったのかもしれませんが。
ただ、複雑なプロットを最後にうまくまとめてみせたロス・マクとは違い、本作は最初から事件の裏が見えている話で、証拠のない仮説はあるものの、どう決着をつけるかが問題になります。このシリーズを読むのは4冊目ですが、こういうタイプは初めてでした。もちろんそこが作者の今回の狙いでしょうが、単純な話の割には長すぎると思います。まあ最後にちょっとした意外性を加えてくれてはいますが、それも予想範囲内のもの。
むしろ本来むしろ臆病なサムスンが、最後近くには命がけのアクションを見せてくれるのが、楽しめました。


No.967 7点 森の死神
ブリジット・オベール
(2017/07/26 23:14登録)
全身麻痺で、目も見えず、話すことを含めほとんど動けないエリーズの一人称で語られるサイコ・サスペンスです。この主人公設定を見て、なんだか重苦しそうと思われる人もいるでしょうが、全然そんなことはなく、軽快でユーモラスな語り口が楽しめる作品です。そんなエリーズのキャラが、本作の最大の魅力と言ってもいいでしょう。ゾンビ・ホラー『ジャクソンヴィルの闇』も書いている(未読ですが)作者だけに、サイコな事件の方はかなりグロいところがあります。
サイコ・キラーの正体については、可能性の一つとしてごく早い段階で思いついてしまいましたが、その解決に至るクライマックスの逆転劇連続は、なかなかのものでした。その解決、最初の部分でエリーズに森の死神について語る少女の態度やその内容に隠された伏線について、説明不足なのは気になりますが、まあ明かされた真相から逆に考えていけば納得はできます。


No.966 6点 サナキの森
彩藤アザミ
(2017/07/22 09:15登録)
第1回新潮ミステリー大賞受賞作で、選考委員たちは作者の文章を褒めています。確かに現代を描く軽い文体と、作中作の旧字体を使った古風な文章の使い分けという、なかなか凝ったことをやっています。途中でこの作中作、在庭冷奴(あらばれいど)著『サナキの森』が50ページぐらいだと書いてありますが、本当にその長さのこの話はそれ自体完結した恐怖小説になっています。
事件そのものは、その作中作と人物設定で共通点の多い、80年前に田舎で起こった密室殺人です。トリックは意外に複雑なことをやっているものの、原理的には、密室に慣れた人ならたぶんすぐ見当がつくものですが、話の骨格のシンプルさは悪くないと思います。ただ実際の事件と共通点が多いと言っても、作中作との繋げ方は今一つといったところでしょうか。
主役の「私」の不器用な恋愛も、事件とは全く無関係ながら、ここまで書き込まれれば良しとしましょう。


No.965 4点 放浪処女事件
E・S・ガードナー
(2017/07/14 22:31登録)
『義眼殺人事件』と並び、ペリー・メイスン・シリーズには珍しいタイトルは、ポケミスに入ったガードナーとしてはまだ『奇妙な花嫁』に続く2作目ということもあるのでしょうか。
せっかちな依頼人からの電話に始まる、殺人にまで至る事件展開は意外性があり、おもしろいのですが、その後どうも切れ味がなくなってきます。小出しにしてくる疑問点に対する解決が、どうもありきたりなのです。特に後半予備審問が始まってある証拠品が持ち出されてくる部分は、その質問からしてメイスンはもう殺人事件の重大ポイントを押さえているのだろうなと思っていたら、そうではなく、かなり後になってその点に気づくのには、がっかりです。放浪する処女の役割にしても、もっとひねってくるのかと期待していたのですが。さらにこの真犯人の設定、ヴァン・ダイン20則中現在でも通用する条項に違反の疑い濃厚ですしねえ。


No.964 5点 失投
ロバート・B・パーカー
(2017/07/10 21:53登録)
スペンサー・シリーズは今のところ発表順に読んで、これが3冊目です。
巻末解説の中に、パーカー自身の「どちらかというと、冒険小説と呼んでほしい」という言葉が引用されていますが、確かに後半はそんな感じです。さらに「スペンサーは探偵だが、シャーロック・ホームズとか、エラリイ・クイーンみたいな探偵じゃない」という作者の言葉については、だったらダイイング・メッセージを鮮やかに読み解くコンチネンタル・オプや、もつれた人間関係を解きほぐしていくリュウ・アーチャーみたいな探偵でもないことになります。作者の小説構成がハメットやロス・マクとは異なる点です。ミステリ的には、悪党たちはスペンサーが八百長試合捜査を始めるとすぐに彼を脅しに現れることで正体を明かしてしまうという安易さ。銃撃戦だって、マイク・ハマーなら正当防衛で通るようにうまく仕組みそうです。でも、この単純さはこれでそれなりにいいか…


No.963 5点 柩の花嫁 聖なる血の城
黒崎緑
(2017/07/06 22:12登録)
6割ぐらいまでは、フランスの小さな城を改造したホテルに滞在する日本人たちの間で起こった事件を描く作品です。その後舞台は日本に移ります。それにしても長い作品です。ここまで長くする必要があったのか…
開幕早々、第1章でさりげなく出てくる動機の伏線には、あっさり気づいてしまいました。たぶんこの行の意味はこうじゃないかと思っていたら、案の定。だいたい、このような事件なら、犯人に必要な基本条件は最初から明らかで、犯人は2人のうちどちらかしか考えられません。フランスで事件を終わらせてしまわなかったのは、中心となる2つの殺人事件の他に、過去のその城での落馬死事件と、さらに別の人間の思惑とを入れているからです。クライマックスではそれらの要素をうまく組み合わせてはいるのですが、この別の人間の計画が明らかになる最後の部分は、おいおい西村京太郎かよ、と思ってしまいました。


No.962 6点 少年の荒野
ジェレマイア・ヒーリイ
(2017/06/30 23:09登録)
ヒーリイという作家は次作『つながれた山羊』がシェイマス賞を受賞していますし、その他にも何冊も翻訳されている作家ですが、現在のところ英語版のWikipediaにさえ登録がありません。2014年8月に亡くなったことだけは調べがつきましたけど。
本作はそんなあまり知られていない作家の1984年のデビュー作です。同じハードボイルド系では、翌年にアンドリュー・ヴァクスがデビューしています。ヴァクスは過激なハードさが特徴でしたが、ヒーリイの方は非常にオーソドックスな私立探偵小説。一人称形式で語られ、主役のジョン・フランシス・カディも渋めの私立探偵です。本拠地がボストンということで、どうしてもスペンサーと比較されてしまうということが巻末解説には書かれていましたが、同じ都市であることがそんなに気になるものかなとも思えます。
安心してストーリー展開を楽しめ、結末も納得のいくものという感じでした。


No.961 8点 赤く微笑む春
ヨハン・テオリン
(2017/06/11 09:22登録)
いやあ、読んだあ。
なんのこっちゃと言われそうですが、このスウェーデン作家の作品は、ただ長い(本作はポケミス約450ページ)だけでなく、本当に大作感があります。スケールの大きい話というのではなく、じっくり文学型の極致。読んでいるのがミステリであることをほとんど忘れそうなぐらいです。なかなか事件は起こりませんし、放火殺人が起こってからも、警察による捜査は、今回の主役ペールが時たま警察と連絡をとる場合を除き、読者には知らされません。ただし『黄昏に眠る秋』でもそうでしたが、最後にはサスペンスフルなクライマックスが用意されています。
中心となるペールの父親の過去に根差す殺人の他に、北欧のエルフとトロール伝説にまつわる「日常の謎」といってもよい出来事とが並行して描かれる構成です。この二つの謎はミステリ的に相関関係があるわけではありませんが、ブレンドの味わいが絶妙です。


No.960 6点 萩・津和野殺人ライン
深谷忠記
(2017/06/05 22:54登録)
荘&美緒シリーズの1冊ですが、今回は意外な設定を見せてくれ、さらに結末も謎解き的な意味でではなく、この作者としては意外なものでした。
光文社文庫版の巻末解説では、「本書で初めて荘の素顔が読者の前に晒され」、「荘と美緒の「婚約」が正式なものとして確認される」という意味でシリーズ中の異色作であるとしています。しかし異色ぶりはむしろ事件の内容でしょう。荘の実家がある萩で事件は起き、彼の親戚が事件に巻き込まれるのです。身内の人たちが、単に容疑者になるなんて程度ではなく、間違いなく事件と何らかの係わりを持っていることは明らかなので、いつもは明晰な「考える人」の荘も、推理の結果に苦慮することになります。
真相の大まかなところは早い段階で見当がついてしまったのですが、話の骨格はロス・マクドナルドにも近いと思えるような深刻なものでした。


No.959 7点 フローテ公園の殺人
F・W・クロフツ
(2017/05/31 22:50登録)
南アフリカで起こった最初の殺人事件の顛末が印象に残っていた作品です。容疑者が逮捕されて裁判になるものの、証拠不十分で無罪になる、という展開で、無罪にはなっても結局容疑が完全に晴れたというわけではないので、容疑者は疑惑の目を向けられて居づらくなり、各地を転々とした後スコットランドに落ち着くことになります。で、第2の事件がそこで起こるのですが、この後半部分はさっぱり記憶に残っていませんでした。それもみなさん称賛されている最後の意外性さえも覚えていないというのは、我ながらなさけない。
今回の再読でも、最初の部分でこれはと思ったものの、この作者ならではのゆったりリズムに乗せられ、その疑念をいつの間にか忘れていました。その意味ではクロフツだからこその意外性と言えるかもしれません。後半の殺人未遂事件のアリバイ・トリックはあっけないものですが、まあいいでしょう。


No.958 6点 野獣の血
ジョー・ゴアズ
(2017/05/28 23:29登録)
このMWA新人賞を受賞したゴアズのデビュー作は、私立探偵小説ではありません。主役の大学教授に雇われる私立探偵も登場はするのですが、プロらしい聞き込みテクニックをちょっと見せるだけの役にとどまります。妻を自殺に追い込んだ4人組の若者たちへの大学教授の復讐物語ではあるのですが、その若者たちの視点から描かれた部分もかなりあります。最後の対決部分で、若者たちの一人が「あたかも、遊園地のぐるぐる回転するマシーンに乗っかっているようなものだった。そいつは回るたびにぐんぐんスピードをまし」ていくと考えるシーンがあり、エスカレートしていく犯罪行為の渦に彼等自身が翻弄されていく様もしっかり描かれているのです。
原題は “A Time of Predators”、1985年の翻訳作中では「捕食獣」と訳されていますが、翻訳が数年遅ければ、そのままプレデターとされていたかもしれませんね。


No.957 5点 確信犯
大門剛明
(2017/05/19 22:30登録)
現代司法の問題点をからめた基本的なプロットはなかなかよかったですし、プロローグの意味を明かすエピローグもなるほどと思わせられます。途中で思いがけない展開を見せて登場人物の役割を急変させてくれる部分は、『雪冤』ほど効果的ではありませんが、この作者らしい発想だと思います。また、ある登場人物の成長物語として読んでもおもしろいかもしれません。
しかしこの作者、証拠不十分だけれども心証はクロで、実際10年以上経って有罪の証拠が出てくる被告人に無罪の判決を下した場合、その判事は判事失格であり、また一般人も当然そう感じるはずだ、と本当に思っているのでしょうか? 証拠不十分のまま起訴したりしたら、それは明らかに検察の失態でしょう。逆に証拠不十分だが心証はクロだという理由だけで有罪との判決をすれば、それこそ文句なしに判事失格だと思うのですが。


No.956 6点 動く標的
ロス・マクドナルド
(2017/05/13 17:56登録)
リュウ・アーチャー(本作ほか創元版では「リュー」表記です)初登場作のタイトルは、セリフの中に出てきます。抽象的に「むき出しの光り輝いている、路上の動く標的」という言葉を他の人物が語った後、リュウ自身が「あいつこそ……わたしの動く標的なんだ」と言うのです。シリーズ第3作『人の死にいく道』あたりから既に、リュウはそんな言葉を口に出す探偵ではなくなってきます。
ストーリー自体かなり暴力的で、これもリュウのセリフを引用すれば「二日に三回も殴られれば、大てい頭も悪くなるさ」といった誘拐事件です。そのワイルドさは、チャンドラーよりハメットの亜流でしょう。ただやはりプロットのひねりはあり、あと80ページも残っているのに、誘拐犯の一人の正体に気づき、対決することになるので、この後どう展開するのかと思わせてくれます。で、結末だけは未熟ながら、後期にもつながる悲劇性を帯びることになっていました。

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