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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1530件

プロフィール| 書評

No.1050 6点 影の肖像
北川歩実
(2018/09/30 23:06登録)
性別さえ明かしていない覆面作家が今回選んだテーマはクローン。作中の『クローン人間が生まれた日』という小説が、ある意味殺人事件を引き起こす元になっていると言っていいでしょう。どんな意味でかを書くのはネタばらし気味になるので、やめておきますが。それに白血病治療のための骨髄移植を絡めた話です。
少しずつ修正しながら過去の秘密を明かしていく手順は、ただもったいぶって手の内を小出しにしているだけに思えて、あまり印象はよくないのですが、終盤になってその秘密の大部分が明らかにされてきてからは、なかなかサスペンスフルな展開になります。最終的な過去の真相は、クローンなど持ち出さなくてもよい説得力のあるものになっていますが、伏線があったわけではありません。またどんでん返しは意外なのはいいのですが、最後の展開が少々無理やりな感じがしました。


No.1049 5点 嫉妬
ボアロー&ナルスジャック
(2018/09/28 23:13登録)
1970年発表作で、訳者あとがきによれば、フランスでは「ボアロー、ナルスジャックの近来にない傑作」と絶賛されたそうですが、それほどの出来とも思えませんでした。まあ長編では直前の4冊は読んでいないので、比較はできないのですが。
なにより、本作の文章があまり好きになれないというのがあって、これは一人称を通常「ぼく」としているのに時たま意味なく「私」になったりする翻訳のせいも当然あるでしょう。この一人称の不統一には、まさか叙述トリックではないだろうし(フランス語にはそんな区別表現はないはずですから)とまで思ってしまいました。異常なまでの嫉妬深さから殺人を犯す主役セルジュの思い込みぶりにも、最初のうちかなりうんざりでした。
それでも、殺人の後に起こった皮肉な状況には、感心させられます。最終ページで明かされるある人物の行動の動機もなかなか意外でした。


No.1048 6点 薔薇の輪
クリスチアナ・ブランド
(2018/09/14 23:50登録)
チャッキー警部が前回登場した『猫とねずみ』はゴシック・サスペンス系だったようですが、その27年後に書かれた本作も、ブランドお得意の緻密かつ大胆なフーダニットとは違った味があります。容疑者の数はごく限られているというか、事件が起こる前から4人が共犯で何か企んでいることはわかりきっています。中心の謎はスウィートハートがどうなったのかということ、それにシカゴのギャング2人の死亡事件がどう関係しているのかということです。2/3を過ぎたあたりで、チャッキー警部が語る仮説は、読者も既に思い付いていることだろうことくらい、作者も当然承知の上で、だからその仮説では説明のつかない記述をその少し前から散りばめています。ただ、その仮説と真相との距離感が、この作者にしてはどうも弱いのです。
E-BANKERさんも書かれているように、ギャングの描き方がパロディーっぽいのも気になりました。


No.1047 6点 リンゴォ・キッドの休日
矢作俊彦
(2018/09/10 23:08登録)
あまり刑事らしく見えないらしい二村刑事の一人称形式で書かれた作品2編を収録していますが、どちらも彼の休暇日1日だけで済んでしまう事件です。したがって基本的には単独捜査で、なるほど、警察官が主役でありながら、警察小説ではなくハードボイルドにする、こんな手法があったかと感心させられました。文体や雰囲気はまさにハードボイルド、と言うかいかにもという感じの警句や比喩表現が過剰なまでに使われていて、疲れてしまうほどです。
表題作は200ページぐらいですから、短い長編と言っていいでしょう。真相は明かされてみるとごく単純なのですが、脇筋をごちゃごちゃと入れてわかりにくくなっているところ、tider-tigerさんが『真夜中へもう一歩』評で書かれているように、プロットの組み立て方も初期チャンドラーっぽいですね。約150ページの『陽のあたる大通り』の方がすっきりできています。


No.1046 6点 焼殺魔―フロリダの悲劇―
ジョン・ラッツ
(2018/09/05 23:18登録)
私立探偵史上最も臆病な探偵と評されたアロー・ナジャー・シリーズの作者が新たに創造した私立探偵フレッド・カーヴァーは、身体障害者です。マイクル・コリンズのダン・フォーチュンは片腕でしたが、カーヴァーは警察官だった頃左脚を撃たれて使えなくなり、杖をついているのです。しかし走ることこそできなくても、ナジャーと違い激しいアクションにも怯むことはありません。
連続焼殺事件の容疑者は早い段階で浮かんできます。ただ手作り火炎放射器を使う殺人手口は、精神分裂病(統合失調症)の若い容疑者には合いそうもないという点は最初から明らかです。で、予想どおりというか予想よりも遅くなって、事件の様相ががらりと変わるや否やクライマックスのアクションとなります。
エドウィナ(現恋人)とローラ(前妻)、デソトとマクレガー(どちらも警部補)といった人物対比も、うまく考えられた作品でした。


No.1045 6点 時のかたみ
ジューン・トムスン
(2018/09/01 10:07登録)
ホームズのパスティーシュのみが知られている作家のようで、本サイトだけでなくAmazonでも、現在レビューがあるのは贋作ホームズだけです。さらに20冊ほどの長編のうち邦訳があるのは2冊のみ。
では、長編には見るべきものがないのかと言うと、そうでもありません。確かにマニアを喜ばせるようなトリックや論理はありませんし、サスペンスに富んでいるわけでもありません。実際のところ、メインの二つの「病死」が起こった時点で、隠された秘密の予測は簡単についてしまいました。平凡なアイディアなので、何かひねりを加えてくるのかと疑ったのですが、そんなこともなく、ただ法律の規程に基づいた動機がわからなかっただけでした。それにもかかわらず、小説としては読んでいて気持ちのいい作品で、結末もかなり満足できるものになっているのです。特に最初に出て来るお婆さんがいい味を出していました。


No.1044 4点 京都貴船川殺人事件
山村美紗
(2018/08/29 00:03登録)
京都を舞台にした狩矢警部もの3編の中編集。
そのうち最初の表題作が、謎解きとしては最もよくできています。タイトル通り川辺で起きた殺人事件で、容疑者を何人か並べておいて、意外な犯人を指摘してくれます。ただ80ページほどの間に3人も殺され、その1つを密室殺人にしているのは、欲張りすぎでしょう。密室も筆を急がせすぎて不可能性が伝わって来ず、またトリック自体どうということもありません。殺人相互の関係性に謎の焦点を絞った方がよかったと思えます。
『京都保津川殺人事件』は殺人の動機が中心で、それにちょっとしたアリバイトリックを加味しています。しかしあまり印象に残らない作品。『京都鴨川殺人事件』は幼女誘拐殺人が2件続けて起こるミッシング・リンク・テーマの作品ですが、真相は平凡でした。
しかしプロットの出来より小説として薄味すぎ、最低限の登場人物像も描かれていないのが一番の不満でした。


No.1043 7点 警官殺し
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
(2018/08/24 23:24登録)
タイトルに偽りありの作品です…少なくとも一応は。
シリーズ第9作、というより最後から2番目の本作では、以前の作品が回顧されています。第1作の殺人犯が再度登場し、田舎で起こった殺人と思われる女性失踪事件の容疑者になるというストーリーですが、もちろん今回も彼が犯人でしたで終わるはずはありません。田舎の警察官オーライがいい味を出しています。さらに第2作の犯人も誠実な新聞記者として再登場します。
この再登場者以外のジャーナリストは、おおむね批判的に描かれていますが、それ以上に否定的に描かれているのが、マルティン・ベック等の上司マルムです。あきれるような間抜けぶりで、豪放なラーソンは面と向かって上司を罵倒しています。上述事件が、途中から並行して描かれるストックホルムでの泥棒と警官3人との銃撃戦事件(その最中に警官1人が事故死)とつながってくるところがうまくできていました。


No.1042 6点 ルウィンターの亡命
ロバート・リテル
(2018/08/20 00:02登録)
作者のデビュー作にして、1973年のゴールド・ダガー賞を受賞したスパイ小説。
新聞書評などでチェスの試合にも例えられた本作は、章見出しが「Ⅰ 序盤戦」から「Ⅵ 捨て駒」までチェスの用語になっていて、ソ連人のチェス・プレイヤーも登場します。このプロ棋士、それに登場時には話に華を添えるぐらいに思えた二人の女性も、終盤近くなってから全体構成に不可欠な役割を演じることになってきます。そのように様々な要素が絡み合ってくるところは、計算しつくされた構築美を感じさせことは確かなのですが、個人的にはむしろご都合主義にも思えてしまいました。
結局ソ連への亡命者ルウィンターのある特技が本物なのかどうか、最後まで立証されず、亡命理由もまたアメリカ側の推測だけに留まる点、また最後の「事故」後の両大国の対応が明確に描かれていない点など、あいまいさが残るのも不満でした。


No.1041 7点 黒地の絵
松本清張
(2018/07/28 10:19登録)
同じタイトルの短編集は光文社からも出ていますが、それは新潮文庫版とは、表題作以外は全く異なっています。で、この評は新潮文庫版の方に対するものです。
暗く異様な感じの表題作は、今回再読してみると、現代では表現にもテーマにもかなり問題がありそうですが、迫力のある作品であることは間違いありません。
これも評判のいい中編『真贋の森』は唐突なオチが気になる人もいるかとは思いますが、やはり傑作。この作品を、或る日本美術史教授が絶賛していたとことが記憶に残っています。ちなみに「竹田」という画家のことがちょっと出てきますが、美術に詳しくない人は「たけだ」と読みそうです。これは江戸時代後期の田能村竹田のこと。
ALFAさんも好きだという『拐帯行』もいいですが、偶然が過ぎるとも思えます。雑誌か何かで紹介されたルートだという説明でもあれば、納得できるのですが。


No.1040 7点 目撃者失踪
ジョー・ゴアズ
(2018/07/13 23:47登録)
DKAシリーズ第3作は、やはりダン・カーニー探偵事務所の探偵たちが共同で活躍することは確かですが、今回はそれぞれが個別に自分の分担部分を追っていくのを並行して描いていて、チームワークという感じはあまりせず、それだけハードボイルドっぽい感じになっています。
原題 "Gone, No Forwarding" は「転居先不明」とでも訳せるでしょう。邦題の「失踪」は意図的なものですから意味が違います。ローン未払金の集金について証人になりそうな4人の元DKA所員の行方を突き止めていくストーリーです。3人は巻半ばまでで見つかるのですが、最も重要な証人である最後の1人の行方がなかなかわからず、やきもきさせます。
途中のサスペンス、クライマックスと、これまで読んだシリーズ中では最もおもしろいと思いました。


No.1039 6点 21のアルレー
カトリーヌ・アルレー
(2018/07/10 00:08登録)
邦題どおり21の短編を集めたもので、長さもジャンルも様々です。
SF、ファンタジー系もいくつかありますし、2編はミステリやSFとは全く縁のない話です。というか最後の『理想の相手』はただ理想の結婚観を40歳の女が語るだけのもの、もう1編の非ミステリ『雌鶏と死』は実話だそうですが、ほのぼのした話で、意外に気に入りました。最も長いのはこれも実話の『地獄へのツアー』という50ページほどの無謀な砂漠横断の旅が悲惨な結果を迎える作品で、生存者の証言と捜索結果からの推測を基にしているのでしょうか。やはり実話の『片腕の男』は、その人物がそんな間抜けなことをするなんて、ほんまかいなと思えました。『樅の木 エドガー・ポーに捧ぐ』は、死後の世界の描写から始まりますが、あの作品が元ネタですか、どうもねえという感じです。
『人情の問題』『阿呆は誰だ?』あたりの奇妙な味わいが特にいいと思いました。


No.1038 6点 いかさま
矢月秀作
(2018/07/03 21:46登録)
大阪で藤堂よろず相談所をやっている藤堂廉治が活躍する4編のバイオレンス・アクション連作です。廉治はやたら喧嘩の強い直情的な男で、相棒と言うか部下の江尻三吾と依頼人との会話で、「豪快な方ですね」「ただの調子のええオッチャンですわ」と言われる難波ヒーローです。3編では東京にも行くのですが、大阪弁まる出し。その東京の方にいるのが三吾のメル友であり、廉治が「わしより無茶やりよるで」と驚くような暴力派元女刑事の中島満留。
最初の『猥褻ファイル』の話はあまりにストレート、最後の『錆びついた糸』は廉治の過去と絡めて大仰なメロドラマを展開して集中最長ですが、これも筋書きはごく単純です。中間2編はひねりを加えていて、『ダブルフェイク』では第1章の後依頼があった時点で、これは意外性狙いかなとわかります。『オヤジ狩り』はクライマックスになる経緯にちょっと無理があるかな。


No.1037 8点 ポンド氏の逆説
G・K・チェスタトン
(2018/06/29 23:25登録)
昨年出た新訳で再読。今回タイトルが変更された短編もいくつかあります。またポンド氏の相方の大尉の名前がガーガンからガヘガンに変わっているので、綴りを確認したところ、Gahagan。むしろガヘイガン(「ヘイ」にアクセントを置く)なのかもしれません。
ポンド氏が何気なく発言する逆説に納得のいく説明をしてみせる形式といえば、最初の『黙示録の三人の騎者』は正にそのとおりですが、すべての作品が必ずしもそうとは限りません。赤い鉛筆のようなものなんて、ずいぶんなこじつけですし、影が最も人を誤らせる時は、のセリフは、事件の語り手の牧師が影を見たと述べた時のポンド氏のコメントです。『ガヘガン大尉の罪』に至っては、特に逆説は出てきません、
まあ、一般的にミステリの意外性そのものが、逆説的な論理の上に成り立っているとも言えるでしょう。要はアイディアとその語り方の質の問題なわけで、その点さすがチェスタトンです。


No.1036 6点 なげやりな人魚
E・S・ガードナー
(2018/06/25 23:22登録)
文庫化時に『あわてた人魚』に改題された作品で、読んだのは文庫版の方です。最後にデラが事件をファイルにする時に、おもしろい題名を思いついたと言うのですが、”negligent” ですから本来は「なげやりな」の方です。まあ被告人が無頓着だったから洗濯屋のマークを付けっ放しにしていたと考えても、あわてていたからそのバスタオルを置きっ放しにしたと考えてもよさそうです。
依頼人登場から始まるのではなく、最初からアクション・シーンが出て来て、メイスンがそれに巻き込まれるという発端です。その盗難事件をメイスンがうまく法廷で処理した後、盗難被害を届け出ていた富豪が殺される事件が起こる展開です。被告人の嘘によって、メイスンが法廷で苦境に立たされるところ、メイスンの内面に踏み込んで描かれるのは珍しいと思います。最後バタバタと新事実が明らかになるところはご都合主義な気もしますが、とりあえずこの点数。


No.1035 6点 積木の塔
鮎川哲也
(2018/06/19 22:55登録)
鮎川作品にしては珍しく、読んだことがあるはずなのに、内容は全く記憶に残っていませんでした。
喫茶店でのセールスマン毒殺という、殺人者は同伴していた女に間違いない事件で幕を開けます。小説が始まって30ページもしないうちにひょんなことからその女の身元も判明し、後は逮捕のみという流れになるのですが、そこからが鮎川節。今度はその女が殺され、お得意のアリバイ崩しが始まります。このシリーズ、鬼貫警部の登場は半分を過ぎてからなんてことも意外と多いのですが、本作では早い段階から顔を見せ、常連丹那刑事が一回聞き込みをした後、再度同じ人物を訪ねたりして、博多、徳山などを飛び回ります。
しかしこの犯人、とんでもない不運につきまとわれますね。アリバイ・トリックが解明された後現れる証人もそうですし、過去の秘密が知られてしまいそうになるのも、かわいそうになってしまうほどです。


No.1034 4点 溺愛
シーリア・フレムリン
(2018/06/15 22:58登録)
一般的にはかなり評判のいい作品のようですが、個人的には合いませんでした。
主婦の一人称で語られるのですが、まずこの人が、娘が婚約者(まだ見たこともない男)を家に連れて来るというので、知り合いに片っ端から電話をかけて、それも娘の婚約を自慢するだけでなく、当日家に招待してパーティーを開いてしまうというのに、げんなりしてしまったのです。
それでもその婚約者の母親が登場してくると、話もおもしろくなってきて、14年前の事件が紹介されることでサスペンスらしくもなります。その事件の真相に意外性があるわけではありませんが、現在の状況を無理なく説明していて、悪くありません。
しかしラストには、あまり感心できませんでした。婚約者の扱いが中途半端ですし。その結末を作り出した張本人にも何の言及もないまま、小説は終わってしまうのです。この小説が終わったところから先の方が、怖いストーリーが作れそうな気がしてしまいました。


No.1033 6点 無実の領域
スティーヴン・グリーンリーフ
(2018/06/10 10:54登録)
私立探偵タナー・シリーズ第5作、社会派ハードボイルドを得意とする作家ですが、既読作中最初期の本作では精神障害者による犯罪を扱っています。原題は "Beyond Blame"、責任阻却と訳したらいいでしょうか、精神障害の理由で犯罪行為の責任が問えないことを意味します。したがって、邦題や粗筋等の「無実」(その犯罪自体を行っていないこと)は誤訳と言うべきでしょう。法律的に「無罪」だというだけです。
弁護士として心神喪失(作中ではこの日本の刑法用語は使われません)を理由に裁判で無罪判決を得てきた法学者とその家族、親族をめぐる事件で、法学者が妻の殺害容疑で逮捕されることになります。法学者は自分が犯行当時心神喪失状態であったとして無罪を申し立てるのか?
最後の見せ場もこのテーマを利用していて納得させられたのですが、その後に明かされる銃撃事件の真相に、意外性がありました。


No.1032 5点 世紀末ロンドン・ラプソディ
水城嶺子
(2018/06/06 22:55登録)
1990年度の横溝正史賞で、受賞には至らなかったものの優秀賞とされた作品です。同じ回は鈴木光司の『リング』と吉村達也の『ゴースト・ライター』も候補作だったということで、審査結果に不満を言う人もいるようですが、その頃だからこその作品という意味では、うまいところを突いた企画と言えます。もちろん1889年に雑誌掲載が開始されたホームズ・シリーズ100周年(『緋色の研究』出版は1887年ですが)ということです。
作者のドイルを無視してホームズを実在の人物とする作品なわけですが、さらにH・G・ウェルズを登場させ、実際にタイム・マシンを発明していたという設定にすることで、現代の文学部大学院生瑞希を100年前のロンドンに飛ばせています。
ずいぶんなご都合主義もありますし、傘を取りに家に戻ったフィリモア氏が消え失せる方法が設定からすれば当然すぎるのには苦笑ものですが、とりあえず楽しめました。


No.1031 6点 死を呼ぶブロンド
ブレット・ハリデイ
(2018/06/03 00:03登録)
1956年発表作ですから、ハリデイが書いた赤毛の私立探偵マイケル・シェーンのシリーズでも後期になります。実際のところ邦訳のあるものの中では最新作です。ただし1958年からは他の作家(主にロバート・テラルという人らしい)がハリデイ名義で30冊以上書き継いでいるそうです。
ハードボイルドの私立探偵小説の中でも、本シリーズは少なくとも有名どころでは珍しいことに三人称形式で書かれています。本作ではその形式だからこそできる、シェーンの視点と犯人など他の人物視点との切り替えを利用して、読者にシェーンがまだ知らないことを教えてくれ、サスペンスを生み出していますが、さらに犯人の側からも描きながら謎を残すような工夫もしています。
第1章の午後9時32分から第25章の午前0時までの2時間半ほどの出来事だけで構成されていて、シリーズ中でも短めの作品ですが、最後きれいにまとめていて、なかなか楽しめました。

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