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ミステリの祭典

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警官殺し
マルティン・ベック

作家 マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
出版日1978年04月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 8点 クリスティ再読
(2021/05/19 18:08登録)
マルティン・ベックも最終盤。9作目の本作は、随所に過去作への言及があって、「ロセアンナ」から順にずっと読んできた評者みたいな読者にとっては、ご褒美みたいな作品である。「ロセアンナ」の犯人に再度容疑がかかり、「蒸発した男」の犯人はジャーナリストとして更生して、共通の「人を殺した体験」でコルベリと意気投合、マルメの「サボイホテルの殺人」の舞台のホテルに立ち寄るとウェイターがベックを見知っているし、ベックは「唾棄すべき男」での負傷の結果禁煙、前作「密室」の件で上司マルムにイヤ味を言われる....あれ、意外なことに日本の読者の大多数が読んでる「バルコニー」「笑う警官」「消防車」への言及は見当たらない。このシリーズらしさ、はたぶん日本の読者が思う「らしさ」とはちょっズレていると思うんだ。
で、誰もがツッコむタイトル「警官殺し」。タイトルに偽りあり...なんだけども、考えてみれば本作で「殺される」のは、本作でスエーデン警察の組織体質の変化に絶望して退職の道を選ぶコルベリの「警官の魂」なんだろう。国家警察への統合をきっかけに、警察がより政治的・権威的にかつ暴力的になり、市民に対して抑圧的に出ることが多くなる。それを象徴するのがベックの上司になったマルムの派手な軍事作戦まがいの大捜査網でもあり、その無用で無能な失敗が本作でも繰り返されて、いい加減キレたラーソンはマルムを罵倒する。

社会は結局己に相応しい警察を持つ

コルベリの退職届に書かれたこの警句は、出所した「ロセアンナ」の犯人にかけられた不合理な疑惑によっても、証明されてしまう...事件の解決と引き換えに「警官の魂」は死んでいく。そういう絶望感に満ちた小説。

(いやだからこそ、こういう面が新宿鮫に近いと思うんだよ。ヒッピー的な生き方に共感する自由人の警官、というあたりも共通するし。本作で印象的なオーライの生き方、というのがベックの理想みたいなものを提示する役割があるんだと思うんだ。「ヒッピー警官」w)

No.1 7点
(2018/08/24 23:24登録)
タイトルに偽りありの作品です…少なくとも一応は。
シリーズ第9作、というより最後から2番目の本作では、以前の作品が回顧されています。第1作の殺人犯が再度登場し、田舎で起こった殺人と思われる女性失踪事件の容疑者になるというストーリーですが、もちろん今回も彼が犯人でしたで終わるはずはありません。田舎の警察官オーライがいい味を出しています。さらに第2作の犯人も誠実な新聞記者として再登場します。
この再登場者以外のジャーナリストは、おおむね批判的に描かれていますが、それ以上に否定的に描かれているのが、マルティン・ベック等の上司マルムです。あきれるような間抜けぶりで、豪放なラーソンは面と向かって上司を罵倒しています。上述事件が、途中から並行して描かれるストックホルムでの泥棒と警官3人との銃撃戦事件(その最中に警官1人が事故死)とつながってくるところがうまくできていました。

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