空さんの登録情報 | |
---|---|
平均点:6.12点 | 書評数:1515件 |
No.1035 | 6点 | 積木の塔 鮎川哲也 |
(2018/06/19 22:55登録) 鮎川作品にしては珍しく、読んだことがあるはずなのに、内容は全く記憶に残っていませんでした。 喫茶店でのセールスマン毒殺という、殺人者は同伴していた女に間違いない事件で幕を開けます。小説が始まって30ページもしないうちにひょんなことからその女の身元も判明し、後は逮捕のみという流れになるのですが、そこからが鮎川節。今度はその女が殺され、お得意のアリバイ崩しが始まります。このシリーズ、鬼貫警部の登場は半分を過ぎてからなんてことも意外と多いのですが、本作では早い段階から顔を見せ、常連丹那刑事が一回聞き込みをした後、再度同じ人物を訪ねたりして、博多、徳山などを飛び回ります。 しかしこの犯人、とんでもない不運につきまとわれますね。アリバイ・トリックが解明された後現れる証人もそうですし、過去の秘密が知られてしまいそうになるのも、かわいそうになってしまうほどです。 |
No.1034 | 4点 | 溺愛 シーリア・フレムリン |
(2018/06/15 22:58登録) 一般的にはかなり評判のいい作品のようですが、個人的には合いませんでした。 主婦の一人称で語られるのですが、まずこの人が、娘が婚約者(まだ見たこともない男)を家に連れて来るというので、知り合いに片っ端から電話をかけて、それも娘の婚約を自慢するだけでなく、当日家に招待してパーティーを開いてしまうというのに、げんなりしてしまったのです。 それでもその婚約者の母親が登場してくると、話もおもしろくなってきて、14年前の事件が紹介されることでサスペンスらしくもなります。その事件の真相に意外性があるわけではありませんが、現在の状況を無理なく説明していて、悪くありません。 しかしラストには、あまり感心できませんでした。婚約者の扱いが中途半端ですし。その結末を作り出した張本人にも何の言及もないまま、小説は終わってしまうのです。この小説が終わったところから先の方が、怖いストーリーが作れそうな気がしてしまいました。 |
No.1033 | 6点 | 無実の領域 スティーヴン・グリーンリーフ |
(2018/06/10 10:54登録) 私立探偵タナー・シリーズ第5作、社会派ハードボイルドを得意とする作家ですが、既読作中最初期の本作では精神障害者による犯罪を扱っています。原題は "Beyond Blame"、責任阻却と訳したらいいでしょうか、精神障害の理由で犯罪行為の責任が問えないことを意味します。したがって、邦題や粗筋等の「無実」(その犯罪自体を行っていないこと)は誤訳と言うべきでしょう。法律的に「無罪」だというだけです。 弁護士として心神喪失(作中ではこの日本の刑法用語は使われません)を理由に裁判で無罪判決を得てきた法学者とその家族、親族をめぐる事件で、法学者が妻の殺害容疑で逮捕されることになります。法学者は自分が犯行当時心神喪失状態であったとして無罪を申し立てるのか? 最後の見せ場もこのテーマを利用していて納得させられたのですが、その後に明かされる銃撃事件の真相に、意外性がありました。 |
No.1032 | 5点 | 世紀末ロンドン・ラプソディ 水城嶺子 |
(2018/06/06 22:55登録) 1990年度の横溝正史賞で、受賞には至らなかったものの優秀賞とされた作品です。同じ回は鈴木光司の『リング』と吉村達也の『ゴースト・ライター』も候補作だったということで、審査結果に不満を言う人もいるようですが、その頃だからこその作品という意味では、うまいところを突いた企画と言えます。もちろん1889年に雑誌掲載が開始されたホームズ・シリーズ100周年(『緋色の研究』出版は1887年ですが)ということです。 作者のドイルを無視してホームズを実在の人物とする作品なわけですが、さらにH・G・ウェルズを登場させ、実際にタイム・マシンを発明していたという設定にすることで、現代の文学部大学院生瑞希を100年前のロンドンに飛ばせています。 ずいぶんなご都合主義もありますし、傘を取りに家に戻ったフィリモア氏が消え失せる方法が設定からすれば当然すぎるのには苦笑ものですが、とりあえず楽しめました。 |
No.1031 | 6点 | 死を呼ぶブロンド ブレット・ハリデイ |
(2018/06/03 00:03登録) 1956年発表作ですから、ハリデイが書いた赤毛の私立探偵マイケル・シェーンのシリーズでも後期になります。実際のところ邦訳のあるものの中では最新作です。ただし1958年からは他の作家(主にロバート・テラルという人らしい)がハリデイ名義で30冊以上書き継いでいるそうです。 ハードボイルドの私立探偵小説の中でも、本シリーズは少なくとも有名どころでは珍しいことに三人称形式で書かれています。本作ではその形式だからこそできる、シェーンの視点と犯人など他の人物視点との切り替えを利用して、読者にシェーンがまだ知らないことを教えてくれ、サスペンスを生み出していますが、さらに犯人の側からも描きながら謎を残すような工夫もしています。 第1章の午後9時32分から第25章の午前0時までの2時間半ほどの出来事だけで構成されていて、シリーズ中でも短めの作品ですが、最後きれいにまとめていて、なかなか楽しめました。 |
No.1030 | 7点 | 学寮祭の夜 ドロシー・L・セイヤーズ |
(2018/05/29 00:03登録) 「もし、プロットの必要からある人物があるときは注意深い几帳面な男に見え、別のときには行き当たりばったりの、その日暮らしの享楽派に見える必要があるようならば、いくらその矛盾を調和させようとしても失敗する」 巻末解説で引用されたセイヤーズの言葉です。さらに作中でハリエットが不自然さをなくすため自作の登場人物造形に苦労しているところも描かれています。当然納得はできるものの、ミステリならそうとは限らない場合もあるだろうと思っていたら、本作ではある意味まさにその点を突いたことをやってくれていました。ただ犯人の考え方として、悪意の手紙をそんなふうに送るかなと疑問に思えるところもあります。その疑問な部分によって途中のサスペンスが生み出されているところだけは、不満でした。 それにしても長い。これはハリエットとウィムジイ卿の関係を最終的におさまりがつくようにするための長さでしょう。 |
No.1029 | 6点 | 海のイカロス 大門剛明 |
(2018/05/24 23:27登録) これまで読んだ初期3冊では法律的な問題を真面目に扱っていた作者ですが、2013年発表の本作では、東日本大震災以来の脱原子力発電の1つ潮流発電の開発を背景にしています。クリーンエネルギーを謳いながらも実際には営利しか頭にない企業トップの描き方は、社会派系の作家らしいところと言えるでしょうが、ちょっと画一的すぎるようにも思えます。 海の「イカロス」とは潮流発電用の巨大なプロペラのことですが、その本来の意味であるギリシャ神話にちなんで「イカロス計画」と主役の准教授が名付けた殺人計画。プロローグの後4章のうち第1章で事故に見せかけた殺人は成功し、後はその殺人トリックを解明し証拠立てようとする弁護士と准教授の2人の視点から描かれていきます。最後にはこの作者らしい意外性を用意していますが、本当にうまくいくのかなあという気がしますし、その暴き方があまり効果的ではありません。 |
No.1028 | 6点 | 転倒 ディック・フランシス |
(2018/05/18 23:13登録) ディック・フランシスの邦題には疑問を感じることがかなりありますが、本作でも "Knock Down"(普通に訳せば「打倒」でしょうか)を「転倒」ねえ。しかし原題の意味もよくわかりません。まあそれでもストーリー上必要なことではありませんし、レース中でもありませんが、一応馬が転倒するシーンはあります。 最後の犯人の意外性はさほどではありませんし、伏線も今一つですが、フランシスがこのような意外性を狙い、さらにクライマックスでしばらくは「彼」という代名詞しか使わずその正体を隠す手法を使ったことに驚かされました。意外と言えば、そのシーンである重要登場人物(犯人ではない方)がどうなるかという点も、フランシスには珍しいでしょう。その後の最後の1ページがまた、こんな不安定な終わり方にするのかと面喰いました。 途中はむしろ地味な展開ながら、さすがにフランシスらしいおもしろさでしたが。 |
No.1027 | 6点 | 苦い祝宴 S・J・ローザン |
(2018/05/14 22:44登録) このシリーズ第5作はリディア視点で書かれたもので、チャイナタウンで起こった飲茶レストランの従業員4人の失踪に始まる事件です。リディアが呼ばれて会いに行ったチャイナタウンの大物から意外な依頼を受けることに始まり、途中はかなり意表を突く展開になっていきます。アメリカにおける中国人社会の問題点も興味深いですし、またリディアとビルの軽口のたたき合いも楽しく、最後近くまでは実に楽しく読めたのですが… どういう役割なんだろうと疑問に思っていた2人組と1人が同じ場所で入り乱れるラストは、そうすべきだというそれぞれの立場が明確になっていないように思えました。特に2人組は平然とにやついていますが、実際には立場上非常に困難な事態に直面することになるはずです。そのクライマックスの後に用意された意外性(一応の)は、個人的にはうまく処理していると思いますが。 |
No.1026 | 5点 | 墓標なき墓場 高城高 |
(2018/05/10 19:07登録) 10年ほど前に作家活動を再開してからの作品もどうやらすべて連作短編集らしい(新しいのは『函館水上警察』しか読んでいませんが)ので、今のところ高城高の唯一の長編ということになります。よく知っている世界しか書かない作者らしい、釧路、根室半島を舞台に新聞社の支局長が活躍するストーリーです。 巻末解説によると、乱歩は高城高をチャンドラーやスピレインだけでなくシムノンやアンブラーとも比較していたそうで、確かにスパイ小説の短編も書いている作者だし、本作の港の雰囲気はシムノンを思わせるところもあります。長さがまた、メグレものと大して変わらない200ページ強という短さです。その中で運搬船の沈没事件とその陰に隠された事件の真相を暴いてしまうのですから、後半の事件はさすがに少々説明不足かなと思います。また釧路の支局長が網走にとばされてしまう理由には、あまり説得力が感じられませんでした。 |
No.1025 | 5点 | 惜別の賦 ロバート・ゴダード |
(2018/05/05 12:05登録) 「今日」「昨日」「明日」の3部からなると言っても、「今日」はプロローグ、「明日」はエピローグで、大部分は「昨日」。ただし1日前の意味ではなく、10数年前の1981年とさらに過去の1947年を一人称形式でほぼ交互に描いていく構成です。 読み始めてしばらくは、トマス・H・クックに似た構造かなとも思っていたのですが、後半は全く違っていました。「わたし」が悔恨を感じている1947年の事件の真相はありきたりです。死刑になっても守りたかった秘密は意外と言えなくもありませんが、説得力は今一つ。その1981年の時点から見て過去の事件の全貌が明らかになるまでが長すぎる感じがします。まあその間にも新たな事件が起こっていて、「昨日」の最後3割近くはその過去に起因する新たな事件の展開だけになります。この部分はサスペンスが効いて展開の意外性もあり、おもしろくなります。しかし「明日」は結局それで?って感じでした。 |
No.1024 | 7点 | ケイティ殺人事件 マイケル・ギルバート |
(2018/05/02 17:48登録) 久しぶりの再読で、はっきり覚えていたのは結末の意外性だけでした。出版当時、クリスティーとクイーンの有名作を挙げて、それらに比肩するというような宣伝文句が使われていました。期待を高めることは間違いありませんし、だからこそ当時早速読んでみたのですが、その巨匠2作品の共通点を考えれば真相の見当がついてしまうというのが、売り方としては問題だったかなと思えます。そんな予備知識がなければ、最後に明かされる真相は、予測しにくいように巧妙に構成されていて、オチを知って読んでいるとその点に感心させられました。ただし、読者に推理の手がかりを示しておくタイプではありません。 半ば過ぎから裁判に向けての準備に入ってくるのですが、なかなか裁判が始まらないのは、弁護士でもある作者らしい手際というべきでしょうか。前半の地味さに比べ、最後の方で自殺を含め次から次へと人が死んでいくのには驚かされました。 |
No.1023 | 6点 | 吹雪の空白 水上勉 |
(2018/04/28 11:31登録) 作者あとがきによれば雑誌掲載時には『火の宴』と題されていたそうで、加筆訂正を経て昭和39年にカッパ・ノベルズで出版されたタイトルとは全く違っています。抽象的タイトルは何とでもなりそうであるにしても、特に別視点と言うよりまるで印象が異なるのもどうかと思われます。 序章は福井県山間の村で雪が降り続いた後の朝です。最後までいつのことかは明確にされませんが、たぶん第二次世界大戦中でしょう。第1~2章は昭和21年に起こった殺人と失踪、その後ラストの第15章までで昭和30年の事件が描かれます。社会派ミステリとしては、一家惨殺事件の動機があいまいな想像で終わってしまっていることを除けばきちんと構成されていて好感が持てます。ただ、第1章から登場する新聞記者が、警察と一緒に行動して捜査会議にまで出席するのは実際にはあり得ないと思いますが。 |
No.1022 | 5点 | 愚者たちの街 スチュアート・カミンスキー |
(2018/04/25 22:53登録) 作者の新境地を開拓したと見られるリーバーマン刑事シリーズの第1作で、このユダヤ人老刑事の私生活がたっぷり描かれた作品になっています。娘の結婚生活の危機やユダヤ協会の運営など個人的問題を抱えながら、一方で娼婦殺しの捜査を進めていく構成です。 ミステリとしては、捜査途中で殺されかかった相棒のハンラハン刑事と、テキサス州の刑事だった市長から真相を明示する直接的な二つの名前を聞いた時に、その名前をわざと書かないという、本格派的なフェアプレイとは全く考え方の異なるものになっています。まあそれはそれでいいのですが、「意外な」真相は今一つすっきりできませんでした。 また、シリーズ第2作『裏切りの銃弾』ではそれほどでなかったと思うのですが、文章が読みづらいと感じました。翻訳の問題でしょうが、文の途中まで読んで、その文で何を言わんとしているのかが見えてこないのです。 |
No.1021 | 4点 | 密偵ファルコ/青銅の翳り リンゼイ・デイヴィス |
(2018/04/20 00:25登録) 密偵ファルコ・シリーズの第2作。 「古代ローマを舞台にしたハードボイルド風ミステリ」とは、巻末解説の冒頭に書かれていることですが、本作を読む限りではハードボイルドらしい冷たいストイックさや熱い憤りは全く感じられません。ファルコの、ちょっとしたことにも一喜一憂する子供っぽいような感情の起伏には、かなりうんざりさせられました。 時代小説的な点では、暴君ネロの作曲した音楽だとか、ローマン・コンクリートだとか、それにその近くの町が主要舞台となる、ヴェスヴィオ火山噴火で壊滅する8年前のポンペイだとか、いろいろおもしろいところはあるのですが。 ミステリ的には、ありふれた手ではあるのですが、途中にある意外性が仕掛けられています。しかし全体的な流れとしてはあまり効果的に使われていない気がします。主人公も悪役も、行動を冷静に追っていくと間抜けとしか思えず、今一つ楽しめませんでした。 |
No.1020 | 6点 | くらやみ砂絵 都筑道夫 |
(2018/04/06 23:36登録) なめくじ長屋捕物さわぎシリーズ2冊目の7作の中では、やはり第二席『天狗起し』が不可解な状況を一刀両断にするシンプルなロジックで一番鮮やかです。ただ死体を苦労して屋根の上に置く必要があったとは思えませんが、駄右衛門天狗ねぇ、うまいネーミングです。第七席『地口行灯』のダイイング・メッセージもいいですけど、その他にはオヤマの立ち聞きした会話から始まる第一席『不動坊火焔』、英国古典短編を無謀にした第六席『春狂言役者づくし』が気に入りました。第二席『やれ突けそれ突け』は小味。第四席『南蛮大魔術』は後の泡坂妻夫をも思わせる話ですが、最後のひねりの部分の論理は想像に過ぎない上、「役どころを教えておいたほうが、うまくいく」のはその場合でも同じでしょう。第五席『雪もよい明神下』は複雑にし過ぎと思えました。 第一席では悪役だったイブクロがその後の作品ではなめくじ長屋の仲間になります。 |
No.1019 | 6点 | 暗殺のジャムセッション ロス・トーマス |
(2018/04/02 23:19登録) マッコークル&パディロのシリーズ第2作、と言ってもこのシリーズを読むのは初めてなのですが。マッコークルの一人称形式で語られ、第1作『冷戦交換ゲーム』の内容にも多少は触れられています。どうやらマッコークルはその第1作の冒険のすぐ後に結婚したらしいですね。 本作の舞台はワシントンで、そのマッコークルの愛妻フレドルが、パディロに暗殺計画を実行させるために誘拐されるというストーリーです。金のためなら何でもする悪党たちを巻き込んでの、アフリカ某国首相暗殺計画は、裏切りの連続で予断を許さない展開になりますが、パディロが呼び寄せる3人が本当に全員必要だったとは思えません。作者の都合で(それで話が面白くなっていることは間違いありませんが)ちょっとひねくりすぎている気もします。 原題の “Cast a Yellow Shadow” は、アラブの言葉で、いろんな悪い運命を背負っているという意味だそうです。 |
No.1018 | 7点 | 結婚は命がけ ナンシー・ピカード |
(2018/03/25 19:27登録) 国際ミステリ愛好家クラブのマカヴィティ賞(第2回)受賞作。 この作家の作品は原題と邦題とがまるっきり違っているものが多いのですが、本作は “Marriage Is Murder” なのでかなり近い例外作です。 市民財団所長ジェニー・ケインのシリーズ第4作で(第3作だけは未訳らしいです)、家庭内暴力とその結果起こる殺人がテーマのかなり深刻な内容です。それにジェニーとジェフ・ブッシュフィールド刑事との間近に迫った結婚式の話をからめて話は進んでいきます。二人の結婚の方は無事まともな式を終えることができるのかというユーモラスなサスペンスもあり、事件の重苦しさと対照的に描かれています。 最後、ジェニーの親族が事件に巻き込まれることになるサスペンス調の展開の後の事件の結末は、発端からすると意外性があるのですが、個人的にはあまり後味が良くないようにも思いました。 |
No.1017 | 5点 | 大尾行 両角長彦 |
(2018/03/13 23:39登録) ハイテク・ミステリ。 最初の尾行シーンでは、おいおい何やってんだかと思ってしまいました。私立探偵社の探偵たちがハイテク機器を利用して3人1組で次々に入れ替わりながら1人の人間を尾行していくというところから始まるのですが、これ、尾行する相手(作中ではマルタイ―対象者の意味―と呼んでいます)がどこに行くか見当がついていなければ不可能な尾行方法です。それにいくら何でも対経済効果が悪すぎます。 しかし尾行不可能な女の消失は、これも何かハイテクを使ったんだろうなと見当は付きますが、なかなか鮮やか。その後の製薬会社の暗部を暴いていくあたりとどうつながってくるのかと思っていたら、少々拍子抜けでした。それでも主人公が製薬会社に捕まってしまうあたりからはスリリングでおもしろく読ませてもらったのですが、このどんでん返し結末は爽快感はそれなりにあるものの、やはりフェアとは言えませんねえ。 |
No.1016 | 8点 | 野獣死すべし ニコラス・ブレイク |
(2018/03/03 23:23登録) 名作とされることも多いわりに、最初読んだ時はそれほどとも思わなかった作品です。たぶん「驚けなかった」という人が多い結末がその最大の理由です。しかし久しぶりに再読してみると、なるほどよくできた小説だと評価を改めました。その趣向が、読者を驚かせることが目的なわけではないところに感心させられます。 倒叙とか犯罪小説風とか言われる第1部の日記部分は、全体の1/3強ぐらいですが、その中にもまずは憎むべき轢き逃げ犯人の捜索という謎解き要素があります。そして殺人決行当日朝の記述で終わった後の短い第2部で、第1部が日記でなければならなかった理由も納得できる構成になっているところがうまくできています。 終盤のミスリーディングは全く覚えていなかったのですが、これも読者を騙すためだけでなく、結末の付け方と関連付けられていて味わいがありました。 |