チムニーズ館の秘密
バトル警視/別題『チムニーズ荘の秘密』

作家 アガサ・クリスティー
出版日1955年04月
平均点5.75点
書評数8人

No.8 8点 斎藤警部
(2025/02/16 12:10登録)
「この前、同じくらい危険な目にあったのは、野生の象の群れに襲われた時です」

軽快にうねる漫才に始まり、すかさず、異なるスタイルで別の漫才へと雪崩れ込む序盤。 ここで得られる予感の通り、一貫してパリッと痛快愉快な物語。 南アの青年アンソニーが、悪友(?)ジミーからの依頼に乗り、その悪友になりすまして或る冒険的ミッションを帯び英国へ渡る。 主舞台となるチムニーズ館には館主の英国貴族、英国高官、大資本家、パリ警視庁刑事、東欧王族・貴族に米国人ビブリオマニア等々が集まり、その中心には ”ヘルツォスロヴァキア(!)” なる国の未来が懸かった或る陰謀めいた事象が置かれているとかいないとか。 クリスティ再読さん仰る通り、アガサの心を通した “ルリタニア” が浮かび上がって来るお話ですね。 (国名、もうちょっとどうにかならなかったのかという気もしますが・・)

「わたし、取りはずしのきく襟の特許を取ろうかと考えているの」

ページの狭間から溢れ出るのは、やんやの大喝采が途絶えないカラフルなストーリー展開にミステリの牽引力。 様々なレイヤーでのなりすまし入れ替わりが錯綜し、更なる疑惑を唆しつづける。 熱いじゃないか。 一人、アッカラサーマにアレな奴がいる・・ こいつはルアーの様な逆ルアーと見せかけて実はチョメチョメ、なのかどうなのか、分からないぞ。 まるで、落ち着いたルパン対ホームズのような、主役(?)アンソニーと探偵役(?)バトルの、一連の時間に関する対話シーン、いいね。 いやいや、果たしてどちらも 「本物」 なのか? 更には(?)本物の怪盗フロムパリが別箇に存在するというのだが。 いやいや、この疑心暗鬼ワクワク感はもはや雲をも突き抜けそうでございます。 とにかくこの、分厚い冒険の中盤に是非ザ~ンブリと浸かって、いずれ来る目くるめく終盤に心と体を備えておいていただきたい。

“バトル警視は賢明にも姿を消しており、彼がどうなったのかはだれも知らなかった。”
“彼女はバトル警視がそばに立っているのに気づいて、ちょっとびっくりした。この男は、なんの予告もなしにどこからともなく姿を現すことに、非凡な技術を持っているらしい。”
「バトルさん、あなたはいつか回想録を書くんじゃないですか」

落ち着き払って神出鬼没 “非の打ち所のない” バトル警視には初めて人間的魅力を感じたかも。

「あなたはまったく有能な刑事です、バトルさん。スコットランド・ヤードのことを、ぼくは終生、尊敬の念をこめて思い出すでしょう」
「ねえ、バトルさん、あなたは恋に落ちたことがありますか?」

絶妙な中途のタイミングより、思わぬセカンド探偵役(?)が登場した。 意外なタイミングを見計らって予想の斜め前を駆け抜ける活躍だ。
挙げ句の果ては皆を呼び集め真相暴露の大団円。 あーーーー (‘◇’)ゞ またしてもアガサクの人間関係トリック応用編に討ち取られた!! 嗚呼、このなりすましには流石の俺サマーも驚き桃の木バンザイ三唱ノーキーエドワーズよ。

「なんて性質(たち)の悪いトリックだ」

その、動機があると見做されるかも知れない可能性の機微なあ。 終盤、アンソニーとバトルで主役争い(?)の信頼ある仲良し綱引きが眩しかった。 アジトのシーンも面白かった。 ラス前章タイトルの機微も目を引いた。 ちょっとしたコンプライアンス案件をも呑み込んでしまう、明るさ無比のイカしたざわざわエンディング。 麗しき恋愛劇の仮締めを経、終盤に迸り出た短い大演説の鮮やかなこと!! ダメ押しは、最高の友との再会。 それも単純な惰性のモンじゃねえ。 そこにはユーモア連射のレインボーファウンテンがある。 訳者あとがきの熱さ、華やかさ、簡潔さ、書き出しの抉りっぷりも特筆したい。(点数には関与せず)
8.4点は超えました。

「山賊たちに山賊でなくなることを教えるとか、暗殺者に暗殺しないことを教えるとか、国民の道徳性を一般に高めるとかね」

「どうやら今週は偉大な一週間だったようですな」

No.7 3点 レッドキング
(2021/02/03 20:58登録)
架空のバルカン小国の政権争いと失われた宝石を巡り、冒険家、凄腕政商、大物外交官、怪盗、豪邸貴族、いい女、元気娘、謎の女、探偵、英仏刑事etc入り乱れてのクリスティー「スパイ冒険活劇もの」の集大成。幾つかの人物入代りネタの他、ほんのちょびっと宝探し暗号物のオマケも付く。

No.6 5点 虫暮部
(2019/08/26 10:20登録)
 奇妙な偶然の一致や、なんでそうなるのか不思議な言動が満載。ミステリの国と言うスラップスティックな架空世界の物語、と割り切っても、物凄く面白いとまでは思えなかった。其処此処に見受けられる妙なユーモア感覚は評価出来る。

No.5 7点
(2017/09/07 23:31登録)
久々に読んだクリスティーは、バトル警視初登場の冒険スリラーです。まあバトル警視はほとんどの作品で脇役なんですが、特に本作では口数も少なく、いつの間にか主人公たちのそばに立っているなんて、影みたいな存在です。で、最後にはある人物についての調査も既に済ませてしまっていることがわかったりして。
本作では、あるパターンの技巧が何重にも仕掛けられています。同じ手をこれほど繰り返し使っている作品は、クリスティーに限らず珍しいのではないでしょうか。最後の一つには、明かされる直前には気づいたのですが、よくもまあここまでと呆れてしまいます。また、ミカエル王子殺害犯人の設定は、アンフェアと非難されないようにした構成が巧みです。クライマックス、主人公危機一髪のシーンは、考えてみれば無理があるのですが、驚かされました。
というわけで、個人的にはかなり気に入った作品でした。

No.4 5点 了然和尚
(2015/11/10 11:12登録)
本格物ではないスパイ、冒険物の系統なのですが、既読感があり軽い感じで読みやすかったです。逆に言えば、人物や構成が薄く、平凡でした。「偽りの人物とその正体を知る者の排除」というのが既読感の正体だったようですが、クリスティーでは最もよく出てくるモチーフではないでしょうか。

No.3 6点 クリスティ再読
(2015/09/29 21:51登録)
バトル警視その4。
これクリスティ流の「ルリタニアン・ロマンス」じゃないかなぁ。
「ゼンタ城の虜」みたいな、架空の小国での冒険ロマンスをそういうんだけど、「ゼンタ城」みたいな雰囲気が結構濃厚に感じられる(クリスティが読んでないわけないね)。

作品的には「秘密機関」的な垢抜けなさが解消し、いろいろめまぐるしく展開するが、趣向がそれぞれ違って退屈な感じはない。伏線をきっちり丁寧に張りすぎてるおかげで、真相はサプライズだけどまあこれ、ヨメるよね。しかし、オトメのツボは充分心得たオチなので、そこらは合格。
バトル警視はナイスなオジさまだけど完全脇役。ヒロインのヴァージニアはあっけらかん美女で素敵。

ま、後年のバトル警視モノみたいなクセモノ作品じゃなくて単なるキャラ小説で、展開が速いから少女マンガにしたらハマると思う...と思ったらあるみたいだね。それも「忘れられぬ死」「ゼロ時間へ」と一冊になってるそうだ。よりによって激シブいノンシリーズだけで集めたものだなぁ。評者とあるマンガのあとがきにあった「クリスティはマンガ化が契約上難しい..」というのを真に受けてたが、芦辺拓氏によるとどうやらそんなことはないらしい。まそれでも権利は高いだろうから、編集の言ったテキトーな言い訳を真に受けたのかな。

No.2 6点 ボナンザ
(2014/11/05 00:22登録)
軽快なストーリー展開に、クリスティならではのどんでん返しが楽しめる佳作。

No.1 6点 あびびび
(2012/07/11 17:18登録)
チムニーズ館は歴史を作り、刻んだイギリス社交界の名門。そこで某国の王子が射殺される…。しかし物語りに悲壮感はなく、ドタバタ的にどんどん先に進む。

最後は、主人公というべき男の正体に驚いてしまうが、クリスティは「時間も掛からず、楽しんで書いた」というから軽い乗りで読むべき冒険ミステリ。

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